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記事 49件
  • 夜ふけのなわとび 第1694回 林真理子「橋田さんのこと」

    2021-04-15 05:00  
     思うように生きていくことは難しい。だけど思うように死んでいくのだって本当に難しい。
     うちの父親は、ぐーたらな自分勝手な爺さんであった。毎日ボーッとテレビを見ているので言ってやった。
    「お父さん、そんなに何もしないでるとボケるよ」
     すると、
    「ボケて何が悪い」
     と睨まれた。
    「人間は年をとるとボケるようになっているんだ。だから死ぬ恐怖から逃れられるんだ」
     その父親は九十二歳で亡くなったが、死ぬ二日前に私と弟を前にこう告げた。
    「オレはもう充分に生きた。いいか、何もするなよ」
     実はもうその頃、食べ物を受けつけなくなっていたので、医者から胃ろうをするかどうか、子どもたちは聞かれていたのである。
     が、私たちが結論を出す前に、テレビを見ながらすうーっとあの世に逝ってしまった……。
     反対にしっかり者の母は、ボケることを何よりも怖れていた。短歌にいそしみ、クロスワードパズルに精を出した。
    「世界一難しいクロスワードパズル」
     というドリルを買って持っていったら、英和辞典片手に解いていったほどだ。
     母は百歳まではちゃんとしていたが、その後の一年はかなり悲惨なことになってしまったっけ。
     そこへいくと、先日亡くなった橋田壽賀子先生は、思うとおりの最期を迎えられたのではないか。 
  • 夜ふけのなわとび 第1693回 林真理子「梅と桜」

    2021-04-08 05:00  
     ふと甦った光景がある。
     それは中学校の卒業式。本当に寒かった。
     山梨には珍しく雪が降っていた。
     あの頃、卒業式の送辞とか答辞は、梅という言葉から始まった。
    「梅の花もほころび、はやお別れの時がやってまいりました……」
     そう、卒業式は梅だったんだ。
     それが今や、森山直太朗さんの「さくら」である。この名曲は、卒業式の定番として、今年も多くの学校で歌われたに違いない。「カロリーメイト」のCMにも使われていて、あれを見るたび瞼が熱くなる私。
     生徒役が、名子役加藤清史郎君だと最近知ってびっくりした。何よりも先生がいい。いかにもどこの地方高校に必ずいる、真面目な生徒思いの先生。 
  • 夜ふけのなわとび 第1692回 林真理子「さらされて」

    2021-04-01 05:00  
     朝起きたら、友だちからLINEに桜の動画が入っていた。その綺麗なことといったらない。友だち二十人くらいに送る。するとしばらくたってから返事がくる。
    「春ねぇー」
    「素敵な動画ありがとう」
     これはまさしく釣りの気分である。楽しい動画や写真という“エサ”をまいておくと、三十分後ぐらいに、いっぱいかかってくる。これがうれしくて、コロナ禍でどこにも行けない時は、毎日いっぱいやっていた。
     昨年のあの頃私のところには、たくさんの動画が送られてきた。それをセレクトして皆に送るのだ。
    「ハヤシさんのおかげで、自粛中慰められた」
     という人もいれば、
    「合成のフェイクじゃん」
     という注意もいただいた。いずれにしても、私が無類のLINE好きなのには変わりない。
     一回会って、ちょっと気が合いそうならLINEを交換する。これは現代においては友情のあかし。昔、男性たちが煙草の火を貸し合ったように。そして一回みなで会って、すごく盛り上がると、LINEグループをつくる。これは近年、子どものいじめの温床となり、ママ友とのトラブルを招いているらしいが私たちの年齢になるとどうということもない。桜の動画のように、季節の折々を伝え合う。
     ところがこのLINEが、実は問題ありだったらしい。 
  • 夜ふけのなわとび 第1691回 林真理子「めんどうくさい」

    2021-03-25 05:00  
     三十年にわたり、私の秘書を務めてくれていたハタケヤマが、定年をもって退職することになった。
     喜びも悲しみも共にしてきた彼女がいなくなるというのはまことに寂しい。
     昨年のこと、編集者の一人が、
    「ハヤシさん、おたくの近所に、すごく本好きのCAが住んでるんですよ。二十五歳です。今度、遊びに連れていってもいいですか」
    「そのうちにね……」
     などと言っているうち、編集者が突然山梨の「まるごと林真理子展」に彼女を連れてきた。
     控え室で話をするうち、コロナ禍でほとんど仕事がないという。 
  • 夜ふけのなわとび 第1690回 林真理子「切り札」

    2021-03-18 05:00  
     メーガン妃がアメリカ版「徹子の部屋」に出演して、思いきりイギリス王室の悪口を言っていた。
     ものすごく不愉快になったのは私だけかと思っていたらそうでもない。まわりの人に聞いても、ネットの反応を見ても、ほとんどの人が、
    「メーガン妃間違ってる」
     という指摘。
     そもそもバツイチで、アフリカ系アメリカ人の血をひくメーガン妃を、イギリス王室は寛大に受け容れたはず。エリザベス女王もとても気を遣われていたのが見てとれた。
     メーガン妃は、実質二年間ぐらいしか王族として活動していなかったという。その間、プライベートジェットでアメリカに帰り、セレブたちと超豪華なベビーシャワーパーティーをやったりしていた。
     美智子上皇后や雅子皇后の、長いご苦労を見てきた日本人としては、
    「甘ったれるんじゃない」
     という感じではないかと思う。
     イギリス本国では賛否が分かれたというが、たぶん否の方が多いはず。高齢のエリザベス女王をみんな心配している。
     しかしアメリカは違う。セレブが次々と声明を出し、
    「気品と勇気ある行動」
     とか讃えている。私からするとこれもなんか、嫌な感じだ。 
  • 夜ふけのなわとび 第1689回 林真理子「十年」

