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記事 4件
  • 香取照幸氏:政治が劣化したままでは真に国民のためになる社会保障制度は作れない

    2022-10-26 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年10月26日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1124回)
    政治が劣化したままでは真に国民のためになる社会保障制度は作れない
    ゲスト:香取照幸氏(上智大学教授、未来研究所臥龍代表理事)
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     現在、日本の社会保障給付費は2022年度の予算ベースで131.1兆円。これは日本のGDPの23.2%に相当し、金額としては年間の国家予算を超えている。財源は、税金と私たちがおさめる保険料だ。しかも、高齢化の進展に伴いこの金額がさらに膨らむのは必至な状況で、自ずと給付のあり方と財源の問題は長らく政治論争の対象となってきた。
     そのような状況の中で、ここに来て政府から突然、健康保険証の廃止や年金支払い期間の延長、介護保険サービスの対象からの軽度者除外などが提案されたのだ。社会保障制度全体の制度設計が見えない中での一方的な負担増や給付減の動きに対して、批判が沸き起こるのは当然だった。
     社会保障改革は喫緊の課題だが、議論は簡単ではない。これまでも2008年に設置された社会保障国民会議に始まり、社会保障制度改革国民会議などを経て、岸田政権では全世代型社会保障構築会議という議論の場が設置されているが、そこでの議論を見る限り今後、社会保障制度改革が国民にとってよりよいものになっていくかについては甚だ疑問が残る。厚生労働省の官僚として介護保険の導入や年金改革を手掛けた当事者でもある香取照幸上智大学教授は、社会保障制度改革は政治そのものであり、政治がその任を担う力を失っている現在において、有効な議論を進めていくことはとても困難な状況にあるとの見方を示す。
     社会保障の役割は個人のライフステージや置かれている状況によってさまざまだ。子育て支援が必要な人もいれば、介護サービスや障害福祉サービスが必要な人もいる。社会全体としてどのような社会保障制度を構築していくべきかについてコンセンサスを得るのは決して容易なことではない。社会保障という壮大な制度の体系は、マクロでみる風景とミクロで見える風景の乖離がとても大きいのだ。そうした中で最適な全体像を構想し、想像力をもって合意を形成していくことが政治に求められているのだが、本質的な議論を避けている今の政治にその大役を期待することは難しいと言わざるを得ない。
     格差と分断がひろがり、しかも政治がそれを助長する傾向があるなかで、社会統合が目的の一つである社会保障はますます理解されにくくなっている。日本では社会保障についての公教育はほとんど行われていないが、スウェーデンの中学校の社会科の教科書には、ひとはひとであることで尊重されるということから始まり、コミュニティー、社会の理解を深め、その最後に社会保障の意義について書かれていると香取氏は話す。有権者の側にも社会保障に対する理解が求められている。
     厚労官僚の立場から政治家と向き合いながら社会保障制度の根幹に関わってきた香取照幸氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が、これからの日本の社会保障制度のあるべき姿とそれを実現する上で必要となる条件などについて議論した。
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    今週の論点
    ・日本には社会保障教育がないに等しい
    ・一人一人にとって全く違って見える社会保障の風景
    ・少子化、人口減少の背景にあるもの
    ・社会統合のための社会保障
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    ■ 日本には社会保障教育がないに等しい
    迫田: 今日は10月21日金曜日、第1124回マル激トーク・オン・ディマンドになります。今日は社会保障を正面から考えようという今までにない形ですが、なぜかというと、例えば介護保険はいいんだけど突然色々変わったり使いにくくなったり、健康保険証がマイナンバーカードに統一されると突然言われたりということがあります。どうなっているんだというようなことを、裏側も含めてうかがいたいと思っています。
    宮台: 何年か前だけど、権丈善一さんという方が当時社会保障の教育に関する検討会に関わっていて、それで思ったことは、日本では社会保障とは何なのかを学ぶチャンスが教育の現場にないということです。最大で1年に2時間など、存在しないも同然な社会保障教育ですよね。そもそも教えていないから、先生方にも確たる認識が存在しません。
     だから、他の国の義務教育課程を経た人であれば分かっているようなことが分かっていません。例えば「救貧」と「防貧」の違い。救貧としての生活保護、防貧としての社会保険などの概念的な区別もほとんどできていないし、概念的区別から出てくる、制度を評価するセンスも存在していない。
