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記事 4件
  • 添田孝史氏:劣化した司法に大規模事故は裁けない

    2019-09-25 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2019年9月25日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第963回(2019年9月21日)
    劣化した司法に大規模事故は裁けない
    ゲスト:添田孝史氏(科学ジャーナリスト)
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     判決の中身もさることながら、その理由があまりにもひどすぎる。
     東京電力福島第一原発事故をめぐり、旧経営陣3人が業務上過失致死傷で強制起訴されていた裁判で、9月19日、東京地裁は3被告にいずれも無罪の判決を言い渡した。
     確かに検察が二度までも不起訴処分とした事件だ。検察審査会の二度にわたる起訴相当議決によって強制起訴はされたものの、有罪に持ち込むことが容易ではないことは当初から予想されていた。また、企業が引き起こした事件の刑事責任を特定の個人に負わせるためには、多くの法的な壁が存在することも想像に難くない。
     しかし、今回の判決は業務上過失致死傷の立証に必要とされる「予見可能性」と「結果回避可能性」の2要件のうち、予見可能性まで否定してしまった。この裁判の傍聴を続けてきた科学ジャーナリストの添田孝史氏は、原発の津波に対する脆弱性の問題は1990年代から指摘されてきた問題で、東電は一貫してこれを先延ばしにすることで、ほとんど何も対応をせずにきたと指摘する。政府の地震調査研究推進本部が2002年に策定した「巨大地震の長期評価」をもとに各電力会社が予想される津波水位を割り出したところ、福島第一原発においては+15.7メートルという数値が2008年3月の時点で既に出ており、そこから東京電力は、あらためて土木学会に検討を依頼するなど、明らかな時間稼ぎをしていた。
     女川原発を持つ東北電力や東海第二原発を持つ日本原子力発電のように同じ長期評価を受けて、然るべき対応を取った電力会社もあったことを考えると、これは東京電力に深く根付いた体質と言わねばならないと添田氏は語る。
     強制起訴によってこの事件が刑事裁判に持ち込まれたことによって、公判の場で東電内部で何が起きていたのかが白日の下に晒され、3つの事故調を持ってしても全く表に出てこなかった多くの事実が明らかになった。その意味で、判決は無罪であっても、強制起訴には大きな価値があったことは間違いない。しかし、日航機ジャンボ墜落事故やJR西の脱線事故など、大規模な事故が起きるたびに叫ばれる強制捜査権を持たない事故調査委員会の非力さと、個人を刑事訴追する以外に事実究明の手段がないという不条理な日本の法制度は、そろそろ解決されるべき時に来ているのではないだろうか。
     技術がここまで発展した今日にあっても、いや技術が高度になればなるほど、残念ながらこれからも大規模な事故は繰り返されるだろう。その時に、原因究明が原因企業の善意の協力と、個人の刑事責任の追及に依存したままでは、再発防止はどうにもおぼつかない。
     原発問題を長年取材し、当初からこの裁判を傍聴してきた科学ジャーナリストの添田氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、東電刑事裁判が露わにした、そうでなくても劣化が著しい司法が、大規模事故や高度の技術的な問題を裁くことの限界などについて議論した。
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    今週の論点
    ・明らかになった東電の「時間稼ぎ」
    ・都合の悪い部分が省かれた判決要旨
    ・「疑義がある」で片付けられた山下調書
    ・パブリックマインドなき日本で、問題は解決するのか
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    ■明らかになった東電の「時間稼ぎ」
    神保: 昨日9月19日、東電裁判の一審判決が出ました。今回はこれをしっかり見ていきたいと思います。さまざまな問題が明らかになっていますが、宮台さん、報道や資料をご覧になって、最初に何かありますか。
    宮台: まず、巷であまり話題になっていないですね。これが非常にがっかりだなということです。また、世間の忘却と同じような流れが司法にもあるのかな、というような気がします。
    神保: これまでと一次元違うような劣化という話をすることになると思いますが、僕が非常に印象的だったのは、 

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  • 小泉悠氏:ロシアとアメリカは新たな冷戦に突入しようとしているのか

