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記事 47件
  • 夜ふけのなわとび 第1643回 林真理子「あの年のあの人」

    2020-04-02 05:00  
     あの三連休がいけなかったと多くの人は言う。
     コロナにかかった人はそう増えていないし、世間には、
    「日本はうまく抑えたんじゃない?」
     と楽観ムードが漂い始めた。
     折しも、都内は桜がちらほら咲き始め、とてもいい天気。宴会は出来ないものの、みんな公園に出かけて、夜はいろんなところに繰り出した。
     なにしろ日本において、桜は宗教である。長い冬が終わり、希望をもたらしてくれる象徴だ。わーい、わーいとみんなが浮かれ出しても仕方ない。
     そうしたら東京では、ものすごい数で患者さんが増え出した。感染爆発、オーバーシュートというらしいが、起こると困るので、週末自粛ということになった。
    「不要不急の外出などは避けるように」
     というので私はふーむとうなった。
     私は月曜日から金曜日まで外食だ。三ヶ月前からお誘いがあり、空いている日がパズルのように予定で埋まっていく。
     その他にも、
    「あさって、○○鮨席あるよ」
     などといった急なおいしいメールもいっぱい入ってくる。
    「こんな時にいいかげんにしろ」
     夫は怒って口もきいてくれない。
     さすがの私も小池都知事の会見で考え直した。 
  • 夜ふけのなわとび 第1642回 林真理子「今だからこそ」

    2020-03-26 05:00  
     先週、体調を崩し、つらい症状が出た、と書いたところ、いろんな人からお見舞いのメールやFAXをいただいた。ご心配をおかけいたしました。
     しかしものはとらえようで、三日間ファスティング(断食)したおかげで、なんか体が清々しい。ダイエットのきっかけがつかめた。
     これからはお酒は可能な限り控え、食べものにも気をつけよう。
     火曜日はヘルシーなキノコ鍋を食べに出かけた。二ヶ月前から友人が予約をしてくれた店だ。とにかく人気があり過ぎて、会員制のようになっている。看板も出ていないし、電話番号も公開されていない。初めての客は、教えられた住所を頼りに、タクシーの運転手さんにナビを入れてもらう。最近このテの店が増えていて不便このうえない。 
  • 夜ふけのなわとび 第1641回 林真理子「変わるものとは」

    2020-03-18 05:00  
     昨年のことである。
     山梨に向かう電車の中で、たくさんの中国人の旅行客を見かけた。富士山に向かう人たちだ。これはわかるとして、勝沼ぶどう郷とかその先のもっと小さな駅でも降りる。
     SNSによって、面白そうな田舎は、どんどん拡散されているのだ。
     山梨でもこんなだから、銀座のざわめきといったらなかった。デパートの化粧品売場は、中国人の若い人たちに占領されているといってもいい。
    「有難いことだよな、中国の人たちが来てくれて、日本の景気を支えているんだ」
     と夫は言い、私もそう考えていた。
     しかし京都における、中国の人の多さはちょっと度を越していたかも。歌舞練場のあたりは、それこそ歩くのもやっと、ものすごい数の人たちがひしめいていたのである。
     これだけ膨らんだものは、いつかパツンとはじけないものなんだろうか……。
     そう思っていたら、今回のコロナ騒ぎである。銀座からも表参道からも、中国の人がいなくなった。
    「ハヤシさん、売り上げ半減なんてもんじゃありませんよ」
     よく行くショップの人がため息をついた。 
  • 夜ふけのなわとび 第1640回 林真理子「ややこしい」

    2020-03-12 05:00  
     先週、
    「近所のお年寄りに、マスクをあげなかった自分がすごくイヤ」
     と書いた。
     ずっとそのことを考えていたといっても過言ではない。そうしたら、夫が五十枚入りの箱を買ってきたではないか。
    「家電量販店に行ったら行列出来てた。終わりの方に並んだら買えた」
    「じゃ、これ、ご近所の○○さんに差し上げてもいいかしら」
     もちろんだよ、ということでさっそく持っていった。するとご主人が出てきて、
    「不要不急の老人だから、出来るだけ外出は控えてました。でも本当に嬉しい」
     と本当に喜んでくださり、帰り道ずっと見送ってくださった。
    「いいことしちゃった」
     とハタケヤマに話したら、
    「ハヤシさん、私のことも考えてくださいよ!」
     と怒られた。 
  • 夜ふけのなわとび 第1639回 林真理子「本当にいるんだ」

    2020-03-05 05:00  
     コロナウイルスが大変なことになっている。
     イベントの自粛要請により、私たち「3・11塾(3・11震災孤児遺児文化・スポーツ支援機構)」が毎年主催している、サントリーホールでのコンサートも、五月七日に延期となった。
     文学賞の授賞式も、チケットをとっていたお芝居も延期。三月に予定していた講演会も秋になって、私はちょっと残念だ。今年初めての講演会で、そこの地方の読者の方から、
    「マリコさんと会えるの、本当に楽しみです」
     と手紙をもらったばかりだったのである。
     地方といえば、このページで、
    「マスクがなくて本当に困っている」
     と書いたら、知人から五十枚入りの箱をいただいた。本当にありがとうございます。まだ地方では手に入るそうだ。
     うちの近所の薬局では、マスクを求めて早朝から行列が出来ている。アベさんが約束した「大量生産」はまだ市中にまわってこない。
     歩いていたら、近所のお年寄りと会った。 
  • 夜ふけのなわとび 第1638回 林真理子「文楽のあとで」

