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  • Vol.174 結城浩/数学ガールの特別授業(ICUHS編)(4)/自分を発見する - 本を書く心がけ/中断の効用 - 文章を書く心がけ/

    2015-07-28 07:00  
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    Vol.174 結城浩/数学ガールの特別授業(ICUHS編)(4)/自分を発見する - 本を書く心がけ/中断の効用 - 文章を書く心がけ/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月28日 Vol.174
    はじめに
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    偏差値の話。
    ここしばらくWeb連載「数学ガールの秘密ノート」は「やさしい統計」シーズンです。 先週は、偏差値と標準偏差についての数学トークでした。
    「偏差値」というのは現代日本で非常によく使われる単語ですよね。 偏差値について、受験に関わる人はいつも意識していますし、 へたすると大学に入ってからも意識するかも。 でも、意識している人数に比べたら、 偏差値の「定義」をきちんと言える人数はずっと少ないはず。 今回のミルカさんはそのあたりをきちんと突いていましたね。
     ◆第124回 散らばりの驚き(後編)  https://bit.ly/girlnote124
    世の中にはそういうことは意外と多いです。 ふだんから気に掛けているけれど、正確な定義を知らない概念。 正確な定義を知らず、その意味を明確に理解しないまま、 一喜一憂するというのは考えてみればおかしなものですね。
    などと上から目線で書きましたが、 結城自身、今回の「やさしい統計」シーズンを書いてみて、 初めて正確に偏差値の意味を学ぶことができました。 そしてその偏差値が持つ意味についても。
    「やさしい統計」シーズンの残りは6回分ありますので、 これからも統計に関した「やさしいけれど大切な話題」 を中心に紹介していきたいと思います。 ご期待ください!
     * * *
    新刊の話。
    先週は『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の初校読み合わせがありました。 比較的にスムーズに進み、短時間で終了しました。 今回の結城メルマガの配信予約をするくらいのタイミングで再校のPDFが届くはずです。
    また、現在は暫定版として公開されている書籍カバーデザインも、 新しい正式版が結城に届くはず。確認するのが楽しみです。
    再校のチェックが終われば、ほとんど結城の手から離れることになるでしょう。 あとは出版を待つばかり。うれしいですね。
    アマゾンの予約状況もたいへんよく、出版社の営業さんからも喜ばれています。 みなさん、応援ありがとうございます! アマゾンに現在掲載されている8月15日発売予定は難しいと思いますが、 8月末日までには刊行の運びとなるでしょう。どうぞご期待ください!
     ◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』  http://www.hyuki.com/cr/
    そうだ。いつもの無料サイン本プレゼント企画もアナウンスしなくては……
     * * *
    結城浩(ミニ)書店の話。
    『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の出版に関連して、 ある書店さんから依頼がありました。
    書店の店舗内に、 結城の書籍と結城が選んだ書籍を並べた「ミニ書店」を作るという依頼です。 フェアのようなものですけれど、結城が本を選ぶことで、 「結城浩っぽい」コーナーができるのではないかということ。 その書店さんではよく行う企画のようです。
    結城は三つのテーマに分けて17冊を選びました。 プログラミングの本、数学を楽しむ本、そして数学を深める本です。 また公開できるタイミングになりましたら、 Twitterなどでアナウンスしたいと思います。
    本を選ぶというのは楽しい作業ではありますが、 なかなか時間の掛かるものでもありますね。 でも、書店さんから依頼されるというのはたいへん光栄なことだと思います。 感謝ですね。
     * * *
    徒然草の話。
    昔、はてなダイアリーというサイトに書いていた日記のファイルを整理していて、 吉田兼好の徒然草を現代語訳に翻訳したものが数点出てきました。 なつかしいなと思い、あらためてnote(ノート)のマガジンとして公開しました。
     ◆徒然草  兼好法師の「徒然草」から気に入った段を現代語訳でお届けします。  https://note.mu/hyuki/m/m7758fdc5d61f
    このマガジンで公開しているのは、以下の段です。
    「良き人の物語するは(徒然草 第五十六段より)」。 これは、品のいい人はどのような話し方をするかを語ったもの。
    「この木、無からましかば(徒然草 第十一段)」。 これは、人間はなかなか俗っぽい考えから離れられないというもの (吉田兼好の一ひねりがありますが)。
    「夕べには朝あらむことを思ひ(徒然草 第九十二段)」。 これは、人には自分が気がつかないような怠け心があるという話。
    それからもちろん「つれづれなるままに」という序段です。
    ……と紹介文を書いていて思ったのですが、 これってこの結城メルマガで扱っている題材と同じですね! 当たり前のことですけれど、結城は自分に関心のある題材を選び、 それを翻訳していたのだなあと改めて思いました。なるほど。
    「古今和歌集を読む」のときも書きましたが、 このように古文を現代語訳するというのは優雅な楽しみだなあと思います。 いつもと違う気分になって文章に接するのですが、 ぐるりと一回りして、現代の自分との共通点を見出したりする。 それはまさに温故知新というものではありますまいか。
     ◆古今和歌集を読む  古今和歌集(こきんわかしゅう)から親しみやすい歌を読みます。  やさしい解説付き。ちょっぴり優雅な言葉の時間をあなたに。  https://note.mu/hyuki/m/mfa4fe40c022b
     * * *
    Twitterの話。
    Twitterでいろんな人のツイートを見ているのは楽しい。 「なるほどなあ」や「そうそう、私もそう思う!」というツイートがあると、 「お気に入り」にして「リツイート(RT)」する。
    ところで、「そうそう、私もそう思う!」と感じても、 RTをためらってしまうようなツイートもある。 それは、ツイートの最後の一文で他の人を罵倒しているツイートである。
    RTすらしないのだから、ここに例を挙げるのはためらうので、 少し抽象化し、伏せ字を使って説明します。
     最近の○○って○○だと思います。  昔は○○といえば○○だったのに、  どうして最近は○○になっちゃうのかなあ。  こないだ見た○○なんて、まったく★★★だ!
