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  • Vol.074 結城浩/問題作成/『数学文章作法』の続編/執筆活動振り返り/

    2013-08-27 07:00  
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    Vol.074 結城浩/問題作成/『数学文章作法』の続編/執筆活動振り返り/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月27日 Vol.074
    はじめに - 問題作成
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    結城メルマガで何度も書いていますが、 結城はCodeIQというサイトでIT技術者(プログラマ)向けの問題を出題しています。 先週の月曜日(8/19)に新作「クロッシング問題」を公開しました。
     ◆クロッシング問題  https://codeiq.jp/ace/yuki_hiroshi/q432
    これは簡単に言えば、 たくさんの線分を並べたときの交点の数を数えるという問題です。
    とはいえ、人間が手で数えるわけではありません。 データファイルとして与えられている情報を使って、 コンピュータに数えさせるプログラムを作るのが問題です。 何しろ線分の個数は30万本以上あるのですからね!
    数えるだけならば特に難しいことはないようですが、 高い評価を得るためには条件があります。 それは、個数を3秒未満で数えなければならないという条件です。 要は「急いで数える」必要があるのです。
    ここから先はネタばれになるので書きませんが、 解答者は知恵を尽くして「急いで数える」わけですね。 分野としてはアルゴリズムの問題になります。
    このようなプログラムの問題を作ること自体は難しくありません。 でも、解答者がそれなりに知恵を絞る(そして楽しむ)問題にするのはとても難しいです。
    CodeIQで新作問題を出題したときにはどきどきします。 それは、問題自体に不備がないかどうか心配するからです。 解けない問題になっていないか、とてつもなく難しかったり、 とてつもなく易しくなっていないか、 問題文を誤読されてしまうことはないか…… 出題直後はそういうことが非常に気になります。
    もちろん、出題前には自分で問題文を何回も何回も読み、 推敲・校正することになります。 しかしそれでも不安はなくなりません。
    問題を出題してしばらくすると解答者が現れます。 投稿された解答を読んで考えの道筋を読み、 結城が想定していた正解にたどり着く解答者が現れるとほっとします。
    誤読されないようにするため、問題文はできるだけ読みやすく書きます。 また、簡単な例を提示することで、問題文の意味がさらに明確に伝わるようにします。 解答者がせっかく苦労してプログラムを書いても、 問題を誤読して不正解になるのは悲しいことですから。 問題を作るというのは文章を書く練習にとてもいいのかもしれません。
    日曜日(8/25)の時点で解答済みの方は125人を越えました。 解答〆切(9/2)までにたくさんの人が楽しんでくださるといいな。
     * * *
    さて、結城は今年2013年4月に『数学文章作法 基礎編』をちくま学芸文庫から出版しました。 みなさまの応援のおかげで売れ行きも順調で、すでに三刷になりました。感謝です!
    『数学文章作法』は数式まじりの文章を題材にして、 いかに正確で読みやすく書くかということをテーマにした本ですが、 多くの読者さんから、
     ・数学に限らず一般的な文章作成に通じる  ・文章を書くだけではなく、読むときのコツもわかる
    という評価をいただいています。 ありがとうございます。
    本書に「基礎編」とある通り、 この『数学文章作法』は一冊で終わりにするのではなく、 何冊かのシリーズにしようと考えています。 出版社の筑摩書房さんからも、
     「次の本はいつ出ますか」
    というご依頼をいただいています。 たいへん感謝なことです。 現在は次の一冊の検討を始めている段階です。
    『数学文章作法 基礎編』は執筆をこの結城メルマガ上で行い、 執筆途中の段階の各章をPDFで購読者さんにお送りしてきました。 プレビュー版として購読者さんへ一足早くお届けしたわけですね。
    結城メルマガ上で最後の章まで書いた後、 結城が書籍としてのとりまとめを行い、 順序を整理して加筆修正を行って出版社に送りました。 書籍としての脱稿です。
    この流れは、
     ・雑誌に連載記事を書く  ・連載記事がまとまったところで書籍にする
    というサイクルと同じです。 つまり雑誌の役割をメルマガが果たしてくれていることになります。
    このような執筆スタイルを取ることができるのは、 すべて結城メルマガを購読してくださっている方のおかげです。 ほんとうにありがたいことです。感謝します。
    ところでその『数学文章作法』の続編ですが、 もちろん今回もこの結城メルマガで「連載」していこうと計画しています。 どうぞご期待ください!
