• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 6件
  • 漫画家の備忘録・面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る

    2015-02-24 21:16  
    612pt
    漫画家の備忘録・面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る


    こんにちは、大井昌和です。
    ようやく某企画会議用のネームも終わり、通常営業に戻ったもののブロマガの記事がなかなか書けない期間が続いて申し訳ありません。
    前に書こうと思っていたネタの一つに、黒瀬陽平の運営の思想を引いてきてガンダムビルドファイターズ、夜のヤッターマンを語ろうとか思っていましたが、俺の中のsirobakoブームのおかげでまあいいか、という気になったので概要だけ書いておくと、

    ・運営の思想で作られるアニメが、過去のコンテンツを文脈に使うことで、傑作を産もうとする制作者たち。逆に個人作家が使えないインダストリアルを使うことで運営の思想と制作の思想を結びつける作品群が夜のヤッターマンやビルドファイターズではないか?
    というものでしたが、とりあえずshirobakoが完結したら、それのテキストを書こうかと思っております。
    そこで今日は何を書くのかといえば、「漫画家の備忘録」と題して漫画を描く上で頭に入れておくことを小出しにしていこうかと。
    なぜ小出しかといえば、一気に書くと本1冊分くらいになって大変なことになるからです^^;
    というわけで今回は「面白さの約束=期待を裏切らない、予想を裏切る」


    さて漫画家の備忘録とはなにかといえば、大体の漫画家は知っていることを言語化していこうというものです。
    「これからの漫画の書き方の話をしよう」とか言ってましたがなんか違うな〜とか思ってました。なぜなら作家はみんな知ってるだろう、これくらい、というのがあって書いてて申し訳なくなってくるからで。
    そこで備忘録と言ってしまえば、みんな知ってても何人か忘れてるかもね?ね?とか思い自分的に落ち着けたので、こんなタイトルにしてみました。

    ・面白さの約束
    例えばトリコという漫画がある。これは読み切りの掲載時ですでにマックスの面白さを持っていた。連載を開始してもあの連載の面白さを持ってはじめられた。
    だがしかし今のトリコにそれがあるだろうか?
    トリコという作品において大きな岐路になったのはクッキングフェスティバルだ。ここで作者の島袋は予想を裏切ることに意識を行かせた。
    それはトリコたちの所属するIGOとライバルである美食會の全面戦争という読者の予想を、第三勢力であるNEOの起こす混乱の中の衝突というひねりを加えた。
    読者の予想を裏切るためだけに出てきネオという存在。これはつまりそれだけの意義しか持たせられなかったもので読者の予想の裏をかいたのだ。
    作家というのは受け手を驚かせたい存在ゆえに、島袋の考えも理解できないではない。
    だがしかし、作品の面白さのひとつに「読者の期待」というものがある。「こうなるだろう」「この二人の戦いが始まる」これは予想であると同時に期待なのだ。
    例えば、SFを期待して開いた本に宇宙船もサイボーグも超能力も未来も書いてなかったらどうなるか?

    対してかつてのジャンプ黄金世代であるゆでたまごや車田正美は読者の期待通りの展開で面白さを保証をし、そこに予想を裏切る敵が現れる展開のさせ方は、ガチンコ対決をしっかりさせた後、より強いものが登場するという、言って見れば今の時代ベタともいわれる形を強固にした。それでも読者が熱狂したのは何かといえば、キャラクターだ。
    我々はキャラクターを見ている。
    トリコも強烈なキャラクターを配置し、ライバルも強いキャラクターがいた。
    そのキャラクターのぶつかり合いや、見たこともない食事を食べるキャラクターを見るのがトリコという作品だった。
    そういうものを読者は「予想」していたが、その予想の方にはまらない展開を作家はしようとした。その予想が、期待という言葉に置き換わることを知らなかったわけではないと思う。
    ではなぜ島袋がそのようなことをしたのか?
    それが僕がいつもいう、漫画を語る言葉の不足だ。

