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記事 49件
  • 川柳のらりくらり 第955回 選・柳家喬太郎 お題「絵の具」

    2023-06-01 05:00  
     絵の具を使って絵を描くなんて、もう何年、いえ何十年していないでしょう。
     商売柄、色紙を頼まれる事はちょくちょくあって、時間がなかったり数が多かったりするとサインだけで御勘弁願うんですが、余裕がある時は落書きめいたイラストを添えます。僕の場合、筆ペンかサインペンでさっと描いておしまいなんですが、仲間の中には、イラストにちょっと一色、加える人もいて、それがまた、いいんです。僕も真似してみたいけど、色彩のセンスがないからなぁ。色紙のサインですらそうなんだから、絵の具で絵を描くなんて、とてもとても。でもまたいつか、のらりくらりと描いてみようかな。 
  • 川柳のらりくらり 第954回 選・柳家喬太郎 お題「しずく」

    2023-05-25 05:00  
     芸人は、高座に上がってる時は、どんなに体に汗をかいても、顔に汗をかいちゃいけない。そういう教えがあるんですけど、いや、これがね、なかなかそうはいきません。それが実践できてる先輩方もいらっしゃいますが、なにしろ体の事ですからねぇ。精神でコントロールできるようにならなくちゃいけないんでしょうが、これが難しいのなんのって。また劇場によっては、照明で舞台が暑いんですわ。でも、それは仕方ない事で。冬の噺を演じながら、汗がこめかみを伝うなんて事もあり、座布団を引っくり返す時に前座さんが、高座に飛び散った汗のしずくを、手拭いで拭いてくれたりなんかして……まだまだ修業が足りません。 
  • 川柳のらりくらり 第953回 選・柳家喬太郎 お題「四畳半」

    2023-05-18 05:00  
     明けの鐘ごんと鳴るころ三日月形の櫛が落ちてる四畳半……なんて、ねェ。艶っぽい都々逸ですな。もっと色っぽくなると襖の下張なんてんで、四畳半てのは、六畳や八畳とも違う、独特の風情があります。もっとも色っぽいばかりじゃありません。惜しくも今年亡くなった松本零士先生……『銀河鉄道999』等、数々の名作を遺された中に『元祖大四畳半大物語』があります。子供の頃、先生の『男おいどん』を読んでもよく分からなかったんですが、大人になってから『男おいどん』のルーツたる『元祖大四畳半大物語』を読んですっかりハマってしまったのです。永遠なれ四畳半。松本零士先生に、合掌。 
  • 川柳のらりくらり 第952回 選・柳家喬太郎 お題「ドキュメンタリー」

    2023-05-10 05:00  
     とある地方都市のビジネスホテルの一室に、柳家喬太郎は居た。デスクの上には、選び終えた川柳の葉書と、楽屋から貰ってきた弁当があった。喬太郎は悩んでいた。このまま原稿を書いてしまおうか、それとも弁当のおかずで一杯飲んでしまおうか。締切までにはまだ余裕があるから、缶ビールとハイボールを優先させても問題はない。とはいえ、仕事は早く済ませてしまった方が良い。やはり原稿を書いてしまおう。しかし、酒に気が行ったまま原稿を書いたら、やっつけ仕事になってしまうのではないか……。喬太郎は葛藤した。
     喬太郎は、ふぅ、とひとつ、溜め息をついた。とりあえず、どら焼きを食べる事にした。 
  • 川柳のらりくらり 第951回 選・柳家喬太郎 お題「タイト」

    2023-04-27 05:00  
    「やぁ、二楽さん」
    「やぁ、喬太郎兄(アニ)さん」
    「忙しいかい?」
    「忙しいです」
    「そう」
    「…………」
    「…………」
    「兄さんは?」
    「タイトなスケジュールです」
    「そうですか」
    「…………」
    「…………暇そうに見えますけど」
    「何もしないって事に、忙しいんです」
    「…………じゃあ僕と同じですねぇ…………」 
  • 川柳のらりくらり 第950回 選・柳家喬太郎 お題「初日」

