「ドンドンドン、ドンキ~、ドンキホーテ~♪」――ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を訪れた際に、この曲を聞いたことがある人は多いのでは? 「ドン・キホーテ」の店内で流れるテーマ曲『ミラクル・ショッピング』。
実はこの曲を作詞作曲して歌っている田中マイミさんは「ドン・キホーテ」の現役社員。しかも今は人材育成を担当するヒューマンモチベーション本部の本部長という要職にある。そして、数々の「田中伝説」を作り出したツワモノ社員でもあった。
最初はバイトから始まったという田中さんは、どうやってここまでの道を歩んできたのだろう。
■あちこちの売り場で"伝説"を作る
もともとミュージシャンだった田中さん。「ドン・キホーテ」府中店で94年にバイトを始めたのは「たまたまそこにあって、自転車で通えたから」というお気楽な理由。最初はゲーム販売の売り場の担当になった。
だが、何事にも情熱を持って創意工夫して取り組まないといられない性格の田中さん、電機、アパレル、高級ブランド品......と担当する売り場売り場で記録的売り上げ増を達成。社内でも有名な存在となって、創業者の安田隆夫会長から直接スカウトされて社員となる。
田中伝説のいくつかを紹介すると......
アパレルの担当になったとき。「トップセールスを取ってやろう!」と決意した田中さんはメンズに力を入れることを決める。
「女性は洋服をあれこれ迷いながら楽しんで買うけれど、男性は迷うのが面倒という人が多いし、衝動買いもするはず。とにかく安さが目に入れば売れる」と計画を立てた田中さん、「安さだけではどこにも負けないようにしよう」と、当時流行っていた「HANES(ヘインズ)」のTシャツを大量入荷、ぎりぎりまで値段を下げて、店内ボードやPOPでとにかく派手に安さを強調。結果的に「HANES」のTシャツは大ヒット商品となった。
さらに、通常は廃棄されてしまう店頭ディスプレイ使用後のTシャツを、理由を明示して1枚10円で売ると、これまた次から次へと売れた。
それから今では「ドン・キホーテ」の各店舗で目にする、ジャングル風のディスプレイ。これも田中さんが始めた。「ドンキってなんか、ジャングルなイメージかなと思って。こんな小売り店ないでしょ? 棚から天井から全てに緑を這わせました」
■買い物カゴを持ったときにノレるテンポの曲
そんな田中さんにテーマソング作りの声がかかった。田中さんが「テーマソングを作ってはどうか」と上司に提案したところ、「ミュージシャンなのだから自分でやってみては」と逆提案されたのだ。
引き受けた田中さん、いろいろなテーマソングを研究し、音楽性も高いものにしたいと考えた。
「ドンキって、お祭り空間というか、入った瞬間にノレると思うんですよ。たとえば、ハイブランドのアイテムを買うのでも、ドンキならラフな格好で気軽に来られる。ふらっと来て衝動買いできる、そんなノリを音楽にしたかった」。
そして生まれたのが「♪ドンドンドン」というあの軽快なリズムなのだった。歌詞には「衝動買いでも得したね」というくだりもある。「お店の中ではなく、街角なんかで、通りすがりの人が鼻歌で唄っているのを聞いたときは感激だったな」。
今は人材育成の責任者として、販売スキルの向上やモチベーションアップに取り組む田中さん。なぜいつもそう情熱的に働けるのだろう?
「夢を持つことかな。今やっていることに満足しても、常にその先の、高い目標を持つようにしています。そうすると、落ち込んでも疲れてもいられないですからね」
(取材・文/編集部)