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Vol.276 結城浩/値は値 - 仕事の心がけ/文系の三年生に数学を教えたい - Q&A/
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Vol.276 結城浩/値は値 - 仕事の心がけ/文系の三年生に数学を教えたい - Q&A/

2017-07-11 07:00
    Vol.276 結城浩/値は値 - 仕事の心がけ/文系の三年生に数学を教えたい - Q&A/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月11日 Vol.276

    はじめに

    おはようございます。結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

     * * *

    「あちはわー」の話。

    最近、ほんとうに暑い!暑い!

    とても暑いことを表現する顔文字として、

     あちはわーU>△<U

    というのがプチ流行していたので、 結城も便乗していました。

    すると、湊川あいさんが、 結城のキャラクタ(スレッドお化け坊や)を使って、 「あちはわー」を描いてくださいました。感謝!

     ◆結城先生で「あちはわーU>△<U」

    2017-07-03_achihawa.jpg

     https://twitter.com/webdesignManga/status/881836763269914625

    最近、ほんとうにこのイラストのように暑いです。

    そして、別の日。

    「あちはわー」を検索したら、 まったく関係がない「聖書の一節」が出てきてびっくりしました。

     ◆検索でみつかった「あちはわー」

    2017-07-05_achihawa.jpg

     おとめたちのうちに
     わが愛する者のあるのは、
     いばらの中に
     ゆりの花があるようだ。
     (雅歌二章二節)

    確かに「あ・ち・は・わ」という文字は入っていますが…… コンピュータはおもしろいところにパターンを見出しますね。

    ちなみに、上のツイートは2015年のもの。 縦書きツイートを作ったのは以下のツールで、 このツールの作者は『横浜駅SF』の柞刈湯葉さんです。

     ◆縦つい。
     http://yubais.net/tatetwi/

     * * *

    新刊の話。

    新刊『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』は、 順調に読者さんの手に届いているようです。 みなさんからの「買いました」ツイートを見たり、 「読みました」メールを見ていると、感謝で胸がいっぱいになります。

    先日結城が個人的に実施した《サイン本無料プレゼント》 の発送も無事に済みました。

    今回の題材は「積分」です。 Web連載の順序では「指数・対数」でしたが、 Web連載記事を書籍化する書籍化の順序を入れ換えて、 「積分」を先に持ってくることにしました。

    その理由はシンプルで、

     《微積分セット》

    を早く作りたかったからです。

    すでに第5巻目で「微分を追いかけて」 という微分を題材にした書籍は出版されています。 第9巻目となる今回の「積分を見つめて」と合わせると、 微分と積分を扱った二巻セットができることになります。

    微積分というと、三角関数と並ぶ「数学を象徴するキーワード」ですね。 人によっては「数学でつまずいたキーワード」かもしれませんが…… ともかく、数学といえば「微積分」を思い浮かべる人は多いでしょう。 ですから《微積分セット》を作りたいと思ったのです。

    この《微積分セット》というコンセプトは、 結城の方から編集長に提案したものです。

    もともと結城は、Web連載を順番に書籍化していこうと考えていました。 しかし、第8巻目を作るときに編集長から「統計を先にしましょう」 という提案をいただいたのです。その理由は、

     ・統計は注目をあびているので、早めに統計を出すのがいい。
     ・これまでの「秘密ノート」の読者層と違う層にアピールするかも。

    という二点でした。なるほど。

    結城はそのアドバイスに従い、昨年「やさしい統計」を出しました。 そして、編集長の予想通り、たいへんな人気となったのです。 出版直後に増刷が掛かり、10カ月たらずで第3刷が決まりました。

    今回の第9巻目を作るとき、 結城は編集長のアイディアを結城なりに咀嚼しました。 自分にこう問いかけました。

     連載順にこだわらないとしたら、
     次に出すべき書籍は何だろう?

