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記事 49件
  • 町山智浩の言霊USA 第778回「She should be thrown out “like a dog.”(あの女を犬みたいに捨てろ)」

    2025-07-10 05:00  
    「イランの主要な核濃縮施設は完全に破壊された」

     6月21日の夜遅く、トランプ大統領はホワイトハウスで「ミッドナイト・ハンマー(真夜中のトンカチ)」作戦の成功を報告した。

    「イラン・イスラエル戦争」にトランプは爆弾で介入した。ミズーリの基地から飛び立ったB2ステルス爆撃機で18時間もかけて地球を半周して、イランの3つの核開発施設を爆撃した。特にフォルドの地下奥深くにある核濃縮工場に対してはバンカーバスターが12発も撃ち込まれた。14トンもの重さで地下数十メートルを貫通してから爆発する専用弾だ。

    「世界よ、おめでとう! 今こそ平和の時だ!」

     6月23日午後1時、トランプは、自分が経営するSNSで得意げに宣言した。自分がイランの核施設を「完全に」破壊したことで、イスラエルとイランの戦争を止めたというのだ。 
  • 町山智浩の言霊USA 第777回「TACO : Trump Always Chickens Out(トランプはいつも尻込み)」

    2025-07-03 05:00  
    「今日はトランプ大統領の79歳の誕生日です!」

     6月14日、首都ワシントンの米陸軍創立250周年記念式典でJDヴァンス副大統領は言った。4500万ドルを投じたその日の軍事パレードは「トランプの誕生日に彼の権力を誇示するもの」と批判されていたが、ヴァンスの言葉はそれを証明した。

     プーチンや金正恩や習近平など独裁者の軍事パレードへのあこがれを隠さないトランプは以前から「なぜアメリカではパレードをしないのだ? するべきだ」と言い続けていたが、今は「やらなきゃよかった」と後悔しているだろう。 
  • 町山智浩の言霊USA 第776回「This happened because you spoke up. Keep it going.(皆さんが声を上げた成果です。これからも続けましょう)」

    2025-06-26 05:00  
     トランプ大統領が4700名の州兵と海兵隊をロサンジェルスに送った。

     きっかけはICE(移民関税執行局)の方針変更。それまでは犯罪歴のある非正規移民を標的に逮捕していたが、5月下旬、トランプの次席補佐官スティーヴン・ミラーがICEに対して「ホームセンターやコンビニの前にいる移民どもを片っ端から逮捕しろ」と命じ、逮捕数のノルマを1日1000人から3000人に引き上げた。

     まずICEはサンディエゴでレストランを襲った。ウェイトレスや皿洗いを狙ったのだ。しかし、常連客(金持ちの白人)たちがICEの前に立ちはだかって退却させた。6月6日、ICEはロサンジェルスのチャイナタウンや食肉加工場、縫製工場を急襲して住民や経営者と衝突した。

     翌6月7日朝、ロサンジェルス郊外の町パラマウントのホームセンター「ホームディーポ」をICEが襲うと噂が流れた。そこは日雇いの庭仕事や大工仕事を求める非正規移民の「寄せ場」になっているからだ。 
  • 町山智浩の言霊USA 第775回「The girls are fighting, aren't they?(お嬢さんたち、ケンカしてるんでしょ?)」

    2025-06-19 05:00  
    「僕は異性愛者の男が男を愛せる限界までトランプを愛している」

     世界一の大富豪イーロン・マスクは、今年2月、そんなポストをした。彼は440億ドルも使って買収したツイッター(現X)を宣伝に使って、トランプを大統領選に勝たせた。

     トランプ政権でイーロンはDOGE(政府効率化省)を率いて政府機関を徹底的に骨抜きにした。USAID(国際開発庁)の解体で世界の貧しい子どもたちは飢え、国立気象局(NWS)と国立海洋大気庁(NOAA)の予算も削減。それでイーロンは世界中から憎まれ、彼が経営するテスラは嫌われ、株価が暴落し、莫大な資産を失った。

     トランプはイーロンを励ますため、真っ赤なテスラを買ってホワイトハウスに置いた。 
  • 町山智浩の言霊USA 第774回「Electricians, plumbers-we need more, and less graduates from Harvard.(ハーヴァードの卒業生よりも電気工事士や配管工が必要です)」

    2025-06-12 05:00  
    「ハーヴァード大学はアメリカよりも古いんです」

     同校のアラン・M・ガーバー学長はCBSテレビのインタビューで言った。イギリスの植民地だったマサチューセッツにハーヴァード・カレッジが設立されたのは1636年。アメリカ建国の140年前だ。アメリカで最も伝統があり、世界でも最も優秀な大学の一つ、ハーヴァードに対するトランプ大統領の弾圧が続いている。

     始まりは3月10日、トランプ政権の教育省が約60の名門大学に「反ユダヤ主義」取り締まりを求める警告文書を送り付けた。イスラエルのガザ攻撃に対する反対運動を禁止し、運動に参加した学生のデータを政府に引き渡さないと援助を打ち切るというのだ。さらにDEI(多様性、公平性、包括性)の撤廃も求めた。つまり、少数民族やLGBTQの学生や職員の採用における優遇を止めろと。