    「読者の期待は裏切らずに読者の予想を裏切る」

     
  • 【ぶろまが】世界を描き始めた「テンプリズム」

    2014-12-05 12:00  
    612pt
    【ぶろまが】世界を描き始めた「テンプリズム」
    曽田正人とはどういう作家か。
    少年チャンピオン、月刊マガジン、ビッグコミックスピリッツというメジャーな場所で「シャカリキ」「カペタ」「昴」を描いてヒットさせてきた、まっすぐな作家というイメージでしょう。
    その作品の主人公たちは天才でありながら悩み努力し、勝利して行く王道の内容でありました。彼らはしかし、ある一定の場で勝利を得るものの、世界に出ることはありませんでした。
    唯一「昴」は世界に羽ばたきました。が、作品中で最大にわくわくさせてくれたファーストコンタクトを描くことはありませんでした。
    (ダンスでファーストコンタクトと言うのは実はありえるもので、「スターダンス」というファーストコンタクトSFの傑作も存在します)
    「シャカリキ」は才能が頂点に達した主人公が世界に目を向けた瞬間に終わりました。「カペタ」はその競技の特性上、国の外での戦いまで視野にあるかとも思いましたが、「世界」を描くことがありませんでした。
    そんな曽田正人が手がける新作が「テンプリズム」です。
    これは一言で言えば、王道と言われるファンタジーです。これは小道具の一切までを「創作」しなければならない、つまり世界の一切を創作する非常に作家のエネルギーを使うジャンルです。
    例えば、その世界の文明レベル。例えば生活習慣。例えば食べ物。例えば政治形態・・・。現代劇や時代劇では脳裏によぎらせる必要すらないものを考えるということです。
    これはつまりはデザイン能力が非常に重要になってくるということです。
    デザインとは狭義の意味でも「意匠」であり、広義の意味でも「計画」「設計」と言う意味も持ちます。
    つまり世界をデザインする。
    映画「スターウォーズ」が脚本や演出に粗があっても傑作である理由がこのデザインにあります。
    ライトセーバー、ミレニアムファルコン号、ダースベーダー卿・・・それぞれがアイコンになる力を持つデザインでした。
    漫画なども同じく、デザインに優れたファンタジーが傑作が残ります。
    脚本はスキル=お勉強でカバーできるところも多々あります。演出が下手でもいいデザインを見てるだけで人は感心できます。
    つまりデザインこそ「創作」すると言うことだとも言えます。
    そして人間は文明が出来る遥か前から、月から人が降りてくる物語を「創作」したり、神が住まう山や神殿を「創作」してきました。
    この創作をする動物であるところの人間だからこそ、文明を作り、世界を作って来れたのです。
    世界を作らんと言う想像力にこそ、「創作」と言う言葉はふさわしい。
    ひるがえって「テンプリズム」とはなにかといえば、それは曽田正人と言う王道の漫画を描いてきた人間の王道の漫画表現で描かれていると言うことです。
    漫画の表現として曽田と言う作家は奇をてらわない。まっすぐに天才を描くことで天才と言うキャラの感情もまっすぐ読み取ることが出来たわけです。
    しかしながら個々のデザインが優れた漫画や映画は表現もデザイン的=抽象的になることで世界観をより強化します。
    つまりまっとうな演出と言うものから飛翔する場合が多々あります。
    ファンタジーを読む快感のひとつに、異世界のそこにいるという感覚を得る、非日常の体感をするエンターテイメントでもあると言うことです。
    前述したデザイン主体のファンタジーは実はこの体感と言うものが、そのデザインの高さによる語り口によって「体感」より「俯瞰」するに近いものになります。
    そこで曽田正人は、凡人には理解できない「天才」の感覚を「体感」させることの出来る作家が、今度は天才がたどり着かなかった「世界」を「体感」させようとしているのが「テンプリズム」だと言えるのです。
    だからこそひねること無く真っ正面にファンタジーを描く「テンプリズム」が素直に楽しいと思えるのです。
     

    記事を読む»

