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松本俊彦氏:薬物依存症には刑罰ではなく治療が必要なことを知って欲しい
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松本俊彦氏:薬物依存症には刑罰ではなく治療が必要なことを知って欲しい

2019-12-11 20:00
    マル激!メールマガジン 2019年12月11日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第974回(2019年12月7日)
    薬物依存症には刑罰ではなく治療が必要なことを知って欲しい
    ゲスト:松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長)
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     著名人による違法薬物事件が相次いで世間を賑わせている。
     無論、違法薬物は違法である以上、取り締まられなければならないし、誰であっても法に触れれば制裁を受けるのは当然のことだ。しかし、それにしてもわれわれの社会は薬物との向き合い方が、あまりにも旧態依然としていないだろうか。
     薬物、とりわけ「麻薬」と呼ばれてきた薬物は依存性があるため、日本では「人間やめますか・・・」や「ダメ、ゼッタイ」などの標語とともにそれを絶対悪と位置づけ、社会から隔絶する政策をとってきた。そして、それが一定の効果をあげてきたことも事実だろう。しかし、それは一方で、何かの間違いで麻薬にはまってしまった人の社会復帰、薬物依存症を克服することを困難にしている。
     国立精神・神経医療研究センターで薬物依存症の治療に取り組む松本俊彦氏は、薬物依存症は治療が必要な病気だが、日本では薬物に対する社会のスティグマがあまりにも強いため、薬物に手を出した人間は自ずと社会から排除されることになり、結果的に十分な治療を受ける環境を確保することが困難になっていると指摘する。その結果、一度薬物依存症になると、社会復帰が難しいために再び孤独な状態に追いやられ、結果的に薬物依存症を再発させるという負のサイクルを繰り返す人が後を絶たないのが実情だという。
     本来であれば、社会が「麻薬は絶対に手を出してはならない悪いもの」と位置づけることと、「薬物依存症は治療が必要な病気」であることを理解することは、両立し得る命題のはずだ。にもかかわらず、メディアが薬物事件で逮捕された芸能人が出演しているテレビ番組の放送を中止するなど、依然として「臭いものに蓋」をするかのような姿勢が当たり前のように横行しているうちは、依存症の問題と向き合えているとは到底言えないだろう。
     オピオイドの過剰摂取で既に40万人以上の死者を出し、今も400万人を超える依存症者を抱えるまでになっているアメリカも、麻薬問題が社会悪として政治利用され続けてきた結果、1990年代後半にオピオイドの蔓延が始まった時、社会がこれと正面から向き合うことができず、対応が後手後手に回った経緯があった。いみじくもアメリカで麻薬を決定的な社会悪と位置づける決め手となった政治キャンペーンのスローガンは1980年代初頭のナンシー・レーガン大統領夫人による「ジャスト・セイ・ノー」だった。そう、日本の「ダメ、ゼッタイ」はほぼその丸写しだったのだ。
     依然としてアメリカや日本は「ジャスト・セイ・ノー」や「ダメ、ゼッタイ」の世界観から抜け出せていないが、EUやカナダの一部の地域では薬物事件を犯罪化することをやめ、依存症者に対して置換薬物などを提供しながら薬物維持治療を継続的に行うハームリダクションという考え方が主流になりつつあると松本氏は言う。その結果、特にポルトガルなどで薬物の蔓延や依存症の減少に成功するなどの成果が報告されているそうだ。
     薬物依存症とは何か、いかにしてわれわれの社会に薬物に対するスティグマが醸成されたのか、メディアの薬物報道はこのままでいいのか、われわれの社会から薬物問題や依存症とどう向き合うべきかなどについて、松本氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・曖昧で誤解を招く「依存症」という言葉
    ・建て増しを続け、意味不明になった国内の取締法
    ・刑罰よりも治療が有効な理由
    ・間違いだらけの報道と、知っておきたい「ハームリダクション」
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    ■曖昧で誤解を招く「依存症」という言葉

    神保: 今回のテーマは薬物問題です。有名人の逮捕が相次いでいるから取り上げるというわけでもないのですが、僕がアメリカのオピオイド問題を取材していることもあって、社会のリアクションやメディアの報道も含めて、一度きちんと整理しておいたほうがいいかなと思って企画しました。宮台さんから、最初に何かありますか。

    宮台: この番組ではオピオイド問題についてもある種の社会現象として扱いましたが、僕はそれとは別に、ピエール瀧氏のコカイン所持問題で、ソニーがコンテンツの配信販売を停止したことについて抗議をするという活動をしています。 
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