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記事 4件
  • 武田俊彦氏:患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない

    2023-12-27 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年12月27日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1185回)
    患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない
    ゲスト:武田俊彦氏(元厚労省医薬・生活衛生局長、岩手医科大学医学部客員教授)
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     話題の新薬であるアルツハイマー病治療薬レカネマブは12月20日に保険薬として収載されたが、その薬価は対象患者を限定することで保険財政を圧迫しないぎりぎりの線とされる年間約300万円に決まった。レカネマブのような新薬は大いに喧伝される一方で、医療機関で処方される薬の供給不安が続いている。患者が必要としている薬が手に入らなくなっているというのだ。
     そもそものきっかけは、2年前のジェネリック薬を製造しているメーカーの不祥事だった。ジェネリック薬とは、特許が切れた薬を同一成分で製造した後発医薬品のことだが、ジェネリック医薬品のメーカーで製造上の問題や不正が発覚し、全国各地のメーカーが業務停止命令の処分を受ける事態に発展していた。その影響が解消されないまま、この秋以降、新型コロナとインフルエンザの同時流行やプール熱、溶連菌感染症など子どもの感染症の増加により、咳止め薬や抗生剤といった身近な薬が足りない状況が続いている。
    厚労省のデータでは、今年11月の時点で医薬品全体の24%が出荷停止、または限定出荷となっている。
     それだけではない。海外で承認されている薬が日本に入ってこない状況も深刻の度合いを増している。承認申請までの時間差があるドラッグラグに加えて、そもそも日本での申請さえ行われておらず日本に導入される見込みのないドラッグロスの医薬品が、製薬協の調べで86品目もあるというのだ。その多くは、難病や小児用の薬など患者数が限定されている医薬品だ。
    なぜこうした状況が起きるのか。その背景にあるのが、日本独特の薬価制度にある、と指摘するのは元厚生労働省医薬・生活衛生局長で退官後、薬価流通政策研究会(くすり未来塾)共同代表として薬価制度について発言を続けている武田俊彦氏だ。
     保険で使われる薬は、年を追うごとに薬価が下がっていく仕組みになっている。この20日に、来年度の診療報酬改定が財務大臣と厚労大臣の間で決着したが、診療報酬本体が0.88%プラスとなったのに対し、薬価は1%引き下げて全体で0.12%のマイナス改定となった。このように薬剤費は常に保険財源の調整役を担わされてきた。
     かつては、保険から支払われる薬剤費の公定価格である薬価基準額と、製薬メーカーや卸から購入する価格の差が薬価差益として医療機関の収入になっていた時期もあったが、これが問題となったため、実際の購入価格の平均値に合わせて薬価を引き下げる仕組みが導入された。しかし、いまやこの制度が限界にきていると武田氏はいう。抗生剤や解熱剤といった長く使われている身近な薬はいくら製造しても利益がほとんど見込めないため、メーカーが採算の合わない薬の製造から撤退するといった事態も起きている。
     ドラッグラグ、ドラッグロスが起きるのも、現在の日本の薬価制度では、日本の市場に魅力がないからではないかと武田氏は語る。
     真に必要な薬が患者に届かない事態をこれ以上引き起こさないために、いま何が必要なのか、日本の医薬品産業の現状や、ジェネリック薬推進の課題など、元厚労官僚で現在は内閣官房の健康・医療戦略室政策参与という立場でもある武田氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・海外で使われている薬が手に入らない「ドラッグラグ」、「ドラッグロス」
    ・薬不足の現状とその原因
    ・ハイリスク・ハイリターンの新薬開発
    ・自分たちが使っている薬に興味を持つことから始まる
