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記事 4件
  • 稲場雅紀氏:開発神話を超えてアフリカの今と向き合う

    2019-08-28 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年8月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第959回(2019年8月24日)
    開発神話を超えてアフリカの今と向き合う
    ゲスト:稲場雅紀氏(アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクター)
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     8月28日から、横浜で第7回のアフリカ開発会議(TICAD)が開催される。
     アフリカ55ヶ国から30人を超える首脳や国連機関が一同に会し、「イノベーションと民間セクターの関与を通じた経済構造転換の促進」や「持続可能かつ強靭な社会の深化」などが議論され「横浜宣言」が出されるという。
     日本政府が主導して第一回のアフリカ開発会議が東京で開催されたのは1993年。冷戦後、東西の対立がなくなり西欧諸国のアフリカへの関心が薄まる中、 当時ODA(政府開発援助)が世界一の規模だった日本がアフリカ開発のために力を発揮し、アフリカでのプレゼンスを高めたいということで始まった。その背景には、国連常任理事国入りを目指す日本の思惑もあったとされる。
     それから四半世紀。高い経済成長率を示す国も登場するなか、TICADの役割も変化している。また、アフリカにおける中国のプレゼンスの拡大や、投資先としてのアフリカの位置づけ、部族間闘争後のアフリカの国々の再建の状況、アフリカ連合の動きなど、12億人が暮らすアフリカの状況も大きく変わってきている。
     アフリカの問題に長年関わり、市民社会の代表としてTICADにも参加してきたアフリカ日本協議会の稲場雅紀氏は、アフリカを利用してビジネスチャンスを探すような動きに警鐘を鳴らす。確かに、携帯電話の普及や、ドローンを利用した様々なサービスなど、イノベーションによる“リープフロッグ”とよばれる発展の可能性は大きい。しかし、規制がゆるいアフリカで技術革新を、といった安易な考えが背景にあるのではないかと稲場氏は危惧している。
     西サハラ問題も避けては通れない。あまり報道されていないが、AUの一員であるサハラ・アラブ民主共和国は40年以上もモロッコと対立関係にあり、日本は国として認めていないため、その参加をめぐってTICADの開催を危うくするような状況であるという。稲場氏はそもそもこの西サハラ問題は、モロッコが西サハラに進出して多くの難民がうまれたことから始まっており、民族自決と人権の問題として公正な解決が必要ではないかと指摘する。
     アフリカの経済の状況から市民レベルの文化交流まで、知っておくべきアフリカの現状について、20か国は訪ねたという稲場氏に、社会学者・宮台真司とジャーナリスト・迫田朋子が聞いた。
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    今週の論点
    ・日本主導によるTICAD(アフリカ開発会議)の歴史
    ・日本人が知らない、アフリカの“いま”
    ・AUと日本を悩ませる「西サハラ問題」とは
    ・日本はアフリカとどうかかわっていくべきか
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    ■日本主導によるTICAD(アフリカ開発会議)の歴史
    迫田: 今回のテーマはアフリカです。8月28日から横浜で第7回のTICAD(アフリカ開発会議)が開催されることをきっかけに設定したテーマですが、宮台さん、いま「アフリカ」と聞くと、どんなことを思いますか。
    宮台: 最近僕たちが新聞で読むのは、グローバル化によって貧困率は改善し、都市化/近代化が進んだのにもかかわらず、格差が開き、底辺は非常に苦しい状況にある、というようなことです。そして、そのバックグラウンドがよくわからなくなっている感じがします。かつての受験的知識では、西側にも東側にも属さない低開発国の一群、などと言われていましたが、実際に何が起こって現在のような状況になっているのか、あまり知らされないでいまに至っているという気がしますね。
    迫田: フランスで開かれるG7サミットでもアフリカがテーマになるだろうということで、今回は市民社会の代表としてTICADにもかかわって来られた、稲場雅紀さんをゲストにお迎えしました。 