    2021-03-11 05:00  
     その日私は、緊張して早起きしてしまった。久しぶりの講演会のうえ、行くところは宮城県の石巻市なのである。
     今年は東日本大震災から数えて十年目という節目の時だ。その一週間前、
    「こんな時に呼んでいただいて……」
     と仙台駅で迎えてくれた新聞社の人に言ったら、
    「いいえ、宮城はコロナの感染者数が少ないので」
     と別の風にとらえていた。赴任して二年というから無理はない。
     仙台駅からタクシーで石巻に向かう。次第に私の中で、いろいろな記憶が甦ってきた。
     初めて石巻に行ったのは、二〇一一年の四月。ボランティアで避難所に行くグループに入れてもらったのだ。まだ声を失う光景が拡がっていた。 
  • 夜ふけのなわとび 第1688回 林真理子「美食と恋と」

    2021-03-04 05:00  
     総務省のえらい人が、東北新社から接待を受けていた。その中の一人の飲食代が、七万円を越えていたというので大変な騒ぎとなっている。
    「七万円なんてどこへいったんやろね」
     と辻元清美さんが言い、世間もびっくりしている。
     私も驚いた、というとウソになるかも。ステーキ店や河豚屋でそのくらい支払った経験があるからだ。しかし最近のレストランガイドブックを眺めているうち、ひぇーっと叫んでいた。人気のお鮨屋や和食屋は、三万か四万円からがあたり前。昔、一人二万五千円ぐらいだったと記憶している某和食屋は、一人七万円とあった。十二万円と堂々と記してあるところもあり、これにはたまげた。
     その点高いワインを頼まなければ、フレンチやイタリアンは比較的リーズナブルである。法外な価格設定はしていない。お鮨屋と和食屋がすごいことになっている。魚の値段が高騰しているのだろうか。それともマグロの値を誰かが釣り上げているのか。 
  • 夜ふけのなわとび 第1687回 林真理子「自主隔離」

    2021-02-25 05:00  
     外食をする時はゲームのようになる。
     とにかく八時までにご飯を食べなくてはならない。アルコールは七時まで。これをきっちり守っているところは多くて、先日は六時四十分にホテルのコーヒーハウスに着いたところ、
    「七時でアルコールは終わります」
     つれない言葉。
     呑んべえの友人など、
    「ワイン、ボトルで。その前にビール一緒に持ってきて」
     と注文していたっけ。
     時計を見ながら食べるから気が気ではない。 
  • 夜ふけのなわとび 第1686回 林真理子「森さん的なものについて」

    2021-02-18 05:00  
     この原稿を書き始めたら、森さんの辞任が決まった。何だかイヤな一週間であった。
     最初のうちは、森さんが陳謝撤回し、このまま沈静化すると思われていたのであるが、日を追うごとにすごいことになった。IOCが突然“手の平返し”したこともあり、我も我もと皆がいろんなことを言い始めたのである。
     このコロナ禍でギスギスした世の中では、池に落ちた人を叩くのはあたり前。そして誰もが自分は、叩くための石を有していると思い始めた。誰もがこの“祭り”に参加したがっている。
     昨日まで大きな権力を持っていた政治家、元総理大臣。とんでもなくえらい人だったはずなのに、今は池の中であっぷあっぷしている哀れな老人になった。そこに皆が石を投げる様子が、本当に怖ろしい。
     私だってあの発言はとんでもないものだと思う。国際的な大会の日本のトップが、あんなことを口にしてはいけなかった。
     実はこの私、オリンピック関連のいくつかの会議に出席したことがある。もしかするとあの時だらだら喋ったかも。まずいことを口にした記憶は……ある。私がそれを言ったとたん、場がさっとシラケたのだ。 
  • 夜ふけのなわとび 第1685回 林真理子「本の未来」

    2021-02-10 05:00  
     コロナでみんなの心がギスギスしている。
     また不倫の吊るしあげである。いくら奥さんが有名人だからといって、ベンチャーのお金持ち社長だからといって、プライベートのことをこんなにさらされていいものであろうか。それをまたテレビが叩く。
     そしてその人のプロフィールを詳しく説明した後は、
    「こんなこと取り上げなくても」
    「夫婦の問題だから」
     とコメンテイターたちはしたり顔。それならば放映しなければいいのにと思う。大きな事務所のタレントだと、全くの無視を決め込むくせに、ターゲットを、有名人の夫にまで拡げたのかと思うとイヤらしい。
     不倫狩りの次は言葉狩りで、森喜朗さんにいっぺんにとびかかった。まあ、あの発言はなんでこんな時にこんなことをと耳を疑った。確かにマズい。しかし今、トップが辞められるわけないでしょう。