     「困るとお金もらえるんでしょ」くらいで終わっています。これは、有権者が政治をチェックする民度という観点から見ると、ほぼ絶望的な状態だと思います。
    迫田: 今日は日本の社会保障を語るのに最もふさわしい、1980年に厚生省に入られてから60歳で定年退官されるまでずっと厚生労働行政に関わってこられた香取照幸さんにお越しいただきました。伺わないといけないことはいっぱいあるのですが、まず、今の宮台さんのお話をどうお聞きになりましたか。 

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  • 飯田将史氏:台湾をめぐる米中衝突の可能性と日本への影響

    2022-10-19 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年10月19日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1123回)
    台湾をめぐる米中衝突の可能性と日本への影響
    ゲスト:飯田将史氏(防衛省防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長)
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     もはや台湾有事は時間の問題なのか。その時、日本はどうするのか。
     中国が台湾統一の野望を捨てず、アメリカがこれ以上西太平洋の制海権を譲る気がない以上、台湾有事は避けられないとの見方が日に日に強まっている。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻で、21世紀となった今も「力による現状変更」が平然と行われる現実を目の当たりにした世界では、台湾有事の脅威が高まっていると誰もが感じるのも無理からぬことだ。
     しかも、それに輪をかけて、アメリカはバイデン大統領が繰り返し台湾有事への軍事介入の意思を表明しているほか、今年8月にはペロシ米下院議長が中国の反対を押し切って台湾訪問を強行すると、その対抗措置として中国は台湾を完全に包囲し、11発の弾道ミサイルを発射したほか、100機あまりの戦闘機を使った過去最大規模の軍事演習を行い、台湾やその周辺国をあからさまに威嚇している。
     1995年に台湾の李登輝総統(当時)が母校のコーネル大学で演説を行なうために訪米した際も、中国はこれに激しく抵抗し、その対抗措置として台湾海峡で大規模な演習を行ったが、当時の中国の軍事力はまだ脆弱だったため、アメリカが周辺海域に2隻の空母を派遣すると、その威圧の前に中国は撤収を余儀なくされていた。しかし、それから4半世紀が過ぎた今、軍事力を増強した中国はもはや当時ほどアメリカを恐れる必要がなくなっている。
     実際、東アジアの軍事バランスを見ると、204万の兵員と750隻の艦艇、3030機の作戦機(爆撃機、戦闘機、攻撃機、偵察機)を持つ中国に対し、台湾の兵力は17万人にとどまる。そこに日本の自衛隊の23万人と米軍の太平洋正面部隊の13万人を加えても、中国には遠く及ばない。少なくとも軍事的には、中国はその気になればいつでも台湾を取れる力を持っている。
     しかし、だからといってただちに中国が台湾に軍事介入するとは限らない。防衛省防衛研究所の研究室長で中国研究が専門の飯田将史氏は、中国は当然、反撃を受ける可能性や台湾侵攻がもたらす外交的、経済的なダメージなどを冷徹に計算しながら、タイミングを計っているだろうと言う。また、単純に兵員や兵器の数だけ見ると台湾は中国に及ばないが、実際に有事となった場合、台湾は中国軍にある程度のダメージを与えるだけの能力はあるという。というのも、ウクライナ国民を見ても分かるように、有事になった場合は国民の支持や軍人の士気なども重要な要素になるからだ。
     とは言え、現在の中国の国際社会における影響力はロシアとは比べものにならないほど強大だ。10月12日に採択された国連総会のロシアに対する非難決議では、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、ニカラグアの4か国が反対し、35か国が棄権したが、飯田氏は、いざ中国が同じように国際社会の審判を受ける状況になれば、中国を支持する国はもっと多くなるだろうと予想する。
     すわ台湾有事となり、バイデン大統領が公言するようにアメリカ軍が参戦することになれば、日本は安倍政権下で制定された安保法制で定義されている「存立危機事態」による武力行使まで行うのか、「重要影響事態」として後方支援にとどまるのかの決断を迫られる。恐らく日本が戦後、これまで経験したことのないもっとも困難な政治決断となるだろう。
