• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 17件
  • 令和日本経済の行方:その31(1,620字)

    2023-01-31 06:00  
    110pt
    新しい時代に最も脚光を浴びる産業は「建築・移動・教育」だ。明治維新後や敗戦後も、建築・移動・教育が産業(社会)の主役になった。逆に、時代が停滞し、文化が淀むと、建築・移動・教育もまた淀む。
    令和初頭の現在は、まさにそうした時代といえよう。建築・移動・教育はすっかり社会の脇役になってしまった。新しい建築・移動・教育は、むしろ声高に非難する人の方が多い。
    面白いのは、そういうものを非難するのは主に「左翼」の人たちということだ。いわゆる革新派である。
    革新派は、社会が停滞すればするほど存在感が増す。だから、皮肉なことにむしろ停滞を望む。その逆に、保守派は社会が変革すればするほど発言権が増す。だから、社会が変革することを望むのである。
    思想家は、右も左もだいたいそういう「ねじれ」た状況で社会を見ている。だからこそ、ドラッカーは思想家を忌み嫌い、「そうなってはならない」と口酸っぱく説いた。代わりに、

    記事を読む»

  • マンガのはじまり:その16(1,673字)

    2023-01-30 06:00  
    110pt
    『ノンキナトウサン』は、大正末期の関東大震災などに端を発する「不況」という世相にぴったりハマって、大ヒットとなった。それ以前の大正前半は、第一次世界大戦がもたらした輸出の拡大によって、維新以来の好況に沸いていた。そのいわば「大正バブル」の中でさまざまな文化が花開いた。
    それは後に「大正元禄」と呼ばれるようになるのだが、その文化シーンをリードしていたのは当時の若者たち――モボ(モダンボーイ)とモガ(モダンガール)であった。彼らはアメリカ「狂騒の20年代」の影響を色濃く受けながら、あらゆるものを洒脱に、如才なく受け止めようとした。洗練された「ジョーク」で昇華しようとしたのだ。
    だから、大正末期に訪れた不況においても、あたふたすることをよしとしなかった。軽く受け流し、虚勢を張った。『ノンキナトウサン』作者の麻生豊も、それを読んだ読者たちも、モボやモガであった。だから、『ノンキナトウサン』は不況を

    記事を読む»

  • 庭について:その15(1,728字)

    2023-01-27 06:00  
    110pt
    リチャード・ボイルとは何者か?
    彼は、またの名を「バーリントン伯爵」という。このバーリントン、チジック・ハウスをはじめとする素晴らしい庭(建築)を造ったのは、実は「3代目」にあたる。初代と2代目(彼の曾祖父と祖父)は、これもまた有名な貴族だった。3代目バーリントンは、そういう有名な貴族一家の出だった。
    そこでこの記事では、ボイル家、あるいは初代バーリントン伯爵はどんな人物だったのか?――というところから見ていきたい。
    まず初代バーリントン伯爵は、3代目と同じで名前を「リチャード・ボイル」という。1612年にアイルランドで生まれた。ちなみにこの初代の父親の名前もリチャード・ボイルというのだから、なんともややこしい。
    初代バーリントンは、有能な政治家であった。さまざまな政変を乗り越えながら、とうとうアイルランド貴族のトップにまで上り詰める。その功績を称えられ、時の国王から「伯爵位」を叙爵される

    記事を読む»

  • お金にまつわる思考実験:その13(1,620字)

    2023-01-26 06:00  
    110pt
    人間というのは不思議なものだ。人の少ない集落では、住民同士必ず挨拶を交わすが、たくさんの人が住んでいる都会のマンションだと、挨拶を交わさないようになる。隣家の人の顔さえ知らないという人も多い。
    これは都会が「冷たい」からではなく、むしろ「暖かい」からだ。というのも、挨拶は必ずしも相手を信用しているときにするものではないからである。むしろその逆である。相手を信用していないときに、挨拶は発生する。
    例えば、都心のマンションに住んで隣家の人の顔も知らず、廊下ですれ違っても挨拶しない人でも、必ず挨拶するところがある。それは「登山道」だ。登山道で向こうから見知らぬ人が来ると、どんなに無愛想な人でも挨拶をする。特に、向こうから屈強な男性が来ると挨拶をする。
    なぜかというと、「恐い」からだ。山道で襲われたらたまったものではないから、襲われないことを確認するために挨拶するのだ。そうして登山道では、それが必

    記事を読む»

  • [Q&A]雪の日の思い出は?(1,892字)

    2023-01-25 06:00  
    110pt
    [質問]
    職場に悪気なくキツいことを言う40くらいの女性がいます。悪気なくと言っても、立場の下の人への当たりはかなりキツいようです。つまり、これこそが悪気とも考えられます。
    やんわりと注意を言っても伝わりません。かと言ってこちらが諦めて言わなければ、このままでは言いたい放題になってしまいそうです。そんなに歪んだ人ではないのですが、心のブレーキがよわいのです。
    誰かが注意しないといけないね、と言い合ってはいます。ハックルさんはこういう、論理的ではなく思わぬことを口走る人に、どう対応されていますか? よかったら教えてください。
    [回答]
    難しい問題ですね。ぼくの近くにはそういう人がいないので、正直これまで対処したことがありません。
    そのことを考えると、「ぼくのような人間」になることが、一番いい対処のような気がします。つまり、とことん正論を言うのです。正しさをどこまでも追求する。こういう人は、必

    記事を読む»