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    ■ 海外で使われている薬が手に入らない「ドラッグラグ」、「ドラッグロス」
    迫田: 今日は12月22日の金曜日、第1185回目のマル激トーク・オン・ディマンドとなります。今日はお医者さんのところで出される処方薬がどうなっているのかということについて話したいと思います。普通に薬をもらっていると何も問題がないように思いますが、実は現場では薬不足が起きています。今日は元厚労省医薬・生活衛生局長の武田俊彦さんに来ていただきました。
    今年1月にもかかりつけ医の話で来ていただきましたが、武田さんは元厚労官僚でありながら市民サイドの発言をされています。今年9月には内閣官房の健康・医療戦略室の政策参与になられたということで、これからは発言が難しくなるのでしょうか。
    武田: 私なりにやっていこうと思っています。
    迫田: 今は薬が足りないと言われていて、特に医療現場からは悲鳴のような声が聞こえていますが、処方薬の世界がどうなっているのかを伝えていこうと思っています。
     まず先月お伝えしたアルツハイマーの話からですが、岸田首相が施政方針演説で名前も出したレカネマブという薬が保険薬になりました。算定薬価は体重50キロで計算した時に年間で約298万円です。番組では政府が喧伝しているほど効果があるのかという、そもそもの研究の仕方の問題などを伝えたのですが、とにかくいろいろな期待は高まっていて、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制に効果があるとされたことで薬価として金額が設定されました。
    これがアルツハイマー病の人全てに使われるとすればすごい金額になるのですが、ある程度対象は限られ、なおかつ薬を使うまでにいろいろな検査をしなければならず、薬を使える医療機関も限定されます。したがって計算上は患者数が年間3.2万人だと予測され、販売金額は986億円となります。
    武田: レカネマブはいろいろな意味で注目されています。日本のメーカーであるエーザイが世界で初めてアルツハイマー病の進行を抑制する薬を出したわけですが、世界中の製薬会社がトライして皆失敗したんです。その中でエーザイは認知症は自分たちが追究するべき分野だとしてやってきて、成功したということは世界的にも輝かしい成果だと受け止められています。
    販売金額の986億円が大きいのかどうかということは分かりにくいと思いますが、ざっといって日本の医療費は44~45兆円くらいで、そのうちの4分の1は薬代です。その約10兆円の中の986億円ということになります。薬を保険に入れるのかどうかを決める時には、ピーク時にいくら売り上げるのかということを必ず出してもらいます。それで保険でやっていけるのかどうかを見ていくのですが、かつて1,000億円を超える見込みがあった医薬品があったのでレカネマブが過去最高ということではありません。 

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  • 長井暁氏:政治権力に屈し自身のジャニーズ問題とも向き合えないNHKに公共メディアを担う資格があるか

    2023-12-20 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年12月20日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1184回)
    政治権力に屈し自身のジャニーズ問題とも向き合えないNHKに公共メディアを担う資格があるか
    ゲスト:長井暁氏(ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー)
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     NHKが政治に弱いのは、ある意味やむを得ない面がある。法律に基づいて莫大な受信料収入を得ている以上、NHKの運営が国会の監視下に置かれるのは避けられないことだ。
     無論、だからといって放送内容にまで介入するのは憲法上の問題が生じることは論を俟たない。放送内容にまで介入できないような仕組みを作ることは喫緊の課題でもある。しかし、残念ながら今日のNHKが抱える問題は、そうした法律上の建て付けから来る宿命というようなレベルの話ではなく、肥大化した組織が大企業病に蝕まれ、業態の更なる拡大と自身の保身に血道をあげる幹部たちによって、本来の公共放送局としても、また報道機関としても、まともに機能できなくなっているところにあると断じざるを得ない。
