• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 49件
  • 町山智浩の言霊USA 第701回「“If we killed 4000 Palestinian kids, it wasn't enough!”(パレスチナの子どもを4000人殺したくらいじゃ足りないね!)by スチュアート・セルドウィッツ」

    2023-12-07 05:00  
     ニューヨークはマンハッタン、セントラルパークの東側、アッパー・イーストサイドはユダヤ系の超富裕層が住む高層コンドミニアムが建ち並ぶエリア。そのビルの谷間の路上には、中東系移民が営むハラル料理の屋台がいくつも集まっている。
     メニューは、フムス(ひよこ豆のペースト)、ひよこ豆を団子にして揚げたファラフェル、肉をマリネして焼いたギロス、それを包んで食べるピタ。ギリシア料理とだいたい同じ。ヘルシーなので人種民族を問わず人気がある。特に屋台は肉を焼く香りが人を集めて、昼時には行列ができる。
     その屋台の一つで働くエジプト出身の青年ムハンマド・フセインさん(24歳)に、60歳過ぎの白髪の白人男性が話しかけてきた。
    「お前はどこから来た」 
  • 町山智浩の言霊USA 第700回「Yes, a doll(そう、ただの人形ですよ)byイスラエル政府」

    2023-11-30 05:00  
     11月初めサンフランシスコで、クイーンのコンサートを観てきた。フレディ・マーキュリーの代わりにボーカルを務めるは、1982年生まれのシンガー、アダム・ランバート。無理にフレディの物マネをしたりせず、お客さんたちと一緒に歌う和気あいあいのライブだった。自分もふくめて還暦越えばかり1万人が大合唱。「ママー、僕の人生はまだ始まったばかりなのに」って、いや、もうじき終わりだから(涙)。
     さて、サンフランシスコの街はあちこちの道路が封鎖されていた。11月中頃に開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議で、今回は、ハマスとの戦争でイスラエルを支援するバイデン大統領に対して大きな抗議活動が予想されるからだ。
     アメリカにはユダヤ系が約700万人も住んでいる。これはイスラエルのユダヤ系人口に匹敵する。 
  • 町山智浩の言霊USA 第699回「Woodstock and drugs and peace and free love and all that(ウッドストックだの、ドラッグだの、ピースだの、自由恋愛だの、そういうもの全部)」

    2023-11-22 05:00  
     アメリカの連邦下院議会の議長がやっと決まった。そんなの、日本の読者にはどうでもいいことだと思うが、こいつが実にロクでもない奴なので、ちょっと読んでみてほしい。
     議長だったケヴィン・マッカーシーは共和党だったが、一部の共和党議員の造反により解任されてしまった。今の下院は共和党が民主党をわずかな議席数で上回る拮抗状態で、予算案が通過しにくい。予算が決まらないと連邦政府の業務がすべてストップしてしまう。それを避けるため、マッカーシーは民主党と調整していたら、それを裏切りだとする共和党の超右派(トランプ派)によって降ろされてしまったのだ。
     そんな状況だから次の議長もなかなか決まらなかったが、やっと選出されたのはルイジアナ州の下院議員マイク・ジョンソン(51歳)だった。
     ジョンソン議長はインターネットでポルノ・サイトを見ないよう、17歳の息子と監視しあっているという。
     ??? 
  • 町山智浩の言霊USA 第698回「I'll be there for you(私はあなたのそばにいくよ)」

    2023-11-16 05:00  
     90年代のTVドラマ『フレンズ』は、ニューヨークを舞台に「大人になれない」女3人と男3人の友情と恋愛を描くコメディ。ファッション業界で働くレイチェル(ジェニファー・アニストン)は、お金持ちのお嬢さんでわがまま。ロス(デヴィッド・シュワイマー)は古生物学の博士号を持つインテリだが面倒くさい性格で結婚離婚を繰り返す。
     その妹モニカ(コートニー・コックス)はシェフ。神経質で負けず嫌い。フィービー(リサ・クードロウ)はヘンテコなフォークソングを歌うスピリチュアルで遅れてきたヒッピー。ジョーイ(マット・ルブランク)はナンパでチャラい売れない俳優。そしてチャンドラー(マシュー・ペリー)は皮肉屋。いつも誰かを茶化さずにいられない。
    「僕が朝の9時までに言う皮肉の数は普通の人の1日平均の皮肉数を超えてるんだ」 
  • 町山智浩の言霊USA 第697回「Now I am become Death, the destroyer of worlds(今、我は死神、世界の破壊者になれり)」

    2023-11-09 05:00  
     ニューメキシコ州のトリニティ実験場に行った。1945年7月16日、この広大な砂漠で世界初の原爆実験が行われた。その実験の暗号名がトリニティだ。
     トリニティ実験場は国定史跡だが、一般に公開されるのは年に2日だけ。史跡を内包する地対空ミサイルの開発実験場の機密保持のためだ。
     入場できるのも先着5000人だけ。今回は、原爆を開発したロバート・オッペンハイマーの伝記映画『オッペンハイマー』が全米で大ヒットした直後のせいか、朝5時に車で入口に着くと既に長蛇の列。ゲートが開くのを待つ間に砂漠の地平線から日が昇った。世界初の原子爆弾が爆発したのも、明け方だった。
    「こんにちは」日系人男性に声をかけられた。 
  • 町山智浩の言霊USA 第696回「Don't be consumed by the rage(バイデン大統領『怒りに呑み込まれてはいけません』)」