    今回の結城メルマガでは「続編をどう考えるか」についてのあれこれを書きます。
     * * *
    別の話題です。
    来月9月に刊行される講演集『数学ガールの誕生』がアマゾンで予約可能になりました。 ありがたいことに、アマゾンの「数学」ランキングで二位になるなど、 たいへん人気の本になっています。みなさん応援ありがとうございます。
    後でもまた触れますが、 本書は「新年の抱負」にも挙げた重要な本の一つですので、 このようにして刊行にあと一歩までこぎ着けたのはとてもうれしいです。 感謝です。
     * * *
    さて、そろそろ結城メルマガを始めましょう。 今回は、まず数学文章作法の「続編をどう作るか」を考えます。 それから、8月も終わりになりますので「活動の振り返り」をしたいと思います。
    それではどうぞお楽しみください!
    目次
    はじめに - 問題作成
    数学文章作法 - 続編をどう作るか
    本を書く心がけ - 「新年の抱負」の振り返り
    次回予告 - 数学文章作法の続編検討
     
  • Vol.073 結城浩/富田さんの思い出/風立ちぬ/企画のキャンセル/心の健康/フロー・ライティング/

    2013-08-20 07:00  
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    Vol.073 結城浩/富田さんの思い出/風立ちぬ/企画のキャンセル/心の健康/フロー・ライティング/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月20日 Vol.073
    はじめに - 富田さんの思い出/風立ちぬ
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    青空文庫の富田倫生さんがお亡くなりになりました。
     ◆青空文庫の富田倫生さん 逝去  http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/74676/70379/77367824
    青空文庫の果たしている役割や富田さんのご活躍については、 結城があらためて繰り返すまでもありませんので、 ここでは個人的な思い出をいくつか書こうと思います。
    富田さんとは直接お会いしたことはありませんでしたが、 青空文庫に関連して何度かメールのやりとりをしたことがあります。 メールの文面はいつもていねいで、 当然ながらきちんとした文章を書かれる人でした。
    結城との関わりとしては、青空文庫の漢字表記に関して、 文字コードのチェッカー用CGIを作成してご提供した件と、 それから結城のささやかな翻訳を青空文庫に加えていただいた件と、 大きくはその二点だったかと思います。
     ◆作家別作品リスト:No.98 : 結城 浩 - 青空文庫  http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person98.html
    特に結城の翻訳を青空文庫に加えていただく際、 エキスパンドブック用のファイルは富田さんご自身が 結城のテキストファイルをもとに作成してくださいました。 一文字一文字ていねいにチェックしてくださり、 たとえ明らかな結城のまちがいであっても、 著者の意向を尊重するという態度で原稿に接しておられました。 そのとき、富田さんがしてくださった誤字の指摘はいまでも覚えています。
    それからまた、こんなこともありました。 詳細は省略しますが、 ある第三者に対して富田さんがアクションを取らないことに対し、 結城が(不遜にも) 「指摘事項を1,2,3のように箇条書きにして指摘するべき」 という主旨のメールを書いたことがあります。 そのような失礼な結城のメールに対して、 富田さんは柔らかくたしなめる返信をしてくださいました。
    そのような思い出もまた、いまから十年以上も前のこと。
    富田さんが呼びかけ人として始められ、 継続なさっていた青空文庫というフリーテキストは現在でもきちんと存在し、 この世で大きな意味を持っています。 そして、ずっと意味を持ち続けることでしょう。
    心からお悔やみを申し上げます。
     * * *
    さて。
