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記事 5件
  • 2020年マル激総集編 コロナでどれだけ社会の劣化が進んでも、リンゴの木を植え続けよう

    2020-12-30 22:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2020年12月30日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1029回)
    2020年マル激総集編
    コロナでどれだけ社会の劣化が進んでも、リンゴの木を植え続けよう
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     コロナで明け暮れた2020年が終わろうとしている。今年はコロナのために残念ながら恒例の公開収録の開催が困難なため、今年最後のマル激は神保・宮台の2人が、ゲスト抜きで2020年を振り返る回とした。
    コロナの蔓延が始まる前、司法制度の劣化がその時の日本にとっては最大の課題の一つだった。4月には京都で司法問題を議論する国際会議「京都コングレス」が開催される予定だ

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  • 米村滋人氏:日本のコロナ対策論議に根本的に欠けているもの

    2020-12-23 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2020年12月23日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1028回)
    日本のコロナ対策論議に根本的に欠けているもの
    ゲスト:米村滋人氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医)
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     欧米諸国で新型コロナウイルス感染症が猛威を奮うのをよそ目に、日本では中国や韓国などとともに過去半年の間、世界中が羨み不思議がるほどコロナ感染症の流行が抑えられていた。特に日本がこれといった対策を打っているわけではないにもかかわらず、感染者数はアメリカの100分の1、人口あたりで見てもアメリカやフランスの30分の1から50分の1程度しかコロナの感染は広がらなかった。東アジアの諸国でコロナの感染者数が極端に低く抑えられている理由はわからないが、何らかの理由で感染が抑えられているという意味で、科学者たちでさえ「ファクターX」などというミステリアスな表現を使わざるを得なくなっているようだ。
     しかし、である。理由は定かでないものの、そのような幸運、いや天運に恵まれながら、その間、日本は一体何をしてきたのだろうかと思わずにはいられない。11月に入り日本でも都市部を中心にコロナの感染者数が増加に転じ始めた。すると、感染者数でも重症者や死者の数でも、半年前のピーク時とさほど変わらないレベルであるにもかかわらず、早くも医療逼迫や医療崩壊の危機が騒がれる事態となっているではないか。欧米の100分の1程度の感染者数で医療が逼迫してしまうほど日本の医療体制が脆弱なのだとすると、もしファクターXの効力が切れ、日本でも今の欧米並の感染爆発が起きたら、日本は一体どうなってしまうのだろうか。
     医師でありまた法学者でもある東京大学法科大学院の米村滋人教授は、医療の逼迫を理由に大規模な行動制限措置を導入することには否定的だ。なぜならば、日本の医療逼迫の最大の原因は、日本の医療体制とそれを巡る法制度に問題があるからであり、医療体制が問題を抱えたまま単に行動制限を導入しても、国民に大いなる負担や辛苦を強いる一方で、根本的な問題は何も解決されないからだ。要するに問題の本質に手を付けなければ、単に国民の苦労と時間の浪費が繰り返されることになる可能性が大きいのだ。