     果たしてそのような組織に公共放送の重責を任せていて本当にいいのだろうか。そもそもNHKに公共放送という民主主義における重責を担う資格があるのか。また、「公共放送」の看板を「公共メディア」にすげ替えることで、ネットへの同時配信にまで業務領域を肥大化させることが、果たして真の公共の利益に資するのか。手遅れになる前に、この問題を今ここで真剣に考える必要があるのではないか。
     NHKの現状に危機感を募らせるのが、NHKのOBで現在はジャーナリスト活動のかたわら大学で教鞭を執る長井暁氏だ。
     長井氏は2001年にNHKが放送したドキュメンタリー番組の放送内容に当時自民党の有力議員だった安倍晋三、中川昭一両議員から番組内容を変更するよう圧力がかかり、その後、裁判にまで発展したETV番組改変事件で、現場の当事者の一人だった。政治介入に屈して番組内容の改変を求める経営幹部の要求を現場のスタッフが拒絶するという対立構図の中で、長井氏は単独で記者会見を行い、政治介入の事実やそれに屈した経営陣を批判したことがきっかけでNHKを退職した経歴を持つ。
     あの時、自民党幹部による放送内容に対する政治介入や、それに当たり前のように屈するNHKの幹部をメディアや国会が問題視し、言論介入した政治家の責任や、政治介入にいとも簡単に屈してしまう経営体制が根底から問われていれば、NHKは今日のような断末魔には陥らなかったのではないかと考えると、われわれが20余年前のあの事件ときちんと向き合えなかったことが悔やまれてならない。
     あの時、政治権力に完全に屈したNHKは、その後、政治主導で送り込まれてきた経営委員会と委員長の下で翻弄され続ける。また、政治権力への隷属に加え、自律性を失った組織は、ジャニーズ問題ともまともに向き合えなくなっているようだ。
     長井氏によると、NHK7階のリハーサル室はほぼ旧ジャニーズ事務所に占有されている状態にあり、NHKが放送していた「ザ少年倶楽部」のオーディションや稽古だけでなく、他局の番組向けのジャニーズジュニアのオーディションなどのために大勢の少年たちが毎日のように忙しなく出入りしていたという。もちろんジャニー喜多川氏(本名・喜多川擴=2019年7月9日死去)もそこには姿を見せていた。そのような状況の下で、7階トイレの個室などNHKの館内でジャニー氏から性被害を受けたという告発が出てきているのだ。
     長井氏はNHKと旧ジャニーズ事務所の関係は、リハ室の占有にとどまらない可能性が高いと語る。例えば旧ジャニーズ事務所がNHKの近くに保有する3棟のビルにはNHK本体の他関連会社が軒並み入居しているという。どちらがどちらにどのような便宜を図っているのは定かではないが、NHKと旧ジャニーズ事務所のズブズブの関係をうかがわせるには十分な事例だ。
     こうしたことを含め、NHKは他の民放が行ったような第三者機関による調査を行うべきだとの声は日に日に大きくなっているが、NHKは外部識者による実態調査を頑なに拒み続けている。長井氏は、あまりにも酷い実態がすべて明るみに出れば、NHKは持たないと考えているからではないかとの見方を示す。
    第三者による調査を拒否しつつ、NHKは12月4日に放送した検証番組(クローズアップ現代)で自主検証の結果として、「NHK内部の聞き取りでは、性加害について知っていたNHK職員はいなかった」などと報じているが、長井氏は、関係者はみな知っていたことで、NHKの職員が誰も知らなかったというNHKの公式見解は「ありえない」と、これを一蹴する。
     旧ジャニーズ事務所自身が第三者による厳しい検証を行い、民放放送局の中にも外部委員による調査を実施しているところがあるにもかかわらず、法律で義務づけられている受信料という事実上の税金で運営されているNHKが外部監査を拒絶することが許されるはずがない。
     この番組では東京五輪をめぐるNHKへの政治介入や、かんぽ生命の詐欺商法を告発した番組に対する元総務事務次官で当時日本郵政副社長だった鈴木康雄氏からの介入と、NHKがそれにいとも簡単に屈してしまった実態などを過去にも取り上げてきた。そうした事例を見ても、政治権力には全面降伏し、そしてまた視聴率を保証してくれる旧ジャニーズ事務所ともズブズブの関係にあった可能性が指摘されていながら、まともな外部調査さえ受け付けないNHKだが、そのNHKが今「公共放送」から「公共メディア」への脱皮を図っているというのだから驚きだ。
