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記事 5件
  • 花井十伍氏:子宮頸がんワクチン提訴に見る薬害の連鎖が止まらないわけ

    2016-08-31 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年8月31日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第803回(2016年8月27日)子宮頸がんワクチン提訴に見る薬害の連鎖が止まらないわけゲスト:花井十伍氏(全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人)────────────────────────────────────── 薬害の連鎖が止まらない。スモン、サリドマイド、薬害エイズ、薬害肝炎・・・。そしてこのたび、子宮頸がんワクチンが、新たに薬害裁判の歴史に加わることとなった。 2016年7月27日、子宮頸がんワクチンの接種を受けた15歳から22歳の63人の女性たちが、国と製薬会社を相手に訴訟を提起した。問題となっている子宮頸がんワクチンは正式にはHPV(ヒトパピロマウィルス)ワクチンと呼ばれるもので、これまで10代の女性を中心に340万人がワクチンの接種を受けている。 子宮頸がんは、厚生労働省によると、今、若い女性の間で増えていて、一年間で新たに約1万人が発症し、毎年約3000人が亡くなっているという。性交渉によって感染し、すでに感染している人には効果がないとされるため、性交渉を経験する前の10代の少女たちへの接種が、2010年頃から、公費の助成などによって積極的に実施されてきた。 ところが、ワクチンの接種を受けた少女たちの中から、副反応と思われる症状を訴える人が出始めた。多くが手足や身体に痛みを訴え、失神、歩行障害、記憶障害などで学校に行けなくなったり、車椅子での生活を強いられるようになった。 ワクチンと副反応の因果関係については、正確なことはわかっていないことから、これが「薬害」だと決まったわけではない。しかし、自身が薬害エイズの被害者で、現在、薬害被害者団体の代表を務める花井十伍氏は、HPVワクチンをめぐるここまでの経緯は、日本が過去に経験してきたさまざまな薬害の構造と酷似している点を強調する。被害者が薬害を訴え出ても、科学的に証明されていないという理由から国にも製薬会社にも相手にされず、やむなく訴訟となり、随分と時間が経ってから、ようやく被害者たちが救済されるという、一連の薬害の構造のことだ。 日本ではなぜ薬害が繰り返されてきたのか。その歴史の中で、今回のHPVワクチン問題は、どのような位置づけになるのか。薬害根絶のために何を考えなくてはならないのか。子宮頸がんワクチンの副反応被害に対する訴訟が起こされた今、薬害エイズの当事者で薬害の歴史や薬事行政に詳しいゲストの花井十伍氏とともに、ジャーナリストの迫田朋子と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・ワクチンと保険療養の大きな違い、社会防衛という概念・「子宮頸がんワクチン」問題は、どのように起こったか・“科学的根拠”という勘違い・薬害問題をなくすには、市民のコミットメントしかない+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■ワクチンと保険療養の大きな違い、社会防衛という概念
    迫田: 今日のテーマは「薬害根絶」です。これまでもスモン、サリドマイド、薬害エイズなどがありましたが、先月7月27日、HPV(ヒトパピロマウィルス)ワクチン――子宮頸がんワクチンと言われていますが、この副反応の被害に遭っているという人たちが裁判を起こしました。
    宮台: 薬害が繰り返されている背後にある共通の構造がどういうものなのか。プラス、もし新しい要素、あるいは新しい側面や局面であるのであれば、それについてもきちんと注目をしておきたいところです。
    迫田: ゲストとして、全国薬害被害者団体連絡協議会、通称「薬被連」の代表世話人であります花井十伍さんにお越しいただきました。花井さんはご自身が薬害エイズの当事者でいらして、しかも代表世話人としてずっと活動してこられました。
     

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  • 高橋正人氏:五輪で盛り上がる今こそドーピング問題に目を向けよう