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  • 川本裕司氏:NHK問題の核心

    2019-08-21 22:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年8月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第958回(2019年8月17日)
    NHK問題の核心
    ゲスト:川本裕司氏(朝日新聞社会部記者)
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     先の参院選で「NHKをぶっ壊す!」のスローガンで耳目を集めた「NHKから国民を守る党」が、比例区で100万票近い票を獲得し、政党要件を満たすまでの支持を集めたことで、改めてNHKのあり方に注目が集まっている。そこで今週のマル激では現在のNHKにどのような問題があり、「NHK問題」の核心とは何かを議論した。
     まず結論から言うと、NHK問題の核心は、現在のNHKという特殊法人のガバナンスの仕組みが、明らかな利益相反を前提としたものになっており、にもかかわらずそれを克服したり、超越したりできるような制度的な担保が存在しないことにある。
     受信料という安定的な収入を得る代わりに、毎年の予算と会社の取締役にあたる経営委員会の委員の人事について国会の承認を必要とする。NHKは、当然時の権力の介入を受けやすい立場にある。それが番組の編成や内容にまで影響を与えるようになれば、公共放送としての役割を全うできなくなるのは当然だ。
     その一方で、NHKは時の権力にすり寄っている限り、年間7,000億円もの収入をもたらしてくれる現在の受信料制度は安泰となり、民放が四苦八苦するのを横目に、NHKはやりたい放題ができる。そして、それがNHKの放漫財政の原因になったり、綱紀の緩みを生み不祥事が相次ぐ原因になっていたり、公共放送本来の役割を超えた番組や事業にまで手を伸ばすことで民業を圧迫する原因となっている。
     つまり、NHKは政治権力の介入を受けやすいと同時に、政治権力に迎合している限り、企業としての立場は安泰だが、その一方で、それでは公共放送としての役割が果たせず、NHKの存在意義自体が揺らいでしまうという究極のジレンマを抱えている。時の権力に擦り寄ったり、圧倒的な財力を使って民放のビジネスを侵害するような番組を放送すればするほど、NHKは公共放送本来の役割から遠ざかっていくことになる。
     本質的に利益相反が避けられない立場にあるNHKが、公共放送本来の責務を果たしていくためには、何を変える必要があるのか、もし今のままの体制が続くのであれば、本当に日本にNHKのような放送局は必要なのか。
     メディア問題の専門家で近著『変容するNHK』でNHKに対する政治介入の歴史に焦点を当てた川本氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・我が世の春を謳歌するNHK
    ・経営委員会の「政府任命人事」化と、政府に働く忖度
    ・NHKの現場は戦っているか
    ・黒幕のいない、鍵のかかった箱の中の鍵問題
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    ■我が世の春を謳歌するNHK
    神保: 今回はあえてこの時期に、NHKを取り上げようと思います。
    宮台: 参院選でNHKから国民を守る党がここまで伸びた以上、当然やるべきでしょう。僕もN国が議席を獲得したのでホッとしました。
    神保: 宮台さんは、N国自体はどう見ていますか? 

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  • 春名幹男氏:日韓のいがみ合いで崩れる東アジアのパワーバランス