    2023-11-02 05:00  
     イリノイ州プレインフィールド・タウンシップは、シカゴから40マイル離れた、緑に囲まれた人口数万人の小さな町。そこに住む少年ワデア君は10月6日に6歳の誕生日を家族と祝った。
     その翌10月7日、イスラエルで、パレスチナ人の過激派組織ハマスが奇襲攻撃をかけた。1400人以上のイスラエル人が死亡した。イスラエル側の報復でガザ地区に住むパレスチナ人3500人以上も死亡した。
     ワデア君の母ハナーンさん(32歳)は、ガザと同じくパレスチナ人が閉じ込められているヨルダン川西岸で生まれ育ち、10年以上前にアメリカに移住した。
     ワデア君たちが住むアパートの大家であるジョセフ・ズーバ(71歳)は優しい老人で、ワデア君におもちゃをあげたり、自分のプールで泳がせたり、彼のために小屋まで建ててくれた。
     だが、ハマスの奇襲以来、ズーバの態度は変わっていった。 
  • 町山智浩の言霊USA 第695回「Human Animals(人の形をしたケダモノ)」

    2023-10-26 05:00  
     自動車産業の街、ミシガン州デトロイト郊外にディアボーンという街がある。フォード本社と工場があることで有名だが、住民の約半数がアラブ系だ。
     1920年代、ヘンリー・フォードが自動車工場を拡大する時、アラブ系移民を積極的に雇用した。アメリカ連邦下院議会初のパレスチナ系女性議員、ラシダ・タリーブ(47歳)の父もフォード自動車の組み立てライン労働者だった。
     タリーブ議員の両親はヨルダン川西岸、いわゆるウェストバンクに生まれた。その当時、そこはヨルダン領内だったが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領された。パレスチナ人の土地はどんどんイスラエルに奪われていった。 
  • 町山智浩の言霊USA 第694回「Even Better Than The Real Thing(むしろ本物よりも素晴らしい)」

    2023-10-19 05:00  
     9月29日、ラスベガスに新しくオープンしたアリーナ「スフィア」に行ってきた。
     飛行機でラスベガスに近づくと、ザ・ストリップ(目抜き通り)に立ち並ぶ高層ホテルの合間に巨大な球体が見える。スフィア(球体)の高さは112メートル。世界最大の球形建築だ。その球体が地球や月や巨大な眼球になって瞬きする。スフィアはLEDスクリーンになっていて、ラスベガスの強烈な昼の光の下でもくっきりとヴィジュアルを映し出す。
     スフィアの内部は最大2万人収容のホールになっている。今夜、こけら落としとしてU2のライブが行われる。
     中に入ると床から天井まで球形のスクリーンが視界のすべてを覆いつくす。スクリーンの大きさは1万5000平方メートル。もちろん世界最大だ。IMAXなんか目じゃない。 
  • 町山智浩の言霊USA 第693回「Gerontocracy(ジェロントクラシー:長老制)」

    2023-10-12 05:00  
     自分ももう61歳だから、大学の同級生に会うとみんな定年過ぎで、仕事の第一線からは外れてるわけですよ。機能が格段に落ちてるからしょうがない。でも、企業の経営者や政治家になると60歳以上が基本で、「40、50は鼻たれ小僧」とか言われちゃう。日本の閣僚の平均年齢は63歳以上ですから。
     年寄りがリーダーシップを取ることを長老制という。村社会では長老が、長屋ではご隠居が尊敬を集め、大事な決定を行う。武家社会でも将軍や藩主を支えて政治を仕切る者を老中とか家老と呼んだ。古代ローマにも元老院があった。人生の経験を積み、知識の豊富な年寄りが助言を行う。この元老院Senatusがアメリカの上院Senateの語源になった。
     現在、上院議員の平均年齢は65歳。 
  • 町山智浩の言霊USA 第692回「Shunning(アーミッシュが規律から離れた人物を忌避、排除すること)」

    2023-10-05 05:00  
     300年前の生活を守り、電気や自動車を拒絶してアメリカ中西部に暮らすスイス系移民、アーミッシュの村に取材した話の続き。アーミッシュを世界に紹介した映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』から38年経って、アーミッシュは少しずつ変化していた。
     オハイオ州の「アーミッシュ・カントリー」に入ると、緑の丘が広がっている。その道路を黒い馬車(バギー)が通っている。運転しているのは長いあごひげを伸ばした男性と、頭に白いボンネットをかぶった女性。アーミッシュだ。
     自転車も多い。だが、よく見ると、みんな電動自転車だ。電気はご法度じゃなかったの?
    「このへんは坂が多いから、電動自転車はOKということになったんだ」
     そう語ってくれたのは、アーミッシュ馬車の製作所「ヒルサイド・バギー」の経営者アトリーさん。製作中の最新式の馬車を見せてもらった。ヘッドランプはLED。だからバッテリーも搭載している。御者席にはUSBポートもついてる! アーミッシュもスマホ使うの?