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なぜ中国は南シナ海であんなことをするのか?|THE STANDARD JOURNAL
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なぜ中国は南シナ海であんなことをするのか?|THE STANDARD JOURNAL

2015-06-22 17:28


    おくやまです。

    前回、私が説明した
    クラウゼビッツ「易不易」の話、如何でしたでしょうか?
    今回もその続きを、と考えていましたが、
    明日のニコニコ動画の生放送で、
    --
    ▼奥山真司の「アメリカ通信」LIVE!
    2015/06/23(火) 開場:19:57 開演:20:00
    http://live.nicovideo.jp/gate/lv223459732
    (※20時から再放送、21時から生放送です。)
    --

    引き続き南シナ海の埋め立て問題について触れるので、
    それに関連した話を少し。

    さて、この問題ですが、とりあえずここ数日は
    大きくニュースで取り上げられることはなく、
    中国側の「埋め立て工事終わった」という報道で、
    一時的に「幕引き状態」となっているような感じです。

    ここで問題になってくるのは、
    中国側が今後、戦略的に何をしたいのか?
    という点です。

    先週の生放送でも少し触れたように、
    それがスパイクマンのいうような
    「アジアの地中海」の支配かどうかはさておき、
    私は以前から個人的に、
    以下の3つのことが言えると考えております。

    ■1:戦略として統一見解のようなものはない ■

    戦略というのは、当たり前ですが
    「集団」が練ってそれを実行するものです。

    では中国に確固たる「戦略」はあるのか?
    というと、実のところ、それは誰も知らず、
    更に言えば、もしかすると、
    北京政府自身さえもわかっていないのではないか?
    という疑念を抱かざるを得ない・・・ということ。

    とりわけ現在は、習近平国家主席は、
    汚職取り締まりをかなり重点的に行っている時期です。

    であるならばなおさら、習近平主席自身の意向が
    そのまま軍事行動などにも反映されてもよさそうなものですが、
    中南海での権力争いがいまだに継続中なのでしょうか、
    ハッキリとした「統一見解」のようものが見えてきません。

    最近、私がなぜこのような、
    国家における「戦略的統一性の欠如」
    というものに感心があるのかというと、
    それはやはりクラウゼヴィッツ。

    クラウゼヴィッツは名著『戦争論』を書いたわけですが、
    結局は完成されず終わった原稿を、死後に妻が編集して出版しました。
    つまり、この歴史的名著は、実は「未完の書」です。

    ところが、この「未完の書」であるという事実を知ってか知らずか、
    「クラウゼヴィッツはこう言っているはずだ!」
    と断言して論じる人が、日本だけでなく世界にも多すぎます。

    実際のところ、クラウゼヴィッツは執筆の途中で
    考えを大きく変えておりまして、
    『戦争論』には時系列で大きくわけると、
    「二人のクラウゼヴィッツがいる」と言われているほど。

    個人の本でさえこうなるわけですから、
    内紛中の13億人の中国の、
    これまた南シナ海という流動的な問題において、
    統一見解が出てくるわけがありません。

    余談ですが、最近、
    孫子関連の本を読んでいて改めて気付いたことがあります。

    中国の戦略思想は、「戦略階層」の上位概念である、
    「世界観」や「政策」はあるのに、
    その次の階層である「大戦略」や「軍事戦略」を完全にすっ飛ばして、
    いきなり「作戦」階層のこと実行してしまう・・・。

    そんなバランスの悪いことをよくやるわけです。
    現在の南シナ海でのハチャメチャな行動など、
    まさにこれで説明できそうです。

    ■2:カプランの「できるからやる」

    これはすでに他の媒体で私が説明したものでして、
    実は1の説明にもつながってくる重要なものです。

    それは、ロバート・カプランが数年前に来日していた時に述べていた、
    「”できるからやってみる”戦略」です。
    これを英語でいえば、「capability-based approach」
    ということになります。

    つまり、中国は周辺諸国に圧力をかけることができるほどの
    軍事力や経済力を持つようになったので、実際に様々な行動を起こします。

    そして、ある程度の成功は収めつつも、その姿勢の根本には
    「能力があるからできることはやっている」
    という、ある意味で「闇雲」とでも言えそうな狙いがある、
    というものです。

    もちろんこのようなアプローチは、capability、
    具体的には軍事に変換できるだけの
    「経済力」や「財力」があるからこそ実現可能なものでして、
    最近、噂されているように、中国の国家財政が破綻してしまえば
    その「能力」も無くなってしまうので、元も子もありません。

    このような手当たりしだいの(=累積)戦略というのは、
    傍から見ていると恐怖感を引き起こさずにはいられません。

    ■3:「抵抗最弱部位」を狙う戦略

    私たちが中国のことを考える際に、
    最も警戒しなければならない戦略は、
    おそらくこの戦略です。

    ある媒体でインタビューされた時に、
    私は中国の戦略として、
    「ローカス・ミノリス・レジステンティエ」(locus minoris resistentiae)
    という医学用語を挙げたことがあります。

    これはつまり、身体の中で抵抗力が落ちている
    「抵抗最弱部位」のことであり、
    たとえば膝に古傷がある人が梅雨時になるとシクシク傷んだり、
    肺が弱い人が少し体調を崩すと
    肺に障害が出やすくなるというものです。

    中国の場合もこれと同じで、相手の最も弱ったところ、
    つまり抵抗が最も弱い部分を狙って、
    そこに攻撃を仕掛けてくるというものです。

    具体的に対日戦略の例でいえば、
    年金記録などの個人情報にハッキングを仕掛ける、等が
    手っ取り早いやり方でしょう。

    そもそも、日本人一般はセキュリティ意識が低い、
    とはよく言われるところですが、その戦略効果は
    他の国と比べても飛び抜けて高いといえそうです。

    そういえば中国がアメリカに仕掛けているとされている
    ハッキング事件も最近暴露されたばかりです

    ▼CIAなどで個人情報が大量流出か 米
    http://www.news24.jp/articles/2015/06/14/10277281.html

    南シナ海での行動を見ていても、
    アメリカが強く出てくる場合には引いており、
    (埋め立てた島に大砲を配備したが米側に指摘されるとすぐ撤去)
    何もない場合にはせっせと埋めてやハッキングを実行するなど、
    まさに「抵抗最弱部位」を「手当たり次第にできるところから」
    やっている感じです。

    もちろん、その合間を縫って、尖閣沖の接続水域へ
    ちゃっかりしっかり侵入しているのは相変わらずです。

    -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

    以上のようにポイントを3点に簡単まとめてみましたが、
    火曜日の夜には再び「アジアの地中海」
    というスパイクマンの概念から見えてくる
    南シナ海の運命について解説してみます。

    アメリカは果たして南シナ海での中国の台頭を許すのか、
    それとも抵抗するのか?
    ぜひ番組の方を御覧ください。



    ( おくやま )
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