    先日、家内と一緒に宮崎駿の映画「風立ちぬ」を観てきました。 家内は「一緒に映画を見に行く楽しさ」を覚えたらしく、 一度、中学生の子供と二人で観に行ったのに、 今回は私と二人で観に行くこととなりました。
    以下は主に結城の感想です。
    まず、観に行ってよかったと思いました。 ネットでいろんな感想を見かけたのですが、 やはり感想を読むのと自分で観るのはちがうものです。 否定的な感想もいくつか読んだのですが、自分で観てよかった。
    全体としては戦争映画でもなく、恋愛映画でもなく、 あるひとりの人の生涯を追った映画と理解しました。 そしてその人は「美しい飛行機の設計」という夢を持った人である、と。
    ひとりの人の生涯を追っていけば、 戦争があり、出会いや別れがあり、夢や希望があり、 とさまざまな要素が入り込むのは当然でしょう。 多くの問題が提起されるけれど、 それに何かの解決が安易に与えられるわけではない。 それは人生と同じことです。
    という意味で、子供(特に小学生以下)にはちょっと難しい映画でしょうね。 子供が観て悲惨なシーンも問題になりそうなシーンもないけれど、 単純に子供が観てもつまらないんじゃないかなあと思います。
    印象に残った言葉の一つは、
     「設計は夢を形にすること」
    という設計家の言葉です。主人公が美しい飛行機を夢見ているとき、 まだ形がぼんやりした白い飛行機が登場する。 設計ができていないので、形になっていないのだ。
     夢を形にすること。
    これはどんな仕事でもそうかもしれない、と思いました。 結城はいつも本を書く仕事に合わせて考えてみるけれど、 そこでも「本を書くというのは夢を形にすること」といって不都合はない。
    頭の中で、心の中で思い描くのは「夢」です。 夢にはまだ形がない。ふわふわしていて、つかもうとしてもかき消えてしまう。 それが夢です。
     夢を形にする。
    確かにそれは大切な仕事のように思われます。
    それからもう一つ、印象に残った言葉として、
     「創造的人生の持ち時間は10年」
    というもの。これもまた設計家の言葉である。 つまり何かを産み出す、創り出すという活動には「時限」があるということ。 これは(すでに本を書き始めて20年使っている自分としては)つらい言葉でもあります。 つまり、
     自分の創造的人生はすでに終わっているのか?
    あるいは、
     自分は(過去の)10年という持ち時間で何を創造できたか?
    などと自問してしまうからです。
    ただ、さきほどは「つらい」と書きましたが、実際にはそれほどはつらくはないです。 つらいというよりも、身の引き締まる思いがするという方が近いかもしれません。 時間は限られている。だから、懸命に、丁寧に、生きなくてはと思うのです。
    ハリウッド映画的なおもしろさはないし、スッキリするカタルシスもない。 でも、ひとりの人の(時に矛盾し、答えなどない)人生を通観するという意味で、 「風立ちぬ」という映画は観てよかったと思います。
    そういえば、辞書編纂の物語『舟を編む』という映画も家内と二人で観ましたが、 印象としてあれと似ているところがあるかもしれません。 一人の人生を通観する映画ですね。夫婦で観ることができてよかったな。
     * * *
    そういえば、7月は結城の誕生月です。 今年、2013年の7月が過ぎて結城は50歳になりました。 映画を観るときに「夫婦50割」が効くようになりました。
    夫婦50割というのは、夫婦のうち少なくとも片方が50歳以上なら、 二人が同一映画を同一時間帯で観る場合に限り割引になるもの。 夫婦がバラバラに観ちゃ割引になりません!
    自分の誕生日には実家の母に感謝の電話をしました。 私のことを50年前に産んでくれてありがとうございました、と。 里帰りもなかなかできなくて、もうしわけないけれど、 せめて電話だけでも「誕生日には母に連絡」は私の習慣です。 母に対して決して等価な恩返しなどできないにせよ、 せめて言葉だけでも贈ろうと思っています。
     * * *
    さて、そろそろ結城メルマガを始めましょう。 今回は、まずある本の企画をキャンセルした件についての教訓。 それから、文章を書く上での心の健康の話をちょっと。 そして、夢中になって書くことについての連載「フロー・ライティング」です。 フロー・ライティングはいつものようにPDFになっていますので、 ダウンロードしてお読みくださいね。
    それではどうぞお楽しみください!