     まず、4億ドルの援助を打ち切られたニューヨークのコロンビア大学は、トランプの出した条件を呑んだ。 
  • 町山智浩の言霊USA 第773回「“I'm sorry we don't have a plane to give you,”(すみませんね、飛行機をお土産に持ってこなくて)by ラマポーザ南ア大統領」

    2025-06-05 05:00  
    「死、死、死、ひどい死! 白人が殺されてるんだ!」ドナルド・トランプ大統領は叫んだ。

     5月21日、南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領がホワイトハウスを訪れた。南アへの経済支援を凍結したトランプを説得するためだ。トランプは凍結の理由を「南アで白人が迫害されているからだ」としている。

     ラマポーザが大統領執務室に入ると、TV各局のカメラやキャスターと共に、イーロン・マスクが待ち構えていた。イーロンはラマポーザの不倶戴天の敵だ。

     イーロンの父には南アフリカを侵略したオランダ人、いわゆるボーア人またはアフリカーナの血が入っている。母はカナダの右翼活動家の娘。南アフリカでは全人口の1割程度の白人が残り9割の黒人(先住民)らの人権を奪い、支配下に置く「アパルトヘイト」制度が確立され、イーロンの父は黒人を鉱山で奴隷労働させてもいた。 
  • 町山智浩の言霊USA 第772回「Poor people are those who only work to try to keep an expensive lifestyle and always want more and more.(本当に貧しいのは豪華な生活を維持しようと必死で、いつも、もっともっとと欲しがっている人です)by ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領」

    2025-05-29 05:00  
     5月13日、「世界一貧乏な大統領」が亡くなった。南米ウルグアイの大統領だったホセ・ムヒカ氏(享年89)。独裁政権と戦う活動家出身で、貧困層の救済に身を尽くし、収入のほとんどを寄付し、自分は月10万円以下で質素に暮らした。

     同じ頃、おそらく世界一の大富豪の大統領であるドナルド・トランプは4億ドルの贈り物に大喜びしていた。中東の産油国カタールの首長がトランプにボーイング747-8ジャンボジェット機を大統領専用機としてプレゼントするというのだ。もちろんVIP用の特別仕様で、機内には5つのラウンジ、2つの寝室、2つのバスルーム、9つのトイレ、5つのキッチン、オフィスが備わった「空飛ぶ宮殿」と呼ばれている。

     これって賄賂じゃないの? 
  • 町山智浩の言霊USA 第771回「JD Vance is wrong.(ヴァンス副大統領は間違っている)by 新教皇レオ14世による引用」

    2025-05-22 05:00  
     5月8日、バチカンのシスティーナ礼拝堂の煙突から白い煙が出た。それはコンクラーヴェ(教皇選挙)で次期ローマ教皇が決まった知らせだった。

     先日亡くなったフランシスコ前教皇の後継者になったのは、ロバート・プレヴォスト。史上初のアメリカ人教皇だ。彼はサン・ピエトロ大聖堂で群衆にこう挨拶した。

    「人類は神とその愛が通じる架け橋を必要としています。私たちは、その橋を架けるために協力します」

     それはフランシスコ前教皇の言葉に基づいている。トランプがメキシコとの国境に壁を築いた時、前教皇は言った。「壁を作るより橋を作るのが、正しいキリスト教徒です」と。 
  • 町山智浩の言霊USA 第770回「Biden did that!(バイデンのせいだ!)」

    2025-05-15 05:00  
     4月29日、大統領就任から100日目、トランプの支持率はすべての世論調査で40%台に低迷している。1953年以降、これほど人気のない大統領は他に1人しかいない。一期目のトランプ自身だけ。

     そんななか、トランプはABCニュースの独占インタビューに応じた。キャスターのテリー・モランは、悪趣味な金ぴかに改装された大統領執務室に入ると壁にかけられたアメリカ独立宣言の写しを指さして「これは?」と尋ねた。

    「宣言だよ宣言」面倒くさそうにトランプは答えた。「団結と愛の」。違う!「すべての人間は生まれながらに平等である」という人権宣言だよ! あんたが攻撃してるDEIだよ!

     この後もいつもどおりデタラメとウソばかり。 
  • 町山智浩の言霊USA 第769回「Mano Dura(マノ・デューラ。エルサルバドルの鉄拳政策)」

    2025-05-08 05:00  
     4月14日、エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領がホワイト・ハウスを訪れた。

     自称「世界一クールな独裁者」ブケレ(43歳)はジャケットの下はTシャツというラフなスタイルだったが、トランプの閣僚たちはウクライナのゼレンスキー大統領に対してのように「ネクタイ無しとは失礼だ!」なんて叱りつけることもなく、和気あいあいと迎えた。

     なぜならブケレは、トランプがアメリカで逮捕した未登録移民など約250人をエルサルバドルの巨大刑務所CECOT(チェコット)に引き取ってくれたからだ。

     CECOTは「テロリスト収容センター」の略。2023年にブケレが建設。収容されているのは4万人近く。窓は無く、ベッドにはマットもない。日課のほとんどが強制労働で自由時間は日にわずか30分。食事は1日2食。更生よりも懲罰が目的の刑務所なので、何人もが獄中で死亡する。ブケレは2019年の大統領就任以来、8万人以上を逮捕して、こうした刑務所に閉じ込めている。

     しかし、トランプがアメリカで逮捕した移民はほとんどベネズエラ出身。それをエルサルバドルの刑務所に送るっておかしくない?