    2019-08-14 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年8月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第957回(2019年8月10日)
    日韓のいがみ合いで崩れる東アジアのパワーバランス
    ゲスト:春名幹男氏(ジャーナリスト)
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     日韓関係が悪化すると、誰が一番得をするのか。昨年10月に韓国の最高裁にあたる大法院が、日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し元徴用工への損害賠償の支払いを命じる判決を出して以来、日韓関係は坂道を転がり落ちるように悪化の一途を辿っている。
    今年に入って韓国の司法当局が日本製鉄の株式差し押さえを通知したことに加え、日本側からの度重なる協議の申し入れにも韓国側が応じなかったことを受けて、日本側は遂に通商カードを切る。7月に半導体材料の輸出規制を実施したことに加え、今月2日は韓国を貿易管理上の優遇措置を受けられる「ホワイト国」のリストから除外する政令改正を閣議決定するなど、韓国のアキレス腱ともいえる通商問題で日本は攻勢に出ている。
     共同通信のワシントン支局長などを歴任したジャーナリストの春名幹男氏は、歴史認識の問題に通商問題を絡めた日本政府の判断に疑問を呈する。
     今となっては日本政府は、一連の措置はあくまで通商政策上の措置であり、徴用工問題とは無関係という立場を貫いているが、当初輸出規制を発表する記者会見で、菅官房長官も世耕経産大臣も揃って、徴用工問題で両国の信頼関係が崩れたことを受けた措置であると明言してしまっている。それは記録にも残っているため、韓国が日本の輸出規制をWTOに提訴した場合、日本が不利になる可能性があると春名氏は指摘する。
     それはそれで十分に深刻な問題だが、日韓関係が悪化することで、更に深刻な問題が浮上している。それが東アジアにおけるパワーバランスの変化だ。
     現在、東アジアの安全保障は中国、ロシア、北朝鮮という利害当事国に対して、米国と同盟関係にある日韓両国が、国内に米軍の基地を提供することで、ギリギリのパワーバランスが保たれている。今回アメリカが日韓の仲裁に失敗したことで、影響力の低下も露呈してしまった。東アジアの秩序の変更に野心を燃やす国が、このチャンスを逃すはずがない。
     しかも今の韓国は北朝鮮に親和的な文在寅政権だ。日本がホワイト国からの除外を閣議決定した日、文在寅大統領は日本がその気なら、「韓国は北朝鮮と組んで日本に勝ってみせる」とまで発言している。このまま両国のいがみ合いが続くと、日本が韓国を「向こう側に追いやってしまう」ことにもなりかねない。
     更に困ったことに、日本でも韓国でも、相手に厳しいスタンスを取ることが、政権の支持率を浮上させる効果を持っている。春名氏は日本が厳しい対抗措置をとれば取るほど、日本の歴史認識に対する韓国側の反発は強まるだろうと予測する。韓国には日本の植民地支配に対する根強い被害者意識があるため、日本側にとっては十分に正当な措置であっても、韓国側にそうは受け止められない可能性が高いからだ。
     そして日韓の関係が悪化すればするほど、東アジアの安全保障を不安定化させる要因となり、それは日本の安全保障にとって決して得にはならないと春名氏は言う。
     日韓関係の悪化は東アジアのパワーバランスにどのような影響を与えているのか。日本にとってどのような対応を取ることが国益に資する結果となるのかなどを、春名氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・韓国がWTOに正式提訴すれば、日本の旗色は悪い
    ・徴用工問題も、個人の請求権は消滅していない
    ・未来志向になれない日韓関係
    ・日本はすでに「取るに足らず」と見切られている
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    ■韓国がWTOに正式提訴すれば、日本の旗色は悪い
    神保: 今回は日韓関係を扱いますが、宮台さん、現状をどう表現したらいいでしょうか。のっぴきならない状況にある、という表現でいいのでしょうか。
    宮台: そうですね。お互いの政府が、支持率が上がるような行動をとると、こういう外交になるんです。特に日本の政権は「政権を維持するための政権」になっているから、そういう観点からすると強硬策は合理的です。おそらくそれがお互いにわかっていて、のっぴきならないのだけれど、政権が変わればそれで終わるんじゃないか、という気もします。 

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  • 小幡績氏:MMTは日本経済の救世主となり得るのか

