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今回の選挙結果、びっくりしてる人も多いみたいですね。小選挙区のあり方について考えている人も多いようです。さて、選挙制度といえば、一票の格差もずいぶん話題になりました。一票の格差の話を聞くと、なんで一票の格差なんてあんの? さっさと公平に割ればいいじゃんと思うかもしれません。
そこで、次のようなグラフで、一票の格差の意味を可視化してみようと思います。
クラス1: 50-100万人 とても少ない。鳥取県など9県
クラス2:100-200万人 少ない。福島県など19県
クラス3:200-400万人 普通。茨城県など10府県
クラス4:400-800万人 多い。埼玉県など6道県
クラス5:800-1600万人 とても多い。東京都など3都府県
倍々の規模で分割しています。規模を見る時にはこの分割が適していて、実際各クラスに含まれる都道府県の数は程よくばらけています。
次にそれぞれのクラスごとに人口を合計して、グラフにするとこうなります。
クラス4(400-800万人)に住む人がもっとも多くクラス2,3,5もそれに続いてそれなりの人口です。面白いことにこの手の統計値は、こうやって倍々という規模の区切りを使って集計すると値が揃ってくるのです。これは人口の多い都道府県に住んでいる人もいれば、少ない都道府県に住んでいる人もいるという自然な感覚を反映しています。
だったら、県を合併したり吸収して人口増やせばいいじゃないかと思うかもしれませんが、 これでも相当頑張って均しています。
もともとの生活の単位である市区町村の分布はこんなものではないのです。
先ほどは規模の区切りを2倍ごとにしましたが、今度は10倍です。もともと人々が集まって暮らす市区町村という単位ではこれほど幅が広がります。最も大きな市(神奈川県横浜市 360万人)と最も小さな村(東京都八丈支庁青ヶ島村 211人)では実に17000倍もの差があります。しかも小さな町の数はそれほど大きくないため、1000人までの市区町村に住む人口は全体のわずか0.01%で、まったく存在感がありません。
このグラフで分かるように1-9人の小さな会社に働く人の数は、100人から999人の会社や、1000人以上の会社で働く人の数よりむしろ多いのです。1-9人の小さな会社の数は10-999人の会社の数よりわんさかあって、結果そこで働く人の数は負けません。
これなら、今のままの選挙制度でも小さな企業の従業員の声は拾えそうです。実際この点で一票の格差が問題になったとは聞いたことがありません。
同じくロングテールであるニコニコ動画の再生数1-9の動画は無数にあり、amazon で1-9個しか売れてない商品も無数にあり、その全再生数あるいは全販売数は無視できない規模になります。それがロングテールの本質で、専門的には冪乗則(べきじょうそく)という分布になります。
こういった町の規模の分布は世界中似たようなもので、自然にこのような構造を持ちます。小さい町はどんどん統合すればいいじゃないかと思うかもしれませんが、町にはそれぞれの事情があり、この構造を歪めることは難しいでしょう。
たとえば大きなA市に小さなB村を吸収させることを考えます。今でも大きな病院はA市にしかなく、B村の人は1時間かけてA市に行かなければなりません。では救急車はどうでしょう。今はB村に救急車があるので、それでも1時間で病院にたどり着けます。もし合併したらB村の救急車はなくなります。そしたら病院に行くのに2時間かかってしまいます。救急車くらいB村に置けばと思うかもしれませんが、簡単ではありません。人口の規模を考えたらもちろんいらないレベルだとすると、たとえ合併直後に残せても、市長が変わる度に救急車廃止が議題になるかもしれません。吸収とはそういうことです。この例では吸収したら、その村は棄てられるかもしれません。
想像に難ければ、逆に東京23区をそれぞれ4,5分割してみることを想像するとよいでしょう。よりきめ細かい住民サービスができるはずですが、それよりも不便になることを考えるのはたやすいはずです。町の規模というのは様々な要素が重なってしかるべき大きさになるのです。
そんなのいらないよそれが多数決、民主主義だ、と思うかもしれませんが、そんなに簡単ではありません。
たとえば日本に浮かぶたくさんの島、その島を領土として守るには人が住むのが一番です。人なんかいらない自衛隊を置けと思うかもしれませんが、自衛隊を置くということは、そこに生活が生まれますから同じです。人がいなければすぐに隣国がちょっかいを出してきます。
あるいはあなたの町の水源の森。もしかしたら、外国が買い漁っているかもしれません。そんなの国が監視しろと思うかもしれませんが、監視するにはそこに人が住み生活するのが一番です。
違う言い方をすると、その方が経済的で持続的です。島に自衛隊を配備とか、森になんらかの組織を配備とかやたらお金はかかるけど、経済には寄与しませんから、国の予算が苦しくなれば続けられないかもしれません。
つまり、日本には、人が大勢住むところがある一方で、全国民の豊かな生活や暮らしを下支えするそれ以外の広大な土地、海があり、それを守りかつ生かすために、自然に人は散らばり生活しています。その結果、人口比にして17000倍にもひらく市区町村という構造が出来上がります。その構造そのものを極端に変えることはできません。そして、その構造を守るには、小さな町の人の声も生かすのが良いのです。
