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今こそ子どもたちに「桃太郎」を届ける理由(2,416字)
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今こそ子どもたちに「桃太郎」を届ける理由(2,416字)

2017-09-01 06:00
    歴史を学ぶと、学ぶほどに痛感してくるのは、「歴史はくり返さない」ということです。
    歴史はくり返しません。絶えず流れていきます。絶えず新しいことが起きます。
    マクロな視点で見れば見るほど、その方向性ははっきりしてきます。ミクロな視点で見れば、逆流というのは常に起きていますが、それらが本流になることはありません。

    そのことを、ぼくはこれまでなかなか上手く説明できずにいたのですが、河出書房新社から出ている『サピエンス全史』という本に、全く見事に説明されていました。だからこの本は、みんなが読んだらいいと思っています。

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    さて、そういうふうに歴史というものが「くり返さない」とわかると、気にかかるのは「今の状況が第二次大戦前と似ている」という言説です。なぜなら、それは端的にいって「誤り」だからです。物事を悪い意味で単純化しています。
    そして、そうした誤りというものは、解決に至らないどころか、かえって状況をこじらせます。善きことをしているようでも、視野が狭すぎるために、かえって悪きこととなっているのです。

    だから、昨今の安倍政権のしていることを見て「戦前と似ている」と揶揄するのは、的外れであることのみならず、ぼくは良くないこととさえ思っています。そういうことは、しない方がいい。

    しかしかといって、安倍政権のしていることに諸手を挙げて賛同するかというと、全くそうではありません。というのも、歴史の流れを見ればわかるのですが、今後、戦争が起こるというのは、あまりにもナンセンスです。ですから、それに時間や労力やお金を投資するのは、やっぱりまるっきりの無駄だと思うからです。

    つまり、これもまた善きことをしているようで、かえって状況を悪くしているのです。
    つい先日、北朝鮮からミサイルが発射され、津軽海峡上空を通過して、太平洋に落ちました。それは、いっときは日本列島を騒がせましたが、しかし結局、為替や株価にさえほとんど影響を及ばさず、日常生活はすぐに戻ってきました。

    このできごとで、北朝鮮が今、その気になれば日本のどこにでもミサイルを落とすことができ、それに対して日本はほとんどなんの対抗手段も持たないことが証明されました。北朝鮮がその気になれば、多くの日本人が殺されます。
    それにもかかわらず、日本国中が恐慌に陥らないのはなぜか?
    なぜ、日本の通貨は下がるどころか、逆に上がったのか?

    それは、ほとんどの人が(日本人のみならず世界中が)「北朝鮮は日本にミサイルを落とさないだろう」と考えているからです。そして、なぜそう考えているかといえば、それは日本の軍事力がすぐれているからでも、アメリカの軍事力が日本を守ってくれるからでもありません。

    もし北朝鮮が日本に本当にミサイルを落としたとすれば、軍事力によってはもちろん、それ以前に経済的に、北朝鮮は全世界から締め出され、それだけで滅んでしまいます。そのことを、世界中のほとんどの人が分かっているからです。だからこそ、恐慌が起きないのです。

    北朝鮮のみならず、今や世界中の国が、軍事的にではなく経済的に包囲されています。その包囲網からは、どこの国も逃れられません。そのため、軍事力で何かをしようとすれば、たちまち滅んでしまうということは目に見えています。

    北朝鮮もそれは分かっているはずだと、ほとんどの人が思っているから、日本は今、恐慌に陥らずに済んでいるのです。
    そういう時代において、韓国や北朝鮮、あるいは中国が日本を軍事的に侵略してくると考えることは、あまりに的外れです。的外れなことを考えるのは、単純に時間と労力の無駄ということがあり、もちろんお金の無駄でもあります。
    そして無駄なことは、した分だけ有限なものが毀損されてしまいます。端的にいって、人生の損なのです。

    ぼくは、そういうふうに人生を損するのは良くないということを伝えたいと考えています。それを伝えるのが、教育というものだと思っています。
    ぼくは今、岩崎書店という児童書の出版社の社長をしています。その立場から、いくらかは子どもたちの教育に携わる立場にあります。教育ができるチャンスと責任とを有しております。

    だからこそ、歴史というものを正しく伝え、そこから生きる知恵や力を学び取ってほしいと考えています。多少の無駄や失敗は生きる活力となりますが、大きな無駄をして人生を毀損しないように、子どもたち一人一人の人生が楽しく豊かなものとなるように尽力していきたい。そのために、正しいことを正しく伝えていくのが、岩崎書店やそれを経営するぼくの役目と思っています。

    その役目を果たすために、ぼくは今、本を作っています。
    今度、『空からのぞいた桃太郎』という本を出しました。これは、「桃太郎」という誰もが知っている日本の昔話に潜む、誰もが知っている面白さと、そしてもしかしたら知らない人が多いのではないかと考える、その深い教訓について伝えることを目的としています。

    どういうことかというと、桃太郎の中には、人間の中に眠る本質的な「悪」が宿っています。
    では、本質的な悪とは何か?
    それは、短絡的な「善」です。人間は、善行をしようとしたとき、それが狭い視野で文字通り独善的になってしまうと、たちまち悪へと転化します。世の中の悪は、ほとんど全てこの構造を取っており、そして桃太郎は、その構造を見事に戯画化、簡略化して、物語の中に落とし込むことに成功しているのです。

    ですから、桃太郎を読むことには、その中にある「善」と、それが短絡的になったがゆえの「悪」との、両方が読み取れます。これほど見事な物語は、他にあまりないといってもいいでしょう。

    ですから、この桃太郎こそ、今、子どもたちに伝えるべき物語だと思いました。そうして、子どもたちに独善的にならないよう、広い視野を持つことの重要性を伝えていきたいと考えたのです。

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