    2016-08-24 19:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年8月24日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第802回(2016年8月20日)五輪で盛り上がる今こそドーピング問題に目を向けようゲスト:高橋正人氏(医師・十文字学園女子大学教授)────────────────────────────────────── リオ五輪での日本選手団の大活躍ぶりには目を見張るものがある。しかし、五輪への国民的関心が高まっている今こそ、スポーツを底辺から蝕むドーピングの問題と向き合い、これを根絶する手だてを真剣に考えるべき時だ。その意味で、日本人選手の活躍ぶりが大きく報じられる中で、ドーピング問題をめぐる報道が極端に少ないことが気になる。 リオ五輪は大会前にロシアによる国ぐるみのドーピングの実態が露わになり、ロシア人選手の大半が参加資格を失うなど、ドーピング問題が暗い影を落とす中で開催された大会だった。逆の見方をすれば、リオはドーピングに対する世界の疑念や疑惑を一掃し、スポーツが本来のフェアな精神と信頼を取り戻す絶好の機会となるべき大会でもあった。 しかし、実際にはここまで報道されているだけでも、既にメダリストを含む8人の選手がドーピング検査で陽性反応を示し、失格になっている。加えて、今回の五輪に参加している選手の中には、過去にドーピング検査にひっかかり、出場停止などの処分を受けたことのある選手が大勢含まれている。史上最多となる22個の金メダルを獲得したマイケル・フェルプス(アメリカ)をはじめ、多くの選手たちがドーピング歴のある選手と同じ土俵で競争することへの違和感や嫌悪感を表明するなど、リオ五輪ではあらゆる局面でドーピングが大きな争点となっていると言っていいだろう。 ドーピングが重大な問題なのは、それが選手自身に深刻な副作用や健康被害を与える可能性があるのと同時に、スポーツが体現しているフェアネスや鍛錬といったスポーツの本質的な価値を根本から棄損してしまう可能性があるからだ。すごい記録が出るたびに「ドーピングではないのか」などと疑いの目を向けられるようでは、厳しい練習を積み重ねてきた選手たちは堪らない。また、金メダルを取ることや世界記録を出すことから得られる報酬が莫大になっているため、そのリスクを十分承知していてもドーピングに手を出してしまう選手が後を絶たないという、スポーツの行き過ぎた商業主義の問題もある。 泣いても笑っても4年後には東京五輪がやってくる。われわれはスポーツの価値の根幹を揺るがしていると言っても過言ではないドーピング問題に、どう向き合おうとしているのか。ドーピングを根絶することができるのか。ドーピング問題に詳しい医師の高橋正人氏とドーピングの現状とこれからを議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・日本でドーピング問題が話題にならない理由・ドーピングの種類と効用を知る・厳しさを増すドーピング検査 「フェアネス」はどこにあるか・縦割りでは解決しないドーピング問題 今後の注目点は+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■日本でドーピング問題が話題にならない理由
    神保: 今日は2016年8月19日の金曜日。世の中はオリンピックの話題で持ち切りで、夜通し放送を見て寝不足だ、なんて話も聞きます。宮台さんは見ていますか。
    宮台: あまり見ていないですね。昔は興味があったのですが、マル激で議論してきたことも含め、勝つ/負けるということだけが拡大されたような形で報じられたり、それが「感動」という言葉で粉飾されるようになっていることに違和感を覚えています。むしろメダルを獲れない国がオリンピックに参加すること、競技をすることに対する感覚が“まとも”なのかなという気がしますね。
    神保: 豊かなスポーツ文化があるというのは、別にたくさんメダルを獲れるとか、世界チャンピオンになることではない。逆に一部のアスリートだけ早いうちから囲って、エリート教育をやってメダルは獲らせるが、国内のスポーツ文化は至って貧弱だということも当然、あり得るわけです。 逆に言うと、今回、確かに日本の金メダルが、一時期獲れなくなっていた分野でも増えている。僕は2つのことを思います。ひとつは、先進国がそれなりに本気でお金をかけて育成をすれば、やっぱりメダルは獲れるものなのだな、ということがひとつ。もうひとつの方が深刻で、今日のテーマに関連しますが、ドーピングが難しくなってきたということです。かつての東ドイツ、今回はロシアが直前に大きな問題になりましたが、日本がそういうことをやっていないという前提で言えば、ドーピングで底上げしていた国やアスリートが出てこられなくなったから、相対的に日本の成績が良くなったのではないか、という見方も一部あるようです。 今回は、このドーピング問題をきちんとやりたい。日本できちんと問題をまとめた書籍もなく、特に商業メディア的には、話をすること自体があまりよろしくないようなんです。この時期にドーピング問題を取り上げるというのは、オリンピックに水を差すのかと思われる方もいるかもしれませんが、今やらなければ関心を持っていただけない。正直言って、識者の方に取材を申し込んで、「この時期にやるの?」というリアクションが非常に多かった。そのなかで、出演を快諾してくださったゲストをご紹介します。十文字学園女子大学人間生活学部健康栄養学科の教授で医学博士の高橋正人さんです。 先生、今回はオリンピックの最中ということもあるかもしれませんが、この話題というのは、その世界でもパブリックに話すことがはばかられるテーマなのでしょうか?