    2023-04-20 05:00  
     祝、五代目江戸家猫八襲名!
     落語協会では現在、小猫改メ五代目猫八襲名披露興行の真っ最中であります。寄席には欠かせない動物物真似の江戸家代々。初代が曾祖父、『お笑い三人組』や『鬼平犯科帳』でも人気者だった三代目が祖父、タレントとしても活躍した四代目が父という当代は、人一倍研究熱心で真摯な芸と人柄で、今回の襲名は、みんなが心から喜んでおります。僕も鈴本の初日には、出番と口上で出演させて頂きましたが、満員の客席も楽屋もお祝いムード一色で、とても良い披露目が開幕しました。鈴本、末広亭の披露興行を終え、浅草が二十日まで、この後は池袋、国立。是非御来場下さい! 
  • 川柳のらりくらり 第949回 選・柳家喬太郎 お題「春一番」

    2023-04-13 05:00  
     今週のお題は、春一番。まぁ、時期としては、何を今さらってお題ではあるんですがね。
     僕の自作の落語に『ハンバーグができるまで』って噺がありまして。懇意にしてもらってるペテカンって劇団が、二〇一九年に舞台化してくれました。個人経営のスーパーの女性店主って役で、僕も出演したんですが、その芝居で、キャンディーズの『春一番』を、僕が熱唱するってシーンがありました。脚本演出は、ペテカンの座付作者だった本田誠人さん。その本田さんが若くして亡くなって、丸二年以上が経ちました。『春一番』を聴くと、彼の事を思い出します。
     春うらら。今週も、のらりくらりと。 
  • 川柳のらりくらり 第948回 選・柳家喬太郎 お題「ハンバーガー」

    2023-04-06 05:00  
     たまに食べます、ハンバーガー。ハンバーガーショップに喬太郎なんて、絵になりませんけどね。完全に浮いてますけど、小腹が空いてる時の時間つなぎに、ちょうどいいんですよね。あと、朝ね。朝のメニュー好きなんですよ。わざわざ食べに行くわけじゃないんですけどね。空港です。羽田空港。地方に行く時、ちょいと早めの便だったりすると、空港のハンバーガーショップで朝食を済ませる事が多いです。朝のメニュー買ってね、羽田空港第一ターミナルの、エスカレーター下のベンチで、ひっそりと食うんです。なんつーか、人生の侘び寂びを感じるのであります。
     そういう訳でね、のらりくらりと。 
  • 川柳のらりくらり 第947回 選・柳家喬太郎 お題「待合室」

    2023-03-30 05:00  
     おや二楽さん、どうです近頃、具合は。
    「おかげ様で元気です。喬太郎兄(アニ)さんは?」
     いけませんなぁ。すっかり足腰は弱くなっちまったし、まだ還暦前だというのに、気力も体力も、めっきり弱っちまいました。
    「しっかりしてくださいよ」
     それにしても待たせますなぁ。
    「もうずいぶん待ってるんですか」
     かれこれ二時間になりますか。あとから来たモンが先に済ませてく、けしからんですな。
    「兄さん、ここ待合室じゃなくて楽屋ですから。待ってるのは診察じゃなくて出番でしょ? 楽屋入りが早過ぎたんですよ!」
     おやおや。ま、のらりくらりと。 
  • 川柳のらりくらり 第946回 選・柳家喬太郎 お題「ガード下」

    2023-03-23 05:00  
     先日、とある落語会でトリをとらせて頂いた折、後輩の噺家が二人、終演まで残ってくれていました。急いで帰る用もなかったので、
    「どう、軽くいかない?」
     ってんで、一杯ひっかけてから帰りました。いやー久々に言いましたよ。どう、軽くいかない? 人とまるで飲んでなかった訳じゃないけど、コロナ禍になってから、たまたまそこにいた仲間と、ふらっと飲みに行くなんて、してませんでしたからねぇ。もちろんまだまだ気をつけながら、そろそろ行きたいな。ざっかけない居酒屋、焼きとん屋。ガード下デビューもしてみたい。ガード下で飲んだ事ないんですよ。のらりくらりと、一杯やりたい。