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■久瀬太一/8月15日/26時
2014-08-16 02:00
「順調に進んでるみたいだな」
ときぐるみが言う。
オレは、暑いわけでもないのに額にかいていた汗を拭って、息を吐き出した。
「なにが起こってるんだよ、一体」
「オレは知らないよ。ま、そのうちわかるだろ」
こっちは命懸けだってのに、気安く言ってくれる。
「なんにせよ、まずは明日のことだろ」
ときぐるみが言う。
その通りだ。
――事情はわからないが、あのメモの感じだと、あとから奪い返しても遅いかもしれない。
そう、八千代は言っていた。
向こう、というのは、きっとスイマだろう。ホール? あるいは、ニールか、まったく別の誰かか。
なんにせよスイマも、ヒーローバッヂを狙っているのだろう。奪われ、奪い返すものがあるとすれば、それはヒーローバッヂしか思い当らない。
「ヒーローバッヂってなんなんだよ」
とオレはぼやく。
その直後、バスがトンネルを抜けた。
――次は終点、8月2 -
■久瀬太一/8月15日/25時55分
2014-08-16 01:55
一瞬、視界が途絶えて、次にみえた景色は先ほどまでと少しだけ違っていた。
オレはどこか、狭苦しい場所がいた。ちろちろと水の音が聞える、暗く、湿った場所だ。
窓の向こうのオレが、ふっと頭上をみあげる。
そして、ぼそりと呟いた。「しろとくろをみわけよ?」
なんだ、それ。
「これは、ややこしい暗号じゃないみたいだ」 とオレがぼやく。
その直後、目の前をオレンジ色のライトが流れ始め、ようやくまたトンネルに入ったのだとわかった。
リコリス@単冠湾泊地 @lycoris_alice05 2014-08-16 01:57:18
@sol_3d お、天井見上げた
アンソニー @moderate_cat 2014-08-16 01:57:53
「しろとくろをみわけよ」
すくね@触角 @skne03 2014-08-16 01:58:41
力→奈落、光→陰、慈愛→生命がそれぞ -
■久瀬太一/8月15日/25時45分
2014-08-16 01:45
傍からみていると、なんだか間抜けなシーンだったが、本人は緊迫していたのだろう。
ふう、と達成感のある表情で額の汗を拭う。
そして、割れた鏡の中に落ちていた紙片を拾い上げだ。
また、長い文章が並んでいる。
※
【無色の日】
其は、全ての始まりの日
全ての元凶
【白と灰色の節、初めの力の日】
終わりを告げる鐘の音が響く
【白と灰色の節、初めの奈落の日】
人は願う
愛を、金を
人は祈る
平穏を、安寧を、成功を
神の社に長き列
飛び交う金の礫、灰の札
【白と灰色の節、8番目の光の日】
聖者の名を冠する日の前夜
生命を産み出す力を持つ者、黒き神器完成の時
熱く煮えたぎる黒き素体、生命を形どり冷たき箱へ封印する
これこそ黒き神器完成の最後の呪法
【白と灰色の節、8番目の陰の日】
黒き神器の力、現れる
その力、対なる者の魂を捉える
神器には真なるものと、偽なるものあり
真の -
■久瀬太一/8月15日/25時40分
2014-08-16 01:40
「なるほど」
と、窓の向こうのオレは言った。
「もう一体、ドッペルがでる可能性があるなら、サクラをつれていくわけにもいかないか」
それに、みさきとちえりによく似た少女――サクラが答える。
「いえ。私は、お姉さまを捜すのは、私の目的ですから。すべてお任せするわけにはいきません」
「でも危ないらしいぜ?」
「要するに、後ろを振り返らずに、お互いの背後にいるドッペルゲンガーに粉を振りかければいいんでしょう?」
窓の向こうのオレとサクラは、しばらく議論していたが、それで話がまとまったようだった。
※
まずはオレが、部屋に入る。
沢山の衣装や化粧品の置かれた部屋だ。確かに、入り口のすぐ脇に、鏡がある。
オレはゆっくりとそれに近づき、鏡に映らないよう、慎重に屈み込む。
そのまま、懐からなにか、首飾りのようなもを取り出した。
――なるほど。映らないように、鏡を割るつ -
■久瀬太一/8月15日/25時15分
2014-08-16 01:15
「ピエロの方は、これでいいのか?」
どこか自身なさげに、オレは言う。
「でもドッペルゲンガーの方は、なんだかやばそうだな」
どうやばいのか、オレにもわかるように言って欲しかった。窓の向こうのオレは気遣いが足りない。
そう思ってると、オレは言った。
「とにかく部屋の入口に、鏡がある。そこからドッペルゲンガーが出てきて、ぴったりとオレの後ろをつけてくる。ドッペルに触れると死ぬ。目が合っても死ぬ。ええと、このマップにある、白い粉をドッペルにかけると倒せる、でいいんだな?」
このマップってなんだよ。
「ちょっとサクラと相談してみる。いいアイデアがあったら教えてくれると助かる!」
と、オレは言った。
よもぎ @hana87kko 2014-08-16 01:16:29
おい、リアルタイムアドバイス求めてんぞ>15分更新
capo @caporello 2014-08-16 -
■久瀬太一/8月15日/25時10分
2014-08-16 01:10
その部屋の奥には、なにかギターとは少し違う、見慣れない弦楽器をきかならす男がいた。
彼は綺麗な声で言う。
「ようこそ、お客様。あの騒々しいピエロと同室で、ずいぶん疲れてしまいましたよ。その苦労があなたにならおわかりになるでしょう?」
オレは頷く。
「あんたは?」
「名乗るほどでもない、吟遊詩人です。どうでしょう、客人。リフレッシュに、私の歌でもきいていきませんか?」
「なにを歌ってくれるんだ?」
「かつて異世界から現れた勇者、彼がまだこの世界の外側にいたころのサーガですよ」
よくわからない。
オレもよくわかっていなかったのだろう。なんだか警戒したような口調で、「頼む」と言った。
吟遊詩人は、頷いて歌い出す。
内容はめちゃくちゃだ。でもその声は、意外なことに、美しかった。
※
偉大なる勇者 立ち向かう
強く誘う 休息に
再び落ちる ぬくもりに
ああ勇者は偉 -
■久瀬太一/8月15日/25時
2014-08-16 01:00
どうやらオレは、またソルたちへの返答を再会したようだ。重要なことだ。
「オレ、プレゼントを貰うと記憶が欠落する可能性があるようだ。八千代もミュージックプレイヤーの件では記憶が欠落しているように思えるので、その辺りの話を突っ込んできいてみてもらいたい、だそうだ」
プレゼントと、記憶は関係しているのか?