    2020-02-27 05:00  
     それは昨年の、芥川・直木賞贈呈式でのことであった。
     直木賞は大島真寿美さんの「渦(うず) 妹背山(いもせやま)婦女庭訓(おんなていきん) 魂結(たまむす)び」である。江戸時代の浄瑠璃作者を描いたものだ。
     大島さんはこの小説をお書きになるために、義太夫教室に通われたとか。
    「文楽ほど面白いものはありません」
     と何かの記事で読んだ憶えがあるが、一度も経験したことのない私は、ふうーん、そんなものかと思っただけ。
     贈呈式では、選考委員を代表して、宮部みゆきさんがステージに立った。
    「今日はステキなゲストが来てくださってますよ」
     文楽の方々が、妹背山のヒロインである人形を連れてきてくれたという。
    「お三輪ちゃんが来てくれて、そこのステージの横にいらっしゃいます」
     小さなどよめきが起こった。式が終わった後、さっそく私も見に行く。 
  • 夜ふけのなわとび 第1637回 林真理子「国を越えて」

    2020-02-20 05:00  
     コロナウイルスの感染者が、どんどん増えている。特に船の中はすごい勢いだ。
    「あれでクルージング、行く人が減るんじゃないか」
     と心配している人は多い。実は私も、三月に瀬戸内海へ短かい船旅をすることになっているのであるが大丈夫であろうか。
     クルージングをしたことがある人ならわかると思うが、よほどのスイートルームでもない限り、船室というのはとても狭く出来ている。その替わり、共有スペースは広く豪華。シアターやプール、カジノと楽しめるように至れりつくせりになっているのだ。
     しかしダイヤモンド・プリンセス号はコロナウイルスの蔓延によって、共有スペースに出るのは禁じられているとか。高齢者は下船が認められたが、その他の人々は、どれほどストレスがつのることであろうか。 
  • 夜ふけのなわとび 第1636回 林真理子「大陸的」

    2020-02-13 05:00  
     この大雑把な私が、帰ってくるとまず手洗い、うがいをするようになった。それもかなり神経質に。
     テレビでも専門家たちが口を揃えて言う。新型コロナウイルスには、まずは手洗い。とにかく丁寧にじっくりと洗いなさいと。日に何度も石鹸を使うので、おかげで手が荒れてしまった。肌がガサガサしている。ゆえに保湿クリームでマッサージ。
     実は私はかなりのマッサージ好き。日に何度も何度も掌をもんでいる。特に親指の真下を強くプッシュすると、何ともいえず気持ちいい。それから腕の方にいき、肘の方まで力を入れていく。
     ずっと手書きの私は、一時期腱鞘炎になりかけた。その最中、たまたまテレビの「あいつ今何してる?」を見ていたところ、森昌子さんの中学校時代の同級生が、この分野の名医になっているというではないか。世界的なピアニストや、工芸家が通っているという。しかもそのクリニックは、私がよく行くホテルの中にある。なんとかコネがないものだろうかとこのページに書いたところ、知り合いからすぐに連絡があった。 
  • 夜ふけのなわとび 第1635回 林真理子「不倫は大麻?」

    2020-02-06 05:00  
     私は大きな声で言いたい。
     いったいいつから、こんな不寛容な世の中になってしまったんだ。
     どうして他人を、こんな風に徹底的にうちのめすことが出来るんだ?
     俳優の東出さんとその相手の女優さんを、みんながボコボコにしている。
     東出さんは確かに悪い。奥さんが妊娠中に浮気をするなんてサイテーだ。相手の若い女優さんも、よくない。不倫をしたらしたでルールというものがあるが、こんなことをしちゃいけないでしょう。
     などということを、ちょっと前まではおばさんたちは昼下がり、どこかの家の茶の間で話し、若い女の子たちはスタバかなんかで、
    「東出みたいなのよくないよねー、杏ちゃんかわいそう」
     と噂し、男の人たちは居酒屋で、
    「やっぱり不倫するとおっかないことになるよなー」
     と喋り合う。
     それが今ではネットでまず悪口を書き、その勢いでスポンサーやテレビ局に抗議の電話、あるいはメールをする。
    「あの俳優をすぐさま降ろせ」
     それにすぐ怯える、根性なしの企業やテレビ局。
     CMは仕方ないかもと大目に見よう。とんでもない大金を払って、そのタレントさんをイメージごと買うわけだから。しかしドラマというのは、その俳優さんの演技という虚構を求めているわけでしょ。
    「今後の出演を検討」
     なんて情けないことを言わないでほしい。
     今や不倫は大麻と同じなのか。これだけ社会的制裁をうけなければいけないものなのか。 
  • 夜ふけのなわとび 第1634回 林真理子「いったいどこに?」

    2020-01-30 05:00  
     きっかけは、昆布と餅であった。
     暮れに釧路の親しい方から、最高級の利尻昆布をいただいた。その立派なことといったら、飾っておきたいぐらいだ。
    「どうぞお雑煮にお使いください」
     とラインが来た。
     そうするうちに、後援会に入っているお相撲さんから、
    「うちの部屋の餅搗き大会でつくったものです」
     のし餅が届いた。
     こんなすごいものが揃ったら、張り切るのはあたり前であろう。
     さっそくスーパーに行き、いちばん高いカツオ節を買ってきた。昆布を水にひたし、沸騰少し前に取り出し、カツオ節を山のように入れる。こうして丁寧にひいた出汁に、里芋、大根、にんじん、ごぼう、トリ肉を入れる。わが家のお雑煮は、夫のルーツ熊本風だ。
     最後によそって三つ葉を入れ、これもいただきものの柚子の皮をちらす。そしてお相撲さんのつくったお餅を入れると、そのおいしいことといったら。野菜のうまみと出汁が、ベストマッチング。
     夫なんかおかわりをするので、大きい鍋につくっても、正月三日でたいていなくなってしまうほどだ。
     一月十日過ぎても、あのお雑煮のおいしさが忘れられない。