    目次
    はじめに - 富田さんの思い出/風立ちぬ
    本を書く心がけ - 企画のキャンセル
    文章を書く心がけ - 心の健康
    フロー・ライティング - 繰り返し、繰り返す
    次回予告 - 上半期反省会
     
  • Vol.072 結城浩/規則正しさ/同僚に遅れを取って/再発見の発想法/

    2013-08-13 07:00  
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    Vol.072 結城浩/規則正しさ/同僚に遅れを取って/再発見の発想法/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月13日 Vol.072
    はじめに - 夏休みと規則正しさ
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    毎日、「これぞ夏!」というほど暑い日が続いていますが、お元気ですか。 結城は何度も何度も「クーラーは文明の利器」という言葉をつぶやいております。 二つの意味があって、クーラーというのはすばらしい発明だなあという気持ちと、 こんなに暑いときにはクーラーがないと文化的な生活は難しいなあという気持ちです。
    実際、クーラーをつけないでいると頭がぼうっとして何も考えられません。 そのうちに何を考えようとしていたのかすら思い出せなくなって、 もういろいろめんどうになってしまう。危険です。 あわててクーラーで涼みながら考えごとを再開します。
     * * *
    講演集『数学ガールの誕生』の初校読み合わせが終了しました。 現在は再校ゲラが出てくるのを待っている状態です。 そのあいだに、『数学ガールの秘密ノート』第二弾の原稿を進めます。 これは今年の12月に刊行なのですが、 この8月9月のうちには結城の側で完成させなければなりません。 ということでできるところからせっせと原稿整理を始めます。
    夏休みに入ってありがたいことに生徒さん・学生さんが『数学ガールの秘密ノート』を たくさん読んでくださっているようです。メールでご感想をいただいたり、 Twitterで感想ツイートを見かけたりしています。感謝なことです。 読者さんの生の声を聞くことができるというのはとてもありがたい時代になったなあと思います。
    結城が最初の本を書いたのは1993年ですが、 その頃は書籍に「ハガキ」がはさまれていました。 読者さんは著者や出版社へ「ハガキ」を使って感想を送っていたのです。
    ハガキに書かれた感想をまとめてコピーした紙が、 ときどき編集部から送られてきます。 結城はそれを読むのが楽しみで楽しみで……。 現代のTwitterのように感想がリアルタイムで読めるわけではないのですが、 読者さんからのフィードバックはたいへん貴重なものでした。 当時の紙は現在でも本棚に大事にしまっています。
    現在は編集部からハガキのコピーが送られてくることはありません。 ただ、「数学ガール」シリーズの読者さんから封書のお手紙を転送してもらうことがあります。 読者さんが書いた論文だったり、長めの感想文だったりと、形式や内容はいろいろですが、 ともかく編集部に届いた読者さんの作品が転送されてくるのです。 それを読みながら、読者さんからの反応をいただけるというのは ありがたいことだとつくづく思います。
     * * *
    結城のようにフリーで仕事をしていると、つい夏休みを取るのを忘れてしまいます。 基本、文章を書いている(仕事をしている)のが大好きなので、 意識的に別のことをしようと思わないとずっと日常生活を続けてしまうのです。 家族からブーイングが出ます。
    夏休みというと最初に思い出すのは高校三年生の夏休み。 何をやっていたかというと勉強です。毎朝母親にお弁当を作ってもらい、 自転車で図書館に出かけ、午前中勉強して、お弁当食べて、午後勉強して帰ってくる。 そういう毎日でした。
    勉強三昧の夏休みでしたが、私はとても楽しかったのを覚えています。 問題集のページを日数で割り算して、何日に何番と何番の問題を解くかという予定表を作り、 実行したら蛍光ペンで染めていく。それが楽しかった。
    何より好きだったのは、毎日が規則正しく過ぎていったことです。 やるべきことがあって、淡々とそれをこなす毎日。 いま思っても、それは充実した夏休みでした。
    「数学ガール」シリーズに出てくるような美少女数学ガールがそばにいれば もっと楽しかったかもしれませんが、 それはそれで勉強どころじゃなかったでしょうね。
    とここまで書いて気づきました。 私はいまも同じようなことやってますね。 毎日毎日規則正しく書き物をする。 やるべきことがあって、淡々とそれをこなす毎日。
    まったく同じじゃん!
    ……こほん。
    夏休みというと、あなたは何を思い出しますか?
