夏になると、なぜか湧いてくる「怖いものみたさ」の好奇心。連日の猛暑を吹き飛ばしてくれる展覧会が、東京・日本橋の三井記念美術館で開催されています。その名も、「大妖怪展―鬼と妖怪そしてゲゲゲ―」。日本の中世から近世、現代の水木しげる氏へと受け継がれる妖怪変化の歴史を、重要美術品を多く含む珠玉のラインナップで見渡すという豪華きわまる妖怪展です。
展示室に入ると、まずは江戸~明治時代の浮世絵の妖怪がお出迎え。三井記念美術館は、昭和初期を代表する洋風建築「三井本館」を生かして設計されていますが、かつて三井財閥の重役たちが食事をしていたという重厚な空間で見る妖怪たちの姿は、迫力があります。
欲張って重たいつづらを選んだら、中から妖怪がうじゃうじゃと......という、昔話「舌切り雀」のラストを描いた明治23年の作品。大胆な構図と主題で知られる浮世絵師、月岡芳年は妖怪画の名手でした。会場には芳年が江戸時代に手がけた同趣向の作品も展示されていましたが、そちらはもっと派手でユーモラス。淡く繊細な描写は、明治も半ばという時代の好みを映し出しています。
次の「鬼と妖怪」の章では、中世~近世の鬼神、天狗、怨霊などが登場。
突然にとどろく雷鳴は「神鳴り」ともいわれ、鬼神(荒ぶる神の擬人化)のしわざと恐れられました。菅原道真の怨霊がたたりをなす「天神縁起絵巻」が代表的。
男性の鬼を表す能面には角がないのに、女性の鬼を表す「般若」や「蛇」には角があるというのが不思議......。
「不動利益縁起(泣不動縁起)」などに出てくる、安倍晴明が外道を調伏する場面を模した大きなフィギュアも展示されています。精巧に再現された疫病神たちは、現代の「ゆるキャラ」を彷彿とさせるユーモラスな姿。角だらいや五徳など、身の回りの道具が変化した妖怪「付喪神」はあちこちの作品に登場するので、探してみては。
つづく「江戸から明治の妖怪」の章では、妖怪図鑑のような「百鬼之図」など、当時流行した博物学的視点から妖怪をとらえた作品が紹介されます。妖怪を使ったかるたやすごろく、芸州(広島県)の武士の"本当にあった"妖怪体験をつづった本なども。すでに妖怪が庶民の娯楽になっていた様子がうかがえますね。
展覧会のラストを飾るのは、「ゲゲゲの鬼太郎」でおなじみの水木しげる氏が描いた原画25点。歌川国芳の浮世絵など江戸時代の妖怪画を元にしつつ、独自の妖怪ワールドを生みだす水木氏の緻密で色彩豊かな原画の魅力が堪能できます。
大人はもちろん、子どもも大いに楽しめそうな本展。キャプションに子どもむけの鑑賞ポイントが添えられていたり、8月25日(日)までの「親子鑑賞優待デー」(中学生以下の子ども1名につき保護者1名の入館料が半額に!)があったりと、親子で楽しめそうです。
さらに、先日ご紹介したアートアクアリウムの入場券(半券)を持参の方と、和服・浴衣着用の方は、入館料が割引になる特典もあります。アートアクアリウムの会場は三井記念美術館のすぐ前なので、浴衣でハシゴも楽しいかもしれませんね!
大妖怪展―鬼と妖怪そしてゲゲゲ― [公式サイト]
開催期間:9月1日(日)まで
場所:三井記念美術館
休館日:毎週月曜日
開館時間:10:00~17:00 ※入場は閉館の30分前まで
Tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
(取材・文/田邉愛理)