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80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマは無観客レッスルマニアが生み出した“異常な2試合”です!
Dropkick「斎藤文彦INTERVIEWS」バックナンバー
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■マッハ文朱が女子プロレスというジャンルを変えた
■棚橋弘至vsクリス・ジェリコから見る新日本・AEW提携の可能性
■エンド・オブ・デケイド――プロレス界の2010年代
■新日本プロレスの“ケニー・オメガ入国妨害事件”という陰謀論
■WWEvsAEW「水曜日テレビ戦争」の見方
■WWEペイジの伝記的映画『ファイティング・ファミリー』
■AEWチャンピオンベルト盗難事件
■「ミスター・プロレス」ハーリー・レイスの偉大さを知ろう
■ウルティモ・ドラゴンの偉大なる功績を再検証する
■ネット社会に出現したニュータイプAEW、その可能性
■都市伝説的試合映像ブレット・ハートvsトム・マギー、ついに発掘される
■レッスルマニアウィーク現地取材レポート
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■【追悼・爆弾小僧】すべてはダイナマイト・キッドから始まった
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――今回は新型コロナウイルスの影響により、無観客イベントとなったWWEのレッスルマニアについてお聞きしたいと思います。
フミ 今年のレッスルマニア36はフロリダ州タンパのレイモンド・ジェームス・スタジアムで開催されるはずでしたが、 会場が同じフロリダのオーランドにあるWWパフォーマンスセンターに変更されました。パフォーマンスセンターはWWEの選手育成施設ですね。
――世界最大のプロレスイベントが無観客イベントという異例のかたちになったことに加えて、今回は事前収録だったそうですね。
フミ はい。しかも2日連続開催になりました。3月26日と27日に録画撮りされて4月4日と5日にWWEネットワークで動画配信され、PPV放送もされた。試合結果が事前に漏れないように大緘口令が敷かれて、 試合が収録されたパフォーマンスセンターには、選手の家族や知人は誰も入ることはできなかった。絶対にリークされちゃいけないということで、試合のときはかなりの少人数で収録されたらしいですね。
――だから収録から1週間も時間があったのに結果や内容が漏れてこなかったんですね。無観客とはいえ、アメリカでこうしてイベントが収録できたことも異例ですね。
フミ アメリカのメジャースポーツでいえば、 MLBやNBA、NHLもシーズンゲームが中止もしくは延期になっていて、MLBは7月4日のアメリカ独立記念日の開幕を目指してますが、それすらも危ういと言われてますね。それはつまりお客さんをスタジアムやアリーナにたくさん入れて行なわれるスポーツは新型コロナの感染クラスターになる危険性が高いからです。 日本のスポーツも春の甲子園は中止、大相撲は無観客で本場所開催。プロ野球は開幕がずれ込み、プロレス団体もほとんどの興行がキャンセルされてます。いまのところ再開の目処が立っていないところが現実ですね。
――WWEはいまのところイベントの取りやめはないですね。
フミ WWEの動きは凄く早くて3月どころか2月の終わりの時点で、土日のハウスショー、地方公演を取りやめてるんです。テレビ収録の月曜日の『ロウ』、火曜日の『スマックダウン』に関しても、レッスルマニアより5週間も早く無観客イベントに切り替えていました。WWEはプロレス団体の中で唯一、株式公開している上場企業で株主に対するアカウンタビリティー(説明責任)がある。ポリティカルコレクトを求められる立場からすれば社会的バッシングを避けないといけないという理由もあるんだと思いますね。
――ヘタなことをすると株価に響きますね。
フミ そうやって行なわれた『ロウ』や『スマックダウン』の無観客イベントですが、1週目2週目は違和感が凄かったんです。今回のレッスルマニアで初めて無観客のWWEを見た人からも、そういう声は多かったですよね。無観客のプロレスから学べることはいろいろあります。「プロレスはお客さんがいないと成立しないジャンル」ということもそのひとつ。他のプロスポーツはお客さんがいようがいまいが試合内容自体はそれほどは変わりはない。得点を上げたり、試合に勝つための戦術を取り続けますよね。ところがプロレスだけはお客さんに見せるためにやってるじゃないですか。試合というプレゼンテーションにはなっているから勝ち負けは当然つくんですけど。