    高橋: スポーツ医学系の学会が日本にもあり、ドーピングというテーマもあるのですが、日本の場合はここ20~30年、検査法にかかわるシステムの話ばかりで、副作用や使用者の動向に対する報告はほとんどありませんね。ほとんど自分が報告するのと、たまに国の調査で少し出てくる、というのが現状です。 日本でドーピングというと、筋力系の競技の一部に、そういう方がいらっしゃるのは確かです。ただ、ほかの競技への広がり、特にオリンピックに絡む競技などでは、なかなかそういう動向が補足されません。学会はまさにオリンピックに絡む競技で成り立っているようなところもあり、なかなか明らかにならないというのもあります。
     

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  • 多田将氏:ニュートリノの謎が解明されれば本当に宇宙の起源がわかるのですか

    2016-08-17 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年8月17日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第801回(2016年8月13日)ニュートリノの謎が解明されれば本当に宇宙の起源がわかるのですかゲスト:多田将氏(高エネルギー加速器研究機構准教授)────────────────────────────────────── 物質の最小単位となる素粒子の謎が解ければ、宇宙の起源がわかる。そう言われて、一体どれだけの人がピンとくるだろうか。物質をとことん細かく砕き、これ以上ないところまで小さくした時にできる素粒子のニュートリノが、宇宙誕生の鍵を握っている。そして、そう信ずる最先端の物理学者たちが、世界中でニュートリノ研究に鎬を削っている。 茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構などの国際研究チームが8月6日、「ニュートリノ」の「粒子」と「反粒子」の変化に違いがある「CP対称性の破れ」の兆候を初めて捉えたと、米・シカゴで開かれていた国際学会で発表した。まだ、「兆候を捉えた」段階に過ぎないが、これが確認されれば、宇宙の起源の解明にもつながる人類史に残る大発見になるのだという。無論、ノーベル賞候補だ。 われわれの目の前で人類史に残るほどの大発見が現在進行形で起きているかもしれないのに、そのすごさが理解できないのはちょっと悔しいし勿体なくもある。そこで今週のマル激では、正に今回の実験を行った高エネルギー加速器研究機構の准教授で「金髪の素粒子物理学者」の多田将氏に、典型的文系脳の神保哲生と宮台真司が「今さら聞けないニュートリノと宇宙の起源の関係」を聞いた。 今後、世界中でこの仮説を確認する実験が実施され、これが確認された時、人類は宇宙の起源の解明に手が届くことになるのだという。多田氏は2020年代の中頃には、それが証明される可能性があると言う。 20世紀に目覚ましい発展を遂げた物理学は、今なおその発展を遂げている。特に実験装置が発達したことで、かつては仮説でしかなかった数々の学説が、実験によって裏付けられるようになってきている。しかし、物質を素粒子の次元まで解き明かし、更に宇宙の起源にまで迫ろうかというところまで来ている物理学は、その先に何を見ているのか。今日の最先端の物理学もそう遠くない将来、いたって原始的で牧歌的なレベルに過ぎないものだったと言われる時が来るのだろうか。 盛夏の折、最先端の素粒子物理学が明らかにするこの世で最も小さな話と、宇宙の起源というこの世で最も大きな話、そして両者の関係について考えた。
     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・宇宙の起源も紐解く「T2K実験」の内容とは・そもそも「ニュートリノ」とは何なのか・物質と反物質は同時に生まれるが、なぜ物質だけが残ったか・日本が世界をリードする素粒子物理学 人類史上最大の問題を解決するか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■宇宙の起源も紐解く「T2K実験」の内容とは
    神保: 今回は僕にとって一番ハードルが高いテーマかもしれない、「ニュートリノ」を扱います。宮台さんは“ブルーバックス少年”だったし、こういう分野はフォローしていますね。
    宮台: この後で紹介されるような、こういうことが「発見」されたとか、こういうことがわかったというニュースがあると、発作的にブルーバックスのようなものを買って読む、ということがあります。また最近はNHKのEテレがかなりいい科学番組を作っており、インターネットでアーカイブスが見られます。
    神保: 僕としてはそもそもニュートリノが何なのか、ということが全然わかりません。なぜ、物質をどんどん細かくしていくと、宇宙の起源がわかるのか。宮台さんは、そのことに違和感はないのですか?
