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記事 48件
  • 夜ふけのなわとび 第1870回 林真理子「朝食の幸せ」

    2024-12-19 05:00  
     このところの時間の過ぎる早さといったら、空怖ろしくなるほどである。
     もはや「十二月は逃げる」などといった、古風なやさしい表現など出来ない。
     あっという間に週末がきて、月曜日になるとまたすごいスピードで金曜日が訪れる。そして土日も、これまたスケジュールがいっぱいだ。家でゆっくりしたことなど、この半年なかった。
     そんなある日、
    「ハヤシさん、さぞかし忙しいことでしょう。息抜きに京都にいらっしゃいませんか」
     というお誘いをいただいた。
    「紅葉の頃にぜひ」
     といっても十一月の土日も、びっしり予定が入っている。空いているのは十二月七日と八日の週末だけ。
    「もうとっくに散っちゃってますよね」 
  • 夜ふけのなわとび 第1869回 林真理子「資生堂のポーチ」

    2024-12-12 05:00  
     知り合いの作家が言った。
    「ハヤシさんのエッセイで、文藝手帖が今回限りだということを知った。すごくショック」
     やはりあれは、文藝春秋から毎年送られてくるものだと思っていたらしい。
     今年すでになくなっていたものがあった。それは新潮社のカレンダーである。余白のある大きなカレンダーをとても重宝していたのであるが、もうそれも廃止することにしたそうである。
    「ずうっとあると思い込んでいたものが、突然なくなるって、すごく寂しいよね。それが手帳とかカレンダーだとしても」
     その作家も、そうそう、と頷いてくれた。
    「ハヤシさん、年賀状今年はどうしますか」 
  • 夜ふけのなわとび 第1868回 林真理子「アリダサイコー」

    2024-12-05 05:00  
     有田と書いて、アリダと読むということを初めて知った。
     和歌山県有田市のことである。ここで第二十回エンジン01文化戦略会議のオープンカレッジが開かれることになった。これまでの開催都市に比べてこぢんまりとした市で、人口は二万六千人だ。ここで一万数千人を動員するイベントを行なおうというのだから大変なことである。最初はなかなか講座の席も埋まらなかった。
     私など当日行っただけで何もしなかったのであるが、大会委員長の鎧塚俊彦さんはどんなにご苦労されたことだろう。
     大会委員長というのは、その大会を全部仕切る。 
  • 夜ふけのなわとび 第1867回 林真理子「谷川さんのこと」

    2024-11-28 05:00  
     谷川俊太郎さんが亡くなった。
     SNSというものによって、言葉は使い捨てになり、同時に人を傷つけるための小石やこん棒になった。
     その小石をいかに効果的に投げられるか、人が競い合ったアメリカ大統領選挙や、兵庫県知事選挙が終わった頃、谷川さんの訃報が伝えられたのだ。
     先週このページで、ずっとあると思っていたものが無くなるのは本当に寂しい、と書いたが、谷川さんはその最たるものであった。日本人なら詩集を開かなくても、教科書で多くの作品に出会っているはずだ。 
  • 夜ふけのなわとび 第1866回 林真理子「文藝手帖、お前もか」

    2024-11-21 05:00  
     今日はショックなことがあった。
     毎年十一月になると送られてきた、文藝春秋の「文藝手帖」。これが今年でなくなるそうだ。
    「戦前より発行してきた当手帖ですが、誠に勝手ながらこの二〇二五年版をもちまして、発行を終了することとなりました。
     長年にわたり、日々の供としてご愛用くださりまことにありがとうございました」
     そう書かれた紙がはさまっていた。本当に長年愛用してきたのに……。最近はスマホのタイムツリーと併用していたが、あちらは老眼の目につらい。
    「やっぱり文藝手帖だわ」 
  • 夜ふけのなわとび 第1865回 林真理子「国難に向けて」

    2024-11-14 05:00  
     昨夜は眠れなかった。
     トランプ氏が大統領選に勝利したからである。ウクライナの今後、ガザ地区の終わりの見えない地獄を考えて、目は冴えるばかり。本当にいったいどうしたらいいのであろうか……。
     安倍さんがお元気だったら、なんとかなったかもしれない。安倍さんと仲よくしていた頃は、トランプさんはまだ、ちょっと過激な愉快なおじさんであった。愛敬もあった。
     しかし今や彼は、完全に確信犯になろうとしている。アメリカの中のポピュリズムの炎をさらに大きくしようとしている。
     石破さんだとナメられやしないだろうか。 
  • 夜ふけのなわとび 第1864回 林真理子「残念」

    2024-11-07 05:00  
     最近これには驚き、そして腹が立った。
     何かって国連女性差別撤廃委員会である。
     日本に対して、選択的夫婦別姓の導入と、「男系男子」の皇位継承を定めている皇室典範の改正を勧告したという。
     私は若い頃、夫婦別姓について声高に叫ぶ人たちに対し、正直、
    「めんどくさそう」
     という感想を持っていた。
     夫の姓だと不便、という言い方ならわかるが、
    「違う姓になると、私のすべてのアイデンティティが失われる」
    「今まで生きてきた人生、すべて否定されるのと同じ」
     etc……。大げさだなあと思っていた。 
  • 夜ふけのなわとび 第1863回 林真理子「読書週間」

    2024-10-31 05:00  
     教育に関係するようになってから、私が注意していることがある。それは、
    「皆さん、本を読みましょう」
     という言葉だ。
     大学でも、附属の高校、中学に行っても、これを口にしたとたん、みんなさっとシラける。そして、
    「ありきたりのつまんないことしか言わない」
     という冷ややかな視線が私にくる。
     作家としてつらいことだが仕方ない。今まで私は長いこと、読書啓蒙運動に参加してきた。読書推進ナンタラ、という委員会やプロジェクトもやってきた。
    「ハヤシさんは本屋の娘なんだから協力して」
     と頼まれ、書店の代表や出版社の社長さんたちと、議員会館に行ったことも。読書週間には都心の書店前でビラも配った。 
  • 夜ふけのなわとび 第1862回 林真理子「オバさんは思う」

    2024-10-24 05:00  
    「マリコさんのエッセイって、この頃オバさんっぽいね」
     突然こう言ったのは、本誌でもおなじみの、サイバーエージェント社長の藤田晋さんである。
     ショックだった。
     藤田さんといえば、IT産業の頂点を極めたお一人であるが、アクの強さがまるでない、いつもはにかんだ風の、もの静かな方である。
     年に何回かおめにかかるが、その夜の食事は、日本橋室町のスペイン料理であった。赤と白のとてもいいワインを持ち込んでくださり、食事もご馳走してくださったが、藤田さんのエッセイによると、
    「飲食費は会社の接待費ではなく、必ず自分のお金で払う」
     とか。いつもすみません。 
  • 夜ふけのなわとび 第1861回 林真理子「創立記念日」

    2024-10-17 05:00  
     十月四日は、わが日大の創立記念日であった。
     そして同時に「日大デイ」であったと私は認識している。まず朝日新聞の朝刊全十五段に、学長の写真が載った。久しぶりにうてたうちの広告は、若くカッコいい学長の就任の決意である。これは世界的カメラマン、レスリー・キーさんが撮ってくださった。
     何人かからLINEで、
    「おたくの学長、本当に素敵ね」
    「ニュースキャスターかと思った」
     と誉められ、鼻高々である。
     しかもこの学長、朝から東都大学野球の始球式もつとめた。