    NHKはすでに地上波とBSの各番組の「NHKオンデマンド」における有料配信を2008年からスタートしており、地上波では2018年から「NHKプラス」を通じた同時配信も始まっている。NHKは更にその先に、テレビを持っていない人からも受信料をせしめようと目論んでいるようだ。
     総務省の有識者会議が今年8月にとりまとめた報告書では、テレビを持たずにスマホやパソコンだけで番組を見る視聴者に対しても相応の費用負担を求めるという考え方が示された。日本が人口減少局面に差し掛かり、若い世代にはテレビを持たない人も増える中、受信料のみで運営されているNHKが現在の肥大化した巨大な図体を維持するためには、新たな収入源を必要としている。そこでネット配信を行い、いずれはネット利用者からも漏れなく受信料を徴収しようというのだ。
     NTTやJRについても同じことが言えるが、法律によって守られて放送事業を行ってきたNHKのネット進出については、もっと慎重に議論する必要がある。NHK番組をインターネット上でも見られるようになるのは、一見便利で良いことのように思えるかもしれないが、それはNHKが本当に報じなければならないものを報じていればの話だ。
    そうでないならば、膨大な受信料を元に制作した番組がインターネットという自由競争の場に流れることは、政治的な忖度なく報じるべきことを報じたい民間企業を圧迫し、かえって日本全体の報道の質を低下させてしまう可能性がある。
     今回の番組ではビデオニュース・ドットコムが独自に入手した、今年4月19日に秘密裏に開かれたNHK臨時役員会の議事録の内容と、それが浮き彫りにするNHK経営陣の実態も明らかにする。そこでは、総務省の認可を受けていない、つまりその時点ではまだ違法だったBS放送のネット同時配信に勝手に予算を付け国会まで通してしまったことが後に明らかになった際、NHKの経営陣がいかにしてこれを隠蔽し誤魔化すかを事細かに議論している様が浮き彫りになっている。
     NHKはこの役員会の内容は一切公表せず、それとは似ても似つかぬ内容の形式的な会議の議事会を公表している。つまり、公表されているものは事実上虚偽の議事録だったということだ。
     NHKはいつまでジャニーズ問題から逃げ続けるつもりなのか。こうした問題とも向き合えず、政治権力には全面的に屈服する現在のNHKは公共放送の担い手に相応しいと言えるのか。すでにガリバー並に肥大化しているNHKにネット進出などさらなる事業の拡大を認めることが市民社会の真の利益につながるのかなどについて、元NHKチーフ・プロデューサーの長井暁氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・NHKのジャニーズ問題への関与-逃げ切れると思っているNHK
    ・第三者委員会を作って検証するしかない
    ・BS不適切予算計上問題-独自に入手した議事録に書かれていたこととは
    ・NHKのネット進出の論点
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    ■ NHKのジャニーズ問題への関与-逃げ切れると思っているNHK
    神保: 今日は2023年12月15日、1185回目のマル激です。今日はNHKの問題を真正面から取り上げたいと思いますが、NHKが本当の意味で中立で公共的な報道ができないのであれば、どんなに他に素晴らしいものを作っていても評価はできません。今日のゲストは元NHKチーフ・プロデューサーで、現在はジャーナリストの長井暁さんです。NHKがあまりにもやらかすので、最近はよく長井さんに番組に出ていただいています。
    最初は、世論調査の結果まで変える尻尾の振りようだったオリンピック問題、その次は日本郵政問題でした。そしてジャニーズ問題です。これもNHKが決して向き合おうとしない問題ですが、あまりにもひどいので向き合えないということなのでしょうか。 

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  • 石破茂氏:機能不全に陥った日本の政治をどう立て直すか