    宮台: 違和感ありまくりですが、それを言えば「宇宙の始まりはアトムよりも小さかった」など、もう意味がわかりません。以前、惑星物理学者の松井孝典さんをお呼びしたときも、ありそうもない奇跡のような極小確率の偏差が積み重なって、例えば僕たちが存在しているとか、物が存在しているという話を伺いました。すべてがありそうもない。
    神保: すごい話です。文系的な解釈ですが、今回は「すごく小さいがゆえに、すごく大きな話」ということでいいのでしょうか。僕らだけで話していても無意味だと思いますので、専門家の先生の助けを借りましょう。ゲストをご紹介します。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所の准教授で物理学者の多田将さんです。高エネルギー加速器研究機構が行った実験が、大きなニュースになりました。僕はこのニュース原稿を見て、出てくる単語が半分以上わからなかったのです。「高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)が、物体をすり抜けて飛び交う素粒子ニュートリノの粒子と反粒子の変化に違いがあるCP対称性の破れの兆候をとらえたと、米シカゴで開催中の国際学会で発表した」というのが、ニュースのリードです。
    多田: 僕はむしろ、おふたりはよくご存知なほうだと思います。うちの母親など、僕が核兵器の研究をしていると思っていますからね(笑)。一般的には、おそらくそんなものだと思います。ですから今回は、うちの母親に説明するくらいの気持ちで、どんな実験なのか、このニュースがどういう意味なのか、ということをお話したいと思います。
     

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  • 御厨貴氏:人権問題としての象徴天皇制を考えるべき時にきている

    2016-08-10 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年8月10日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第800回(2016年8月6日)人権問題としての象徴天皇制を考えるべき時にきているゲスト:御厨貴氏(青山学院大学特任教授)────────────────────────────────────── 天皇陛下の生前退位のご意向が7月13日に報じられて以来、天皇制のあり方をめぐる議論が盛んに交わされている。8月8日、陛下ご自身がビデオを通じて「お気持ち」を表明されたが、マル激ではそれに先立って、この問題で日本人一人ひとりが考えなければならない論点は何かについて、政治学者で天皇制についても造詣が深い御厨貴氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 そもそも今上天皇が非公式ながら生前退位の意向を示したことについて御厨氏は、象徴天皇制のあるべき姿を生涯考え続けてきた今上陛下の深謀遠慮があってのことだろうと語る。御厨氏によると、現在の象徴天皇像はもっぱら今上天皇が作り上げてきたもので、その集大成ともいうべき問題が生前退位問題だった。 言うまでもなく現行憲法の下での「象徴天皇制」は、大きな矛盾を孕んでいる。それは天皇という地位に「世襲」「男系男子」「万世一系」など戦前から続く一定の神性(カリスマ)を求めながら、あくまで天皇は一切の政治的権限を持たない象徴に過ぎず、政府が決めたことに唯々諾々と従いながら「ご公務」と呼ばれる国事行為を執り行うだけの存在に押し込んできたからだった。戦後70年間、日本人はその矛盾と向き合うことのないまま、天皇のカリスマを災害時の被災地訪問や歴史的な祭典などで最大限に利用してきた。それは天皇や皇族の方々に、職業選択の自由も無く、世襲で強制的に天皇という地位に就かされた上に、その地位から離脱する自由もなく、死ぬまで公務を全うし続けなければならないという、あまりにも理不尽で犠牲の多い地位に甘んじていただくことを意味していた。 御厨氏は理論、行政、政治の3つの観点からこの問題に対する議論を始めるべき時が来ていると指摘する。ただし、その議論は、小泉政権下の有識者会議のような、天皇制の専門家たちによるものに限定すべきではないと言う。