     実は日本は人口当たりの病床数が群を抜いて世界で一番多い国だ。だから、本来その日本で、この程度の感染者が出ただけで医療が逼迫するなどあり得ないことのはずだ。しかし、病床数は多いが、ICUの数では狭義に定義したICUでは日本はドイツやアメリカの5分の1以下、早晩医療が崩壊してコロナの感染爆発が起きたイタリアよりも少ない。広義に定義したICUを含めても、日本のICUの数は世界の中で決して多い方ではない。
     平時には潤沢すぎるほど病床数を抱える日本は、感染症の爆発などが起きた有事には、通常の病床をICUに転換する必要が出てくる。しかし、現在の医療法では都道府県は医療機関に対して病床の転換やICUの設置、感染症患者の受け入れなどをお願いすることしかできないのだと米村氏は指摘する。しかも、日本は欧米と比べると公立の医療機関よりも民間の医療機関が圧倒的に多いため、コロナ患者を受け入れることで従来の患者を失い、結果的に経営が圧迫される可能性がある民間の医療機関は、政府からお願いをされてもコロナ患者を受け入れようとはしないのだと米村氏は言う。
     医療機関が政府の介入を嫌う理由はわからなくはない。病床の転換のような、ある程度の専門性を要する判断は専門家に任せて欲しいという主張もあり得るだろう。また日本では日本医師会のような政治力のある団体が政府や自民党と伝統的に強い結びつきを持ち、影響力を行使しているのも恐らく事実だろう。しかし、アメリカの100分の1の感染者数で世界一の病床数を誇る日本の医療が崩壊の淵に瀕しているとすれば、今後アメリカの半分、いや10分の1の感染者が出た時に日本でどんな悲劇が起きるかは、想像に難くないはずだ。
     ギリギリまでGOTOなどで国民の人気を取っておいて、最後は自粛要請で国民に負担を押しつけるようなことを繰り返すのではなく、手遅れになる前にそろそろ本気で制度面や法律面での体制作りにとりかかるべきではないだろうか。
     今週は現役の医師にして法学者でもある米村氏と、これまでの日本のコロナ論議で抜け落ちている重要なポイントを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・病床数世界一/感染者数も少ないのに医療が逼迫する理由
    ・日本独自の医療文化と法制度が医療崩壊を招く
    ・全体状況を把握できていない専門家会議に丸投げの対策
    ・コロナ禍での学びを先に活かすために
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    ■病床数世界一/感染者数も少ないのに医療が逼迫する理由
    神保: ここにきて日本の基準で見るとコロナの感染者が急増しており、大きな問題になっています。そのなかで、コロナを論じる上で本当はとっくに考えていなければならない、重大な問題がまだ手付かずになっているのではないか、というのが今回のテーマを決める上での問題意識でした。
     というのも、仮にコロナが1〜2年で収束しても、新しい感染症が出てくるサイクルはどんどん加速しており、「まったく元の世界に戻れる」というのは明らかに根拠のない楽観論であって。本当は平時に考えておかなければならないことを今回、しっかりやっていきたいと思います。
     ゲストは内科医で東京大学大学院法学政治学研究科教授の米村滋人さんです。医学部在学中に司法試験合格、というのは、それだけに集中している人には怒りを買いそうですね(笑)。
    米村: よく言われます。
    神保: いずれにしても、法学者と医者の二足の草鞋を続けられていて、いまも東京都の健康長寿医療センターというところで、週1回、お医者さんをやっていると。
    宮台: 面白いですね。個人的に色々伺いたいことがたくさんあります。 

