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記事 25件
  • 台獣物語08(1,957字)

    2016-04-30 06:00  
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     そんなふうに、珍しく楽しんで受けた授業はあっという間に過ぎ、終了した頃には一〇時前になっていた。
     それでエミ子は、あらためてお腹がすいていることに気づかされた。(これでは、とても家まで持ちそうにない!) そう思ったエミ子は、近くで何か買い食いしていこうと考えながら塾を出た。 ところが、そこで驚かされることになる。なんと、塾の玄関のところに智代が待っていたのだ。「おつかれさん」 智代は、驚くエミ子を尻目に無表情でそう言うと、先に立って家とは反対の方向へ歩き始めた。 それで、エミ子も後からついていくと、二人はやがてラーメン屋の前までやってきた。 二人は、そこでラーメンを食べた。 食べている間も、智代はほとんど口をきかなかった。それで、エミ子もずっと黙っていたのだが、それはいつものことだった。 智代もエミ子も、口数が少ない方だった。だから、何か話題がない限りは、ずっと黙っていることが多か

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  • 台獣物語07(2,107字)

    2016-04-29 06:00  

     そう言うと、エミ子は苦笑いのような表情になって、首を振ってからこう言った。
    「ううん、違うの」
    「え?」「私、お母さんのこと、何も知らなかったな――って、ちょっと反省したの」「そっか……」「でも、嬉しい。今日、お母さんのこと、いろいろ教えてもらえたから」「あ、うん……でね――」 とぼくは、エミ子の態度が少し打ち解けたのを見計らって、こんなふうに切り出した。「実は、ぼくがこの学校に転校してきたのも、きみに会うためだったんだ」「えっ?」「ぼくは、小さな頃からずっときみのことを聞かされていたから」「私のことを? どうして?」「うん。きみのお母さんは、もの凄いヲキだったって。お父さんは、きみのお母さん以外にも何人か別のヲキとコンビを組んだことがあるらしいんだけど、きみのお母さんほどの人は一人もいなかったって」「そうなんだ!」「そう。だから、その人の子供が大きくなったら、会いに行きなさい――っ

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  • 教養論その35「自分を正しく認知するために役立った教養(前編)」(1,652字)

    2016-04-28 06:00  
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    ぼくが、「自分を正しく認知するために役立った教養」といってまず思いつくのは「絵画」である。それも西洋絵画だ。ぼくの家にはいくつかの画集があって、それを眺めることによって教養が育まれた。特に、ヤン・ファン・エイクやレオナルド・ダ・ビンチ、ラファエロなど、いわゆるルネサンス期のデッサンがしっかりした画家の絵が参考になった。なぜかというと、人間の脳というのは、目からの情報を受け取り過ぎないために、そもそもかなりの部分で遮断している。もし目からの情報全てを受け取ってしまうと、パンクして機能しなくなるからだ。そうなると、例えば車の運転ができなくなる。人間が車の運転をするためには、目からの情報の大部分を遮断する必要があるのだ。つまり、人間の脳はそもそも見ているものを正しく認識できないようになっている。しかし、そうなると正しく絵を描くことができないので、画家というのは後天的に脳の仕組みを修正する。そうし

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  • [Q&A]自分の得意不得意を判断する方法(1,159字)

    2016-04-27 06:00  
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    [質問]
    「得意」「不得意」「苦手」「得て不得手」「向き、不向き」言葉では簡単ですが、明確に自分のなかで「この分野が得意」「この分野が苦手」というのが、どうしても「ふわっ」としています。人それぞれ神経細胞は違うみたいだし、育った過程も違うのであるとは思いますし、子供の頃からすんなり出来る、出来ない分野があったとは事実です。それまで時間をかけてきた量も判断材料になるでしょう。しかし、半信半疑です。例えば、僕だったら自分が話すよりも聞いている方が、仕事もチームワークよりも個人プレーのほうが性に合っている気がします。しかし、それは単なる思い込み、または「根性論」。一種の逃げになるのかという気がしなくもあります。どうすれば自分で自分の適材適所を判断、決断することができますか?
    [回答]
    これは何度かこのブロマガでも言ってきたことですが、自分の得手不得手を知る最善の方法は「人に聞くこと」です。その際

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  • 世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その16(1,783字)

    2016-04-26 06:00  
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    手塚治虫が創始した日本のマンガは、まずは記号的な絵からスタートした。それは、他ならぬ手塚治虫が記号的な絵だったからだ。
    手塚治虫は、最初期こそ貸本マンガに描いていたが、すぐに舞台の軸足を月刊漫画誌に移した。そして月刊漫画誌には、手塚のフォロワーを中心に記号的な絵を描く人々がマンガを連載していた。
    ちなみに、手塚のフォロワーのうちの中心的な何人かは、手塚治虫が仕事場としていた集合住宅「トキワ荘」に住んでいた。そのため、ここでは彼らを「トキワ荘グループ」と呼ぶ。
    トキワ荘グループの主なメンバーには、寺田ヒロオ、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫らがいる。彼らは、全員が『漫画少年』誌で連載を持っていた。このことからも、当時のマンガの中心地は『漫画少年』であったことが分かる。
    一方、手塚治虫を中心とした記号的な絵とは一線を画す、写実的で込み入った絵を描くマンガ家たちもポツポツと現れ始めた。そうし

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  • 声優としてこの先生きのこるには(2,143字)