     * * *
    先週はCodeIQの「ディーペスト問題」の応募〆切が過ぎ、 解答してくださった方々に評価とフィードバックを送りました。 全部で154名というたくさんの方々にご解答いただきました。 人数が多いほど原稿料が多くなるわけではないのですが、 たくさんの方に楽しんでいただけたと思うととても楽しいです。
    運営さんから「次回もよろしくお願いします」という主旨のメールをいただいたので、 調子にのって新作問題を週末に作っていました。 メールで送ったらちょうど運営さんは夏休みとのこと。 新作問題の公開は運営さんの夏休み明けになりそうです。 前回の「ディーペスト問題」は銀河の星を探索するという壮大な問題でしたから、 今回の「クロッシング問題」はもう少し小ぶりでかわいらしい問題にしてみました。 たくさんの方がまた楽しんでくださるといいなあ。
    CodeIQに出題し始めたのは今年2013年の1月からですが、 これまでに11題出題して、のべ解答者数は1486人に上ります。 これはたいへん多い人数です。
    結城は「問題を出してみなさんに解いてもらう」というCodeIQのような企画がとても好きです。 Web日記でも、Twitterでも、誰に頼まれたわけでもないのにときどきクイズを出します。 考えてみると子供のときからそうでしたね。 親や友達に対してなぞなぞを出したり、『頭の体操』で仕入れたクイズを出したり。
    あ、思い出した。
    小学生のころ、こんなことをやって遊んでいました。
    校庭の砂場のとなりに土が少し堅めの場所があって、そこに木の棒で文字を掘る。 たとえば「よ」というひらがな一文字を描くように掘る。 大きさは……そうですね、20cm四方くらい? 掘れたらその上に砂と土をかけて隠すのです。 そして友達を呼んできて、そこに隠された文字を当てさせる。 そんなゲームのようなことをやって遊んでいました。 子供時代。小学校の二年生か三年生くらいかなあ。
    単純なゲームなのですが、 たとえば「め」を描いたのかな、と思わせて実は「ぬ」だったりと、 だんだんテクニックが生まれてきます。「め」が見つかった時点で安心して、 最後のくるんと丸くなるストロークを探し損ねる……それを誘うわけですね。 「は」かなと思わせて、実は「ほ」かなと思わせて、実は「ぽ」だとか。
    考えてみますと、結城が現在CodeIQでIT技術者さんに出題している問題も、 小学生時代に友達に出していたクイズと同じ構造を持っています。 それは「とっかかりやすくて、興味を誘うけれど、 意外に奥が深くてトラップが隠されている」という構造です。 そしてさらに、解いた人が「なるほど!」と思えるような仕掛けが埋め込まれている。
    たとえば今回出題したディーペスト問題は、仮想的に作った銀河の星探索です。 一見すると単純なアルゴリズムで解けそうに見える。 でも、実際にプログラムを作って動かしてみると「あちゃあ!そんなトラップが!」 と言いたくなる仕掛けが含まれています。
    たかがクイズ、されどクイズ。 ちょっとしたことのように見える出題にも、作成者の意図は反映されるものですね。
    ……ということを書いていたら、やねうらおさんがご自身のブログ記事で 結城のディーペスト問題について言及なさっていました。 結城は気づいてなかったのですが、 この問題に挑戦してくださっていたようです。
     ◆世間ではプログラマが足りていないらしい  http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20130811#p1
    このブログ、原稿書きの気分転換にと思って読んでいたら、 途中からCodeIQの話になり、結城の問題に挑戦した話になったのでたいへん焦りました。 幸い「問題の作りに関しては流石としか言いようがない。極めて良問である」 と評価されていたのでほっとしました。
     * * *
    それではそろそろ結城メルマガを始めましょう。 今回のメインコンテンツは「再発見の発想法」で、 テーマは「On Demand - オンデマンド」です。
    また「本を書くときの心がけ」のコーナーでは 「批判について」というタイトルで、 作品に対する批判にどう向き合うかについて考えます。
    読者さんからの「Q&A」コーナーでは、 「同僚に遅れを取ってしまった」という方からのお手紙にお答えします。
    それではどうぞお読みください!