  • 宮崎駿と富野由悠季、共産主義VS資本主義の勝者

    2014-06-23 19:36  
    612pt
    こんにちは、大井昌和です!
    『ターンAガンダム』を見直してわかったのは、これは富野監督にとっての『風立ちぬ』だったんだということ。
    富野監督は表立って宮崎駿をライバル視する発言をする稀な監督です。
    例えば押井守などは宮崎の人格を揶揄し矮小化してなんとか対応するなどであり、正面から宮崎駿に立ち向かう人物は少ないのです。
    そして『ターンAガンダム』は確かに傑作だったのですが、彼は宮崎駿に勝てたのでしょうか?
    富野由悠季は手塚治虫の虫プロ出身の作家です。ご存知の通り、手塚が影響を受けたのはアメリカのディズニー映画です。
    ディズニーは資本主義社会の中でコンテンツ産業のトップを極める存在であり、富野はスタートから資本主義によってクリエイトする環境にいました。
    虫プロを出た後も彼は自嘲気味に言う「おもちゃのCM」アニメを作り続けます。
    それは制作費を出す資本家の意向に添った作品を作るという、まさに資本主義の手先となって作品を作るのが富野でありました。
    他方、宮崎駿はどうだったのか?
    彼はロシアや東欧のアニメに深く影響を受けていますし、ロシア版『雪の女王』はジブリから日本国内に販売されたほどです。
    当然、ロシアは当時ソビエト連邦、共産主義の国家でありましたし、東欧も同じくです。
    そんな宮崎が東映動画に入ったとき、当時の東映動画は世界でも稀な労働組合の闘争の真っ最中でした。
    そしてその闘争の中心人物でもあった高畑勲に師事することになります。
    つまり、宮崎は富野とは鏡のように正反対で、スタートから共産主義的にアニメに関わるのです。
     

    記事を読む»

  • これからの漫画の技術論の話をしよう〜part1〜

    2014-06-10 22:35  
    612pt
    詳細ヘッダー


    これからの漫画の技術論の話をしよう〜part1〜

    こんにちは、大井昌和です。
    身体がぼろぼろのこの一週間でありましたが、元凶は帯状疱疹という神経性の皮膚炎でしたorz 詳しくはまた明日の放送で話しますが少しづつ元気になってきてはおります!
    さて復調の兆しが見えてきたのでまた記事の方でも語らせていただきたいと思います!今回は「これからの漫画の技術論」とあるとおり、漫画の書き方をシリーズで語って行こうかと思います。なぜまたこれを語ろうかと思ったかと言いますと、最近放送で色々ご質問をいただく中で思い出したことがあるからです。それは、自分が新人の頃・・・いやまだ新人ですら無い頃は師匠などに何を聞いていいか、自分が何を聞きたいのかすらわからなかったなあ、というのを思い出したからです。
    ですので、今までのおおざっぱな技術論ではなく、思いつく限り細かく漫画の書き方について語って行こうかと思います。

     
  • KADOKAWAドワンゴ合併と「ワンピース」「きらら」の目的地について

    2014-05-25 23:37  
    509pt
    こんにちは、大井昌和です。
    最近いそがしくて僕の文章が遅くてすいません・・・という言い訳を置いといて、もう5月が終わろうとしている衝撃に皆さんいかがな対ショック体制をおとりでいらっしゃいますか?来月は一年の前半最後の6月ですよ!おかしい!

    さて、今回は話題が落ち着いた感のあるKADOKAWAとドワンゴの合併を主軸に、表題にある通り「ワンピース」と「まんがタイムきらら」のその制作的思想の方向と、いち漫画制作者としてそれについてどう考えるかというお話をして行けたらと思います。

    記事を読む»

  • マンガ起業論(同人誌)・補足版 2013年8月11日

    2013-11-12 20:11  
    マンガ起業論・補足版 2013年8月11日
    ワンピース、21世紀以降のマンガにおける「進撃の巨人」の価値


    なぜ「進撃の巨人」がすばらしいか。
    これを語る言葉を不勉強ながらあまり聞かない。
    宇野常寛が言及した、彼が得意とする、若い世代を取り囲む現代社会からの言葉くらいが聞くに値するものだが、それは「進撃の巨人」の社会学的引用であるからして、マンガそのものの言葉を作りたい人間にはまだ足りない。
    宇野が言ったのは、すでに敵がいない今の世の中に現れる不気味な存在としての巨人、ということであった。
    これは「進撃の巨人」の語った物語の説明としてはうなずけるところでもある。だが、「進撃の巨人」がなぜここまでマンガ市場や、さまざまなプレイヤーにコミットした説明には至らない。
    それはやはりマンガの批評がないからである。
    「進撃の巨人」をマンガ批評するならばこう語るべきなのだ。
    『20世紀のマンガ文脈をほ

    記事を読む»