  • 令和日本経済の行方:その30(1,648字)

    2023-01-24 06:00  
    110pt
    ぼくは今後も、日本で生きていこうと思っている。それは、日本が今はもちろん将来的にも最も生きやすい国と思うからだ。
    今の日本人を覆う「生きづらさ」は、江戸時代末期、あるいは第二次世界大戦中の状況に似ている。お先真っ暗だが、実際はここを抜けると明るい社会が待っている。そうとらえて、今から未来に向けてポジションを築いていこうと思っている。
    では、どうやってポジションを築くのか?
    それには、明治維新後、あるいは第二次大戦後にポジションを築いた「産業」が参考になる。
    混沌とした世の中が終わると、人はある傾向に則って行動する。そうして、たいていある特定の産業が隆盛する。その「混沌後に隆盛する産業」に今のうちからコミットしておけば、いざ混沌が終わった際には「先行者利益」を得られるのだ。
    では、その混沌後に隆盛する産業とは何か?
    それは、大きく3つある。1:建築、2:移動、3:教育である。
    まず1の建築。

    記事を読む»

  • マンガのはじまり:その15(1,588字)

    2023-01-23 06:00  
    110pt
    北澤楽天が活躍したのは、25歳だった1901年(明治30年)から、55歳になった1930年(昭和5年)くらいまでの30年間だ。つまり明治末期から大正全部、そして昭和初期である。
    こうしてみると、やはり「昭和不況」が、楽天のマンガ家人生にもとどめを刺したのだろう。ここは時代の大きな転換点で、50代の楽天はさすがに乗り越えられなかった。
    それでも、30年間は第一線で活躍した。実に息の長いマンガ家であった。
    ただ、例えば現代の人気マンガ家である井上雄彦や冨樫義博らも、すでにマンガ家生活30年以上だ。手塚治虫はちょうど40年くらいマンガの第一線で活躍した。
    そう考えると、マンガ家というのは息の長い職業だ。老人になっても活躍できる、希有な表現媒体である。さいとう・たかをやみなもと太郎も死ぬまで現役だった。ちばてつやもまだ現役である。
    楽天は、若くして福澤諭吉の時事新報で「時事漫画」を描き始め、人気を

    記事を読む»

  • 庭について:その14(1,472字)

    2023-01-20 06:00  
    110pt
    ウィリアム・ケントは、どのような庭を造ったのか?
    例えばチジック・ハウスという庭(建築)がある。
    チジック・ハウス - Wikipedia
    「絵画のような」英国庭園:ロンドンのチズウィック庭園
    これを見て分かるのは、まずローマ風の建築ありき――ということだ。ただし、それをローマ風の庭園ではなく、あえてイギリス風の庭園の中に配置している。これは、もろにクロード・ロランの影響といえよう。
    ケントは、美しい人工物が自然の中で朽ちていく姿に、なんともいえない「エモさ」を感じた。そうしてそれを、貴族が提供する唸るほどの資金を背景に、周囲の自然ごと芸術作品として再生してみせたのだ。
    結果としてそれは、幾何学的なデザインと非幾何学的なデザインとの融合となった。直線的なローマ建築をあえて非直線的な森の中に配することで、思わぬ異化効果が生まれたのだ。
    当時のイギリスでは、ローマが強烈に「流行って」いた。イギ

    記事を読む»

  • お金にまつわる思考実験:その12(1,735字)

    2023-01-19 06:00  
    110pt
    1
    最近広く知られるようになったのは、人間の脳は絶えず「予想」をくり返している――ということだ。絶えず「未来のシミュレーション」をくり返している。
    例えば、夜ご飯を食べる前に「何を食べたら美味しいか」を脳内でシミュレーションしている。そのとき、「夜ご飯という未来」に思いを馳せながら、一方では「過去の記憶」を辿っている。過去に食べたものを思い出しながら、何を食べたら一番満足度が高いかを検証している。
    そういうふうに、未来のシミュレーションをするときは、必ず過去が参照されるのだ。そこで記憶が用いられる。つまり、人間の脳は絶えず「未来と過去」とを行き来している。未来を予想するために昔のことを思い出している。
    その際、過去と未来とを同一世界の事象としてつなげるために、「共通項」が必要になる。その共通項こそ「自分」である。自分を主人公とする世界観だ。
    夜ご飯を決めるとき、過去の食事を思い出す。例えば、カ

    記事を読む»

  • [Q&A]今年(2023年)したいことは何ですか?(1,662字)

    2023-01-18 06:00  
    110pt
    [質問]
    岸田首相とバイデン大統領の会談がありました。いよいよアメリカの戦争に日本が駆り出されるのか、と思いました。
    岩崎さんはどう思われますか?
    [回答]
    ロシアがウクライナに侵攻して以降(あるいは水面下ではその前から)こうした「動き」は起きていました(それがいよいよ目立ってきています)。その「動き」とは、「擬似的に近代社会を取り戻す」ということで、逆に言うと「新社会を阻む」ということです。
    「近代社会」は「戦争の時代」でした。戦争が社会の最も巨大な関心事で、その主役は政治家でした。
    しかし「新社会」の最大の関心事は「経済」で、主役は言うまでもなく経営者です。そのため、戦争や政治家の影は20世紀の後半からこっち、薄くなるばかりでした。
    そうしていよいよ近代が終わりかけ、世界のあちこちで近代のシステムが破壊されるようになりました。それに危機感を覚えた政治家に代表される「近代の役者」たちが、

    記事を読む»