    このようなツイートですね。 ○○には名詞や形容詞的なものが入り、 ★★★には侮蔑の言葉や罵倒の言葉が入ります (あなたの語彙で補ってください)。
    この最後の一文「こないだ見た○○なんて、まったく★★★だ!」 がなかったらRTしたくなるような主張なのに、 ★★★という侮蔑の言葉が入っているのでRTをやめてしまうことも多い。
    私は★★★という侮蔑の言葉を自分のタイムラインに流すのがいやなので、 RTを行わない。それだけのこと。でも「もったいないな」とも思う。 最後の一文を除いたら、きっと広い人の賛同を得られるつぶやきなのにな。 そんなふうに思ってしまうのである。
    この最後の一文が「なからましかばよからまし(なかったらよかったのに)」 と思ってしまう。
    といっても、このツイートをしている人を責めたいというのとも違う。 Twitterはもともと自由につぶやく場所であり、 そのツイートをしている人をフォローする/しないは、 私自身が決めていることですからね。
     * * *
    翻訳の話。
    先日実施したハングル版「数学ガールの秘密ノート」サイン本無料プレゼントで、 当選者のおひとり(詩衣さん @krxiahfan)がお礼のツイートをしてくださいました。
     ◆詩衣さんのツイート  https://twitter.com/krxiahfan/status/623705345152516096
    ここに登場したハングルが読めなかったので、 ふと思ってGoogle翻訳に掛けてみたところ、 「数学ガールの秘密ノート数列の広場いただきました!」 と完全な日本語に変換されました。すごいですね。
     ◆スクリーンショット
     * * *
    GoogleのSpotlight Storiesの話。
    Googleが、360度の映像作品を楽しめる Spotlight StoriesというアプリのiOS版を出しました。
     ◆グーグル、360度エンタメ映像アプリ「Spotlight Stories」のiOS版リリース  http://japan.cnet.com/news/service/35067865/
    さっそくiPhone 6でダウンロードして動かしてみました。 なるほどこれは新感覚のムービーという感じですね。
     ◆Google Spotlight Stories By Google, Inc.  https://itunes.apple.com/app/google-spotlight-stories/id974739483
    簡単にいえば、自分が映像世界の中に入り込んで、 スマートフォンという窓を通してその映像世界をながめているような感覚です。 上下左右にスマートフォンを動かすと世界の「そっち方向」が見える。 スマートフォンを動かして、登場人物の一人をずっと追いかけていくこともできる。
    たとえば、"Windy Day" という作品は、 ネズミが帽子を追いかけるという単純な(でもすごく楽しい)ムービーです。 キャラクタを追いかけてぐるぐるiPhoneを回して眺めてしまいました。
     ◆Windy Day(スクリーンショット)
    また、"Duet" という作品では、 「男性側」と「女性側」を別々に追いかけることができ、 ひとつのムービーを多視点で体験することができます。
     ◆Duet(スクリーンショット)
    何度も見ていると飽きてくるといえば飽きてくるのですが、 この仕組みを生かした映像手法やトリックが今後出てくれば、 おもしろい作品が作れそうですね。
     * * *
    もう一つ、iPhoneアプリの話。
    まだ使い込んでいないのですが、 「Forest: スマホ中毒の解決法」というアプリを入れてみました。
     ◆Forest: スマホ中毒の解決法  https://itunes.apple.com/jp/app/forest-sumaho-zhong-duno-jie/id866450515?mt=8
     ◆スクリーンショット
    Forstをいったんセットすると、 画面がロックされたような状態になり、何もできなくなります。 最低30分以上「スマートフォンをいじらない」と、 ご褒美として「木」が成長します。 スマートフォンの誘惑にまけていじってしまうと、 「木」は枯れてしまいます。
    「スマートフォンをいじらない」というネガティブな方向を、 「木を枯らさないようにする」というポジティブな方向に向けたのがおもしろい。
    スマートフォン中毒にかかっている人は試してみてはいかがでしょう (と、他人事のようにまとめてみました)。
     * * *
    さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
    今回は、
     「数学ガールの特別授業(ICUHS編)」
    の第四回目をお送りします。 先日結城が国際基督教大学高等学校(ICUHS)で行った講演を、 読み物形式にしたものです。 「問題と解答」という概念を軸にして、 数学に限らない「考えること」や「学ぶこと」の意味を問いかけます。 今回は最終回ですね。
    なお、過去の「数学ガールの特別授業」は以下からバックナンバーをたどれます。
     ◆数学ガールの特別授業  http://www.hyuki.com/girl/lesson.html
    では、どうぞごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数学ガールの特別授業(ICUHS編)(4)
    自分を発見する - 本を書く心がけ
    中断の効用 - 文章を書く心がけ
    おわりに
     
  • Vol.173 結城浩/フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン/Q&A - 誰も話を聞いてくれない/

    2015-07-21 07:00  