     感覚的には台湾有事そのものは「存立危機事態」の定義である「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある状態」とはならないと考えるのが妥当だろう。しかし、政治的には、もし台湾有事に際して日本が「存立危機事態」を認定せず、武力行使まで行わなかった場合、いざ尖閣諸島で同様の事態が発生した時、アメリカは日米安保条約5条に基づき武力行使までしてくれるかどうかが危うくなる恐れがあるということだ。少なくとも政府内ではそういう議論が出てくるだろう。いつものお得意な「場当たり的に対応」に終始するのではなく、今からその時に備えておくべきではないか。
     実際のところ日本にはどのような選択肢が残されているのか。これまでのようにアメリカ一辺倒で行くことが本当に日本の国益に適っているのか。今後、短・中期的には中国の隆盛は続くだろうし、一時的にGDPでも米国を抜いて世界第一の超大国の座に登りつめる可能性が高いことを指摘されている。しかし、その一方で、現在の中国はすでに高齢化が進んでおり、経済成長の鈍化も始まっている。また、国連の推計では、2021年に14億人でピークを迎える中国の人口は、2100年には7億人台まで減少することが予測されている。同予測ではアメリカの2100年時点での人口は4億人を超えるとなっている。GDPでもアメリカは一旦は中国に抜かれるが、その後、また追い越し、その先は人口が増え続けるインドとアメリカの競争になることを予想する向きもある。
     台湾をめぐる米中衝突はあるのか、起こさないためにどうすればいいのか、起こってしまった場合、どんな衝突になり日本は何をしなければならないのかなどについて、希代の中国エキスパートである防衛研究所の飯田将史氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・「必要があれば台湾に軍事介入する」意志を示したバイデン大統領
    ・台湾有事は日本にとって「重要影響事態」なのか、「存立危機事態」なのか
    ・中国が台湾にこだわる理由
    ・日本が外交のフリーハンドを得るために
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    ■ 「必要があれば台湾に軍事介入する」意志を示したバイデン大統領
    神保: こんにちは。今日は10月14日、これが1123回目のマル激となります。今回本編では、台湾情勢と有事となった場合の日本への影響を真剣に考えたいと思っていますが、実は昨日、アメリカで2021年1月6日に起きた議会占拠事件の、January 6th Committeeの最後の公聴会が開かれました。とにかくすごい公聴会で、2021年6月7日から、1000人を超える人たちにインタビューをしてきました。実際にあの日に何が起きたのか、大統領は何をしていたのか、あるいはそこにいたる過程なども徹底的に調べているんですよね。
     委員会で分かったこと自体も非常に重要で、これから発表になると思いますが、同時に、大統領の犯罪というのは、政府の司法機関では裁けないわけですよね。というのは、そもそも大統領が司法長官を任命しているし、 FBI も全部大統領の指揮下にあるからです。そこで議会が、独立検察官を任命したりする場合もありますが、今回は特別委員会を作って証拠を集め、最終的に125,000点の資料と1000人あまりへのインタビューをしました。
     ちょっと思ったのですが、細田衆院議長の問題があった時に、立憲民主党の泉代表が振り向いて議長に何か言ったということがありました。それはともかくとして、そもそも議長には質問はできないんだということですよね。議長が集めて開いているのが国会で、議長は審判のような立場だから、議長に質問するのはだめなんだということです。
    宮台: 答える権限がないってことですよね。
    神保: 細田さんは、党籍は自民党ですが党派は離脱しているということで、今回は党として調べなかったそうです。三権分立の中で、何かの長を調べたり裁いたりするのは難しいということですが、今回、アメリカがここまで徹底的に行いました。分かったことを、必要に応じて司法省に情報提供する、日本でいう刑事告発をすることで、そこから先は司法省もしくはFBIが捜査するという形を取るんです。
     一つは、これは制度として日本も考えなくてはならないのかなと思ったりもしますが、総理の犯罪、大統領の犯罪というのは、その国の中での最高権力者であるが故に、国のあらゆる機関の権力が及ばないところが出てきてしまいます。裁判所だといっても、アメリカは最高裁ですら大統領に判事の任命権限があるのが悪いのですが、実は日本の最高裁も内閣に任命権限があるんですね。結局、完全に三権分立しようと思っても難しいじゃないですか。 

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  • 村沢義久氏:100年に1度のEV革命に乗り遅れる日本

    2022-10-12 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年10月12日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1122回)
    100年に1度のEV革命に乗り遅れる日本
    ゲスト:村沢義久氏(環境経営コンサルタント)
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     日本が自動車産業を失えば、一体何が残るというのだろう。