    そして、先ほどから述べている《微積分セット》 というアイディアに繋がったのです。

    今回の「積分」というテーマの選択は、 編集長からもらった提案への 「結城なりにバージョンアップした返事」 といえるかもしれませんね。

    《微積分セット》というコンセプトは、 書籍紹介の文章の中にも入れましたし、 営業さんがアピールするときにも使われているはずです。 書店さんも「微分を追いかけて」&「積分を見つめて」 がセットで売れた方がうれしいでしょう。 《微積分セット》はみんなが喜ぶ企画なのです。

    「積分を見つめて」の刊行直前、 「微分を追いかけて」の増刷が掛かりました。 これはもちろん「積分を見つめて」の刊行に備えて、 《微積分セット》の体勢を整えるためです。

    こんなふうにして、今回の「積分を見つめて」は、 多くの関係者が、

     《微積分セット》

    というコンセプトをとらえた状態での出版となりました。 たいへん感謝なことですね。

     ◆数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて
     https://note5.hyuki.net/

     ◆数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて
     https://note9.hyuki.net/

    そして、新刊が出るとシリーズの他の巻にもよい効果があります。 ちょうど2017年7月10日(月)に、 以下の三冊の《同時増刷》が決定しました!

     『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』
     『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』
     『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』

    結城は書籍を出すようになって二十数年経ちますが、 三冊の本の増刷が同時に決まったという経験は、 おそらく初めてではないかと思います。

    応援してくださる読者のみなさんに心から感謝します!

     * * *

    たなか鮎子さんの話。

    表紙カバー絵を描いているのは、 イラストレータ&絵本作家のたなか鮎子さんです。

     ◆AYUKO TANAKA
     http://ayukotanaka.com

    《微積分セット》の微分編の表紙モチーフはブランコで、 これは単振動のイメージです。

    《微積分セット》の積分編の表紙モチーフは階段で、 これは区分求積法のイメージです。

    毎回、書籍のカバーは結城と、編集長と、 デザイナーの米谷テツヤさんと、たなか鮎子さんで練ります。 説明にならないようにしつつ、内容と呼応するイメージを考え、 また他の巻とかぶらないように注意し、 あとは自由に描いていただきます。 毎回、すばらしいカバーになっていますよね。

    ベルリン在住のたなかさんの、 すてきなインタビュー記事はこちらから読めます。

     ◆「女性目線のベルリン」
      「アートで生計を立てていく」ためのヒント
     http://sekaistory.jp/2240/

    海外で、好きなことを仕事にして生きていく人のための、 特にアートで生きる人のためのヒントが書かれています。

     * * *

    Inkdropの話。

    Inkdropというのは、Markdownノートアプリです。 結城はユーザではないのですが、 先日見かけた以下の記事が気になりました。

     ◆MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました
     https://blog.craftz.dog/3f30f4e1e479

    タイトルを見たときには「へえ」と思っただけでしたが、 はてなブックマーク数が多かったので、中身も読んでみました。 読み応えのある面白い記事でした。

    記事の中で特に印象に残ったのは、

     --------
     しかし僕はアプリをシンプルに保ちたいので、
     ほとんどの意見を保留にしたり断ったりしました。
     --------

    というところです。

    有料アプリをユーザに使ってもらうために、 ユーザからの意見を聞き、それを「取り入れる」ならばわかります。 「取り入れる」のではなく「保留にしたり断ったりした」 という点がすごいと思いました。

    ここには「作者の判断」がありますね。

    機能を実装してユーザに喜んでもらいたくなるのは人情です。 有料アプリならなおさらです。 お金払っている人からの意見を尊重しないで、 何を尊重しようというのでしょう。

    ユーザに言われるまま機能を実装していき、 アプリをシンプルに保てなくなり、 やがて使いにくくなったら、 結局ユーザには喜ばれません。

    機能を「実装する」判断ではなく「実装しない」判断は難しそうです。 その判断ができるということは、 きっと、このアプリの「あるべき姿」が見えているのでしょう。 つまり、それが「作者の判断」ということです。

    しかし、言うは易く行うは難し。 たくさん課金してくれるユーザから熱心な要望が来て、 それが自分の考える「あるべき姿」からズレていたならどうするか。 そうなってくると「作者の判断」というよりは「経営者の判断」 に近くなってくるかもしれません。