なぜなら、天皇がどうあるべきかは、専門家が決めることではなく、日本人一人ひとりが何を望んでいるかによるべきだと考えるからだ。 日本国憲法は第一条で天皇を日本国と日本国民統合の象徴とした上で、それが日本国民の総意の上に成り立つことを明記している。現在のような制度が本当に日本国民が天皇に望んでいることなのかを、今こそわれわれは議論すべきではないか。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・今上天皇が国事行事や公務を増やした理由・天皇のカリスマを利用しつつ、“去勢”を行うアメリカの狙い・「理論的、政治的、行政的」という3つの議論・生前退位の裏にある、最大の問題提起とは+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■今上天皇が国事行事や公務を増やした理由
    神保: 今回は800回目のマル激です。節目に相応しいテーマとして、天皇の人権というものをきちんと考えよう、という課題を設定しました。戦後70年間、象徴天皇といいながら、神性も持たなければならず、国事行事しなければならなくて、しかし政治的権利は一切ない、といったある意味で無茶苦茶なことをやってきたと、つくづく思ったんです。
    宮台: もともと「人権」というのは、政治システムが侵害することができない個人の行為領域のことです。平たく言えば、政治システムが何をどう考えていようが、個人には選択権がある、あるいは選択を行使する、意思の自由があるということ。そして、「象徴天皇」である方に、そのような自由があるだろうかということです。例えば、国事行為をしない自由があるだろうか。また、僕たちであれば職業選択の自由があるが、同じように「象徴天皇のポストに居続けないぞ」ということができるか。象徴天皇という言葉は、そうした問題がすべて隠蔽された形で畳み込まれた概念なんです。
    神保: それがここに来て、ようやくきちんとオープンに議論をできるようになったというのは、もしかしたらすごい進歩かもしれない。さて、今回のゲストは、宮台さんとの議論をお客さんになって聞きたい、とすら思ってしまう方です。青山学院大学の特任教授で政治学者の御厨貴さんにお越しいただきました。
    御厨: 僕は明治・大正・昭和、そして今上陛下に至るまでに、天皇の政治へのかかわり方の変遷について書いてきました。帝国憲法ですら実は天皇を押し込めることはできていなくて、脱法行為も違法行為も随分行われてきました。戦前もそうだし、戦後もかなり、憲法を逸脱する行為があり、今上天皇も当然、そういう路線は歩んできている。ただ、特に戦後はそれをすべて取り繕い、「政治的行為ではない」と言ってきたわけです。皇室外交という最も政治的な行為を「政治的ではない」という。この欺瞞を宮内庁から内閣、メディアも含めて作り上げて、それに乗っかって演じてきた。 そして、公務がなぜこれだけ大変になったか。あれはすべて、今の両陛下が開発したものです。宮中で行われるような、国民に見えない伝統的な行事ももちろんあるんだけれど、付け加えられたのは、憲法で言う国民統合の象徴みたいなところで、それが国民に圧倒的に受ける。すると、震災があれば“心の救急隊”のようにすぐその場にかけつけるし、僕が見るところでは強迫神経症的に、外に出ていく。これは両陛下ともそうだと思う。 それがいったい何なのだろうか、とずっと考え続けてきたなかで、今回の問題が出てきて、「ついにこの声が出たな」と。もうこれ以上できない。しかも摂政ではなく、位も譲ると。そんなことに僕らは本当に気が付かなかったのか。天皇陛下は退位できないものだという固定観念がまとわりついていて、天皇のイレギュラー発言によりみんなハッと驚き、それが解けたのだと思います。
    神保: 御厨先生は、今上天皇がそこまで国事行為や公務と言われるものを自ら増やしたのは、なぜだというふうに見ていますか。
     

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  • マル激放送800回記念トークライブ 「何でもあり」への抗いのすすめ