    目次
    はじめに - 夏休みと規則正しさ
    本を書く心がけ - 批判について
    再発見の発想法 - オンデマンド
    Q&A - 同僚に遅れを取ってしまい
    次回予告 - フロー・ライティング
     
  • Vol.071 結城浩/ビル・カニンガム&ニューヨーク/生徒からのヒント/文章を磨く/

    2013-08-06 07:00  
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    Vol.071 結城浩/ビル・カニンガム&ニューヨーク/生徒からのヒント/文章を磨く/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月6日 Vol.071
    はじめに - ビル・カニンガム&ニューヨーク
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    先日「ビル・カニンガム&ニューヨーク」という映画を観ました。 レイトショー、というほどではないのかな。 午後6時過ぎに始まる回を家内と二人で観ました。 二人で映画を観るというのは久しぶりかもしれません。
    この「ビル・カニンガム&ニューヨーク」という映画は、 ある一人のファッションカメラマンのドキュメンタリーです。 このカメラマン(ビル)は84歳という高齢でありながら、 毎日ニューヨークの街角で一般の人の写真を撮り続けています。 ニューヨークタイムズにコラムを持っていて、 そこに写真入りの記事を書いているのです。
    以下、公式ホームページから引用。
     >ニューヨーク・タイムズ紙の人気ファッション・コラム「ON THE STREET」と  >社交コラム「EVENING HOURS」を長年担当する  >ニューヨークの名物フォトグラファー、ビル・カニンガム。
     ◆ビル・カニンガム&ニューヨーク(作品紹介)  http://www.bcny.jp/about/
    もしかしたらファッションに詳しい方ならご存じだったかも しれませんが、私はまったくそういうことにうといので、 今回の映画で始めてこの人の存在を知りました (そもそも今回の映画を見つけてきたのは家内ですし)。
    私はファッションにはまったく興味がないのですが、 どうしてこの映画を観たいと思ったかというと、 ビルの生活に非常に興味をそそられたからです。 以下、鑑賞後の情報も交えて少し書きます。
    ビルは自分自身のファッションに興味がありません。 街行く人のファッションにはたいへん敏感で、 ビルのコラムがトレンドを作り出すこともあるのに。 ビル自身はいつも同じ青い作業服を着て、 雨が降ったら安物のポンチョを着る。 ポンチョが破れたらガムテープ(!)で補修して着る。
    ビルは自分の住まいに興味がありません。 自分の部屋にはネガが入ったキャビネットが並び、 キャビネットにハンガーをぶら下げてそこに服を掛ける。 キャビネットの間にベッドを置いて寝ている。
    ビルは自分の好きなことを生き生きと続けています。 ビルはいつもにこにこと笑顔です。 そして、50年以上写真を撮り続けています。 ほんとうの意味で人生を楽しんでいる人の姿です。
    ……結城は、このような人の生き方と自分の生き方を重ねて考えます。 私も自分の好きなことを続けていますが、 ここまで徹底はしてないなと思います。 そして、元気をもらいました。 好きなことを続けていいのだと意を強くしました。
    ビルには行動規範のようなものがあります。 たとえば社交界のパーティ取材をするときに、 会場の人から食事や飲み物を勧められてもいっさい断る。 中立性を保つために水一杯ももらわないようにしているのだとか。
    また、どんなに有名人であっても関心はない。 ビルに関心があるのはファッションです。 ですから、ビルの眼鏡にかなうファッションでなければ、 有名人であるからといってニューヨークタイムズのコラムには載せない。ただ黙殺する。 しかし、悪意のある写真の掲載は絶対にしない。
    ビルは自分の行動規範をきちんと守って、 守り続けて仕事と生活をしているようです。
    映画の中でいつもにこにこしていたビルが 急に真顔になって無言で真剣に考えたシーンがあります。 それはインタビューアがビルに「信仰」について聞いたときでした。 毎週日曜日に教会に行っているビルは、信仰について、 長考の後に「自分にとって必要なものである」と答えました。 それも私の印象に残りました。
    わずか90分足らずの短いドキュメンタリーでしたが、 私はたいへん満足しました。 このような映画を見つけてくる家内に感謝です。 おそらく私ひとりだったら絶対に見つけられず、 観にいかなかった種類の映画でしたね。
    おしゃれで、楽しく、そして深く自分の仕事について考えさせられる。
    「ビル・カニンガム&ニューヨーク」はそんな「大人の映画」でした。
    こちらにトレイラー(予告編)があります。
     ◆『ビル・カニンガム&ニューヨーク』予告篇  https://www.youtube.com/watch?v=x2HU-iaiPgo
     * * *
    別の話題。
    先週の火曜日の「学び」がちょっとおもしろかったので書いてみます。
    普段結城は外のカフェで書き物をしています。 先週の火曜日は奥さんから 「ランチを外でいっしょに食べましょう」と連絡がありました。 楽しくランチをしてから分かれて仕事に戻ろうと思ったのですが、 奥さんと会ったので頭がどうも「休日モード」になってしまったようです。 なかなか仕事に戻れない。
