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  • 町山智浩の言霊USA 第766回「The Trump Administration Accidentally Texted Me Its War Plans(トランプ政権が戦争の計画を間違って私に送信してきた)」

    2025-04-10 05:00  
    「トランプ政権が戦争の計画を間違って私に送信してきた」
     え? 間違って?
     目を疑うような見出しの記事が3月24日、『アトランティック』誌のウェブサイトに掲載された。アトランティックは創刊168年の由緒正しい総合誌。書いたのは編集長ジェフリー・ゴールドバーグ。
    「3月11日火曜日、私はマイケル・ウォルツから『シグナル』への接続リクエストを受け取った」
     シグナルは暗号化でプライバシーが守られるメッセージ・サービス。マイケル・ウォルツはトランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官。ゴールドバーグ編集長はウォルツと面識はあるが親しくはない。だが、トランプ政権に批判的な『アトランティック』誌に何か言いたいのだろうと接続を認可した。
     そして、ゴールドバーグはトランプの閣僚たちのオンライン国防会議に巻き込まれた。3月14日、国防長官ピート・ヘグセスはイエメンで紅海を航行する船舶を襲っている反政府武装組織「フーシ派」の拠点を今すぐ攻撃すべきだと主張した。 
  • 町山智浩の言霊USA 第765回「“Give us back the Statue of Liberty.”(アメリカは自由の女神をフランスに返せ)byラファエル・グリュックスマン」

    2025-04-03 05:00  
    「自由の女神を返せ」
     3月16日、EU欧州議会のフランス代表、ラファエル・グリュックスマン議員は、中道左派政党「プラス・ピュブリック」の党大会で言った。
     自由の女神像は、1886年にフランス政府からアメリカに贈られた。フランス革命に先駆けてイギリスの暴政に立ち向かったアメリカ国民への尊敬の念を込めて。
    「しかし、アメリカは暴君の側に立つことを選んだ」グリュックスマンはトランプ大統領がウクライナを侵略したロシアのプーチン大統領の側についたことに抗議し、自由の女神を返せと言った。
     翌日、ホワイトハウス定例記者会見で、報道官カロライン・レヴィットは言い返した。
    「フランスの三流議員は、フランス人が現在ドイツ語を話していないのはアメリカ合衆国のおかげだと思い出すべきです」
     第二次世界大戦でナチスドイツに占領されたフランスを、アメリカと連合軍が解放したことを言っている。
     もちろんグリュックスマンは反論した。 
  • 町山智浩の言霊USA 第764回「It's insulting that you are trying to test my knowledge of economics.(私の経済知識を試すのは侮辱です)by カロライン・レヴィット(ホワイトハウス報道官)」

    2025-03-27 05:00  
     カナダやメキシコからの輸入品に25%の関税をとトランプ大統領が言い出してから、アメリカの株価が落ち続けている。
    「景気後退の可能性はありますか?」
     3月9日、政権べったりのテレビ局FOXニュースで記者にそう尋ねられたトランプは「今は移行期間だ。少し時間がかかる」と答えた。景気後退を覚悟しろと?
     その数時間後、記者団の囲み取材でトランプは楽観的にこう言った。
    「アメリカは輸入品にかける関税で何千億ドルも儲かる。何に使うか迷うほどの額だぞ」
     これはとんでもない勘違いだ。FOXのキャスター、ブレット・ベイヤーもこう説明している。
    「アメリカ政府が輸入品に関税をかけた場合、それを払うのは相手国ではなく、アメリカ国内の輸入業者で、そのコストは価格に転嫁され、アメリカの消費者が払うことになります」 
  • 町山智浩の言霊USA 第763回「“Our country will be woke no longer.”(アメリカはもはや目覚めていない)by ドナルド・トランプ大統領」

    2025-03-19 05:00  
     3月4日、トランプ大統領が上下両院合同会議で施政方針演説を行った。その演説は史上最長の100分。その内容はいつものように自慢とウソの羅列だった。
    「アメリカは復活した!」
     最初にトランプは宣言した。この1か月でダウ平均株価はトランプがカナダとメキシコに課した関税のせいで大幅に落ちていたが。
    「バイデン政権では毎月何十万人もの不法入国者があり、そのほぼ全員が殺人犯、麻薬の売人、ギャングのメンバー、精神病者や精神異常者だった」
     んなわけない。CBP(米国税関国境取締局)によれば、不法移民全体のうち犯罪歴を持つ人々の割合は1%未満に過ぎない。 
  • 町山智浩の言霊USA 第762回「Oval Office Ambush(大統領執務室の待ち伏せ)」

    2025-03-13 05:00  
    「ガザを所有してパレスチナ人を追い出して高級リゾートにする!」とトランプが宣言する姿がテレビで放送された時も、聴き間違いかと思ったが現実だった。
     ゼレンスキー大統領のことを「彼は独裁者だ」とトランプがSNSに書き込んだ時も、見間違いかと思ったが現実だった。
     アメリカが今までウクライナにしてきた支援の返済としてウクライナの鉱物資源の半分を寄越せ、とトランプが要求した時も、ジョークかと思ったが現実だった。
     トランプが王冠をかぶった肖像画がネットで流れて来た時は、トランピストはここまで狂信的なのか、と呆れたが、ホワイトハウス公式Xからだった。 
  • 町山智浩の言霊USA 第761回「He who saves his Country does not violate any Law.(国を救う者はいかなる法も犯さない)by ドナルド・トランプ大統領」

