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記事 5件
  • 町山智浩の言霊USA 第500回 「Empty Words(空っぽな言葉)」

    2019-10-10 05:00  
     仕事で日本に行ったので、遅ればせながら、話題のアニメーション映画『天気の子』を観て、感動した。
     オリンピック後の2021年の東京、激しい雨が何カ月も降り続き、このままでは水没してしまう。ヒロインの15歳の少女、陽菜(ひな)ちゃんは、祈りで晴れを呼ぶ巫女だが、晴れにすることで命を削られて行く生贄でもある。16歳の少年、帆高(ほだか)は世界の犠牲になる陽菜を救おうとする。
    『天気の子』の異常降雨の原因は語られないが、新海誠監督は、気象情報専門サイト「ウェザーニュース」で、これは地球温暖化によって異常気象が常態化した世界についての映画だと言っている。
    「そんな世界をつくってしまった僕たち大人には間違いなく責任の一端がある。でも、これからの人生を生きていく若い世代の人たちまで、大人の抱える憂鬱を引き受ける必要はないと思うんです」
     でも、大人たちの経済活動で破壊されてしまった地球を引き継がされる子どもたちは憂鬱になるか、怒って当然だろう。 
  • 町山智浩の言霊USA 第499回 「Gig Economy(正規雇用でない労働者による経済)」

    2019-10-03 05:00  
     トロント映画祭で観た、英国のケン・ローチ監督の新作『家族を想うとき』は衝撃だった。
    「君を正規に社員として採用することはできない。だが、個人事業主としては契約できる」
     主人公リッキーは宅配便の就職面接でそう言われる。リッキーは高校生の長男と小学生の娘を持つ中年男で、何ヶ月も職を失っている。仕事を選んでいる余裕はない。
     宅配業者の車は自分持ちだ。バンが必要なので、妻アビーの車を売って頭金にしないと。アビーはその車で老人や身体障害者の訪問介護の仕事をしている。車なしだとバスで移動するしかない。渋る妻をリッキーは必死に説得して車を売らせ、バンを手に入れる。
    『家族を想うとき』の原題はSorry We Missed You.宅配業者が訪ねた先が不在のとき、ドアに貼るステッカー「残念ながらご不在でした」の文面だ。
     これはイギリスが舞台だが、ここで描かれている問題はアメリカにも日本にも共通する。現在、世界中の宅配が、リッキーのような個人事業主に依存している。アマゾンをはじめとするネット通販の拡大に宅配の人手が追いつかないのだ。 
  • 町山智浩の言霊USA 第498回 「Dish with one spoon(一つの皿を一つのスプーンで)」

    2019-09-26 05:00  
     アカデミー賞の前哨戦となるトロント国際映画祭に今年も行ってきた。
     数年前からのトロントの不動産バブルはまだ続いていて、飛行機で近づくと、摩天楼の群れが来るたびに増えている。昔ながらの赤レンガの町並みはどんどん消えていく。
     2017年から、この映画祭では、上映の前にこんなアナウンスをするようになった。
    「私たちは以下の事実を認め、感謝します。私たちが日々働き、生活し、物語を分かち合い、互いに結びついているこのトロントを含むオンタリオ州は、1万5000年前から人間が生き続けてきた聖なる土地です」
     つまり、先住民の土地だったということ。
    「ここは、ヒューロン・ワイアンドット族、ピートゥン・ファースト・ネイション、セネカ族、そしてミシサガ・ファースト・ネイションの領域でした」
     ファースト・ネイションとは「最初の民族」という意味で、カナダでは先住民を「ネイティヴ・アメリカン」ましてや「インディアン」とは呼ばず、ファースト・ネイションと呼ぶことにしている。 
  • 町山智浩の言霊USA 第497回 「Japanification(ジャパニフィケーション=日本のように経済が衰退すること)」

    2019-09-19 05:00  
    『週刊ポスト』が日韓対立に便乗して「韓国なんか要らない」特集をして謝罪していた頃、ポストはポストでも天下のワシントン・ポスト紙(8月29日付)に「日本は移民の少ないトランプ的なパラダイスで、死にゆく国である」というエッセイが掲載された。
    「移民を厳しく制限したいという極右の夢が実現するとどうなるか知りたいなら、日本に行って、僕の義理の父に、実家の向かいの家について尋ねるといいよ」
     フランシスコ・トロ記者は、日本人女性と結婚して、北九州にある奥さんの実家を訪ねた体験を書いている。
     奥さんの実家の向かいの家の持ち主はしばらく前に亡くなり、相続する人もないまま、朽ち果てつつある。誰もその土地を買おうともしない。
    「少子高齢化で日本の人口は縮小している。Akiya(空き家)はその目に見える徴候のひとつだ」 
  • 町山智浩の言霊USA 第496回 「Code-Switching(コード・スイッチング)」

    2019-09-12 05:00  
     お笑いコンビ、キイ&ピールの、キーガン・マイケル・キイとジョーダン・ピールは二人ともバイレイシャル(二重人種)。つまり、二人とも父親が黒人で母親が白人だ。
     キイ&ピールがTV番組で見せるコントは、黒人文化と白人文化の間で育った彼らならではのギャグばかりだ。
     たとえば高校生役のピールが暗い顔をしている。「どうしたんだい? 明日デートだろ?」と友人役のキイが話しかける。「おれ、バイレイシャルなんだ」「おれもだよ、だから?」「おれ……アソコが白人なんだ」「白いのか?」「色じゃないよ!」「……サイズか」「うん」「大丈夫だよ。彼女、白人だから気にしないよ」「そっか!」翌日、ピールは昨日より暗い顔をしている。「どうした? エッチできなかったのか?」「いや、したんだけど」「けど?」「彼女、あそこがブラックで……」
     どういう意味だよ!