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原田隆之氏:東京五輪をタバコ五輪にしてはいけない
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原田隆之氏:東京五輪をタバコ五輪にしてはいけない

2018-06-06 22:00

    マル激!メールマガジン 2018年6月6日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第895回(2018年6月2日)
    東京五輪をタバコ五輪にしてはいけない
    ゲスト:原田隆之氏(筑波大学人間系教授)
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     安倍政権が本気で岩盤規制にドリルで風穴を開けたいのなら、獣医学部新設も結構だが、まずこれを何とかしたらどうだろう。他でもない、タバコ利権だ。
     受動喫煙を防止するための措置を含む健康増進法改正案の国会審議が始まる。しかし、今国会に提出されている受動喫煙防止法案は、店内を全面禁煙とする対象から床面積100㎡以下の飲食店と、資本金5000万円以下の事業者を除外するザル法だ。このままでは2008年の北京五輪から実現してきたスモークフリー五輪の伝統が、東京大会で途切れてしまう。
    それにしてもなぜ日本はタバコ規制にこんなにも弱腰なのか。タバコの健康被害については、もはや疑いを挟む余地はない。喫煙がCOPD(慢性閉塞性肺疾患)やバージャー病(閉塞性血栓性血管炎)、肺がんや口腔がん、咽頭がんなど様々ながんのほか、数々の心疾患や脳疾患、糖尿病、うつ病などの主要因となっていることは、もはや医学界の常識となっており、喫煙に起因する医療費も年間1兆4900億円にのぼるという。
     しかも、喫煙は本人だけでなく、周囲の人間も巻き込む。厚労省によると、喫煙によって生じる主たる有害物質であるニコチン、タール、一酸化炭素の含有量は、主流煙(喫煙者自身が吸引する分)より副流煙の方が3倍以上も高いのだという。結果的に、年間1万5000人が受動喫煙が原因で死亡していると推計されている。
     日本がここまで被害が明確なタバコの受動喫煙を法律で規制することができない最大の理由は、タバコがタバコ利権という、日本最大にして最強の利権構造によって支えられているからだ。そもそもタバコの主管官庁は財務省だ。多くの国では健康被害が深刻なタバコは日本の厚労省にあたる、厚生行政を司る官庁の管理下にあるが、日本ではタバコは明治初期にタバコ税が国にとって貴重な税の財源だったことの名残で、未だに財務省が握っている。元々、財務省は国民の健康の心配をする役割を担う官庁ではない。
     財務省とJT、族議員と葉タバコ農家、タバコ小売店、飲食店の4者が互いに持ちつ持たれつの関係の中で強固な利権を守っている。タバコ三法と言われるたばこ事業法、日本たばこ産業株式会社法(JT法)、たばこ耕作組合法のタバコをめぐる法的な枠組みは、この強固な利権構造によって維持され、誰も手出しをすることができないようになっている。
     実はこのような旧態依然たる利権が温存されているシークレットが一つある。それはメディアが軒並みタバコ利権に浸食されていることだ。JTは毎年200億円を超える広告を出稿している。そもそも独占企業で競争する必要がないJTが、毎年CMに200億円も使う理由は、タバコに対する否定的な報道を押さえること以外に何があるのか。結果的にメディアが、タバコ利権の最後の守護神のような役回りを演じる格好になっている。
     臨床心理学、犯罪心理学が専門で薬物の依存症に詳しい筑波大学の原田隆之教授は、タバコには一つもメリットがないことを強調する。健康に有害なことがわかっていてもタバコをやめられないのは、ニコチンに強度の依存性があるからだ。原田氏によると、ニコチンは最も毒性や依存性が強いとされる麻薬のヘロインと、毒性においても依存性においても同程度だと指摘する。
     原田氏によると、独力で禁煙を試みた場合の成功率は5%と低いが、そこにカウンセリングを加えることで、成功率を30%程度まで引き上げられるそうだ。タバコを吸うとリラックスできるというのも、医学的には根拠がなく、喫煙によってニコチン依存症の禁断症状から解放されることを「リラックス」と勘違いしているに過ぎないのだと原田氏はいう。ニコチンは本来、「中枢神経刺激剤」であり、リラックスとは逆の効果を持つ。
     ことほど左様に、タバコについては情報が不足し、誤謬が蔓延っている。依存症の視点からタバコの問題に取り組んできた原田氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・政治家に「国民の生命や健康を守る」という気概がない
    ・なぜ日本では“ザル法”しか通せないのか
    ・タバコをめぐる「7つの神話」の欺瞞
    ・自分が求める人生のために、タバコをやめる
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    ■日本の政治家には、国民の生命や健康を守る、という気概がないのか

    神保: 今回はマル激としては久しぶりに、タバコをテーマとして取り上げます。と言うのは、昨日(5月31日)が世界禁煙デーだったんです。

    宮台: まったく知りませんでした。

    神保: 今年だけでなく毎年、世界で禁煙週間が設けられているのに、知られていません。一方で、JTのCMは毎日のように見ます。タバコの銘柄CMでもないし、国内では独占企業なのに、なぜ広告しているのか、その目的は明らかじゃないですか。

    宮台: 自分たちに不都合な情報をメディアに流させないための金質みたいなものです。あらかじめ言っておくと、ネットで情報を探せば、新型タバコも含めてどれだけ有害なのか、世界ではどんな対策が取られているのか、ということはすべて明らかです。しかし日本ではほとんど問題が動いていません。不思議なことです。

    神保: 新聞とテレビと主要雑誌を見ているだけでは、基本的に何も起きていないかのように見えます。以前、オリンピックに関しては食料調達の問題など、ロンドン、リオと守られてきたサステナブル基準が、どうも東京では崩れそうだ、という話をしました。実はタバコに関しても、2008年の北京五輪から、ロシア、韓国でさえ、スモークフリーを守ってきました。そのなかで、今国会で審議される「健康増進法改正案」は――。

     
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