    2023-12-13 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年12月13日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1183回)
    機能不全に陥った日本の政治をどう立て直すか
    ゲスト:石破茂氏(衆院議員)
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     政治も経済も、そして社会も、日本のすべてが機能不全に陥っているように見える。ここまで政権の支持率が下がれば、普通は野党が国民の支持の新たな受け皿にならなければならないはずだ。しかし、その野党も四分五裂を繰り返し、直ちに政権をもぎ取れる体制ができているとは残念ながら言い難い。
     そこでここは一つ、与党内野党の立場を貫いてきた石破茂氏に、現在の政治状況をどう見ているのか、今政治は何をしなければならないのかなどについて聞いてみた。
     政治は物価高や少子化に対して一向に有効な手立てを打てないまま、不祥事の連鎖が止まらない。結果、経済は30年も停滞したまま、今や日本は先進国の地位から滑り落ちる寸前まで貧しくなってしまった。当然、政権の支持率は2012年の政権交代以来最低の20%台に低迷しているが、政権与党もマスメディアも既得権益の側にあるためか、現在の危機的な状況に抜本的な変革を求める声が社会から一向に上がってこない。
     しかし、市民の間で常に次の首相候補に名前があがる石破茂氏は現在の日本の状況をどう考えているのか。
     内閣支持率の低迷について石破氏は、これ自体は驚くべきことではないと言う。自民党は国会で過半数の議席を得ているが、衆参ともに選挙の投票率が50%程度のため、実際に自民党に投票している人は元々有権者全体の25%前後しかいないというのがその理由だ。
     しかし、逆の見方をすれば、今の自民党は有権者の4分の1に過ぎない伝統的な自民党支持者からの支持しか得られなくなっていることになる。次の選挙でわずかでも投票率が上がれば、自民党は壊滅的な敗北を喫する可能性が現実味を増してきているということだ。
     特に深刻なのは、日本経済が30年も低迷を続けているのに、岸田政権が有効な経済政策を打ち出せていないことだ。岸田政権の経済政策について石破氏は、「成長と分配の好循環」はそもそも今の構造のままでは無理だとの見方を示す。確かに人口ボーナスに後押しされていた高度経済成長期には、成長と分配の好循環は可能だった。しかし日本は人口減少期に突入しており、その状況は少なくとも向こう40年は変わらない。しかも、実際に今、モノを作っているのは海外だ。
     日本経済を低迷から救うためには産業構造の改革が不可欠だと訴える石破氏は、これまで日本が円安と低金利で企業を甘やかしてきたことを問題視する。人口減少に太刀打ちするには個々の生産性を上げるしかないが、これまでは生産性が低いままでも企業は生き残れた。そのために魅力的な商品やサービスを提供できる企業が育たなくなってしまったと石破氏は言う。理論的にはその通りだが、仮に石破政権が実現した時に、どこまで企業に対して厳しい施策を打ち出せるかは現時点では未知数だ。
     その一方で、日本のポテンシャルを伸ばす方法はたくさんあり、特に地方にそのカギがあると石破氏は言う。そもそも東京への一極集中は限界を超えており、災害のリスクなどを考えると、地方への富の分散は待ったなしというのが石破氏の考えだ。
     現在永田町を震撼させているパーティ券問題と裏金疑惑について石破氏は、パーティそのものが悪いのではなく、それが適正に報告されなかったり、裏金になっているところが問題であることを指摘する。アメリカ法をモデルに戦後作られた日本の政治資金規正法は元来、政治資金の金額を制限することを目的としたものではなく、カネの出入りをガラス張りにすることで、利益相反や癒着の政治を防ぐことにあった。
    その意味で今回、パーティ券収入が適正に報告されていなかったり、その一部が裏金として政治家にキックバックされていた問題は、政治資金規正法の精神の根幹に触れる重大な問題であることは間違いない。
     しかし、その一方で、ここに来て記者クラブメディアが毎日のように囃し立てているパーティ券疑惑は、ほぼ全面的に東京地検特捜部によるリーク情報だ。特捜検察が政治の権力闘争に敏感であることは、今さら論を俟たない。今回のパーティ券疑惑が主に安倍派を標的としたものであり、特捜の捜査が官邸のお墨付きを得たものであると考えられる点には注意が必要だ。
