でも「たまには絵本でも読んでみたいなー」と思っても、子どものころから親しんでいるロングセラーの作品以外はよくわからない、という人、案外多いのでは? 今回はここ数年出版されたなかで、大人にこそおすすめしたい絵本をご紹介します。
『あさになったのでまどをあけますよ』(荒井良二/偕成社)
「あさになったのでまどをあけますよ」という言葉とともに、さまざまな場所の朝が描かれます。山の村、大都会、海の近く。どこにいても、朝は平等に訪れるということや、朝を迎えられるというあたりまえの幸せを再認識させられます。
そして繰り返される「だからぼくはここがすき」という言葉にも強くて温かいメッセージを感じます。
作者の荒井良二さんは、この絵本を被災地への思いを込めて描いたのだそう。どのページも色鮮やかで、本当にきれい。ずーっと眺めていたくなる1冊です。
『ルリユールおじさん』(いせひでこ/講談社)
「ルリユール」というのは、人の名前ではなく、職業。フランスの「製本の職人」をさすのだそう。
大切な植物図鑑がバラバラになってしまった女の子が、「ルリユール」のおじさんを訪ねる、という話。おじさんの仕事場で、製本の過程を見ながらの女の子とおじさんのやりとりは、ほほえましくてうらやましくて。本を愛する登場人物たちと、それを描いた作者の気持ちにジーンとなってしまう話。
ルリユールおじさんによって生まれ変わった本も、ストーリーの結末も素敵です。
『アライバル』(ショーン・タン/河出書房新社)
コマ割りされたようなセピア色の絵が続いて、そこに描かれるのは、家族を置いて移民として大陸に渡った男の話。
見たこともない不気味な生き物や食べ物にびくびくしつつ、徐々に慣れていくようすは、未知の土地で生きるという肌感覚をイメージさせます。
つらい過去を背負ったもの同士が優しくなれるのも、移民ならでは、なのかも。文字はありませんが、表情などの描写がとても細かくて、たくさんのドラマが読み取れます。
良質の映画を観終わったような深い感動に包まれる1冊。絵本には、こういう表現もできるのだ、という発見があります。
どの本にも、大人になった今だからこそ、心に沁みる表現がたくさん含まれています。ぜひ手にとってみてください。プレゼントにもおすすめです。
(文/ミヤモトヒロミ)