     世界で一気に自動車のEV(電気自動車)化が進む中、明らかに日本はその波に乗り遅れ始めているという。EV市場に詳しい経営コンサルタントの村沢義久氏の言葉を借りれば、世界で急速に進むEV化の流れの中で日本はもはや「遅れ始めている」などという悠長な段階は過ぎ、既に「手遅れ」の状態にあると言っても過言ではないのだ。
     実際、世界で最初の量産EVとして注目を集めた日産のリーフは2010年の登場以降、ほんの数年前までは常に世界で最も売れているEVのトップ3にランクインしていた。しかし、その後テスラのモデルS、モデル3を始め、中国BYDのHanや五菱の宏光Mini、ドイツ・フォルクスワーゲンのID.4などが登場すると一気に追い抜かれ、2021年以降はトップ10からも姿を消してしまった。
     コロナで海外に行く人の数が減っていることもあるだろうが、日本に住んでいるとEV革命の息吹を感じ取るのが難しい。なぜならば、世界市場で売れに売れているEVを日本国内で目にすることがほとんどないからだ。都内ではせいぜいテスラのモデル3がたまに走っているのを見かける程度だが、それは、日本はEV用の充電設備の設置が大幅に遅れているため、EVの普及率も欧米やアメリカ、中国などからは大きく引き離されているから当然だ。今やヨーロッパでは新車販売に占めるEVの比率は20%にものぼり、アメリカでも2020年以降はEV販売台数が倍々ゲームで増えているのに対し、日本のEVシェアはここ何年もの間、0.7%あたりで停滞したままだ。それもそのはずで、世界で中国の主要EVメーカーや、フォルクスワーゲン、韓国の現代自動車など世界市場でシェアを大きく伸ばしているEVメーカー各社は、ほとんど日本では販売を行っていない。
     しかも、自民党政権が政策的に再生可能エネルギーのシェアを本気で増やす努力を怠ってきた日本の場合、そもそも発電に占める石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の依存度が依然としてとても高いため、EVのオーナーも「CO2を出さない車に乗っています」と胸を張って言えるような状況にない。ここに来て世界各国がこぞってガソリン車を販売できる期限を決めEVシフトを急ピッチで進める背景に、今や気候危機を越えて気候危機とまで言われるようになったCO2の問題があることは論を俟たないが、福島第一原発の大事故を身をもって経験していたにもかかわらず、10年経った今も再エネ市場を成熟させることができていない日本では、その動機付けが弱く感じられるのも否定できない。
     電気の大半を化石燃料を使って発電していることに加え、充電インフラも貧弱となれば、日本でEVが普及しないのも当然のことだ。しかし、問題は日本国内でEVが売れないこともさることながら、既存の自動車メーカー、とりわけ日本の自動車産業の盟主の立場にあるトヨタでEV化が大幅に遅れ、更に既存の自動車メーカー以外に新たなEVベンチャーも登場しないとなると、日本の自動車産業自体が衰退はおろか、下手をすると壊滅の危機に瀕していると言ってもいいほどの状態にある。
     日本にとって裾野の広い自動車産業は、生産誘発係数と呼ばれる他の産業への波及効果も絶大で、自動車産業の隆盛が他産業、ひいては日本経済全体に与える影響も大きい。また日本にとって自動車は、1978年以来、海外での現地生産分を除いても、輸出品として最大の品目であり続けてきている。今現在も自動車と自動車部品を合わせると、日本の全輸出額の2割近くを占めているのだ。自動車がこれまでの日本の経済発展を支えてきたと言っても過言ではないだろう。その自動車で日本が国際的な競争力を失い敗退することになれば、日本全体への影響は計り知れない。
     ある意味では日本の衰退ぶりを象徴するようなEV革命への乗り遅れはなぜ起きたのか。日本にとって起死回生の一策となる奥の手はあるのか。いずれ日本国内の自動車市場も、世界の主要EVメーカーに席巻されることになるのか。村沢氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・ハイブリットにしがみつくトヨタ
    ・EVシフトを加速する各国と、一向に急速充電器が増えない日本
    ・太陽光発電と電気自動車と蓄電池を三位一体で進めて、初めてEVが普及する
    ・日本の歴史的な衰退期を乗り越えるために
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    ■ ハイブリットにしがみつくトヨタ
    神保: こんにちは、今日は2022年10月7日金曜日、1122回のマル激となります。今日のテーマは宮台さんの好きな自動車です。自動車といっても電気自動車、EVをメインで話すわけですが、どちらかと言うとまた、電気自動車論に見えて日本論になってしまう感じがしますね。
    宮台: EV関連政策のいたる所に、日本人の劣等性がよく表れるんですよね。それは、沈みかけた船の座席争い、つまり既得権益へのしがみつきから逃れられないということです。その背後にあるのは、子々孫々に良いプラットフォームを残すという公共精神が存在しないということなので、結局、座席争いの前提になる所属集団の温存にだけコミットメントします。