    2019-09-18 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年9月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第962回(2019年9月14日)
    ロシアとアメリカは新たな冷戦に突入しようとしているのか
    ゲスト:小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター特任助教)
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     20世紀後半の国際秩序を支配した東西冷戦が終結して約30年。世界は再び新たな冷戦時代に突入しようとしているのか。
     先月8日、ロシア北部のアルハンゲリスク州沖の軍実験施設で5人が死亡6人が負傷するという爆発事故が発生した。軍事専門家の間ではロシアが開発中の新兵器・原子力巡航ミサイル「9M730ブレヴェストニク」の実験中に爆発が起きたとの見方が有力となっている。
     原子力巡航ミサイルは昨年18年3月にプーチン大統領が米国のミサイル防衛計画に対抗するために発表した6種類の新型兵器のひとつで、実現すれば事実上半永久的に飛び続けることができるため、普段からこれを多数飛ばしておけば、仮に核攻撃を受けて自国の核兵器が無力化されても、予め飛ばしておいたミサイルによる反撃が可能になるという夢のような兵器だ。ロシアは他にも水中ドローン兵器「ポセイドン」や音速の10倍の速度で飛行できるミサイル「キンジャール」などの新兵器を開発中、もしくは既に配備しているという。
     ロシアによる一連の新兵器の開発は、米露間の新たな軍事的緊張を生み出している。しかも、昨年10月にトランプ大統領がINF全廃条約の破棄を表明し、今年8月2日に失効したことで、両国が新たに核兵器開発競争に突入する恐れが現実のものとなっている。
     軍事アナリストでロシアの政治・軍事情報に詳しい小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教は、米露間で新冷戦が再燃する可能性は高くないとの見方を示す。プーチン肝いりの新型兵器にしても、軍事の専門家の間では利用価値のない代物ばかりだとの指摘が多いという。そもそもロシアには、ソ連時代のようにアメリカと競うほどの国力はない。
     しかし小泉氏はまた、未だにこういう兵器を本気で開発しているところに、ロシアの危うさが潜んでいるとも指摘する。ロシアの軍事関係者は今でもアメリカと全面戦争に突入する可能性を本気で考えている。自国の勢力圏をアメリカから浸食されているとの思いが強く、常識で考えればあり得ないような事態が起きる可能性を完全に排除することができない。
     今回のマル激は、突如として不安定化の様相を見せ始めた国際政治の現状とロシアの世界戦略、INF全廃条約破棄後の世界が安定を保つことができるのかなどについて、小泉氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・ロシアが開発する新兵器「ブレヴェストニク」とは
    ・新型兵器の数々と、核軍縮の歴史
    ・ロシアはなぜ、いま軍拡路線に戻ろうとしているのか
    ・ロシア・プーチン政権の今後と、日本の行く末は
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    ■ロシアが開発する新兵器「ブレヴェストニク」とは
    神保: 先週は大きな話で、米露を中心とした「サイバー戦争」について取り上げました。日本でも大型台風による停電があり、最も暑い時期ではありませんが、すでに熱中症で亡くなった方がいるという報道もあります。サイバー攻撃によりインフラを止めるということは、爆弾を落とすのとはまた違い、真綿で首を締めるように、相手の国を弱らせることができます。今回は核兵器の制限条約がどんどん失効していく、という話題も取り上げますが、サイバーという領域においては、いまのところ条約がない状態です。
     さて、日本の経済も民主制全体も、世界の安定があったから享受できたところがあります。そのなかで、どうもまた非常に不安定化しているのではないかということです。日本ではあまり議論されていませんが、世界が不安定化すれば、年金どころの騒ぎではありません。
    宮台: 外交の問題や軍事の問題は、あまりニュースになりませんね。小泉進次郎の入閣がどうとか、くだらない話ばかりです。 

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  • 山田敏弘氏:世界サイバー戦争への備えはできているか