     自民党への国民の支持がどん底まで落ちた時、石破氏は政権を引き受ける覚悟はあるのか。その時日本を立て直すには何をしなければならないと考えているのかなどについて、自民党元幹事長の石破茂氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・急降下する日本-小選挙区制導入がもたらしたものとは
    ・今の自民党は産業構造改革を主導できるのか
    ・カネのための政治と政治のためのカネ
    ・石破茂はこの状況で日本を引き受ける覚悟があるか
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    ■ 急降下する日本-小選挙区制導入がもたらしたものとは
    神保: 今日は2023年12月6日の水曜日、第1183回目のマル激です。今回の番組のポイントをあえて最初に言うとすればどこですか。
    宮台: この番組で繰り返しやっているように日本は社会も経済も急降下しつつあり、また人口減少により、少ない現役世代が多数の高齢者を助けなければならなくなっています。したがって生産性が微増するくらいでは可処分所得や購買力はどんどん減ります。しかも既得権益が変えられないのでGAFAMのようなユニコーン企業が出てくる可能性が一切ありません。これが日本の未来だと話してきましたし、これが変わる兆しも今のところありません。
     その状態でどう未来を考えるのかということですが、気休めのやってる感的な希望はどうでもよく、実際に数字を動かさなければなりません。しかし事実上は数字をしっかり見ていないので危機感がありません。ある経済指標では購買力が1970年代水準になっていることが分かっていますが、都市インフラやインターネットなどはあるので、購買力が減っているにもかかわらず貧乏を自覚しないで済んでいます。客観的な状況認識に至らず、正常性バイアスの中でまだ大丈夫だと思っているということが終わりを加速させています。
    神保: そこまで論理的に理解していないかもしれませんが国民もだんだん分かってきていて、政府が弥縫策を出してももう見透かしているところがあります。しかし本来与党がそういった状態であれば野党が控えていなければならないのですが、残念ながら日本の場合は色々な経緯があり野党が今すぐに政権を担当できる状況にはありません。今回のゲストは私の理解として自民党の党内野党である、衆院議員の石破茂さんです。石破さん的には党内野党と呼ばれることをどうお考えですか。
    石破: 何と言われようと構わないのですが、批判がない社会はだめだと思います。しかし批判をすれば後ろから何だのかんだの言われてしまい皆控えてしまうので、議論が起こりません。 

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  • 鶴見太郎氏:被害者意識の強いイスラエルが国際社会を信用できるようにならない限りパレスチナへの攻撃は続く

    2023-12-06 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2023年12月6日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1182回)
    被害者意識の強いイスラエルが国際社会を信用できるようにならない限りパレスチナへの攻撃は続く
    ゲスト:鶴見太郎氏(東京大学教養学部准教授)
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     結局、戦闘停止期間は7日間で終わり、12月1日から再びイスラエルによるパレスチナへの攻撃が再開されてしまった。それにしても、世界中から批判を浴びても、今なおパレスチナへの攻撃の手を一向に緩めようとさえしないイスラエルの論理とはどのようなものなのか。
     イスラエルによる人道を無視した激しい攻撃には、中東諸国はもとより、当初はイスラエルに寄り添う姿勢を見せていた西側諸国の中にも懸念を表明する国が1つまた1つと増え始めている。しかし、当のイスラエルは国際的には後ろ盾となっているアメリカの自制要求をも振り切り、ガザへの爆撃と侵攻を続けている。もともとイスラエルにパレスチナの土地の分割を認める決議を採択し、イスラエル建国の礎を作った国連の意向さえ、まったく意に介さない姿勢を見せている。