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  • 清水康之氏:ようやく見えてきたコロナ禍と自殺の関係

    2020-12-16 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2020年12月16日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1027回)
    ようやく見えてきたコロナ禍と自殺の関係
    ゲスト:清水康之氏(NPO法人ライフリンク代表)
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     コロナ禍が続き経済の停滞が長引くことで、今年は日本の自殺者が大幅に増えるのではないかと言われていたが、実は今年7月まで、自殺者数は例年を大きく下回っていた。まさにコロナが猛威を奮うただ中にあって緊急事態宣言下の日本では、自殺者の数が過去5年で最低水準を記録していた。
     ところが7月になって、一気に状況が変わってきた。そこまで低水準で推移してきた自殺者数が7月にほぼ例年並みに戻り、そして10月になって自殺者数は一気に激増してしまったのだ。10月の自殺者数は月間2158人と、過去5年で見ても最高水準に達してしまった。
     NPO法人ライフリンクで自殺対策に取り組んでいる清水康之氏によると、非常時には人間は防衛本能にスイッチが入るため、自殺者は減る傾向にあるのだと言う。また、辛いことがあって自殺したいと思っていた人でも、自分の周りが皆、大変な状態になっているのを見ると、苦しいのは自分だけじゃないことが実感でき、辛さが半減する面があるという。
     しかし、それでも7月と10月には自殺者は急増してしまった。そして、清水氏はその2回の急増の理由が、有名俳優による自殺とその報道ぶりにあったとみて間違いないだろうと指摘する。
     無論、有名人の自殺とそれを受けた洪水のような自殺報道は、トリガー(引き金)として働いたものであり、それ以前に経済的苦境やその他さまざまな理由で生きづらさを覚えていた自殺予備軍とも呼ぶべき人々が大勢いたことは言うまでもない。
     特に今年は女性の自殺が顕著に増えている。コロナによって少なくとも7万人以上が解雇や雇い止めを受けており、8月の労働力調査によるとパート、アルバイトは前年同月と比べて74万人も減っているが、その大半にあたる63万人を女性が占めているのを見てもわかるように、経済的に苦境に陥っている人の割合は、女性が圧倒的に多くなっているのだ。
     清水氏はメディアに対しては、せめてWHOが出している「自殺報道ガイドライン」に準拠した報道を望みたいと語る。単にニュースとして報じているつもりでも、それが大勢の自殺を誘発していることをメディアはもっと自覚する必要があるだろう。
     そして、もちろん自殺の原因となる経済的な苦境やその他もろもろの自殺原因を除去していく施策も政府、民間、個人をあげて必要になるだろう。しかし、清水氏はそれだけでは不十分だと言う。
     確かに、自殺の原因となるファクターには複合的なものがあるが、それをどんなものが占めているのかはある程度分かってきており、ある程度の対策は可能なものもある。しかし、人が自殺に走ってしまう理由は、単に自殺したい原因因子が揃っているからではなく、それを上回るだけの「生きたい」と思わせる因子が足りないからでもある。こんなに豊かな世界に生まれながら、毎年何十万という人を死にたいと思わせ、実際に毎年2万人が自殺を選択してしまう日本は、どこに問題があるのだろうか。
     一時、年間3万人を超えた自殺者が2万人程度まで減ったことで、自殺問題がある程度小康状態にあるかのような印象を受けている方も多いかもしれないが、それでもまだ2万人だ。毎日日本のどこかで50人以上の人が自殺しているのだ。これだけ国をあげての大騒ぎになっているコロナの死者が、日本ではようやく2500人に達しようかというところであることを考えると、やはりこの数字は異常だし、その問題に対するわれわれの無関心も、まだ自分たちが自殺のトリガーとなっていることを自覚していないかのようなメディアの自殺報道も、やはり異常としかいいようがない。
     今回は長年自殺問題に取り組んできた清水氏と、コロナと自殺の関係や、平年とコロナ禍における自殺原因との違い、自殺を減らすためにわれわれが今できることは何かなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・自殺者急増のトリガーになった、有名人の自殺報道
    ・経済政策や家庭内暴力の犠牲となり、増加している女性の自殺
    ・自殺を思いとどまらせるために有効な手段とは
    ・自殺を抑制する「パパゲーノ効果」をもたらす報道を
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    ■自殺者急増のトリガーになった、有名人の自殺報道
    神保: 今回は2013年以来、久しぶりに自殺の問題を取り上げます。しばらくテーマとして真正面から取り上げることがありませんでしたが、ここに来てコロナ絡みも含めて、かなりまずい状況になっていることがわかってきて、きちんとみておかなければならないだろうと。この間に経済的に余裕がなくなり、非正規雇用が増えた。そういうしわ寄せが特定の人たちに出やすくなっていることもあり、またメディアの影響も非常に大きいですね。
    宮台: そうですね。この7年間で孤独死が非常に増えて、行政統計だと在宅死のうちのおよそ4人に1人という割合です。そして、この2〜3年で家族代行終活業者と呼ばれるものが急速に伸びており、家族がいても、事実上「看取る」ということが不可能になっている。本人が事前に依頼する場合もあり、共同墓地に埋葬するところまで、業者がアドバイスしながらセットします。家族がもう崩壊しているのだ、ということも非常に重要なポイントです。 

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  • 高山義浩氏:新型コロナが浮き彫りにするは日本社会の脆弱性