――勝ち負け以上にお客さんに見せるために戦っているのがプロレス。
フミ たとえばラダーマッチのような試合形式はお客さんがいないと成立しづらい。歓声や悲鳴といったお客さんのリアクションと共に戦っていくものですからね。
――観客を手のひらに乗せながら試合を動かしていくわけですもんね。
フミ プロレスラーが定番ムーブを出すときのポーズをするだけでお客さんはドッと沸くわけです。お客さんの声援がないと、この技がウケているのかどうなのかもわからない。たとえばローマン・レインズが相手をコーナーに立たせて連発式のクローズラインを繰り出すと、お客さんがそのたびにカウントする。「ワン、ツー、スリー……ナイン」まで数えると、ローマン・レインズは一呼吸置いてから10発目のクローズラインを出して、お客さんは「テン!」と合唱する。お客さんがいないと成立しない攻撃ではありますよね。
――大谷晋二郎の顔面ウオッシュもお客さんからのアンコールがないと、大谷晋二郎はまたロープに走れないですもんね(笑)。
フミ 逆にブロック・レスナーやゴールドバーグといった怪物レスラーは観客不在の影響はあまりないんじゃないのかなと思います。観客がいてもいなくてもスピアーを連発をしたり、スープレックス・シティでぶん投げるわけですからね。
――影響を受けるレスラーとそうじゃないレスラーが出てくる。
フミ 新型コロナウイルス禍が続いてるあいだは無観客試合は続いていくわけですから、プロレスというジャンルそのものが変わるんじゃないかという可能性も感じます。
――同じ無観客興行を開催しようとしたUFCはメディアから批判に晒され、結局中止に追い込まれました。UFCを中継するESPNの強い意向が働いたうえでの決断だったようですが……
フミ WWEは『ロウ』に関してはUSAネットワーク(NBC系)、 『スマックダウン』はFOXでそれぞれ中継されていて、日本円で数十億円という年間の放映権料をもらっています。UFCと違ってWWEが開催できるのは、“テレビ番組”という括りであることも関係しているんじゃないかなと。
―― スポーツという括りではない。WWEはアスレチックコミッションが管轄してるスポーツではないですね。
フミ WWEは1994年に納税額をめぐる問題で「WWEはスポーツではありません」という宣言をしました。プロスポーツにカテゴライズされると、州に収める税金が高くなるというのが主な理由でした。
――いわゆるカミングアウト宣言ですね。
フミ でも、WWEはスポーツであることも間違いないんです。だから「スポーツエンターテイメント」と謳っていますし、スポーツに右足を置いて、左足をエンターテインメントに乗せている。それはプロレスというジャンルの性格を表しているというか、永久に続く議論やテーマではありますね。
――それとパフォーマンスセンターはWWE所有の建物というのもポイントかもしれませんね。
フミ どこかのアリーナや体育館を借りてテレビ撮りをしているわけではない。WWEのやっていることはすべて自前なので、これからもテレビ番組作りがストップするということはないとは思います。
――その無観客試合を逆手に取ったのは、日本ではNOAHの潮崎豪vs藤田和之ですね。
フミ あの試合は本当に面白かったですね。潮崎と藤田の2人が試合開始から30分近くほぼ動かず睨み合う。 この試合は無観客試合のやり方をプレゼンした試合でもあります。というのは、お客さんがいたら30分睨み合いはできない。途中でお客さんからヤジが入ったら空気が変わって台なしじゃないですか。お客さんがいないからこそ30分近く睨み合えた。試合が動いたかと思ったらリング外で乱闘。後楽園ホールのバルコニーまで行ったかと思えば、後楽園ホール入り口の売店の前を通り過ぎて、エレベーターの前でもその乱闘は繰り広げられた。これもお客さんがいたらできない攻防です。
――そのNOAHも凄かったんですが、WWEのレッスルマニアでは“問題作”というべき試合が2つありました。
フミ それはアンダーテイカーvs AJスタイルズ、そしてジョン・シーナvsブレイ・ワイアットですね。
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