    2019-09-11 22:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年9月11日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第961回(2019年9月7日)
    世界サイバー戦争への備えはできているか
    ゲスト:山田敏弘氏(国際ジャーナリスト)
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     サイバー戦争などというものはまだまだSFの世界の話だと思っていた。しかし、今や日常的に国家間のサイバー戦が世界の方々で繰り広げられているという。
     今年6月、イランがアメリカの無人偵察機を撃ち落としたが、実はアメリカはその報復としてイランにサイバー攻撃を仕掛け、ロケット弾やミサイルの発射装置を制御するイラン軍のコンピュータ・システムを無力化したと、ワシントンポストが報じている。
    一方、ロシアは2016年の米大統領選挙で、民主党全国委員会のネットワークに侵入し、盗み出した19,000件にのぼるメールをウィキリークスで公開した。その多くが、ロシアに対する強硬路線を主張していたクリントン候補にとって不利になる内容だったために、ロシアのサイバー攻撃がトランプ大統領を誕生させた一つの要因になったとまで言われている。
     こうした状況を受けて、アメリカも本気でサイバー軍の強化に乗り出しており、トランプ大統領はサイバー軍に対して、大統領の承認を得ずにサイバー攻撃を実行する権限を与えている。これを受けてアメリカのサイバー軍は、断続的にロシアに対するサイバー攻撃を実行に移しているとされる。
     中国も世界中の国家機密データを盗むために様々な国にサイバー攻撃を仕掛けている。近年アメリカで相次いだ停電の背後にも中国のサイバー攻撃の存在が疑われている。さらに、イスラエル、イラン、北朝鮮などの小さな国も大国に対する抑止力を保有するために、サイバー軍の強化に躍起になっている。今や世界のサイバー戦競争は激しさを増す一方だ。
     『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』の著者で世界のサイバー戦情勢に詳しい国際ジャーナリストの山田敏弘氏は、既に大国の間ではお互いの国のネットワークに侵入し、いつでも通信ネットワークや電力グリッドなどの大規模なインフラを麻痺させるためのマルウェアを、方々に埋め込んでいる状態だと指摘する。正に核兵器の抑止論と同じように、相手に破滅的な打撃を与える能力を持つことが、自国に対する相手の攻撃を思いとどまらせる唯一の方法になっているというのだ。
     さて、問題は日本だ。憲法上の制約がある日本は、サイバー戦でも先制攻撃は難しいと考えられているため、どうしても受け身にならざるをえない。しかし、山田氏によると日本は既にこの分野でもアメリカの傘の下に入ることを決め、アメリカと安保条約上そのような取り決めをしているそうだ。
     システムが乗っ取られて夏に電気が止められてしまえば、万単位の人が熱中症で死ぬだろう。寒い地域で冬に電気が止まれば、やはり万単位で人が凍死するだろう。飛行機の管制システムや電車の運行システムが乗っ取られたらどうなるだろう。原発の制御システムはどうだ。いや核兵器の発射システムだって。そう考えていくと、今、世界のサイバー戦が抑止力を前提に辛うじて均衡が保たれているという現状の危うさを感じずにはいられない。
     そんなわけで今回のマル激は、山田氏に世界サイバー戦争の最前線の現状を聞いた上で、日本の立場やネットワークに支えられた今のこの上なく便利な生活に潜むリスクなどを山田氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者宮台真司で議論した。
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    今週の論点
    ・日本では報じられない“サイバー戦争”の現実
    ・防ぐのは事実上不可能? サイバー攻撃の種類
    ・日本はアメリカの「サイバーの傘」に守られるだけなのか
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    ■日本では報じられない“サイバー戦争”の現実
    神保: 今回は「サイバー戦争」をテーマに議論したいと思います。今年の夏、アメリカに行っていたときに、ニューヨーク・タイムズなどさまざまなメディアで、サイバー攻撃の話題が出ていました。例えばこの間、イランでアメリカの無人機が撃ち落とされた後、日本ではあまり知られていませんが、アメリカは報復としてイランを大混乱に陥れるようなサイバー攻撃をしたらしいです。その他にも、ウクライナでしょっちゅう大停電が起きているのもロシアのサイバー攻撃だった可能性が高いという話もあります。
    宮台: この番組でも、トランプ大統領誕生の立役者がロシアのハッキングだったということを何度か話題にしてきていますが、まさにそのことを帯に書いて本を出された方が、今回のゲストですね。 