    2020-12-09 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2020年12月9日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1026回)
    新型コロナが浮き彫りにするは日本社会の脆弱性
    ゲスト:高山義浩氏(医師)
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     新型コロナウイルスの感染が再び拡大し医療現場のひっ迫が伝えられている。
     政府は先月26日、これからの3週間が正念場だとして、感染拡大を抑制するための対策を強化する方針を打ち出している。ただ、GOTOの扱いや、東京都の高齢者などへの移動自粛要請など、日々変わる呼びかけに、戸惑いもひろがる。
     沖縄県の公立病院の感染症内科医であり、厚生労働省新型コロナ対策推進本部の参与も務める高山義浩氏は、このままでは年末年始の医療は持たないと危機感を募らせる。
     新型コロナの高齢者の致死率はインフルエンザの比ではなく、80歳代では20%近い。60代、70代でも新型コロナに感染すると、あっという間に人工呼吸器が必要になる人たちがいるという。報道される重症者の数字ではなく、その前の段階の中等症の患者をどう診るかが重要だと高山氏は指摘する。
     ただし、冬場に医療がひっ迫することはこれまでもあった。そこに新型コロナという新たな負荷がかかり、地域医療の課題があらわになっていると高山氏は語る。
     沖縄での経験から、高齢者施設などで利用者の感染が疑われた場合、とにかく素早く対応しクラスターにさせないことが重要だと高山氏は言う。沖縄では医師は24時間以内に現場に行き、感染防御の態勢が整備できているかをチェックし、感染リスクの高い人たちをなるべく広範囲に捉えて検査を繰り返すことで、これまでなんとか感染拡大を抑えてきた。
     沖縄県はGOTOキャンペーンが始まって10日ほどした7月末に、県独自の緊急事態宣言を発令している。高山氏は、旅行そのものよりも、旅行先でマスクを外して飲食をすることなどが感染拡大につながっていることを指摘した上で、どこに行くかではなく、行き先で何をするかが問題であることを強調する。自治体によって状況は異なるが、自治体ごとの施策には予算にも制限があり、限界がある。今こそ国としての判断が必要なときではないかと高山氏は語る。
     高山氏はまた、社会的な支援が必要な弱い立場にある人たちの感染状況を危惧する。感染症に強い社会はどうあるべきか、新型コロナ以後を見据えた議論が求められる。
     GOTOに対する評価やワクチンへの期待と課題なども含め、医療現場と行政の間で日々、新型コロナ対策に取り組んでいる高山氏と、社会学者の宮台真司氏、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・感染データの正しい読み方と、GOTOで注意すべきこと
    ・“何のためのワクチンなのか”を明確にすべし
    ・「PCR検査を徹底すればコロナは乗り越えられる」は甘い
    ・コロナ禍を奇貨として、われわれが学ぶべきこと
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    ■感染データの正しい読み方と、GOTOで注意すべきこと
    迫田: 今回は久しぶりに新型コロナウイルスを取り上げます。第三波といわれ、医療が逼迫しているのではないかという事態になっていますが、宮台さんはどんな風に見ていますか。
    宮台: 日本はもともとアメリカの100分の1の新規感染者数、1日あたり死亡者数重症者数で、フランス、イギリス、ヨーロッパもだいたいアメリカと同じ状況です。他方で自殺者がものすごく増えていて、マル激でも来週、その話をするわけですが、日本の場合、経済死といっても餓死するわけではなく、基本的に失業率と自殺率にかなり高い相関がある。したがって、コロナ死と経済死の合算したものを減らす、というのが政策としては合理的なんですね。
     しかし日本の場合、コロナ対策を打とうにもまず政府が信頼されていない。 

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  • 木村草太氏:学術会議の任命拒否問題で菅政権が掘った墓穴とは