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    Vol.173 結城浩/フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン/Q&A - 誰も話を聞いてくれない/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月21日 Vol.173
    はじめに
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    来月刊行の新刊の話。
    今回の結城メルマガが配信されるのは火曜日ですが、 火曜日の夜は『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の初校読み合わせで、 編集部に行くことになっています。
     ◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』  http://www.hyuki.com/cr/
    最近はずっとこの暗号本の校正をしているので、少し内容紹介をさせてください。 そもそも第1版の『暗号技術入門』が出たのは2003年。 ということは、いまから12年も前のことですね。 時の流れでめまいがしますが、 こういう技術書で12年も改版を続けて愛読されているというのは、 まったく光栄なことですね。
    『暗号技術入門』では、現代の人が知っておくべき暗号技術として 「暗号学者の道具箱」を紹介しています。具体的には、
     (1)対称暗号  (2)公開鍵暗号  (3)一方向ハッシュ関数  (4)メッセージ認証コード  (5)デジタル署名  (6)擬似乱数生成器
    の六個です。
    「暗号学者の道具箱」という表現は、古典的な暗号本"Applied Cryptography" の著者であるシュナイアーの表現ですが、現在でも有効な概念だと思います。 これだけ理解して十分とは言えないけれど、 これを知らないで暗号技術は語れないという基本中の基本になります。
    そもそも暗号技術は難しいものですし、 きちんと学ぶためには多くの数学的知識が必要です。 しかし、暗号技術の基本を理解するだけならば、 それほど数学を知らなくても大丈夫です。 結城の『暗号技術入門』ではそれに挑戦すべく、 数式をできるだけ使わず、その代わりに図を多用して解説を組み立てています。
    暗号技術を学ぶ上で大事なことは、 暗号技術の「相互関係」を理解することです。 ネットでニュースをちらちら見ていると、 暗号やセキュリティに関わるニュースは毎日のようにたくさん流れています。 しかし、基礎を知らずに個々の事象を追いかけても理解は深まりません。 何だか難しいな、で終わってしまう。
    拙著『暗号技術入門』で解説している「暗号学者の道具箱」 という基本を一度理解すると、 ニュースに流れている個々の事象に対して、
     「ははーん。これは機密性の問題か」
    あるいは、
     「なるほど。これは予測可能なビット列の問題だ」
    のように理解できるようになります。
    暗号技術は、個々の技術だけで成り立っているのではなく、 たくさんの技術が絡み合って作られています。 しかも、ニュースなどでは情報が歪曲されて報じられることもあります。 ですから一度、基本を頭に入れておくことはとても大事なのです。
    結城が書いた『暗号技術入門 秘密の国のアリス』は2003年に第1版が刊行され、 その後、新版というタイトルで2008年に第2版が刊行されました。 それから7年が過ぎ、情報をアップデートすると共に、 新たなトピックも盛り込んだ「第3版」を出すことになりました。 それが来月刊行となる結城の最新刊です。
    本書『暗号技術入門』は、2003年の刊行以来、 セキュリティを学ぶ人の第一歩として読者さんに喜ばれてきました。 最近はセキュリティに関する試験を受ける方の定番本として、 特に人気を博していたようです。感謝です。
    第2版(2008年の新版)では、対称暗号の新標準である AESのコンペについて加筆がなされました。 そして今回の第3版(2015年8月刊行)では、 一方向ハッシュ関数の新標準であるSHA-3のコンペが重要な加筆のひとつとなります。
    主な加筆内容としては、 新標準となるSHA-3のコンペティションとKeccakのアルゴリズム紹介、 仮想通貨ビットコインの技術的内容とその意味。 それから、短いビット長で高い機密性を保つ楕円曲線暗号の概要紹介、 さらに近年のニュースで話題になった、POODLE, Superfish, FREAK, HeartBleedといったインシデントに関するやさしい技術解説。 さらに、分量はそれほど多くありませんが、 GCM, RSA-OAEP, RSA-PSS, 認証付き暗号やID暗号など、 これからの暗号技術に関わる内容もコラムとして紹介しています。
    といっても、専門家向けonlyというわけでもありませんし、 技術者しか読めない本でもありません。 先日カンバーバッチ主演で話題になった映画 『イミテーション・ゲーム』がありましたが、 あそこに登場する「エニグマ」という暗号機械に関する話題も書かれており、 非技術者でも十分楽しめます。
    ドイツ軍が使っていた「エニグマ」の暗号方式は、おもしろいことに、 私たちが毎日使っているSSLの暗号方式に通じるところがあるのです。 つまり「歴史を歴史として学ぶ」だけではなく、 「歴史を現代に通じる道」として学ぶことができる。 これはわくわくする物語です。
    暗号といえば有名なのが、 エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』という名作ですが、 あそこで使われている暗号をどのようにして解くかという話題も登場します。
    「エニグマ」や「黄金虫」などの歴史的な暗号から、 現代のビットコインや楕円曲線暗号に至るまでを楽しく一望できる一冊ですので、 どうぞご期待&応援ください!
     ◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』現在予約受付中!  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797382228/hyuki-22/
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    理系マンガ紹介。
    実はまだ(2)しか読んでいないのですが、 おもしろいはずなのでフライングして紹介します。
     ◆『決してマネしないでください。(1)』(蛇蔵)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00R2OALNI/hyam-22/
     ◆『決してマネしないでください。(2)』(蛇蔵)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00ZERPNWY/hyam-22/
    科学者や技術者がどんなことを考えているか、 理系的なくすぐりネタと合わせ、 また歴史的なおもしろトピックと合わせて紹介しているマンガです。
    コミックなのでおふざけ部分もあるのですが、 全体的にいい感じに整えられていて、読んでも不愉快な部分がありません。 楽しく読むことができました。
     * * *
    マネジメントの話。
    先日、以下のブログ記事を読みました。
     ◆エンジニア35才定年説に挑戦する  http://www.fringe81.com/blog/?p=1937
    この会社では「プロパー社員エンジニアはコードだけ書く。 派遣/契約エンジニアが社員をマネジメントする」 ということをやっているようです。マネジメントはやりたくない、 技術的なことをずっとやっていきたいというエンジニアは多いので、 これは一つの試みとして興味深いと思いました。
    「常識的ではない」とはいえるのですが、 「プロパー社員の方が派遣社員よりも偉いから、 マネジメントはプロパー社員側が行わなければならない」 というような思い込みさえ捨てれば、妥当性があるとわかります。 もちろん、うまく行くかどうかはわかりませんが。
    話は少しずれるのですが、 結城もたまに「上司」を雇いたくなることがあります。 つまり結城の行動に指示を出したり、評価を下したり、 注意を促したりする存在が欲しくなるのですね。 いや、欲しくはないか。必要性を感じることがある、 くらいですかね、正確にいうと。
    「上司」を雇った場合、その上司に給料を払うのは結城になります。 お金を払って指示をしてもらうというのは 変な話に聞こえるかもしれませんが、 一人で仕事をしていると、その必要性を感じるのです。
    たとえば、自分がどうもサボりがちになったとき、 他の人の目をちょっと意識するだけで本来の行動に戻るものです。 結城がカフェで仕事をするのが好きな理由の一つがそれです。 家だとついついだらだら…と寝転びたくなるのですが、 カフェだとそうは行かない。
    毎日(結城が何をしているかちゃんと把握している)上司に、 「今日はこれこれの仕事をしました」と報告しなくてはならないとしたら、 ぐっと身の引き締まる毎日になるのではないかな、と思います。
    結城は毎日、TumblrやTwitterで自分の活動を書き込んでいるのは、 擬似的にそれに近い状況を作りたいからかもしれませんね。 パブリックに「今日はこれをがんばろう」と一言でも書いてしまうと、 その力によって行動が導かれる。そんなこともあるのです。
    あなたに「上司」はいますか。
    その「上司」はうまく機能していますか。
     * * *
    物書きについて。
    物書きを評価したかったら、初めの一文で評価すればいい。 初めの一段落で、初めの一章で評価すればいい。
    物書きは、すべての言葉で勝負している。 どこを切り取ってくださっても結構。 どこを捨ててくださっても結構。 すべての言葉で勝負する。それが、物書きの心意気だ。
    読者を批判するのは意味がない。読者が誤読したとしたら、 読者にそう読ませてしまったのは書き手の責任であると思っている。 もちろん、読者の読み方が悪いことだって実際にはあるだろうけれど、 そこで読者を批判するのは書き手として筋が悪い。
    そんなふうに思っている。
     * * *
    Web連載の話。
    結城は毎週金曜日にWeb連載「数学ガールの秘密ノート」を更新しています。
     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」  https://cakes.mu/series/339
    先日から始まったのは「やさしい統計」というシーズン。 今週の金曜日で第4回目となります。 いまは「分散」という概念について彼女たちがあれこれ議論しているところ。
    結城は数学読み物を書くのが好きです。 このWeb連載も毎週楽しく書いています。 何が楽しいかというと、 私自身が書いている中でたくさんのことを学ぶからです。
    「数学ガールの秘密ノート」シリーズは、 「数学ガール」シリーズに比べるとずっとやさしい内容を扱っています。 何ヶ月も調べなければ私が理解できないような話は扱っていません。
    でも、だからといって、 自分が知っていることをちょいちょいと書いて、 それで終わりにしているわけでもありません(当然ながら)。
    毎回、何かしらの「発見」を求めて考えつつ書いています。 これまでにも何度も書いていますが、その発見は、 登場人物たちの素朴な疑問に端を発することが多いですね。
    数学の概念ひとつとっても「ところで、この概念は、 ほんとうのところ、何を意味しているんだろう」と問うと、 深い洞察へと導かれるものです。
    たとえば「平均値」。 平均値はたくさんの数値をある意味で「平らに均した値」になりますが、 それはいったいどんな意味を持つのか。 あるいはまた「分散」。分散は、たくさんの数値が、 平均値からどれだけずれているか(偏差)を二乗したものを、 平均した値ですが、それはどんな意味を持つのか。
    「分散」は、ある意味で「散らばり」を表しているけれど、 「散らばり」を知ることはいったいどんな意味を持つのか。 何の役に立つのか。
    このような問いに答えることは、単に定義を暗記することや、 具体的な計算を行うこととは違う思考を必要とします。 定義の暗記や具体的な計算はとても大事です。 でもそこからさらに一歩進んで、
     ということは、もしかして、  こんな意味が生まれるのではあるまいか!
    という段階にたどり着けたなら、 どれほど大きな喜びがあるでしょう。 そのとき、無味乾燥に見えた定義や、 ややこしいだけに感じられた計算がいきいきと輝き出す。 そんなふうに思えませんか。
    必ずしも毎回成功しているかどうかはわかりませんが、 結城がWeb連載を書くときには毎週、 その段階に至れるようになりたいと思いつつ執筆をしています。 時間的な制約があるので、ときに荒削りのままになりますが、 結城自身が感じている大きな喜びを、 読者さんに伝えられたらうれしいと思いながら書いています。 そして書籍化の段階ではさらにブラッシュアップする。
    Web連載は次回で早くも124回になります。
    これからも応援よろしくお願いします!