    2016-08-03 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年8月3日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第799回(2016年7月30日)5金スペシャルマル激放送800回記念トークライブ 「何でもあり」への抗いのすすめ────────────────────────────────────── 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。マル激は2001年2月16日の第1回放送以来、間もなく第800回の放送を迎えるにあたり、7月24日に東京・渋谷のロフト9でトークイベントを開催した。今回の5金はこのイベントの模様をお送りする。 マル激がスタートした2001年2月以降、米・同時テロがあった2001年9月11日までの間、27回の番組を放送しているが、そこでは、手を変え品を変え繰り出される政府による表現規制の企てや、記者クラブに代表されるメディアの構造問題、小泉政権の発足による政治保守から経済保守への権力の移行、靖国参拝問題と歴史修正主義、地球環境と食の安全問題などが議論されていた。そしてその多くは、依然として今も解決されていない。 ところが2001年9月の同時テロによって、世界の流れが大きく変わった。それがマル激の番組のラインナップからもはっきりと見て取れる。同時テロとその後に始まったアメリカによる「テロとの戦い」の名のもとに行われた報復戦争によって、それまでマル激が扱おうとしていた世界や日本が抱えていた問題の多くが、一旦は優先順位が下げられ、水面下に潜ってしまい、テロや安全といった目先の問題への対応が優先されることになった。 問題は問題として直視し、解決していくしかない。しかし、15年にわたるテロとの戦いによって疲弊した世界の市民社会は、もはや15年前の状況とは大きく異なっている。その間、格差は拡大し、中間層は解体され、メディアの堕落は進行するなど、社会全体が大きく劣化してしまった。市民社会は問題に対峙するための多くのツールを失っている。15年前のようにナイーブに一つ一つの問題に真正面から取り組むだけでは、おおよそ問題の解決は望めそうにない。しかし、ここで「何でもあり」のモードに身を委ねてしまえば、世界は堕ちるところまで堕ちることになる。 今回、800回という節目を迎えるにあたり、東京・渋谷のLOFT9 Shibuyaの新規開店に合わせて行われたトークライブでは、15年前の第1回の放送から、何が変わり何が変わっていないのかを検証した上で、なぜ今、われわれの当初の問題意識の再確認が重要な意味を持つのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・15年経っても、手つかずで残った多くの問題・「われわれ」を維持することは可能なのか・実現しなかった「新しい公共」と、求められる知識社会化・『ポケモンGO』ブームが意味することとは+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■15年経っても、手つかずで残った多くの問題
    神保: 今回はマル激放送800回記念として、渋谷・ロフト9からお送りします。放送は「5金」の無料回になり、せっかく来ていただいたのに「なんだ、ネットで見られるのか」という話ではつまらないと思いますので、放送部分終了後に、質疑応答の時間を設けましょう。さて宮台さん、僕は800回続いている番組というと、『ミユキ野球教室』(1957~90年、日本テレビ系で放送された野球情報番組)くらいしか思い出せません。800回を迎えるにあたっての率直な感想はいかがですか?
    宮台: 神保さんと最初にお会いしたのは1999年、第145回通常国会における盗聴法反対、そのほかにも一連のパッケージになった法律(ガイドライン法制)が持ち上がっていた当時ですね。直感的には、そこから社会はどんどん悪くなっていったな、という感じです。僕は1995年からラジオをやっていて、その意味では週に2回、いわば定点観測的にニュース解説をする場があるのですが、同じことの繰り返しであることがわかる。マルクスは「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」と言いましたが、まさに繰り返すたびにバカげたものになっている。それは犯罪であれ、政治的なイベントであれ、国際的な事件であれ、同じように感じます。
     

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