舞台となるのは、イタリアのキオッジャ。ヴェニスと同じくラグーナ(潟)に浮かぶ、素朴な漁師町。海辺にたたずむ小さな酒場で働くことになった、中国出身の女性シュン・リーと地元の常連客との心の交流を描いています。
シュン・リーは故郷に息子を置いて、組織の指示で酒場で働いている。お金を貯めていつか息子をイタリアに呼び寄せるのが彼女の夢。カタコトのイタリア語でも臆せずテキパキと働くシュン・リーは、しだいに客たちと打ち解けるように。常連客のうち、ユーゴスラビアから30年前にやってきたベーピはシュン・リーのよき理解者。彼もまた移民としての孤独を感じていて、2人は互いに共感し合うようになります。
監督のアンドレ・セグレは、これまでに数多くのドキュメンタリー作品を撮ってきており、社会学の研究者として10年以上にわたり移民問題を調査研究しているのだそう。この映画はフィクションで、ほのかなラブストーリーでもあるのですが、ベースにあるのはイタリアの抱える移民問題。
観光客の来ないような小さな町の酒場にまで、アジアからの労働者が浸透している現実や、彼らが組織に厳重に管理されていること、また地元のイタリア人たちが移民を受け入れながらも、「自分たちを脅かす存在ではないのか」という不安も同時に持っていること、などはかなり現実に近いものなのだろうなと思います。
そんな社会問題とラブストーリー的な話の展開とのバランスがとてもいい感じ。そしてこれもドキュメンタリーの監督ならでは、なのでしょうか、キオッジャの町をそのまま撮っている。それがとてもきれいです。
冬のヴェニスが高潮のために町中が水浸しになる、という話はとても有名ですが、キオッジャにも同じことが起こります。それでも淡々と人々は生活し、潮が満ちて床まで浸水した酒場で平然とお酒を飲む。その中で、燈明に見立てたロウソクを床に浮かべるシーンは、イタリア的でアジア的で。とても印象に残りました。
タイトルもありますが、ベーピが詩を詠むのが好きだったり、シュン・リーが中国の詩人、屈原の詩を暗唱したりと、「詩」がこの映画のキーワードになっているのもポイント。
ラストにかけてはちょっとしんみりするシーンもありますが、じんわりとあたたかい気持ちになります。派手さも激しい展開もないけれど、心に残る、小さくて美しい映画です。
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『ある海辺の詩人-小さなヴェニスで-』[公式サイト]監督・原案・脚本:アンドレア・セグレ
出演:チャオ・タオ、ラデ・シェルベッジア
原題:IO SONO LI
3月16日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
(c)2011 Jolefilm S.r.l.- Aternam Films S.a.r.l - ARTE France Cinema
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(文/ミヤモトヒロミ)
ミヤモトヒロミ | ブログ
ライター・エディター。女性誌、女性向けWebメディアで映画やアート、カルチャー関連の記事を執筆。カフェグローブでは2007年よりブログ連載「ムービーハンター」で大人の女性のココロにささる映画評を手がける。