(c)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
BO129
近年、アメリカの「ボストン美術館」やスペインの「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」で個展を開催し、世界的に評価されるスペインの芸術家アントニオ・ロペス。彼の代表作64点を網羅する日本初の回顧展が、東京・渋谷の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で開かれています。
アントニオ・ロペスは1936年生まれ、現在77歳。多くの人にとって本展が"初めての出合い"となるであろう、知られざる巨匠のひとりです。リアリズム(写実主義)の画家とされますが、観る者に時間の静止と神秘性を感じさせる作品世界は、その枠を遥かに超えるものです。
故郷の風景、家族、そして人間。
長い歳月をかけ、対象の本質をとらえる魔術的リアリズム
絵画・素描・彫刻を自在に行き来するロペスの作品。会場は主にモチーフごとに構成されていますが、一見ひとりの画家の作品とは思えないほど、制作方法が大胆に変化していきます。
ただ、そこには共通点も。それは「日常の世界をモチーフにする」、そして「とにかく時間をかける」ということ。
(c)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
BO129
例えばこちらの「夕食」に要した期間は9年間。右側に座っている妻のマリアの顔がぶれているのは、顔の位置を少し上にしようと決めて描き直したものの、そのまま制作が中断されたためです。
(c)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
B0129
ドキュメント映画『マルメロの陽光』(監督:ビクトル・エリセ)では、こちらの「マルメロの木」の制作過程が撮影されていました。天候不順に悩まされ、1ヶ月かけて未完に終わったこの作品。良く見ると鉛筆と白い絵の具で、点線のような印がつけられています。これらはマルメロの実がどんどん成長してしまうので、目印としてつけたものだそう。
(c)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
B0129
傑作「グラン・ビア」。ロペスは朝、6時30分の光を捉えるために、毎日早朝に地下鉄で現場に通い、わずか20分~30分の制作を7年間続けてこの絵を完成させています。
ロペスの絵画は、リアリズムといっても細部まで丹念に描きこまれているわけではなく、ラフなタッチがあちこちに残っています。あまりに時間をかけるので、未完成であることも多いのが特徴です。
それでいて作品を前にすると、圧倒的な実在感――まるで絵の中で時が移ろい、モチーフが成長し、街並みがうごめいているような、奇妙な感覚に打たれるのです。まるでロペスが積み重ねた長い時間が、作品に命を宿したかのようです。
愛する人や風景の一瞬を追うロペスの眼差しは、厳しさと共に暖かさを感じさせます。こんな風に世界を見つめることができたら、毎日のせわしない時の流れが少し変わるかもしれません。ロペスが描きとめた「永遠」を確かめに、ぜひ会場に足を運んでみて下さい。
アントニオ・ロペス展 [公式サイト]
開催期間:6月16日(日)まで。会期中無休。
開催時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)会期中無休
※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
(文/田邉愛理)