    価格に関しては、こちらにも文章がありました(英語)。

     ◆Why Inkdrop is a Subscription App
     https://hackernoon.com/beda29c507d5

    ぜひ、あなたもお読みください。

    ここでは、売り切りではなくSubscription model になっている理由が次のようにまとまっています (和訳は結城です。ずれていたらごめんなさい)。

     ・Going cheap is poor strategy
      (低価格勝負はまずい戦略)
     ・The most important thing is to make sure everything is sustainable
      (すべてを確実に持続させるのが最重要)
     ・The goal is not to catch ’em all
      (すべての人を得ることがゴールではない)
     ・If you try to please everyone, you won’t please anyone
      (みんなを満足させようとすると、だれも満足しない)
     ・Trusting the value
      (価値を信じる)

    結城は、ここには非常に大事なことが書かれていると思いました。

    結城は、自分が書く文章について思いながら、 この記事を読みました。 そして、このInkdropの作者TAKUYAさん(@craftsdog)をフォローしてみました。

     https://twitter.com/craftzdog

    価格については、後ほど「値は値」という別のお話をしましょう。

     * * *

    Web連載の話。

    先日CakesでのWeb連載「数学ガールの秘密ノート」 が第200回目を迎えました。 継続的な応援をありがとうございます。

    (と、落ち着いて書きましたが、 心の中では「200回!すごーい!」と叫んでいます。 数学のそれなりのクオリティの読み物を200回!……こほん、失礼しました)

    ところでその第200回目は、予定よりも長くなってしまい、 饒舌才媛ミルカさんの話がいれられなくなってしまいました。 Web連載ではそういう場合に「メタ数学トーク」と称して、 舞台裏のおしゃべりというスタイルで書くのですが、 今回はそこにも入りませんでした。

    せっかくなので、別途テキストに起こし、 数学部分だけを公開することにしました。 以下です。

     ◆フェルマーの小定理とオイラーの定理を見比べる
     https://story.hyuki.net/20170703011050/

    オイラーの定理が証明できれば、 フェルマーの小定理はその「系」として一瞬で証明できてしまいます。 でも上では意識的にその二つの類似性を強調して書いてみました。

    Web連載の第199回と第200回では、 「pを素数としたとき、p-1にはどんな意味があるだろうか」 ということがテーマになっていました。 p-1はもちろん「素数よりも1小さい数」ではあるのですが、 「pと互いに素であるp以下の正整数の個数」 という見方もできます。

    オイラーの定理に出てくるオイラーの関数φ(n)は、 「nと互いに素であるn以下の正整数の個数」 ですから、フェルマーの小定理とオイラーの定理に 類似性があるのもよくわかります。

     ◆第200回の最終パート(二つの定理の比較部分)

    2017-07-10_note200.png

    数式や証明をじっと観察していて、 そのような類似性が見つかるのは楽しいものです。 数学に詳しい人には「あたりまえ」かもしれませんが、 それを自分なりに「見出す」ところに喜びがあります。

    二つの「似ている」概念があったとして、 それが「似ている」ことをどのように表現すればいいでしょうか。 どのように表現したら「似ている」ことがはっきりと伝わるでしょう。

    結城は、

     概念上で似ているものを、
     表現上でも似ているように表す

    のが好きです。もちろん表層的に似た表現を使って、 無理矢理似せるわけではありません。 ほんとうに似ているものに、ふさわしい表現を与えて、 「確かに、見るからに似ている」 と読者に感じてもらいたいのです。

    残念ながら、今回の第200回では、 フェルマーの小定理とオイラーの定理の類似性について、 そこまでは突っ込んだ書き方ができませんでした。

    でもいつか(いつになるだろう)書籍化するときには、 その類似性が明確になるように書き表したいなと思っています。

    結城が文章(読み物)を書くときには、 それなりの「目標」があります。 「全体としてどこまで書きたいか」ともいえますし、 「読み終えたときに読者に何をつかんで欲しいか」 ともいえます。

    その「目標」が見えないと、 まとまった文章を書く意欲はなかなか出てきません。 「目標」が見えてくると、そこへ向けて材料を集めたり、 材料の取捨選択をしたりできるのです。

    Web連載はしばらくお休みをいただき、 8月から新シーズンの再開となります。 次のシーズンの題材候補はすでにいくつか見つけており、 そこへ向けての準備も進めています。

    ぜひ、ご期待ください!

     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
     https://bit.ly/girlnote/

     * * *

    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞ、ごゆっくりお読みください!

    目次

    • はじめに
    • 値は値 - 仕事の心がけ
    • 文系の三年生に数学を教えたい - Q&A
    • おわりに
     
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