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小林良彰氏:与党大勝の総選挙で明らかになった本当の民意とは
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小林良彰氏:与党大勝の総選挙で明らかになった本当の民意とは

2017-11-01 14:00

    マル激!メールマガジン 2017年11月1日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第864回(2017年10月28日)
    与党大勝の総選挙で明らかになった本当の民意とは
    ゲスト:小林良彰氏(慶應義塾大学法学部教授)
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     安倍首相が「国難突破」選挙と位置付けた総選挙が10月22日に行われ、自民・公明の連立与党がほぼ現有議席を維持して勝利した。
     今回の選挙は最大野党の民進党が事実上解党し、選挙の直前になってバタバタと新党が立ち上がる異例の選挙となった。戦後初の政権交代となった1993年の「政治改革」選挙でも選挙直前に相次いで新党が立ち上がる政局があったが、その時は自民党が分裂した結果の新党ブームだったのに対し、今回は野党の分裂が原因だった。
     現行の小選挙区を主体とする選挙制度の下では、政党が細かく分かれれば分かれるほど死票が多くなり不利になる。この選挙でも、比例区の野党の総得票数は自民党を大きく上回っていたが、議席は自民党が全体の74%を獲得している。
     結果的に選挙で大勝したにもかかわらず、安倍首相を始めとする自民党の重鎮たちの選挙後の表情が一様に重々しかったのは、選挙結果には反映されない自党の党勢の低迷に対する危機感があったからだった。
     投票行動の分析で定評のある政治学者の小林良彰・慶應義塾大学法学部教授は、比例区での野党の総得票数が与党のそれを上回っていたことも重要だが、より注目すべきは自民党の絶対得票率が長期低迷傾向だと指摘する。自民党が大敗し民主党に政権を明け渡した09年の総選挙で、自民党2730万票を得ているが、その後の選挙では自民党は議席数こそ毎回過半数を大きく超えるものの、得票数は一度も09年選挙を超えることができていない。
     別の見方をすると、野党が低迷し投票率が下がったために、より少ない得票で自民党の獲得議席が増えているというのが実情なのだ。ちなみに民主党が政権を奪取した09年の総選挙の投票率は69%を超えていた。今回は53.6%。前回は史上最低の52.6%だ。
     実際、自民党の得票率は毎回5割を割っている。つまり、得票数では野党が自民党を上回っているのだ。自民党の今回の得票率の48%に、全体の投票率の53.60%を掛け合わせた「絶対得票率」は約25%にとどまる。これが日本の全有権者のうち、実際に自民党に投票した人の割合だ。
     これは、自民党が過去5年にわたり政権を維持できているのは、国民の過半から支持を受けているからではないし、また自民党への支持が野党に対する支持を上回っているからでもないことを示している。野党がお家騒動や分裂を繰り返したことで、自民党が選挙制度上の漁夫の利を得た結果であることを、このデータは示している。
     これまで何度も指摘されてきたように、現行の選挙制度の下で民意をより正確に反映させるためには、野党陣営が一つにまとまるしかない。しかし、今回の希望の党のような政策や理念を無視した離合集散に対しては、国民の間に強い拒否反応があることもまた、この選挙で明らかになっている。
     今後は野党第一党となった立憲民主党が、野党を一つにまとめられる大きな翼を広げることができるかに注目が集まるが、自民党よりも保守色の強い議員が多い希望の党や維新の会から共産党までがひとつにまとまるのは容易ではなさそうだ。しかし、それが実現しない限り、自民党が有権者の4分の1の支持で国会の4分の3を支配する状態が続くだろう。
     選挙直前の有権者に対する調査データをもとに詳しく分析した小林氏とともに、この選挙が明らかにした民意の中身と現行選挙制度の問題点などを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・自民党勝利も、改憲にはまだハードルがある
    ・得票率と議席率の乖離 民意は反映されていると言えるのか
    ・安倍政権の“見事”なアジェンダ・セッティング
    ・日本が選んだのは「現状維持」であり、「損得」である
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    ■自民党勝利も、改憲にはまだハードルがある

    神保: 今日は2017年10月26日(木)、衆議院総選挙後の初めてのマル激ということになります。宮台さん、選挙について冒頭で何かありますか。

    宮台: みなさんの評価はおそらく、2つの焦点があって、ひとつは自民党が絶対得票率では低いにもかかわらず、284もの議席を取るのはどういうことなんだと。もうひとつは、野党の分裂により票が割れて自民党を勝たせたのだけれど、それがいいことだったのか、悪いことだったのか。つまり、自民党の議席が増えたのはある意味、悪かったかも知れないが、しかしこれまで烏合の衆であった野党のなかに、保守リベラルというフォーカスが明確に浮かび上がったという意味では、いいということになる。特に後者の面が、今後の日本の政治を考えるときにポイントになるかなと。

    神保: 特に希望の党について、連日ワイドショーで取り上げられており、1993年の政治改革のドタバタを見る思いでもありました。ただ、当時は自民党内の分裂選挙でしたが、今回は野党陣営の分裂選挙だったと。これは少なくとも、僕にとっては初めての経験でした。今後にそれがどう生きるかということも含め、いろいろ議論をしていきたいと思います。
     ゲストをご紹介します。選挙後の恒例となり、「当然、今回もやってくれるんでしょう?」というリクエストも多く届いています、慶應義塾大学法学部教授の小林良彰さんです。さっそくですが、さまざまなデータをもとに、ずっと選挙分析をしてきた小林先生としては、今回の選挙をどうご覧になりましたか?

    小林: さまざまな見方があると思いますが、私は民進党が分裂したのはよかったと思います。民進党のままでは、やはり将来がなかった。これはやはり、3年3ヵ月に対する総括を、民進党自身がやっていないことが一番の問題でした。その結果として、小選挙区制のマジックで与党が多く議席をとったということがありますが、結果的には、もうこれがすっきりした。「協定書」にサインをした人としない人ではっきり分かれたのは好ましく、これが選挙後に民進党にまた合流しようというのは、最悪な選択だと思います。

    神保: 宮台さんも、再合流はあり得ないと。

    宮台: あり得ないというか、それをしたら、みんなもう政治を見限ってしまいますよ。

     
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