     * * *
    書籍化準備と数学的図版の話。
    そして「数学ガールの秘密ノート」シリーズの次なる書籍化は、
     『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』
    となりました。サブタイトルの通り、ベクトルがテーマとなります。
    ベクトルは、三角関数同様に高校生が苦手とする分野のひとつでもあります。 矢印なので一見わかりやすそうに思えるのですが、 抽象的な「何か」が邪魔をして、問題を解くのが難しいことが多いのです。
    『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』は、 今年の秋(もうすぐですね……)に刊行の予定です。
    先日は書籍で使う図版を作成していました。 Web連載時にはカラーのPNGで作っていた画像ファイルを、 モノクロのEPSで作り直す作業です。
    『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』の図版は、 大きく分けて次の二種類があります。
     ・OmniGraffle Professionalで作ったもの  ・TikZで作ったもの
    OmniGraffle Professionalというのは、 いわゆるドローツールですね。 説明図の線画を作るのには欠かせないソフトです。 WindowsではVisioに近いツールです。 これは、自分のイメージに近い画像を作るのに非常に手軽です。
    TikZというのは、LaTeXのパッケージとして提供されているもので、 TikZとして定義されている言語を用いて、 数学的な図形を描くものです。座標値を自動的に計算させたり、 グラフを描いたりするときに重宝します。 マニュアルも非常に充実していて使いやすいのですが、 使い慣れるまではイメージした通りの図形を作るのは難しいですね。
    TikZでどんな図形が描けるかは、 以下のExamplesをごらんください。
     ◆TikZ and PGF examples  http://www.texample.net/tikz/examples/
    TikZで記述した図形は普通の文書になるのですが、 結城は図形を「ひとつの図版」として作りたいので、 TeX2imgというツールを使っています。
     ◆TeX2img 配布サイト  http://island.geocities.jp/loveinequality/
    TikZ + TeX2imgで数学的な図版を作るのはたいへん楽になりました。
     * * *
    ガロア理論の話。
    先日、小学二年生が数学検定準一級に受かったことが話題になっていました。 結城はTV報道を直接見てはいないのですが、 その少年はテレビに写っていたときに、 『数学ガール/ガロア理論』を手にしていたようですね。 結城の本を読んでいただいたようで、うれしいです。
     ◆『数学ガール/ガロア理論』  http://www.hyuki.com/girl/galois.html
    小学生に限らず、数学に興味を持ち、難しい概念を理解し、 問題も解いていく人が増えるというのは楽しいことです。 
    少年が「五次以上の次数の方程式が……」と正しく説明していたのに、 ニュースの字幕では「50以上の実数の方程式が……」 と書かれていたことも話題になっていましたね。 五次ではなく誤字か。
    そういえば、@tsujimotter さんが、 わかりやすいスライドを公開していたのでぜひごらんください。
     ◆五次方程式は、なぜ解けないのか?  https://codeiq.jp/magazine/2015/07/25424/
     * * *
    数学は音楽と同じである。 それを専門にする人は血のにじむような努力と、 気が遠くなるような過酷な競争にさらされる。 でも、それとはまったく関係なく、 誰でも、自分のペースでのどかに楽しんだり、 味わったりできる。
    結城は数学の専門家ではないけれど、 数学の楽しさや美しさのほんの一端を知っている。 自分の出来る限りのことは読者さんに伝えたい。 たとえ、数学の専門家には当たり前のことでも。 数学に詳しい人には自明のことでも。
     * * *
    「わかりやすい説明」の話。
    「わかりやすい説明」を論じるときには、 「誰にとって?」という視点を忘れないことが大切です。
    すでに持っている知識や、考え方のパターンや、 その説明を聞いて何をしたいのかは人によって違いますので、 どんな説明が「わかりやすい説明」なのかは、人によって変わるものです。
    説明者が「説明する内容」をよく理解していることはもちろん必要です。 さらにいえば、何が大事なことで何が細かいことかという「重要度の違い」 を把握することも必要になるでしょう。 そしてもう一歩踏み込むなら「理解しやすいことが何で、理解しにくいことが何か」 まで把握していたらすばらしいですね。
    理解しやすくて大事なことは説明すればいいし、 理解しにくくて細かいことは省けばいい。 ポイントは「理解しにくいけれど大事なこと」をどう説明するか。 そこが腕の見せどころでしょう。 「理解しやすいけど細かいこと」ばかり説明していると、 紙数稼ぎと思われるかもしれませんね。
    ……という話は『数学文章作法 執筆編』に出てくるような話題なのですが、 最近、執筆が停滞していますな……
     * * *
    外国人の話。
    先日、新宿を歩いていたら、交差点でドイツの人っぽい家族四人が困っていた。 結城が信号待ちをしながら見ていると、 男性(お父さん)がiPhoneを使って地図検索してる。 でもなかなか見つからず時間が掛かってる様子。 奥さんはそれを心配そうに見てる。 そばで男の子たちが軽くパンチしあって遊んでる。 なかなか目的地は見つからない。
    息子1が「日本暑いな!」みたいなことを言う。 息子2が「涼しいとこ行こうよ!」みたいなことを言う (ドイツ語らしいので正確にはわからない)。
    男性は無言で検索。奥さんは心配げ。 結城はつい「何かお手伝いしましょうか?」と言う。
    「あらあらありがとう。でも大丈夫」と奥さんが言う。 「すぐ見つかるさ」と男性が言う。 信号が青になる。結城が道路を渡って振り返ると、 家族は動き出していた。行き先が見つかったらしい。 よかった。
    地図を開いて困っている外国人はヘルプしやすい。
     「私たちはいまここにいる」  「この道路はここです」
    と教えられるから。 海外旅行中の人は、ちょっとしたことでも大きな助けになるので、 できるだけ声をかけたい。たとえ断られても、 「困っていると、日本人は声をかけてくれる」 と伝わるだけでもいいのではないか、と思う。
    発音なんか気にしなくていい。 何かできることがあるかもしれない。 無理しなくてもいいけれど、すぐ近くに困っている外国人がいたら、 できるだけは助けてあげたい。
    何年か前、ヨーロッパ行ったときに、 駅でたまたまクレジットカードしかなくて、 時間がなくて、自販機で切符買う方法がわからなくて、 だいたい18歳くらいの痩せて青い帽子をかぶった通りがかりのお兄ちゃんが、 いっしょに四苦八苦してくれたのを思い出す。 そのお兄ちゃんもクレジットカードの使い方はわからなくて、 最後には何とお金を立て替えて切符買ってくれた(!)。
    電車の乗り方ひとつ、切符の買い方ひとつでも、海外の人は戸惑うもの。 ちょっとしたことも大きな助けになる。 声をかけるのは抵抗あるものだけれど、できるだけ助けになりたい。
     Can I help you?  What can I do for you?