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  • 藤島大氏:5金スペシャル ラグビーW杯を100倍楽しむために

    2019-09-04 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年9月4日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第960回(2019年8月31日)
    5金スペシャル ラグビーW杯を100倍楽しむために
    ゲスト:藤島大氏(スポーツライター)
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     5回金曜日がある月の5回目の金曜日に無料で特別企画をお送りするマル激5金スペシャル。今回は9月20日に日本で開幕するラグビー・ワールドカップの開催を受けて、都立秋川高校、早稲田大学ラグビー部OBでスポーツライターの藤島大氏と桐蔭学園、ICU、コロンビア大学ラグビー部OBでジャーナリストの神保哲生の二人が、「ラグビーをまったく知らない」宮台真司氏にラグビーのディープな面白さを丁寧に解きほぐしていく。
     鍛え上げた屈強な選手たちが全力で身体をぶつけ合うラグビーは、一度嵌まると生涯ファンはやめられないと言われるほど奥の深いスポーツだが、如何せんルールがやや難しいところがあり、入り口のところにちょっとしたハードルがあるのも事実だろう。
     実際はごくごく単純な決めごとがある以外は、とにかく激しく身体をぶつけ合うことが基本のラグビーのルールは決して難しいものではないのだが、試合を見ているとすぐに選手が折り重なって団子状態になったり、かと思うとすぐにペナルティの笛が吹かれたりと、何が起きているのかがわらない場面が多いと感じる人も少なからずいるのではないか。
     そこで今回の5金マル激ではごちゃごちゃしているラグビーという競技の中でも素人にとって一番分かり難い「ブレークダウン(密集)」に焦点を当て、あの密集の中で何が起きているのかなどを徹底的に掘り下げてみた。
     ブレークダウンとはボールキャリアーがタックルなどで止められた時、ボールを中心に両チームの選手同士が折り重なって団子状態になっている、アレのことだ。ラグビーでは一試合の中で選手がボールを持ってパスを回しながら華麗に走る「ボールキャリー」の時間よりも、この「ブレークダウン」の時間の方が長いので、ここで何が起きているかがわかると、ラグビーが100倍楽しくなる。
    今回のマル激では「ブレークダウンこそがラグビーの醍醐味」との大胆な仮説の上に立ち、ブレークダウンの中で行われている激しい攻防を解説してみたい。また、ブレークダウンを理解したからこそ意味がわかる「ジャッカル」や「ノット・リリース・ザ・ボール」などの専門用語にも踏み込んでみたい。
     果たして藤島、神保両氏の解説を聞いた宮台真司氏がラグビーに興味を持てるのか。「宮台氏に面白いと思ってもらえれば、日本中が面白いと思ってくれるはず」という信念の上に立ち、950回を超えるマル激の歴史の中で初のラグビー特集をお送りしたい。
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    今週の論点
    ・ラグビーが面白くなる「ブレークダウン」の攻防
    ・身体能力が優れているだけでは活躍できない
    ・W杯の注目プレイヤーとは?
    ・フーリガニズムのない、紳士的なスポーツ
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    ■ラグビーが面白くなる「ブレークダウン」の攻防
    神保: 5回目の金曜日がある月は、自由なテーマを設定しています。960回番組を作ってきて初めてなのですが、今回は日本開催となるW杯の開幕が9月20日に迫る、ラグビーを取り上げさせてもらいたいと思います。東洋で初開催で、さまざまな意味で画期的なイベントなのですが、僕から見ても、ラグビーは非常にパブリシティが下手なんです。
    宮台: 子供たちは野球ごっこ、サッカーごっこはしますが、普通に成長するとラグビーをきちんと知る機会がありません。突然、テレビで見るとボールが変な形で、なんでこんなことをやっているんだ、という感じで、僕もすべてがよくわかりませんでした。
    神保: そうなんです。しかし、ラグビーがわからないままこのW杯を見逃してしまうのはあまりにももったいない、というのが僕の問題意識で、ここはラグビーを知らない宮台さんに、W杯を100倍楽しんでもらえるように、ディープな世界にお連れしたいと思います。 

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