以上のように、構造上極端に人口が少なくなる町の意見をなんとかすくいとろうという工夫の中で、自然と今の一票の格差ができていると考えられます。一人一票の原則もまた尊重されるべきですが、あまりその原則にこだわると、国境付近では常に紛争が絶えず、森は荒れ放題で下流は災害だらけなんてことにもなりかねないのです。
したがって衆議院で2倍以内という目標は、最適かはともかくそれなりの落としどころです。念のため補足すれば、なので今違憲とされる判断そのものは尊重できますし、判断された以上政局に利用などしないで、粛々と区割り変更してほしいものです。
こういう妥協はいかがなものかというのであれば、根本的な解決策もあります。wikipediaにも書いてありますが、アメリカの上院のように参議院は各都道府県から二人という構成にするというアプローチです。それなら、衆議院はもっと一人一票に近づけても良いでしょう。ただ wikipedia にも書いてありますが、憲法を変えないと無理ではないかという指摘があります。
一人一票という公平さと、広い日本各地に人々がのびのびと暮らすという問題は、簡単には相容れない問題なのです。
・併せてどうぞ
【ロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質(その2)~ロングじゃないテールの例~】 ロングじゃないテールの例として市区町村の人口を取りあげています。
【ロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質】 こちらはロングテールを取りあげています。
【優秀な学生が地方を目指し始めた!】
そこで、次のようなグラフで、一票の格差の意味を可視化してみようと思います。
都道府県の規模に基づく人口分布
まず各都道府県を人口で次の基準で分類します。都道府県の人口・面積・人口密度のランキングから頂きました。クラス1: 50-100万人 とても少ない。鳥取県など9県
クラス2:100-200万人 少ない。福島県など19県
クラス3:200-400万人 普通。茨城県など10府県
クラス4:400-800万人 多い。埼玉県など6道県
クラス5:800-1600万人 とても多い。東京都など3都府県
倍々の規模で分割しています。規模を見る時にはこの分割が適していて、実際各クラスに含まれる都道府県の数は程よくばらけています。
次にそれぞれのクラスごとに人口を合計して、グラフにするとこうなります。
クラス4(400-800万人)に住む人がもっとも多くクラス2,3,5もそれに続いてそれなりの人口です。面白いことにこの手の統計値は、こうやって倍々という規模の区切りを使って集計すると値が揃ってくるのです。これは人口の多い都道府県に住んでいる人もいれば、少ない都道府県に住んでいる人もいるという自然な感覚を反映しています。
目立たない小さな県
しかしこのグラフでクラス1(50-100万人)の人口は極端に少なくなります。他のクラスの平均の1/4です。恐らく、他のクラスの人にとってクラス1の県の知り合いは近いなどの理由がなければ少ないでしょう。都道府県の人口分布はこういう特徴を持っています。もし一票の格差がなく人口に比例した議員数にすると、 このクラス1の声は当然小さくなります。いわゆる地方の切り捨てと言われる背景にはこんな分布があるのです。だったら、県を合併したり吸収して人口増やせばいいじゃないかと思うかもしれませんが、 これでも相当頑張って均しています。
もともとの生活の単位である市区町村の分布はこんなものではないのです。
もっと極端な市区町村での分布
次のグラフは、ロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質(その2)~ロングじゃないテールの例~というエントリに載せた、全国の市区町村の人口で同じような操作をして作成したグラフです。先ほどは規模の区切りを2倍ごとにしましたが、今度は10倍です。もともと人々が集まって暮らす市区町村という単位ではこれほど幅が広がります。最も大きな市(神奈川県横浜市 360万人)と最も小さな村(東京都八丈支庁青ヶ島村 211人)では実に17000倍もの差があります。しかも小さな町の数はそれほど大きくないため、1000人までの市区町村に住む人口は全体のわずか0.01%で、まったく存在感がありません。
ロングテールとは対照的
これはいわゆるロングテールといわれる分布とは対照的です。次はロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質で紹介したロングテールの代表的な分布である各会社の規模で集計した従業員の数です。このグラフで分かるように1-9人の小さな会社に働く人の数は、100人から999人の会社や、1000人以上の会社で働く人の数よりむしろ多いのです。1-9人の小さな会社の数は10-999人の会社の数よりわんさかあって、結果そこで働く人の数は負けません。
これなら、今のままの選挙制度でも小さな企業の従業員の声は拾えそうです。実際この点で一票の格差が問題になったとは聞いたことがありません。
同じくロングテールであるニコニコ動画の再生数1-9の動画は無数にあり、amazon で1-9個しか売れてない商品も無数にあり、その全再生数あるいは全販売数は無視できない規模になります。それがロングテールの本質で、専門的には冪乗則(べきじょうそく)という分布になります。
市区町村の分布の構造