    神保: それは、実は所属集団の温存にも繋がらないわけですよね。
    宮台: そもそも、ガソリン価格が高騰している時に諸外国がものすごくEVシフトを加速しているのに、日本はガソリン補助金を加速するなどわけのわからない方向にシフトしています。本当に異常というしかありません。
    神保: さて、今日のゲストは環境経営コンサルタントの村沢義久さんです。まず、今日の企画で一番参考にさせていただいたのが『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(2022年2月発売、プレジデント社)です。それから、少し古いですが入門書として、『図解 EV革命 100年に1度のビジネスチャンスが一目瞭然!』(2017年12月発売、毎日新聞出版)も参考にしました。純粋な解説本ですね。この時は、「100年に一度のビジネスチャンス」と、若干前向きに見える表紙ですね。
    村沢: その時は、日本の自動車産業に対する警告のようなものでした。正直に言ってしまうともう遅いかもしれないけれども、今からやれば間に合うかもしれないから頑張れ、という感じです。
     

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  • 5金スペシャル映画特集:つながれなくなった世界で出会いを描いた映画が輝く

    2022-10-05 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年10月5日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド(第1121回)
    5金スペシャル映画特集
    つながれなくなった世界で出会いを描いた映画が輝く
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     月の5回目の金曜日に普段とはひと味違う特別企画を無料放送でお届けする5金スペシャルは、今回も恒例となった映画特集をお送りする。
     今回取り上げた映画は
    1.「秘密の森の、その向こう」(セリーヌ・シアマ監督)
    2.「LOVE LIFE」(深田晃司監督)
    3.「糸」(瀬々敬久監督)
    4.「NOPE」(ジョーダン・ピール監督)
    5.「REVOLUTION+1」(足立正生監督)
    の5作品。いずれも「出会い」や「見る・見られる」をテーマに、人と人との出会いや、人と人がつながり合うことの難しさとその貴さが描かれている秀作だ。
     なお、番組冒頭では、9月27日の安倍晋三元首相の国葬儀を会場内で取材した神保哲生による報告と、末尾に安倍政権下で7年ぶりに質問の機会を与えられた神保哲生が、安倍氏と3度にわたり事前に取りまとめられていないガチンコ質問をぶつけた際のやりとりを収蔵した。
     容赦なくメディアに介入し、記者会見でも記者クラブ加盟社にはすべて質問を事前に提出させた上で、官邸官僚が用意した答えを総理がもっともらしく読むことにより、国会と並び国民が政権を判断する希少な機会である総理会見を完全に形骸化・セレモニー化させてしまったのも安倍政権の大きな特徴だったことは間違いないが、と同時に政権の終盤ではフリーランスやネットメディアにも事前提出のない質問の機会を与え、自分自身の言葉で答えようと努めていたのもまた安倍氏だった。元首相追悼の意味を込めて、これをここに記録と記憶にとどめておきたい。
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    今週の論点
    ・安倍氏国葬からにじみ出る日本の凋落ぶり
    ・『秘密の森の、その向こう』と『LOVE LIFE』に共通するロマンチックな呼びかけ
    ・人とのつながりを描いた『糸』と、夢を見ているような映画『NOPE』
    ・「見る・見られる」モチーフに連なる『REVOLUTION+1』
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    ■安倍氏国葬からにじみ出る日本の凋落ぶり
    神保: こんにちは。今日は2022年9月30日金曜日、これが5回目の金曜日ということで、今年4回目の5金です。
    宮台: 今年は、多くの人にとっては気づきの年ですよね。日本が本質的な意味で落ち目の国なんだということが、よくわかりました。「日本スゲー」という議論は、前にも増して少なくなりました。
    神保: データが全部示してしまっています。例えば、円が安くなったことが、日本が落ちていることを意味するということは、どれくらい理解されているのでしょうか。
    宮台: いろんな人がいろんな場所で言っています。かつては、円が安くなればそれぞれの現地の価格で安く買えるので、日本の輸出企業が強くなるという話でしたが、それは通用しないということは今や明らかです。一つは、基本的には家電製品や車のような耐久消費財はすでに、日本だけでなく東南アジアなどでもほとんど普及している状態だということです。 

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