主人公は元教師のブルーノ。いまは、ゴーストライターと家庭教師で細々と生計を立てているが、ある日、教え子の母親から、自分は仕事でしばらく家を空けるので、息子のルカを預かってほしいと頼まれる。しかも、彼女は昔ブルーノと一晩だけ関係をもったことがあり、ルカはその時の子どもだと告げられ......。
ここまで読むと、息子の存在を突然知らされるという驚きが、ストーリーの柱になりそうに思えるのですが、このあたり、あっさりと描かれているのが印象的です。
最近では『人生ブラボー!』、ちょっと前の作品では『ブロークン・フラワーズ』『家族のいる風景』など、突然聞かされて「えっ! 俺に子どもが!?」とモンモンと葛藤する男性が登場する話はけっこうあります。女性と違って男性には子どもができるという生理的感触がないので、何年も経ってから初めて知るケースがありうる。驚くし悩むとも思うんですが、この作品では、「えっ! そうなんだー」と、拍子抜けするくらい穏やか。さらに息子のほうも同様です。
すでに家庭教師の師弟関係でお互いに相手を認めているから、なのかもしれません。といっても、お互いにどうでもいい、と考えているわけではなくて、子どもにどこまで関わるべきか、といった次のステップで悩む。そのエピソードの数々に心が温まります。
原題の「Scialla!」というのは、英語の「take it easy」のような意味で、「何とかなるさ」「リラックスして」といったシーンで使われる若者言葉なのだとか。
映画全編にわたって、「Scialla!」な空気を感じられる作品。登場人物たちがみな、自分を肯定しているのがいいですね。ブルーノはかつては小説を書いたこともあるのに、いまはゴーストライターに甘んじている。息子のルカは、人気はあっても落ちこぼれ。ブルーノが取材先として訪れる女優はポルノ女優。アート系の映画が好きな、変わったマフィアも登場します。自分が世間からよく思われてなかったり、軽く扱われたりすることを知りつつ、でも、堂々と自分の人生を楽しんでいます。
ちょっとワルで、落ちこぼれではあるけれど、クラスの人気者でママ想いのルカ。演じるフィリッポ・シッキターノ君は、本作がスクリーン・デビューだそう。前回ご紹介した『海と大陸』の主人公に続き、母性本能をズキュン! なタイプです♪
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『ブルーノのしあわせガイド』[公式サイト]監督・原案・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
出演:ファブリッツィオ・べンティヴォリオ、バルボラ・ボブローヴァ、フィリッポ・シッキターノ
原題:Scialla!
4月13日(土)シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
(c)2011 I.B.C. Movie
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(文/ミヤモトヒロミ)