一方市区町村に住む人口は、専門的には対数正規則という分布に従っています。町の人口が増える要素減る要素が様々あり、それぞれが重なり合うことで人口が決まっていると考えられます。そのため標準的なできやすいサイズというのがあり、具体的には人口数万人くらいの町が数としてはもっとも多くなり、その人口を外れるほど町の数は減ります。ロングテールでは、小さいものほど多くなるのとは対照的です。そのため、人口の少ない町は、人口も少ない上に町の数も少なく、集計してもほとんど存在感がなくなってしまいます。こういった町の規模の分布は世界中似たようなもので、自然にこのような構造を持ちます。小さい町はどんどん統合すればいいじゃないかと思うかもしれませんが、町にはそれぞれの事情があり、この構造を歪めることは難しいでしょう。
たとえば大きなA市に小さなB村を吸収させることを考えます。今でも大きな病院はA市にしかなく、B村の人は1時間かけてA市に行かなければなりません。では救急車はどうでしょう。今はB村に救急車があるので、それでも1時間で病院にたどり着けます。もし合併したらB村の救急車はなくなります。そしたら病院に行くのに2時間かかってしまいます。救急車くらいB村に置けばと思うかもしれませんが、簡単ではありません。人口の規模を考えたらもちろんいらないレベルだとすると、たとえ合併直後に残せても、市長が変わる度に救急車廃止が議題になるかもしれません。吸収とはそういうことです。この例では吸収したら、その村は棄てられるかもしれません。
想像に難ければ、逆に東京23区をそれぞれ4,5分割してみることを想像するとよいでしょう。よりきめ細かい住民サービスができるはずですが、それよりも不便になることを考えるのはたやすいはずです。町の規模というのは様々な要素が重なってしかるべき大きさになるのです。
小さな規模の町は必要か
したがって様々な規模の町(しかも10000倍以上の差が開く)ができるのであれば、様々な町の規模の国民の声を満遍なく取り入れる仕組みが必要になります。そんなのいらないよそれが多数決、民主主義だ、と思うかもしれませんが、そんなに簡単ではありません。
たとえば日本に浮かぶたくさんの島、その島を領土として守るには人が住むのが一番です。人なんかいらない自衛隊を置けと思うかもしれませんが、自衛隊を置くということは、そこに生活が生まれますから同じです。人がいなければすぐに隣国がちょっかいを出してきます。
あるいはあなたの町の水源の森。もしかしたら、外国が買い漁っているかもしれません。そんなの国が監視しろと思うかもしれませんが、監視するにはそこに人が住み生活するのが一番です。
違う言い方をすると、その方が経済的で持続的です。島に自衛隊を配備とか、森になんらかの組織を配備とかやたらお金はかかるけど、経済には寄与しませんから、国の予算が苦しくなれば続けられないかもしれません。
つまり、日本には、人が大勢住むところがある一方で、全国民の豊かな生活や暮らしを下支えするそれ以外の広大な土地、海があり、それを守りかつ生かすために、自然に人は散らばり生活しています。その結果、人口比にして17000倍にもひらく市区町村という構造が出来上がります。その構造そのものを極端に変えることはできません。そして、その構造を守るには、小さな町の人の声も生かすのが良いのです。
かくして一票の格差が生まれる
しかしもしこのような市町村区の意見をあまねく取り入れようと上記のグラフを参考にすれば、1票の格差は6000倍以上になるでしょう。それは極端ですから、まず都道府県というくくりにします。これで、最大の都と最小の県は23倍に縮まります。規模ごとに集計すれば4倍程度の差です。そこで設けられた小選挙区では、衆議院で2.4倍、参議院で5倍となっています。こう考えるとむしろ相当がんばって縮めているといえます。そのため小さな町の声を直接拾うことはできないでしょう。それでも、人の少ない県の声くらいはなんとか拾えそうです。以上のように、構造上極端に人口が少なくなる町の意見をなんとかすくいとろうという工夫の中で、自然と今の一票の格差ができていると考えられます。一人一票の原則もまた尊重されるべきですが、あまりその原則にこだわると、国境付近では常に紛争が絶えず、森は荒れ放題で下流は災害だらけなんてことにもなりかねないのです。
したがって衆議院で2倍以内という目標は、最適かはともかくそれなりの落としどころです。念のため補足すれば、なので今違憲とされる判断そのものは尊重できますし、判断された以上政局に利用などしないで、粛々と区割り変更してほしいものです。
こういう妥協はいかがなものかというのであれば、根本的な解決策もあります。wikipediaにも書いてありますが、アメリカの上院のように参議院は各都道府県から二人という構成にするというアプローチです。それなら、衆議院はもっと一人一票に近づけても良いでしょう。ただ wikipedia にも書いてありますが、憲法を変えないと無理ではないかという指摘があります。
一人一票という公平さと、広い日本各地に人々がのびのびと暮らすという問題は、簡単には相容れない問題なのです。
・併せてどうぞ
【ロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質(その2)~ロングじゃないテールの例~】 ロングじゃないテールの例として市区町村の人口を取りあげています。
【ロングテールの、ほとんど知られていない、しかしもっとも重要な性質】 こちらはロングテールを取りあげています。
【優秀な学生が地方を目指し始めた!】