     今回のイスラエルのパレスチナ侵攻が、10月7日のハマスによるテロ行為への報復であり、イスラエルにとっては自衛権の行使の範疇とされているのは理解できる。しかし、とはいえ火力で何百倍も優るイスラエル軍による、多くの一般市民が暮らすガザ市街地への容赦無い攻撃は、誰がどう見てもあらゆる国際法に違反する蛮行との指弾を免れないものだ。
     元々パレスチナ問題は、主にアラブ系のイスラム教徒であるパレスチナ人が住むパレスチナの地に、2000年以上前に王国を滅ばされディアスポラとなって世界中に離散していたユダヤ人たちが入植し始めたことに端を発する。その後、イギリスによる無責任な委任統治などの悪影響もあり、パレスチナにおけるパレスチナ人とユダヤ人の間の摩擦は入植するユダヤ人人口の増加に比例するかのように拡大していった。
    1947年に国連が領土をほぼ半分ずつに分ける分割決議を採択したが、その直後に国家を建設したイスラエルが軍事力を背景に支配地域を拡大していった結果、今やパレスチナ全体でパレスチナ人が自治権を有している領土は全体の8%にまで激減している。
     その後、1993年のオスロ合意など、何度か両者を和解させる試みがあったが、その後もイスラエル軍は侵攻して奪った土地から撤退しないばかりか、その後も入植を続け領土を拡大していった。今回の紛争の直接の火種がハマスによるテロ行為だったことは確かだが、そこに至る過程でイスラエルがパレスチナを徹底的に追い詰めてきたこともまた紛れもない歴史的事実だ。
     東京大学教養学部の准教授でユダヤ人の歴史が専門の鶴見太郎氏は、今回ハマスがなぜあのような蛮行に手を染めたのかを理解するためには、過去50年にわたりパレスチナで何が起きてきたかを知る必要があるのと同様に、イスラエルの行動原理を理解するためには、イスラエル人口の7割を占めるユダヤ人たちが、18世紀以降世界でどのような仕打ちを受けてきたかを知ることが不可欠だと語る。
     ユダヤ人に対する迫害というと600万人とも言われる犠牲者を出したナチスドイツによるホロコーストがあまりにも有名だが、実際はユダヤ人はそれ以前から世界各地で迫害を受けてきた。特に19世紀に入り世界各地でナショナリズムが台頭すると、異民族でありながらその国々で経済的な力を得ていたユダヤ人への風当たりは俄然強くなった。ロシア帝国下で発生したポグロム(ユダヤ人に対する襲撃事件)に端を発するユダヤ人の迫害では6~20万人ものユダヤ人が殺害されたとみられるが、世界はこれを黙殺し、事実関係の調査さえなされていない。
     鶴見氏は、国際社会がポグロムをなかったことにして誰にも責任を取らせようとしなかったことで、イスラエルは国際社会に対して揺るぎない不信感を持つようになったと指摘する。そして、ユダヤ人の伝統的な「迫害されても抵抗しない」姿勢が、結果的にポグロムの犠牲者を拡大させたとの反省から、自分の身は自分で守らなければならないと考える人がユダヤ人の、とりわけパレスチナの地に戻って新しい国の建設を掲げるシオニストたちの間で主流になっていった。
    そしてその象徴の1つが、強い軍隊を持ち、攻撃されたら徹底的に反撃することだった。その結果、ユダヤ人たちは自分たちの国家を建設し、それを守ってくることができたとの自負を、今も多くのイスラエル人が持っているのだという。
     しかし、もし純粋に地政学的な判断で動いているとすれば、元々その地に住むパレスチナ人を過度に追い詰めることは、決してイスラエルにとっても得にならないという判断ができるはずだが、イスラエルがパレスチナの地からパレスチナ人を一掃することの正当化に宗教的な教義を持ち出すようになったことが、状況をますます困難にしている。
    もともとユダヤ教は「メシアが降臨したらエルサレムに集まる」ことが教義に定められていたが、それをユダヤ教の指導者たちが反転させ、「自らエルサレムに行く努力を見せればメシアが早く降臨する」に教義そのものを変えてしまったのだという。パレスチナの地、とりわけエルサレムをユダヤ人が完全に支配することがメシアの降臨を早めると真面目に信じているユダヤ人は決して少なくないのだという。
     このような歴史的な紆余曲折を経て今日にいたるパレスチナ問題は、とても短期間で解決できるものではなく、長期的な解決策を模索するしかないと鶴見氏は言う。その際、最も重要なカギを握るのが、イスラエルの国際社会に対する信頼を取り戻せるかどうかだ。ユダヤ人に対する度重なる迫害が行われても、それを黙殺した国際社会に対するイスラエルの不信感は根強い。
