• このエントリーをはてなブックマークに追加
木村草太氏:学術会議の任命拒否問題で菅政権が掘った墓穴とは
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

木村草太氏:学術会議の任命拒否問題で菅政権が掘った墓穴とは

2020-12-02 20:00
    マル激!メールマガジン 2020年12月2日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
    ──────────────────────────────────────
    マル激トーク・オン・ディマンド (第1025回)
    学術会議の任命拒否問題で菅政権が掘った墓穴とは
    ゲスト:木村草太氏(東京都立大学法学部教授)
    ──────────────────────────────────────
    政治絡みのニュースでは、巷では桜を見る会での安倍事務所の関与が明らかになったことが大きく注目されているようだが、実はその背後についこの間まで菅政権にとって喉元に突き刺さった棘のような存在になっていた学術会議の任命拒否問題での進展がある。
    桜を見る会の問題が表面化する直前の11月5日、参議院予算委員会で今回の学術会議の任命拒否問題をめぐる政府側の主張を根本から打ち崩す証拠が、立憲民主党の小西洋之参院議員から提示された。
    それは、政府がこれまで学術会議法7条二項が定める学術会議の会員は、会議側からの「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」とする条文を、首相は推薦された委員を形式的に追認するだけでなく、場合によってはそれを拒絶することもできると主張する根拠のもっとも根幹の部分が、まったく誤りだったことを明確に証明するものだった。
    政府はこれまで、教育公務員特例法の10条に謳われている文部大臣が国立大学の学長の任命をめぐり「大学管理機関の申し出に基づいて任命権者が行う」とされている条文について、1969年に当時の高辻正己内閣法制局長官が、憲法第15条を根拠に、文部大臣は例外的に大学側からあがってきた学長候補の任命を拒否することもあり得るとする法解釈を、今回の学術会議の任命拒否の法的根拠の拠り所としてきた。
    ところが、今回小西議員が予算委員会に提出した資料の中には、1983年5月12日の参議院文教委員会において、学術会議の会員の選考が選挙から推薦・任命に移行する際に、改正案を提出した内閣官房と内閣法制局が綿密な協議を行い、推薦制に移行するにあたり、政治介入の余地が一切残らないことが繰り返し確認されていたことを裏付ける証拠が、当時の国会の議事録や内閣法制局の法律案審議録に詳細に記録されていることを示すものだった。
    1983年5月12日の参議院文教委員会で、社会党の粕屋照美参院議員が、210人のうち、例えば政府がその中から2人だけを拒絶するようなことはあり得ないか、と繰り返し問い質したのに対し、法案作成の担当者だった高岡完治内閣官房参事官は「そういうことはできない」とはっきりと答えている。
    日本国憲法はその23条で「学問の自由」を保障している。しかし、菅政権はその一方で、学術会議から推薦された会員の候補を内閣総理大臣が無条件で全員任命しなければならないとすれば、公務員の選定が「国民固有の権利」であることを謳った日本国憲法15条に基づいて、国民の権利を護ることができないと主張することで、何とか今回の任命拒否を正当化しようと必死だ。しかし、日本国憲法にはもう一つ73条というものがある。ここには、内閣は「法律の定める基準に従って」公務員に関する事務を行うことが明記されている。
    結局のところ73条で公務員の人事は法律に則ったものでなければならないことが書いてある以上、最終的には学術会議法7条2項をどう解釈するかが、この問題のカギを握ることに変わりはない。そして、今回その学術会議法7条2項の「推薦に基づき任命する」の条文が、その法律の立案者や当時の内閣法制局によって、例外を認めないほど明確な「形式的行為」に過ぎないことを意味していることが明確になったのだ。
    これは菅政権が明確な違法行為を働いていたことを意味し、重大な問題だ。しかし、世の中は今や桜を見る会の進展に目が向き、これほど重要な国会審議や菅政権が違法行為を働いていた可能性が高いという新たな事実にはほとんど気づいていない。この国会審議がちょうどアメリカ大統領選挙で勝者不明のまま開票が進むただ中であり、少々タイミングが悪かったとも言えるかも知れないが、いずれにしても政府が合法だと主張する根拠となっている高辻発言や憲法15条に基づく首相の任命権の解釈はまったく的はずれだったことだけは、われわれも強く認識しておく必要がある。
    今週は憲法学者の木村草太氏をゲストに招き、学術会議の任命拒否問題を憲法的視点から確認した上で、11月5日の参議院予算委員会でも小西議員と菅首相や内閣法制局長官らとの議論を検証しながら、政府側の主張がなぜ根底から崩れてしまったのか、それが何を意味しているのかなどを、ジャーナリスト神保哲生、社会学者の宮台真司と議論した。

    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    今週の論点
    ・押さえておかなければいけない、日本学術会議問題の“前史”
    ・誰にでもわかる矛盾を抱えた官邸のロジック
    ・小西議員が突きつけた、「任命拒否は違法」たる証拠の数々
    ・政治家の思いつきを正当化する、官僚の災難と「正義」の喪失
    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

    ■押さえておかなければいけない、日本学術会議問題の“前史”

    神保: 世の中は桜を見る会の問題で安倍事務所の関与が明らかになったことで賑わっていますが、どうもこれはかませ犬の可能性があり、マル激では学術会議の話をしようと思います。野党はここぞとばかりに桜を見る会を取り上げていますし、もちろん大問題なのですが、実は学術会議の方がやっと本当に大問題であることがわかったところに、かぶせるようにこのニュースが入ってきて。

    宮台: これまでも何か大きな問題があると、ハレーションを起こすために、ここぞとばかりに別のニュースをリークするという実例があります。

    神保: 何を隠蔽するためのリークなのか、ということは、今日の番組を観ていただかないと、おそらくわからないでしょう。実は学術会議の問題が完全に詰んだ状態になっていたのに、これが世の中に認識されていない。「知っている人だけが知っている」という状態では、国会で明らかになったことなのに投票行動にも反映されず、意味がありません。今回はそんなお話を伺うために、東京都立大学法学部教授の木村草太さんをお招きしました。さっそくですが、ここまでの経緯から確認したいと思います。木村さんがまとめてきてくれました。 
    この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
    ニコニコポイントで購入

    続きを読みたい方は、ニコニコポイントで記事を購入できます。

    入会して購読

    この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。

    コメントを書く
    コメントをするにはログインして下さい。