    2020-12-02 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2020年12月2日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1025回)
    学術会議の任命拒否問題で菅政権が掘った墓穴とは
    ゲスト:木村草太氏(東京都立大学法学部教授)
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    政治絡みのニュースでは、巷では桜を見る会での安倍事務所の関与が明らかになったことが大きく注目されているようだが、実はその背後についこの間まで菅政権にとって喉元に突き刺さった棘のような存在になっていた学術会議の任命拒否問題での進展がある。
    桜を見る会の問題が表面化する直前の11月5日、参議院予算委員会で今回の学術会議の任命拒否問題をめぐる政府側の主張を根本から打ち崩す証拠が、立憲民主党の小西洋之参院議員から提示された。
    それは、政府がこれまで学術会議法7条二項が定める学術会議の会員は、会議側からの「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」とする条文を、首相は推薦された委員を形式的に追認するだけでなく、場合によってはそれを拒絶することもできると主張する根拠のもっとも根幹の部分が、まったく誤りだったことを明確に証明するものだった。
    政府はこれまで、教育公務員特例法の10条に謳われている文部大臣が国立大学の学長の任命をめぐり「大学管理機関の申し出に基づいて任命権者が行う」とされている条文について、1969年に当時の高辻正己内閣法制局長官が、憲法第15条を根拠に、文部大臣は例外的に大学側からあがってきた学長候補の任命を拒否することもあり得るとする法解釈を、今回の学術会議の任命拒否の法的根拠の拠り所としてきた。
    ところが、今回小西議員が予算委員会に提出した資料の中には、1983年5月12日の参議院文教委員会において、学術会議の会員の選考が選挙から推薦・任命に移行する際に、改正案を提出した内閣官房と内閣法制局が綿密な協議を行い、推薦制に移行するにあたり、政治介入の余地が一切残らないことが繰り返し確認されていたことを裏付ける証拠が、当時の国会の議事録や内閣法制局の法律案審議録に詳細に記録されていることを示すものだった。
    1983年5月12日の参議院文教委員会で、社会党の粕屋照美参院議員が、210人のうち、例えば政府がその中から2人だけを拒絶するようなことはあり得ないか、と繰り返し問い質したのに対し、法案作成の担当者だった高岡完治内閣官房参事官は「そういうことはできない」とはっきりと答えている。
    日本国憲法はその23条で「学問の自由」を保障している。しかし、菅政権はその一方で、学術会議から推薦された会員の候補を内閣総理大臣が無条件で全員任命しなければならないとすれば、公務員の選定が「国民固有の権利」であることを謳った日本国憲法15条に基づいて、国民の権利を護ることができないと主張することで、何とか今回の任命拒否を正当化しようと必死だ。しかし、日本国憲法にはもう一つ73条というものがある。ここには、内閣は「法律の定める基準に従って」公務員に関する事務を行うことが明記されている。
    結局のところ73条で公務員の人事は法律に則ったものでなければならないことが書いてある以上、最終的には学術会議法7条2項をどう解釈するかが、この問題のカギを握ることに変わりはない。そして、今回その学術会議法7条2項の「推薦に基づき任命する」の条文が、その法律の立案者や当時の内閣法制局によって、例外を認めないほど明確な「形式的行為」に過ぎないことを意味していることが明確になったのだ。
    これは菅政権が明確な違法行為を働いていたことを意味し、重大な問題だ。しかし、世の中は今や桜を見る会の進展に目が向き、これほど重要な国会審議や菅政権が違法行為を働いていた可能性が高いという新たな事実にはほとんど気づいていない。この国会審議がちょうどアメリカ大統領選挙で勝者不明のまま開票が進むただ中であり、少々タイミングが悪かったとも言えるかも知れないが、いずれにしても政府が合法だと主張する根拠となっている高辻発言や憲法15条に基づく首相の任命権の解釈はまったく的はずれだったことだけは、われわれも強く認識しておく必要がある。
    今週は憲法学者の木村草太氏をゲストに招き、学術会議の任命拒否問題を憲法的視点から確認した上で、11月5日の参議院予算委員会でも小西議員と菅首相や内閣法制局長官らとの議論を検証しながら、政府側の主張がなぜ根底から崩れてしまったのか、それが何を意味しているのかなどを、ジャーナリスト神保哲生、社会学者の宮台真司と議論した。
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    今週の論点
    ・押さえておかなければいけない、日本学術会議問題の“前史”
    ・誰にでもわかる矛盾を抱えた官邸のロジック
    ・小西議員が突きつけた、「任命拒否は違法」たる証拠の数々
    ・政治家の思いつきを正当化する、官僚の災難と「正義」の喪失
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    ■押さえておかなければいけない、日本学術会議問題の“前史”
    神保: 世の中は桜を見る会の問題で安倍事務所の関与が明らかになったことで賑わっていますが、どうもこれはかませ犬の可能性があり、マル激では学術会議の話をしようと思います。野党はここぞとばかりに桜を見る会を取り上げていますし、もちろん大問題なのですが、実は学術会議の方がやっと本当に大問題であることがわかったところに、かぶせるようにこのニュースが入ってきて。
    宮台: これまでも何か大きな問題があると、ハレーションを起こすために、ここぞとばかりに別のニュースをリークするという実例があります。
    神保: 何を隠蔽するためのリークなのか、ということは、今日の番組を観ていただかないと、おそらくわからないでしょう。実は学術会議の問題が完全に詰んだ状態になっていたのに、これが世の中に認識されていない。「知っている人だけが知っている」という状態では、国会で明らかになったことなのに投票行動にも反映されず、意味がありません。今回はそんなお話を伺うために、東京都立大学法学部教授の木村草太さんをお招きしました。さっそくですが、ここまでの経緯から確認したいと思います。木村さんがまとめてきてくれました。 

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