    2019-08-07 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2019年8月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第956回(2019年8月3日)
    MMTは日本経済の救世主となり得るのか
    ゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学ビジネススクール准教授)
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     経済が鈍化した時、政府が財政赤字を気にすることなくジャンジャン国債を増発して公共投資を増やすことで景気をテコ入れできれば、どんなにいいだろう。そして、その借金返済のためには、ジャブジャブ通貨を発行して返済に充てればいいなんて話があれば、政治家でなくても大喜びで飛びつくはずだ。
     もちろん、そんなことをすれば、たちまち通貨の価値は暴落し、インフレが頭をもたげ、市民生活が破壊されるのは必至だ。少なくとも経済学の世界でそれは常識だった。だからこそ、これまでそのような政策は御法度とされ、国家の体を成していない破綻国家や独裁国家以外は、そのような政策は採用されてこなかった。
     しかし、今、自国の通貨建ての国債を発行できる国はデフォルトに陥ることを気にせず積極的に国債を発行して景気刺激策を進め、借金の返済は通貨の発行で賄えばいいんだという「経済理論」が、世界中で注目されている。
     それがMMT(modern monetary theory=現代貨幣理論)と呼ばれるものだ。
     経済学の世界では同様の主張は以前から存在したが、既存の経済学の常識をことごとく覆すこのような理屈が本気で受け止められる事はなかった。しかし、MMT論者の一人だったニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が、2016年の米大統領選でヒラリー・クリントンと民主党の公認候補争いでデッドヒートを演じたバーニー・サンダースの経済アドバイザーに就いたことで、アメリカでもMMTの認知度が一気に高まった。
     民主社会主義者を自認し、バラマキとも思える再分配政策を主張するサンダースは、その財源として富裕層や企業に対する増税と併せて、ケルトンの主張に沿った国債の増発を主張した。更にアメリカでは、18年の中間選挙で最年少当選を果たして注目を集めたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員が、その政策「グリーン・ニューディール」の中でMMTの主張を取り入れたことで、アメリカではMMTに対する注目が俄然高まった。
     一方、日本ではそもそも未曾有の金融緩和と財政支出をセットで行うアベノミクス自体が擬似MMTと言ってもいいような性格を持っていたため、これまでMMTが大きく注目されることはなかったが、此度の参院選で大躍進を果たしたれいわ新選組の山本太郎氏が、立命館大学の松尾匡教授らのアドバイスに基づいて、MMTの主張を採用する政策を打ち出したことで、MMTへの関心の度合いが高まってきている。
    既存の経済理論の枠組みをことごとく無視するかのようなMMTの理論的枠組みを、クルーグマン、サマーズといった主流派経済学者たちはいずれも酷評している。しかし、主流派経済学者たちの主張に沿った経済運営を続けてきた結果、リーマンショックは防げなかったし、各国で経済格差が広がり、それが政治不安まで生んでいることも事実だ。
     経済は専門性が求められる分野ではあるが、MMTとMMTをめぐる論争は、われわれに多くの視座を与えてくれているので、継続的に見ていきたい。まずその第一回目として、行動経済学が専門で、主流派経済学とも一定の距離を置いている慶應義塾大学の小幡績准教授に、MMTとはどのような理論なのか、どのような批判が上がっているのか、そしてなぜ今注目を集めているのかなどをジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
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    今週の論点
    ・MMTは「貨幣は無視する」という理論
    ・日本の“インフレ体温計”は壊れている
    ・サマーズ「MMTはブードゥー経済学である」
    ・過度な期待を集めたマクロ経済学の限界
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    ■MMTは「貨幣は無視する」という理論
    神保: 今回のテーマはMMT(modern monetary theory=現代貨幣理論)ということで、事前に資料をお渡ししましたが、宮台さん、どんな印象でしたか?
    宮台: ここまで話題になっていますが、その妥当性に関する議論があまり出てきておらず、反緊縮派の背後にMMTがあるんだ、という話ばかりを聞いています。中身について資料を読んでも、いまいちよく分かりません。日本の労働生産性、潜在成長率、最低賃金など、“盛れない指標”がいずれも悪いなかで、貨幣を刷るとか、貨幣を使うということを政府や日銀が行なうことで、なにかいいことがあるのでしょうか。
    神保: そうですね。主流の経済学者たちからの批判を見ると、箸にも棒にもかからないような言い方になっています。ただ一方で、これまで主流の経済学に則ってきた結果がこの状況なのではないか、それがナンボのものか、と思う部分もあります。 

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