    それが、自分のことは自分で守るしかないという過度の自衛意識を芽生えさせ、いかなる攻撃に対しても百倍返しをしなければ国が滅ぼされてしまうという切実な恐怖感をイスラエル人の心に抱かせている。その心の問題を解決しない限り、パレスチナ問題を解決することは難しいだろう。
    また、同時に、パレスチナ側に怨念の連鎖を生まないためにも、常にイスラエルからの脅威に晒され、多くが身内の誰かがイスラエルによって殺されたり暴力を受けたりした経験を持つパレスチナ人の心のケアも国際社会が取り組まなければならない重要な課題になると鶴見氏は言う。
     イスラエルが国際社会から指弾されてもガザへの攻撃の手を緩めようとしない理由や、イスラエルのユダヤ人たちが歴史上、世界の方々でどれだけの迫害を受け、それが現在のイスラエルという国の自衛意識にどのような影を落としているのかなどについて、東京大学教養学部准教授の鶴見太郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・多くの人が知らないイスラエルの基本的な情報
    ・ホロコーストの影に隠れた大量虐殺ポグロム
    ・時限爆弾にすぎなかったオスロ合意
    ・イスラエル人とパレスチナ人の怨念を鎮める努力を国際社会がしなければならない
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    ■ 多くの人が知らないイスラエルの基本的な情報
    神保: 今日は2023年12月2日の金曜日、第1182回のマル激となります。パレスチナ・イスラエル問題については前回、高橋和夫先生に来ていただきお話を聞きました。その時は、パレスチナがこれまでどういう仕打ちを受けてきたのかということが十分に説明されていないと思ったので、どちらかといえばイスラエルが悪者でパレスチナが一方的にやられているという文脈になりました。
    それ自体は間違ってはいないと思うのですが、そもそもなぜイスラエルがそこまでやるのかや、何がそこまでイスラエルを駆り立てているのかなどを理解しなければ状況も分からないですし、ましてや和平の話にはいきません。今日はイスラエルがどういう国なのかということをきちんとやりたいと思います。
    宮台: 東欧研究者でマルクス主義研究者でもある的場昭弘先生が書いていたことから学んだことですが、イスラエルは初めからアメリカに近いように思われているけれど、本当は旧ソ連との関係の方がはるかに深いです。僕は昭和34年生まれですが、中学校に入りソビエトの集団農場について学ぶことと同じようにイスラエルにもキブツに代表される集団農場があるということを知りました。
    そこでは色々なものが社会化、国家化されていています。両方の関係についてはあまり教えてもらいませんでしたが、あれはソビエトから多くの人が流れていることと関係があり、それを誰か言ってくれていたら良かったのにと思います。
    神保: 今回、100対1くらいの火力の差があるのにもかかわらず激しい争いをしていて、7日間の停戦がありましたが12月1日にはイスラエルによる攻撃が再開されました。なぜそこまでやる必要があるのか、またその後にどうするつもりなのかなどについてはイスラエルという国の成り立ちを理解しなければ分かりません。今日はユダヤ人の歴史が専門で、東京大学教養学部准教授の鶴見太郎さんに来ていただきました。
     今日は鶴見先生が書かれた『イスラエルの起源 ロシア・ユダヤ人が作った国』という本を参考にさせていただきました。この副題に驚かれる方もいるかもしれませんが、ロシア・ユダヤ人が作った国というところが今日のポイントになります。また帯に書かれている「なぜユダヤ人は、好戦的軍事国家を作ったのか?」という部分を理解することも大きな目標です。
    神保: 11月29日にイスラエルのネタニヤフ首相が攻撃を再開することを明言していますが、ヘブライ語も堪能な鶴見先生はこの発言をどのように見ましたか。
    鶴見: 政治家なのではっきり話すことは当然かもしれませんが、かなり自信満々ですよね。戦闘を再開するのかどうかについて、逐語訳的には、1つの意味でイエスだと答えています。 

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