    を受験で覚えたのは、そういうときのためじゃないか。
     * * *
    さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
    今回は、「フロー・ライティング」のコーナーで、
     「伝えるトーン、伝わるトーン」
    というお話をします。今回はどちらかというと、 スタンダードな文章の書き方の話になりました。 ふだん文章を書いている人にとってはあたりまえのことかもしれませんが、
     ・「文章のトーン」とは何か  ・「文章のトーン」がどのように生まれるか  ・「文章のトーン」をどのように作るか
    という話題をお届けします。
    それから久しぶりの「Q&A」コーナーでは、 「誰も話を聞いてくれない」という質問(?)にお答えします。
    どうぞお楽しみください!
    目次
    はじめに
    フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン
    Q&A - 誰も話を聞いてくれない
    おわりに
     
  • Vol.172 結城浩/数学ガールの特別授業(ICUHS編)(3)/「お言葉ですから」というキーフレーズ/

    2015-07-14 07:00  
    220pt
    Vol.172 結城浩/数学ガールの特別授業(ICUHS編)(3)/「お言葉ですから」というキーフレーズ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月14日 Vol.172
    はじめに
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    新刊の話。
    来月刊行になる、
     『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』  http://www.hyuki.com/cr/
    の初校がやってきました。 今週は楽しい初校読みになりそうです。
    前回の版に比べて、 今回の第3版ではざっくり40ページも増加していました。 ビットコインの話や楕円曲線暗号の話などの加筆があるからでしょう。
    暗号というと何だかうさんくさい、 アングラというイメージがあるかもしれませんが、
     ・情報を特定の人だけに伝えたい  ・情報を誰かに書き換えられずに受け取りたい  ・自分が対話している相手は確かに本人か知りたい  ・約束したことを反故にされたくない
    というのは私たちの生活で自然な要求です。 ネットワーク社会で生きる私たちは、 これらの要求を満たすために暗号技術に頼らざるを得ません。
    たまたま先日、テレビで映画「サマーウォーズ」の放送がありました。 あの映画でもセキュリティと暗号解読が、 ときに命に関わるものだという場面が随所に出てきます。
    技術者以外の人でも、 暗号技術に対するある程度のリテラシーが必要になるでしょう。 今回の私の本が少しでもその役に立つことを願っています。
     * * *
    セキュリティの話。
    情報処理推進機構(IPA)が2015年7月の呼びかけとして、
     「その秘密の質問の答えは第三者に推測されてしまうかもしれません」
    というフレーズを提示しています。
     ◆2015年7月の呼びかけ(IPA)  https://www.ipa.go.jp/security/txt/2015/07outline.html
    さまざまなWebサイトで、パスワードを忘れたときの備えとして、 「秘密の質問と答え」をユーザに設定させています。 でも、この仕組みはたいへん危険なものをはらんでいます。
    「秘密の質問」の性質上、 悪意のある人から予測されてしまう答えでは困るのですが、 「母親の旧姓は?」と言われて正直に答えてしまうと、 「佐藤」や「高橋」や「鈴木」になる可能性が高いですよね。 ということは、いくら強いパスワードを設定しても、 「秘密の質問」に安易な解答を書いていたら、 それを悪用されてアカウントが盗まれてしまう可能性がある。
    結城は、この「秘密の質問」の答えとして、 ほんとうのことを《書かない》ようにしています。 パスワードと同じ価値を持つわけですから、 パスワードと同様に、ランダムな文字列を使って作成し、 それを「鍵」と同じように大切に管理するようにしています。
    それに関連して、 ランダムな文字列を自分で作成しやすいサイトを作ってみました。
     ◆hash.textfile.org  http://hash.textfile.org
    このサイトでMessageのところに自分でキーボードを乱打して、 非常に長い文字列を入力します。たとえば、 すると、その文字列をSHA-1やSHA-2などの ハッシュ関数で変換した文字列が表示されます。
    たとえば、
     「母親の旧姓は?」
    という秘密の質問に対して、
     「Zr8RPbxDBIgYoQ22a+nqNn5EqjpinS」
    を答えにするのです。
    なお、セキュリティに関わることなので、 上記サイトのご利用は自己責任でお願いします。
     * * *
    エディタの話。
    結城はふだんテキストエディタとしてVimを使っています。 「カッコ開き」つまり "(" を入力したときに、 自動的に「カッコ閉じ」")" を入力させるようにしたいな、 とTwitterでつぶやいていたら、Leximaというプラグインを紹介してもらいました。
     ◆Lexima  https://github.com/cohama/lexima.vim
    デフォルトがよくできていますね。 入力した "(" に対して ")" が自動入力されるのは当たり前だけれど、 開きカッコに続けて手がつい ")" まで打ってしまっても大丈夫。 ちゃんと "()" となってくれます。 つまり、"())" のような不格好なことにはならないのです。
    通常のカッコ () だけではなく、{} や "" も自動的に閉じてくれる。 結城はLaTeXを使っていて、数式の範囲である $$ をしょっちゅう使う。 "Vim Lexima LaTeX"で検索して、$もカッコのように自動的に閉じてくれる設定を見つけました。
    Leximaを作った作者さんがユーザの質問に答えていたのです。
     https://github.com/cohama/lexima.vim/issues/9
    こういう質問はたいへんありがたいですね。
    開きカッコを入力すると自動的に閉じカッコを入力してくれるというのは、 うまくはまるとたいへん便利なので、 結城もしばらくは嬉々として楽しんでいました。
    しかし、しばらく使っているとユーザインタフェースはそれほど単純じゃないんだな、 と気付くようになりました。
    というのは、こういうことです。 普通にテキストを頭から入力しているときには、 "{"を入力して"}"が自動的に入るのはとてもいいのだけれど、 文章がすでにあって、そこにカッコを付けたいときには不都合なのですね。
    たとえば、
     This is Japan.