    2016-04-25 06:00  
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    『もしイノ』のオーディオブックが発売された。
    もしイノ - FeBe
    朗読は、『もしドラ』オーディオブックに引き続き声優の仲谷明香さんに担当してもらった。
    仲谷さんは、元AKB48のメンバーでぼくが秋元康さんのところにいたとき一緒に仕事をしていた。その縁で『もしドラ』オーディオブックの朗読をお願いしたのだが、その後『もしドラ』のアニメにも出演してもらったりと、いろいろとご縁ができた。
    その流れで今回もお願いしたのだが、とても良かった。前回に比べると格段にテクニックが向上していて、読み方に安定感があった。それから、これは前回もそうだったが、彼女はキャラに応じていろいろな声を使い分けてくれるので、それを聞いているのも楽しかった。しかも彼女は、それを朗読しながら即座に演じるから、よくできるなと感心すること頻りだった。
    こちらで試し聞きができます。
    オーディオブック「もしイノ」動画 - YouTu

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  • 台獣物語06(2,169字)

    2016-04-23 06:00  
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    「え?」
    「『ヲキ』とは、簡単にいえば『芸能を司る能力』、あるいは『その能力の持ち主』のことをいうんだ。一説には、アマノウズメの子孫――なんていわれたりもしている」
    「へえ!」
    「あまり知られていないけど、日本にはこのヲキの能力を受け継いだ『家』というのが、古くから――それこそ神代の昔からあってね。その家では、代々芸能の伝統が受け継がれているんだ」
    「そうなんだ!」
    「例えば、能や歌舞伎などの古典芸能や、あるいは現代の芸能人にも、このヲキの家出身の人は少なくないんだよ」
    「ふうん、ちっとも知らなかった……」
    「……で、ここからが本題なんだけど――」
    「うん」
    「大宮さん――というか、きみの家は、実は日本でも有数の、名門ヲキの家系なんだ」
    「ええっ!」
     驚いたエミ子に、ぼくはなおも続けた。
    「正確に言えば、きみのお母さん――つまり大宮タヱ子さんの家が、ヲキの家系っていうわけ」
    「榊くん

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  • 台獣物語05(2,099字)

    2016-04-22 06:00  
    第二章「素顔のままで」

     翌日の月曜日、昨日のことがあってよく眠れなかったエミ子は、珍しく早起きした。
     食卓に着くと、智代と英二の三人で朝ご飯を食べた。この日は、目玉焼きに納豆、ご飯に味噌汁といった内容だった。
     ご飯を食べながら、英二が聞いてきた。
    「どうだ? 勉強は捗っているか?」
     それで、エミ子は味噌汁をすすりながら、無言で頷いた。
     すると、英二がチラリと智代を見ながら言った。
    「おまえも中三なんだから、そろそろ受験に本腰を入れないとな」
    「……」
    「おまえのお父さんは、本当に優秀な人だった。おまえはそのたった一人の子供なんだ。お父さんに恥ずかしくない人間にならないとな」
    「……」
    「劇を見るのもいいが、ほどほどにな」
     それで、エミ子は思わず味噌汁を吹き出した。それから智代の顔を見たが、彼女も驚いた顔でエミ子を見、肩をすくめると首を横に振った。
     登校中、学校前の西中坂か

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  • 教養論その34「自分を素直に見ることによって初めて分かる教養の本当の役割」(1,836字)

    2016-04-21 06:00  
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    自分に素直になるということは、もう一人の自分を持って、自分を客観的に見ることによって果たされる。自分を客観的に見ることができると、自分の弱点が見えるから、それをあまり出さないようにできる。それと同時に、自分の長所も分かるから、それを上手く出せるようになるのだ。
    そういうふうに、自分の長所や短所が分かると、さらにその奥にある、自分の素直な思いというものを知ることもできる。自分の素直な思いとは、自分が何に価値をおいているか、ということだ。自分が大切に思っていることは何か。自分にとってのプライオリティが判別できるようになるのだ。
    ここまでして気づくのは、人間は、自分のことが案外分かっていない――ということである。それはまた、ほとんどの人間は、自分のことが分かったつもりでいる――ということでもある。ぼくは30歳のときに、その視点を得ることができた。ぼくを含めた多くの人間が、自分のことを分かっていな

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  • [Q&A]この残酷な世の中でどう生きていけばいいのか?(1,346字)

    2016-04-20 06:00  
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    [質問]
    日本人は臭いものに蓋する。「一部の芸能人」「一部のプロ野球選手」「バラエティー番組」「街中の楽しそうなカップル」「山脈のように連なるマイホーム」などで、見えにくくなっているが、進撃の巨人の名言「この世界は残酷だ!」の通り現実社会も残酷(>_<)
    僕自身大したスペックも人脈もない中で曲がりなりにも「よくここまでこのクソみたいな世の中」を生きてこれたなと有森裕子並みに自分を褒めています( ̄^ ̄)エッヘン
    僕が予想するに、これから生活保護受給者は増えるし反面、審査は厳しくなる。自殺者も減りません。雇用も明るくないしキツい書籍「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」が売れているということは=それだけ病んだ世の中という証拠になります。
    ハックルさんが、そんな考え方でこの先、生きていけるのか? 心配になる人が減るにはどうしたらいいと思ってますか?
    [回答]
    ぼくは、そういう考えの人がいたり、実際に

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