    2025-03-06 05:00  
    「大統領になったらウクライナ戦争を一日で終わらせる!」そう豪語していたドナルド・トランプは2月12日、ウクライナ停戦の仲介のため、ロシアのプーチン大統領と電話で会談したと発表した。でも……。
     ウクライナがロシアに奪われた領土を取り戻せる可能性は低い、と付け加えた。なぜ?
     トランプは言う。「ロシアは多くの土地を奪い、その土地のために戦い、多くの兵士を失った」
     犠牲を払ったからその土地をロシアに譲ろうっての? ロシアが勝手に攻めてきたのに? ウクライナ人もいっぱい死んでるのに? そもそもウクライナの領土をどうするかを当事国ウクライナ抜きでトランプとプーチンで勝手に決めるの? 
  • 町山智浩の言霊USA 第760回「“Foreign Aid is not charity. We must make sure it is critical to our national security.”(国際支援は慈善ではなくアメリカの安全保障にとって重要だ)by マルコ・ルビオ上院議員(当時)」

    2025-02-27 05:00  
    「国際支援は慈善ではない」共和党のマルコ・ルビオ上院議員(当時)は2017年に言った。「アメリカの安全保障にとって重要なのだ」
     彼はアメリカの途上国支援を管理するUSAID(米国国際開発庁。ユーエスエイド)について言っている。それは対ソ連の国際戦略で作られた。
     冷戦下のソ連は発展途上国、貧困国に勢力を拡大していた。それに武力(ハードパワー)ではなく、人道支援(ソフトパワー)で対抗するため、1961年、ケネディ大統領がUSAIDを創設した。
     ソ連崩壊後もUSAIDは世界各地で貧困、飢餓、疫病、災害、弾圧と戦う人々を支え、食糧や医薬品、水道、教育などを援助してきた。
     ところが2月3日、そのUSAIDの閉鎖に「トランプ大統領が同意した」とイーロン・マスクが発表した。彼はトランプ政権のDOGE(政府効率化省)の責任者に任命され、連邦政府の歳出や人員の削減を始めたが、その皮切りがUSAIDだった。首都ワシントンのUSAID本部は閉鎖され、世界各地の支局も活動停止を余儀なくされた。 
  • 町山智浩の言霊USA 第759回「“The U.S. will take over the Gaza Strip”(アメリカはガザ地区を占領する)by ドナルド・トランプ大統領・トランプ大統領」

    2025-02-20 05:00  
     トランプの暴走が止まらなくて書くのが追いつかない!「アメリカは領土を拡張する」「カナダを51番目の州にする」などと言って世界をぎょっとさせたトランプは早くもそれを実行し始めた。
     1月31日、トランプは戦争を宣言した。貿易戦争だけどね。カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国に追加で10%の関税をかけるというのだ。これでその日の午後、ダウ平均株価は300ポイントも落ちて週末に。なぜなら関税を払うのはアメリカの輸入業者で、それは価格に上乗せされ、苦しむのはアメリカ経済だから!
     アメリカがカナダから輸入しているのは主に石油。それに材木、自動車の部品、医薬品。仕入れ値が上がって苦しむのは自動車製造業や住宅建設業者。トランプは「石油の関税は10%にしといてやる」と言ったが「カナダの材木なんかいらん!」と言い捨てて、全米住宅建設業協会は「必要ですよ!」と公開書簡で抗議した。 
  • 町山智浩の言霊USA 第758回「The FAA is actively recruiting workers who suffer severe intellectual disabilities, psychiatric problems(連邦航空局は重度の知的障害者や精神障害者を採用している)by ドナルド・トランプ大統領」

    2025-02-13 05:00  
     1月20日のトランプ大統領就任式以来、アメリカのパニックが続いている。政府機関を完全にトランプ色に塗り替えることを目的に無茶な命令を乱発しているトランプ政権は、1月27日月曜日の夜、突然、連邦政府の補助金「すべて」を翌日の火曜日午後5時以降に凍結すると言い出した。
     OMB(行政管理予算局)が記した覚書によると、政府は諸団体に補助している数兆ドルについて「見直しのために一時停止する」。その目的はトランプの政策に沿わない補助の削減だという。つまり、DEI(多様性、公平性、包括性)や気候変動対策に反対するトランプは、それを推進する団体への補助をカットしたいのだ。
     しかし、このまま「すべて」が凍結されたら? メディケア(65歳以上の高齢者や障害者の医療保険)は? フードスタンプ(貧困層への食費補助)は? ヘッドスタート(貧困層の未就学児童への学習支援)は? ミールズ・オン・ホイールズ(高齢者や障害者向けの食料配達)は? がん治療の研究助成金は? 連邦学生ローンは? 退役軍人への住宅支援は? 
  • 町山智浩の言霊USA 第757回「“In the name of our God, I ask you to have mercy upon the people in our country who are scared now.”(神の名において、今、この国で恐怖に怯えている人々に慈悲をお与えください)by マリアン・E・バディ主教」

    2025-02-06 05:00  
     1月20日のトランプ大統領の就任式はマイナス2度の寒さのため、急遽、連邦議会議事堂内で行われることになった。4年前の1月6日、トランプに扇動された暴徒たちが襲撃した場所でトランプが大統領に就任するのだ。
     最前列に並んだのはテック系巨大企業のCEOや創業者たちだった。テスラのイーロン・マスク、アマゾンのジェフ・ベゾス、グーグルのスンダル・ピチャイ、Metaのマーク・ザッカーバーグ。彼らは、自分に敵対する者たちへの「報復」を宣言するトランプにひざまずいて、アメリカの富を分け合う貴族の座を得たのだ。
    「現在、アメリカでは莫大な富、権力、影響力を独占する者たちの寡頭政治が形成されつつある」
     バイデン前大統領は退任演説でそう警告した。寡頭政治とは少数の特権階級が支配する社会。トランプを選挙で勝たせた南部や中西部の低所得層はなけなしの金を払って首都ワシントンに集まったが、彼らは寒空の下に閉め出されている。
     トランプの就任演説はいつものようにデタラメだった。