    という文章で "is" の部分を強調したいとき、LaTeXでは
     This \textbf{is} Japan.
    と書きます。すでに This is Japan. という文章があるとき、 isのところで、
     This \textbf{is Japan.
    と入力すると、自動的に "}" が入力されてしまうので、
     This \textbf{}is Japan.
    という悲しいことになってしまう。
    テキスト入力やテキスト編集はほとんど反射的に手が動くものだから、 こういう予想外の動きにはリズムを崩されてしまいます。
    なかなか難しいものですね。
     * * *
    フォントの話。
    三重大の奥村先生のサイトに「数式フォントの比較」というページがありました。
     ◆数式フォントの比較  http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/texfaq/mathtime/comparison.html
    ひとことで「数式フォント」といっても、 いろんな種類があることがよくわかります。 結城はこういうフォントが大好きなので、ついつい見入ってしまいます。
    こうやって比べてみると、数学ガールで使っているEuler + Concrete という組み合わせはなかなかユニークであるのがわかります。
    どういうところがユニークかというと、 たとえばシグマ(Σ)にセリフ(端の跳ねた部分)がないところや、 ゼロ(0)の上のほうがとがっているところ。 それから、変数名がそもそも斜字体になっていないところなどですね。
    結城はこのEulerフォントが好きなのですが、 困ったこともありました。 『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』では、 フォントの違いを利用して意味の違いを表現する局面があるのですが、 Eulerフォントが斜字体でないため、その違いを明確にするのがちょっと難しかったのです。
    まあ、細かい話といえば細かい話なんですけれどね。
     * * *
    多様性の話。
    多様性という言葉を見ると、こんな聖書の言葉を思い出します。
     そこで、目が手に向かって、  「私はあなたを必要としない」と言うことはできないし、  頭が足に向かって、  「私はあなたを必要としない」と言うこともできません。  それどころか、からだの中で比較的に弱いと見られる器官が、  かえってなくてはならないものなのです。  (第1コリント12章から)
    相手を自分の姿と同じにするのがいいわけではありません。 また、相手を自分の価値観で裁くのがいいわけでもありません。 違っていても一つになることはできるし、 違っていなければならないこともある。
    身体中が手になったり、 身体中が目になったりするのは恐い。 多様性という言葉を見ると、 私はそんなことを思います。
     * * *
    さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
    今回は、
     「数学ガールの特別授業(ICUHS編)」
    の第三回目をお送りします。 先日結城が国際基督教大学高等学校(ICUHS)で行った講演を、 読み物形式にしたものです。 「問題と解答」という概念を軸にして、 数学に限らない「考えること」や「学ぶこと」の意味を問いかけます。
    なお、過去の「数学ガールの特別授業」は以下からバックナンバーをたどれます。
     ◆数学ガールの特別授業  http://www.hyuki.com/girl/lesson.html
    では、どうぞごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数学ガールの特別授業(ICUHS編)(3)
    Web連載を本にまとめる工夫 - 本を書く心がけ
    夢中になることの大切さ - 仕事の心がけ
    「お言葉ですから」というキーフレーズ - 仕事の心がけ
    おわりに
     
  • Vol.171 結城浩/再発見の発想法/「やさしい統計」に向けて/40冊の著書/トラブルに向き合う/

    2015-07-07 07:00  
    220pt
    Vol.171 結城浩/再発見の発想法/「やさしい統計」に向けて/40冊の著書/トラブルに向き合う/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月7日 Vol.171
    はじめに
    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    新刊の話。
    来月刊行の新刊『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』は、 現在アマゾンで予約可能な状態になっています。 みなさんの応援のおかげで、 暗号理論カテゴリ「ほしい本」第一位になっています!
     ◆表紙画像
    すでに原稿はすべて編集部に送られており、 今月は校正作業が続くことになります。
    毎回書いていて恐縮ですが、新しい本が出るというのは、 いつもわくわくしてしかたがありません。 この本を楽しみにしている読者さんに、 しっかりした本を届けるべくがんばります!
     ◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』  http://www.hyuki.com/cr/
     ◆校正中の原稿スナップショット1
     ◆校正中の原稿スナップショット2
     * * *
    無料プレゼントの話。
    来週の月曜〆切で、
     ハングル版「数学ガールの秘密ノート」シリーズの  無料サイン本プレゼント企画
    を行っています。
    ご興味のある方は、以下をごらんの上、お気軽にご応募ください。 また、本書に関心のある方へURLをお伝えくだされば感謝です。
     ◆ハングル版「数学ガールの秘密ノート」シリーズ《サイン本無料プレゼント》  http://blog.textfile.org/20150704/present/
     ◆表紙画像
     * * *
    仕事の状況整理の話。
    昨日、筑摩書房さんから明細が届いて、 『数学文章作法 基礎編』電子書籍の売上がわかりました。 契約上、具体的な売上数はオープンにできないのでここには書きませんが、 想像以上に売れ行きがよくて感謝です!  タイミング的に『推敲編』の数字がまとまるのはこれからですが、 こちらの方もとても楽しみにしています。
     ◆『数学文章作法 基礎編』  http://mw1.textfile.org
     ◆『数学文章作法 推敲編』  http://mw2.textfile.org
    来月暗号本が出た後、 今年はもう一冊『数学ガールの秘密ノート』のベクトル編を出版予定です。 現在は、Web連載のファイルを編集し、構成を考えている段階です。
    具体的には、ベクトル編のファイルを管理するGitリポジトリを作り、 Web連載時のファイルをそこに入れました。 自作のPerlスクリプトでWeb連載時の形式から、 書籍用のLaTeXに変換したところ。 これをベースにして書籍向けに仕上げていくのです。 これからバリバリと加筆修正をしていきますよ!
    そして、今年なんとか脱稿を!と目指しているのが『数学ガール6』です。 現在は第3章あたりをうろうろしており、
     「よしこれだ!」
    という状況まではまだ至っていません。苦戦中。
    などなど。 自分の好きなことを仕事にできるというのは、 この上なく感謝なことだと思っています。 いつも応援ありがとうございます。
     * * *
    ところで、Web連載の話。
    CakesでWeb連載している「数学ガールの秘密ノート」は、 先週から新しいシーズンに入りました。 毎回10週単位で一つの「シーズン」を構成し、 それが5章まとまりで一冊の本になります。
    前回は「行列が描くもの」というシーズンでした。 今回は、
     やさしい統計
    というシーズンになる予定です。 先週の第1回「平らに均す平均値(前編)」はタイトル通り、 平均値のお話でした。
    本当に基礎的な話に絞って、 でも大事なポイントは押さえていきたいと思っています。
    毎週金曜日に更新し、最新回は24時間無料で読めますので、 金曜日は「数学ガールの秘密ノート」の日と覚えておいてくださいね!
     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」シリーズ  https://cakes.mu/series/339
    Web連載は今週で連載122回目。 すでに五冊が書籍化されました。 休みつつではありますが、まさに「継続は力なり」ですね。 応援してくださるあなたに感謝です!
    統計についてはちょっと長くなる話があるので、詳しくは後ほど。
     * * *
    ネットで見かける「非難」の話。
    ふだんネットで暮らしていると、頻繁に「非難」を目にする。
    ニュースサイトやブログのような場所での批判記事(に似せた非難)もあれば、 TwitterやFacebookでの非難もある。
    誰かが何かを主張したのを非難する。 誰かの行動を非難する。 誰かの失言を非難する。
    そういう記事やツイートはよく見かける。 ところで、それらを読みながらときどきゾッとすることがある。 それは非難そのものに対してというよりも、
     自分自身の心のあり方について
    ゾッとするのである。 どういうことかというと、非難している文章を読んでいると、ぼんやりと、
     「ああ、この人は非難してもかまわない相手なんだ」
    と考えている自分に気付くということ。
    Aさんのことを、Bさんが非難している。Cさんも、Dさんも、 ネット上でたくさんの人がAさんを非難している。 観測範囲ではほとんどの人がAさんを非難しているように見える。
    そんな状況を見ていると、 いつのまにか「Aさんは、非難してもかまわないんだ」 と考えてしまいがちだ。ああ、こわいこわい。
    もちろん、Aさんに非難されてもしょうがない部分があるかもしれない。 でも、非難には「勢い」というものがあって、 ふだんなら看過されるようなポイントについてまでAさんは非難されたりする。
    こわいのは自分自身だ。 いつのまにか私も、心の中で場の雰囲気といっしょになって、 Aさんを非難していたりする。へたしたら「Aさんについて、 他に非難できるところはないか」と探していたりする。 たいへんこわい。自分がこわい。
    場の雰囲気に流されてばんばん非難していると、 自分がきちんと考えもせず、確認もしていないところまで 非難してしまうことがある。
    なんのことはない。これは「いじめの構図」である。
    みんながいじめているから、 自分もいじめてかまわないと考える危険性。
    みんながいじめているから、 他にいじめるポイントがないかを探す危険性。
    大人ですら、そんなふうに考えるんだから、 子供だって、同じように考えてしまうことは不思議ではない。
    対処方法は思いつかないけれど、 気を付けておかなければならない。
     * * *
    さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
    今回は、「再発見の発想法」のコーナーで、
     「トークン(Token)」
    という言葉に隠れている発想を見つけ出します。
    なお、過去の「再発見の発想法」は以下からバックナンバーをたどれます。
     ◆再発見の発想法  http://www.hyuki.com/discover/
    では、どうぞごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - トークン(Token)
    「やさしい統計」シーズンへ向けて - 文章を書く心がけ
    40冊の著書 - 本を書く心がけ
    トラブルに向き合う - 仕事の心がけ
    おわりに