記事 24件
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第144回「“ハーフ”がこの国で生きるということ」

    2025-04-17 05:00  
     先日乗ったタクシーで、運転手さんが世間話かのように海外からの観光客について悪し様に語り、そのままコロナは全部陰謀だと話し始めたため、目的地のだいぶ手前で降ろしてもらったことがあった。相手が海外に何かしらの縁を持つ人間だという可能性も、身の回りの誰かをコロナで亡くしているという可能性も想像すらしない、そんな人間が運転する車に乗っていることが心底恐ろしかったからだ(運転って“かもしれない”をベースにしなければならないものじゃないのか!?)。『半分姉弟』を読んだ今、改めて考える。私は、あの人とは違うと、胸を張って言えるのだろうか。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第143回「美しく不条理な世界観に魅了される5編」

    2025-04-03 05:00  
     3月も下旬だというのに、朝から東京には大粒の雪が降った。窓の外に広がる不穏なほどに白く染まった世界におののき、確認しようと細く開けた窓から吹き込む風の鋭い冷たさに、慌てて窓を閉める。堅牢な室内に蓄積された温度と湿度にほっとすると共に、すでにその欠片は先ほどの風によって損なわれてしまったことが少し切ない。そうか、『溺れる鳥は五度はばたく』の読後感は、あの時の安心感と寂しさによく、似ている。
     本書は、人知れぬ洞窟に古(いにしえ)から存在する神や頬袋をもつ少女、遊牧民の頭領の子にして占師の少年、拐かされた花嫁、惑星に降り立つイヌイットの調査員など、大きな時代のうねりのようなものに翻弄されながらも力強く生きる人々を描いた5つの物語からなる短編集だ。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第142回「ホラー×ギャグのオカルト青春劇」

    2025-03-19 05:00  
     辛いものやお酒に加え、ホラーは好き嫌いが大きく分かれるものの代表だ。そして得意じゃないけど好き、という人が多いのもこれらの特徴。そんな苦手だけどついつい手を伸ばしちゃう、後でやめときゃよかった~って思うだろうなと分かっていても摂取せずにはいられない。そんな怖いものみたさな衝動に抗えないあなたにうってつけなのが『写らナイんです』だ。安心してください、怖いのは怖いけど、笑っちゃうくらい最強なんだから。
     霊媒体質の黒桐まことは行く先々で見えてはならないものを引き寄せてしまい、周囲にまで悪影響を及ぼしてしまうことから転校続きの孤独な高校生活を送っていた。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第141回「双極症の主人公が始めた共同生活」

    2025-03-06 05:00  
     雨の日はなんだか頭が重かったり、急に寒くなった日の朝方はどんなに頑張りたくても体がいうことを聞かなかったり、生理前は些細なひっかかりが見逃せなくてイライラが止まらなかったり……。自分の心身を制御できるだなんて思うのは、おこがましいことだったなあと感じることが増えた。老いたのかもしれないし、経験から学んだのかもしれない。諦めから生まれた冷静さもあるだろう。だからこそ『楽園をめざして』を読んでいてどこか他人事とは思えない自分がいた。
     事故死した7歳下の弟・航平の葬式で、彼に今日子という妻と1歳にならない娘・結がいることを初めて知った芥原(くぐはら)昇司。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第140回「本好きの“あるある”が満載」

    2025-02-20 05:00  
     本棚なぞとうの昔にいっぱいになり、備え付けの引き出しや戸棚、果ては靴箱にまで本が侵食している。まだ読んでない本がそこら中に積んであるにも関わらず、本屋に寄っては新しく買い、おすすめされるたびに取り寄せ……。生活感のない部屋とか、物の少ないお洒落なリビングとか、諦めました。しょうがない、だってもう私にとって、本は主食。生きていくためになくてはならないものなのだから。そんな私が今一番行きたい本屋は『本なら売るほど』の舞台、十月堂。なぜって、取り上げられる本がどれもこれもセンス良すぎるんだもの! 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第139回「東京で何者にもなれなかった大人たちへ」

    2025-02-06 05:00  
     東京を目指したのは大好きな小説『少女七竈と七人の可愛そうな大人』の影響。「性質が異質で共同体には向かない生まれのものは、ぜんぶ、ぜんぶ、都会にまぎれてしまえばいい」という一節を読んで雷に打たれたように、ただただ東京を夢見た。私はまぎれたかった。普通になりたかった。その上で、自分らしく振舞いたかった。紆余曲折を経てたどり着いたここはまさにストレンジャーの街。人が多いし物価も高いし海は汚いし空気も悪い。大嫌いな部分を挙げたらきりがないけれど、それでもここでの暮らしを手放せないほどには大好きで、まさに題名通り『東京最低最悪最高!』ってわけ。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第138回「ミステリアスな着物美人に弟子入り」

    2025-01-16 05:00  
     自前の着物を用意する必要のある仕事が決まった時、それは嬉しそうに母が着物や帯を選んでくれた。熟考の末選ばれたのは母が結婚したときに仕立てた浅葱色の訪問着に真珠箔が輝く花七宝の袋帯。後日その写真を見てくれた多くの先輩方に褒めていただき、こそばゆいやら誇らしいやら。約三十年前に母が着たものを、成長した私が身に纏えるなんて、なんだか不思議で気づけば背筋が伸びるのを感じた。『銀太郎さんお頼み申す』を読んでいると、あの時の気持ちが蘇る。もっと着たい、もっと知りたい。だって、着物に身を包んだ自分はいつもよりずっと素敵に思えるんだもの! 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第137回「夏休み最終日を繰り返す二人の恋の行方」

    2024-12-26 05:00  
     休日の夜は決まって誰かどうにかしてこの夜を止めてくれよ、と熱唱しそうになる。休みよ終わるな月曜日よ去れ、と悪魔祓いよろしく十字を切りたくなったことは、一度や二度ではない。満足に休めたことなんかない。どんなに休めたとしても、もっとやりたいことが、しなきゃいけないことが、あったのに!と後から後から湧いてくる。でも願い叶ってその休みが永遠になったとて、私はするべきことをちゃんとこなせるのだろうか?『8月31日のロングサマー』を読んでいると、思わずそう自分に問いかけてしまう。夏休み最終日を繰り返すあの子たちと同じように、己の課題と正面から向き合うことができるのだろうか、と。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第136回「必要なのは覚悟! 小説家への獣道」

    2024-12-12 05:00  
    「小説は書かないの?」という質問、もう何度聞かれたか分からないくらいだ。忙しさや締め切りの多さなどを言い訳にへらへら「いつかは書きたいですけどね~」なんて笑っていなしてきた。その言葉に嘘偽りはない。どれほど本を読んできたと思っているんだ。書きたい。どれほど文章を書いてきたと思っているんだ。書けるはず。でも、本当は書けなかったら? 才能なんてまるでなかったら? それを知った後私はどうやって生きていけばいいんだよ。そんな私が『あくたの死に際』を読んで、あまりの共感と羞恥に打ちのめされている。その資格があるかは、分からないけど。 
  • 宇垣総裁のマンガ党宣言! 宇垣美里 第135回「溢れるラジオ愛で繰り返すタイムリープ」

    2024-11-28 05:00  
     気づけばラジオの仕事を続けて十年が経った。仕事から入ったそれはいつしか習慣となり、移動中や家事の合間には常にお気に入りのラジオ番組を流し、もはやなくてはならない生命線。リスナーであることがアイデンティティのひとつだからこそ、『オールドヨコハマラジオアワー』に通底する狂おしいほどのラジオ愛はよく分かる。分かるけども!