    それと前後して愛媛大学の藤田先生(@tenapi)がツイートしていた 「同値関係の証明」について考えていたので、 いつものお仕事はやめにして、こちらを書いてみることにしました (数学に興味のない方は読み飛ばしてください)。
     ◆手書きの証明  http://instagram.com/p/cYS9aPDSnr/
    上は持っていたポストイットに手書きで書いた証明です。 こういう証明になじみのない方にはものすごいことを書いているように見えますが、 こういう証明になじみのある人には当たり前のことを書いているだけの話です。
    この証明を手書きで書いてから、 「やっぱりもっとちゃんと書きたい」という気持ちがわいてきて、 結局きちんとLaTeXを使って清書することにしました。 それが以下です(数学に興味のない方は読み飛ばしてください)。
     ◆LaTeXを使って書いて画像に落とした証明
    この証明では「同値関係」という言葉の意味がうろ覚えである人に向けて書いていますので、 わざと反射律、対称律、推移律という言葉を出して、しかもその意味も合わせて書いています。 この証明はいささか冗長すぎますが、ここまで書いてみてやっとひと心地つきました。
    ひと心地ついてから、 「もうちょっと書きたい」という気持ちがわいてきました。 上の画像を作るときに tex2img というツールを使ったのですが、 その説明を少し書きたくなったのです。 この tex2img というツールはLaTeXで書いた数式をpngなどの画像に落とすというもので、 たまたまこの日の朝に見かけたものでした。 これを使うのは今回が初めてです。
    そこで、以下のような短いブログ記事を書きました。
     ◆tex2imgを使ってLaTeXで書いた数式を画像に変換  http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20130730/tex
    結局、結城がこの日の午後やったことはこうです。
     ・簡単な数学の問題の証明を手書きで書く。  ・その証明をLaTeXで書くとともにtex2imgというツールを使う。  ・LaTeXのソースとtex2imgの使い方の記事を書く。
    ここには「多重の学び」があります。
     ・数学の学び  ・ツールの使い方の学び  ・LaTeXの書き方の学び
    一つ一つはそれほど大した話ではないのですが、 このようにまとめてみると、自分のスキルがちょっぴりアップした感じがします。 いや「スキルがアップ」はちょっと言いすぎですね。 「自分の頭が鈍らないようにストレッチした」くらいでしょうか。
    自分のちょっとした学びをひとさまに見せられる形にするというのは、 私の心にとてもしっくりと収まる行動です。 自分が使った時間が「無駄になってない」という気持ちになるからかも。
    ここには私のしっくりくる「学びの形」があります。 自分が学んで満足するのは大事なことですが、
     「証明できたよ、LaTeXで書けたよ、tex2img使えたよ」
    と自分で納得するだけじゃなく、
     「で、それは、こんなふうにやったんだよ」
    と人に示すという部分がさらに大事だと感じるのです。
     * * *
    ここでお知らせです。
    講談社の文芸雑誌『群像』の2013年9月号に結城浩のエッセイが掲載されます。 たぶん一ページくらいのちょっとした読み物ですけれど、よろしければご覧ください。 水曜日(8月7日)の発売になります。
    このお仕事は以前やりとりをしたことのある『群像』の編集者さんから ご依頼いただいたものです。好きなことを書いてよさそうな話だったのと、 文芸雑誌に文章を書くというのはいままでやったことのない経験だったので、 お引き受けいたしました。
    結城のいつもの読者さんとはまったく違う方々に自分の文章が届くと思うと、 少し不思議な気持ちになります。
     * * *
    お仕事の依頼といえば。
    最近ThinkPad(Windows)からMacに仕事環境を移した話をしています。 その中で「テキストエディタとしてVimを使い始めた」という話題を ツイートや結城メルマガで書いていました。 「VimかわいいよVim」という具合です。
    するとある編集者さんから「Vimについて書きませんか」という依頼がやってきました。 短い原稿なので二つ返事でお引き受けしました。
    興味があることをやっていて、それについてネットでおしゃべりしていたら それについて書いてくださいというお仕事がやってくるのは、 なんだかすごく自然な仕事の流れだなあと思っている次第です。
     * * *
    さてそれでは、結城メルマガに入っていこうと思います。
    今回はまず「教えるときの心がけ」として、 「生徒からのヒント」という話題をお送りします。
    それから「文章を書く心がけ」として、 冒頭でもお話しした「ビル・カニンガム」の言葉から引用し、 それに対する結城の考えを書こうと思います。
    最後に「本を書く心がけ」として、 講演集『数学ガールの誕生』の初校読みを題材にして 「文章を磨く」という話題をお届けします。
    それでは、どうぞお読みください!
    目次
    はじめに - ビル・カニンガム&ニューヨーク
    教えるときの心がけ - 生徒からのヒント
    文章を書く心がけ - ビル・カニンガムの言葉より
    本を書く心がけ - 文章を磨く
    次回予告 - 再発見の発想法