「わかった!」
とついオレは叫び返す。
とはいえ八千代は、いくらでも雑談にはのってくるくせに、喋るつもりのないことは本当に喋らない。困ったものだ。
「18番、読めない。19番。みさきは脚本を書いているのか。昔から、物語が好きな子だったよ。たぶんピアノよりも本当は、そういうひとりで考えることの方が好きなんじゃないかな。20番、おいオレ、ちえりの容姿を思い出せ」
ちえり?
彼女は、みさきによく似ている。パーツをとって考えると、どこも違っていないような気がする。――ああ、少なくと -
■久瀬太一/8月15日/24時40分
2014-08-16 00:40
「11番、12番、両方読めない。13番、おいオレ、越智の山は覚えているな?」
覚えている。そこまでは辿りつけると思う。
窓の向こうのオレは、より詳しい情報を叫ぶ。なんだか妙に記憶に残っている、なつかしいスーパーの名前で、少し笑う。
「なにか思い出すことはないか? と言っている」
当時のことは、いくつか思い出せるが、残念ながらタイムカプセルに関する記憶はない。
窓の向こうのオレは、隣のサクラと、なにか話している。
それからこちらに向かって、
「14番、日づけで間違いないみたいだ! 15番は読めない!」
とオレは叫んだ。
それから、窓の向こうのオレは、しばらくスマートフォンを読みふけって、また叫ぶ。
「ピエロの部屋に入ってみる!」
そこまで叫ばなくても聞えるよ、と誰か彼に教えてあげて欲しい。
※
そして窓の向こうのオレは、王座に向かって左手の部屋に入る。 -
■久瀬太一/8月15日/24時25分
2014-08-16 00:25
「おいオレ、隣のきぐるみに、次の質問をしろ!ひとつめ、本物のいい子について何か知っているか? ふたつめ、『ヨフカシはスイマの中にいる』と言ってたが、本当はプレゼントの壊れてしまったスイマがヨフカシと呼ばれているのではないか?」
オレはきぐるみに視線をむけて、尋ねる。
「だってよ」
きぐるみは首をかしげてみせた。
「本物のいい子ってだれ?」
「オレにきかれてもわからないよ」
「そっか。まあ、ヨフカシとプレゼントは関係ない」
「ないのか?」
「ほとんどない」
「はっきりしろよ」
「はっきりは、オレもわからないんだよ。なんでオレへの質問タイムになってんの?」
しるか。というか、この状況なら、そうなるだろう。
窓の向こうのオレが叫ぶ。
「おい、オレ。そっちにリュミエールがいたら、『40枚のイラスト』でみさきにやらせたことの意図を尋ねろ!」
会話にならないので、会話を交わしていない -
■久瀬太一/8月15日/24時15分
2014-08-16 00:15
――次は、8月16日です。
と車内アナウンスが言った。
よかった、という感情と、まずい、という感情が、同時に湧き上がる。
明日のことは知りたいとは思っていた。
でも窓の外にみえる景色は、大抵よいことじゃない。
※
オレと八千代は、どこかホテルの一室にいるようだった。狭いビジネスホテルのシングルルームにみえた。
オレは見覚えのない、ソフトスーツケースをひっくり返している。
――なんなんだよ?
山の景色を、あわよくばタイムカプセルを掘り返した瞬間なんかを期待していたオレは、眉をひそめる。
どうしてオレは、知らないホテルで知らないスーツケースをあさっているんだ。
「急げよ」
と八千代が言う。
「事情はわからないが、あのメモの感じだと、あとから奪い返しても遅いかもしれない」
そして、バスは再びトンネルに入り、オレンジ色のライトしかみえなくなった。
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