• このエントリーをはてなブックマークに追加
石川敬史氏:トランプ政権を操るオルタナ右翼の正体
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

石川敬史氏:トランプ政権を操るオルタナ右翼の正体

2017-02-15 20:00

    マル激!メールマガジン 2017年2月15日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
    ──────────────────────────────────────
    マル激トーク・オン・ディマンド 第827回(2017年2月11日)
    トランプ政権を操るオルタナ右翼の正体
    ゲスト:石川敬史氏(東京理科大学基礎工学部准教授)
    ──────────────────────────────────────
     今週末は安倍首相が訪米し、トランプ大統領との間で首脳会談やゴルフなどを通じて、日米同盟の緊密さを再確認したことなどが大きなニュースとなっている。トランプ政権の人権や既存の秩序を軽視する姿勢に対して、世界の主要国首脳の大半が苦言を呈する中、日本としてはなり振り構わずトランプの懐に飛び込む以外に選択肢はないと考えての深謀遠慮なのだろう。しかし、何が起きようともとにかくアメリカに抱きつくしかないという現在の日本状況は、日本がアメリカ依存一辺倒で来たことのリスクを露呈させる結果ともなっている。日本既定の外交路線の妥当性を再検証するいい機会なのではないか。
     さて、そのトランプ政権だが、1月20日の発足以来、衝撃的な大統領令を連発し、既存のアメリカの政策・外交路線から一気に離脱する構えを見せている。選挙向けの大言壮語と思われていた数々の暴論に近い選挙公約も、どうやら本気だったことがここに来て鮮明になってきている。
     しかし、それにしてもトランプ政権は一体、どのような思想や理念、政治信条に基づいて、そこまで大胆な路線変更を行っているのだろうか。大統領自身は『Make America Great Again』や『America First』などのスローガンを繰り返すばかりで、その発言からは政治理念などは一向に見えてこない。
     現在、トランプ政権の理念的支柱の役割を果たしているのが、大統領の主席戦略官兼上級顧問を務めるスティーブ・バノンだ。そして、そのバノンはオルトライト(オルタナ右翼)と呼ばれる思想の持ち主であることを自認している。
     オルトライト自体は昨年あたりから突如として表舞台に出てきた保守・右翼思想のいち流派で、NPI(National Policy Institute=国家政策研究所)なるモンタナ州の正体不明のシンクタンクを主宰するリチャード・スペンサーという人物が、自らをそう名乗ったことが端緒となっている一派だ。果たして思想と呼べるだけの理論体系が整っているかどうかも定かではないが、問題はその主張が、人種、ジェンダー、宗教を問わずあらゆる差別を推奨し、白人至上主義を自認してやまないという、どう見ても危険な思想であることだ。
     今のところ大統領自身がどこまでその思想に染まっているかは不明だが、トランプ自身はこれまでどちらかというと思想や政治信条とは縁遠い人生を生きてきたと考えられているだけに、ハーバード卒、ゴールドマンサックス出身で高い知的能力を有するといわれるバノンが主導するオルトライト思想に、政権が容易に操られてしまうことが懸念されている。いや、バノンがトランプの選挙運動の責任者を務めたトランプ政権誕生の立役者だったことを考えると、トランプ政権は少なくとも政策面では、発足前からオルトライトに牛耳られていたと考える方が自然だろう。
     実際、トランプは当選後の最初の人事でバノンの主席戦略官兼上級顧問への就任を発表しているし、政権発足直後には、政権の安全保障政策を企画、立案する最高意思決定機関の国家安全保障会議(NSC)の常任委員にバノンを昇格させると同時に、軍関係者を同会議から降格させるなど、バノンの重用ぶりを隠そうともしていない。
     オルトライトとはどのような思想なのか。それはアメリカ、そして世界をどこに導こうとしているのか。アメリカ思想史に詳しい石川敬史氏とともに、アメリカの建国以来の政治思想の流れを再確認した上で、今オルトライトなる思想が前面に出てきた背景を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が探った。

    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    今週の論点
    ・顔を覗かせる「アメリカの源流」
    ・オバマ、トランプに至るアメリカの思想史
    ・「オルトライト」とは一体何なのか
    ・カギを握るスティーブ・バノンに、思想はあるか
    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

    ■顔を覗かせる「アメリカの源流」

    神保: 今回もアメリカ、トランプの問題を取り上げますが、僕のなかでは忸怩たる思いもありました。今度書籍化しますが、すでに多くて入り切らないような状態で、「トランプを取り上げすぎだ」ということがあった。しかし、今回のテーマだけは、どうしてもやっておきたかったんです。一般メディア、NHKでも入国禁止令の控訴裁判がトップニュースになっているし、メディア的にはトランプを取り上げれば数字が取れる、ということなのでしょうが、今回は“トランプ洪水”のなかで、あえてその背後にある問題を取り上げたい。要するに「オルトライト」についてです。

    宮台: 安倍さんがトランプと仲よくするということの意味を見定めるためにも、トランプは何者なのかということを知っておくことには意味があると思います。オルトライト――アメリカ版ネトウヨとは、あるいは新反動主義者(neo reactionarist)とは何であるのか。僕たちが考える昔ながらの保守的なものとはまったく違っていて、恐るべきテクノロジストだったり、場合によってはスターリン主義者のようであったり、何か異様です。

    神保: そもそも「右」と呼んでいても、何を「保守」しようとしているのかが必ずしもわからない。一応、オルトライトだから「右翼」なんですか?

    宮台: 右と左をどう定義するかによりますが、もともと僕の考えでは、右と左の分離は、主意主義者と主知主義者によります。主知主義は「いい制度を設計すれば、社会がよくなって、みんなが幸せになる」という考え方。右というのはそうではなく、どんなにいい制度を設計しても、人はそんなんじゃ幸せにはならないと考える。つまり、人間にはある種の過剰さがあり、それをどういうふうに発露させるのか、ということに気を使うのが大事だと。要するに、みんなに囲まれて楽しく生きていけたらそれでいいかというと、そうではないという考え方があり、特に宗教の必要性を議論するとき、主知主義者は「要らない」と考えるが、主意主義者は「要る」と考えます。

     
    この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
    ニコニコポイントで購入

    続きを読みたい方は、ニコニコポイントで記事を購入できます。

    入会して購読

    この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。

    コメントを書く
    コメントをするにはログインして下さい。