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記事 49件
  • いまなんつった? 第712回 宮藤官九郎「ねえ、いつ!?」

    2022-12-08 05:00  
     仕事で2ヶ月ほど家を空けることになりました。
     頑張れば東京と往復できないことはない距離、だけどもう肉体的に頑張れない。家族と離れるのは寂しいけど、僅差で「頑張り」が足りなかった。
    「ねえねえ! お父さん、いつから地方行くの? 今月? 来月? ねえ、いつ!?」
     心なしか娘が嬉しそうなのが気になる。「勉強しな」「部屋片付けな」とやかましく言い過ぎたかな。奥さんも、防寒の心配をしてくれる声がなぜか弾んでいる。ふと、父が単身赴任で2年家を空けた時のことを思い出した。 
  • いまなんつった? 第711回 宮藤官九郎「何がいけないんでしたっけ?」

    2022-12-01 05:00  
     長い間『杓子定規』の意味を誤解していました。
     長さがだいたい分かる杓子があるのに「定規じゃないと正確に計れない!」と駄々をこねて、杓子を定規代わりにもできないなんて、融通が利かないヤツだと笑われる……という意味だと思ってた。けど調べたら違った。「曲がった杓子の柄で長さを計ろうとする、融通の利かないさま」のことらしい。だけど杓子を定規にしようと考えついた時点で、むしろそいつ融通利くヤツじゃね? と思っちゃう。そしてまた、間違えた『杓子定規』で記憶を上書きしてしまう。
     コンプライアンスが取り沙汰される昨今、みんな持ってる定規が違うんだよなぁと痛感します。杓子の人もいれば製図用スケールの人もいる。
    「『女々しい』という表現は男性も女性も傷つけますからね!」と、性差別には細密な定規を持ち出すくせに、ルッキズムに対しては無頓着。ごぼう並みの定規しか持ち合わせておらず「え? 『ハゲ』って、何がいけないんでしたっけ?」と純真な目で訊いてくる。 
  • いまなんつった? 第710回 宮藤官九郎「R-1飲んだ?」

    2022-11-24 05:00  
     流行語大賞のノミネート、今年もぜんぜん知らな~い、ぜんぜん流行ってな~い。そんな声を聞くと、年の瀬って感じですね。
    「じぇじぇじぇ」から9年が経ちました。お忘れでしょうが「倍返し」「今でしょ!」「お・も・て・な・し」と同時受賞。豊作でしたね。同年ノミネート止まりだった「ブラック企業」「マイナンバー」「パズドラ」がむしろ今も生き残ってる一方、全く浸透しなかった「母さん助けて詐欺」もあって、つくづく流行語ってなんだかなーですね。
     宮藤家の流行語は今年もダントツ「R-1飲んだ?」です。 
  • いまなんつった? 第709回 宮藤官九郎「ようせい出ました」

    2022-11-17 05:00  
     平成中村座11月公演が始まりました。
     俺が書いた新作『唐茄子屋』は10月から続投ですが、それ以外の古典4演目が入れ替わりました。いつ稽古したの? なんて野暮は言わない。シレっとやっちゃうのが歌舞伎俳優。
     10月、中村獅童さんが演じた大工の熊を、11月は中村橋之助さんが勤めます。受け取った台本をカフェで読み「動悸が激しくなりました」と、本人が仰る通り、獅童さんとは全然タイプが違う。そばとうどん、いや、うどんとクロワッサンくらい違う。その落差を楽しむのも伝統芸能の面白さ。実際、橋之助版の熊は生真面目さが際だっていて、初日は少し堅かったけど、2日目以降どんどん良くなるだろう。皆さん、11月もよろしくお願いします! と劇場を後にしたのですが、翌朝7時に電話が鳴った。
    「ようせい出ました」 
  • いまなんつった? 第708回 宮藤官九郎「自分の釣りをして!」

    2022-11-10 05:00  
     シーバス、今年も釣れなかった。
     何がいけないんだろう。真剣に考えている。脚本家としてはベテラン寄りの中堅なのに、釣り師としてはいつまでもビギナーだ。
    「東京湾は日本でいちばん魚影が濃いんです」
     午後のラジオでそんな話を聞いた。東京暮らし30年になるけど知らなんだ。なぜか心がザワついて竿とリールを購入したのが4年前。初めて獲得した趣味らしい趣味に心が躍った。
     以来、港区界隈での打ち合わせはソワソワします。 
  • いまなんつった? 第707回 宮藤官九郎「好きです」

    2022-11-02 05:00  
     プロポーズでもないのに「好き」を連発されるとドキドキします。
     例えば先日俳優として参加した衣裳合わせ。演じるキャラクターについて監督やスタッフと意見交換しながら、衣裳や小道具を身につけます。
    「真面目な男だから、眼鏡かけてみましょうか」
     黒縁、銀縁、縁なし。持ち道具さんが用意した眼鏡を一通りかけて見せる。
    「ん~どうかなぁ」監督も決めかねているようだ。するとスタッフの一人が、
    「黒縁が好きですね」
     ん? 好き? それは黒縁の眼鏡全般が「好き」なの? それとも、黒縁の眼鏡をかけた俺のビジュアルが役のイメージに合ってて「好き」なの? それともシンプルに俺が好きなの?
    「じゃあ眼鏡は黒縁で。ネクタイどうしようか」
     青系、赤系、柄物、結んじゃ解きを繰り返す。
    「暖色系が好きですね」
     それは!? あなたが暖色系が好きな人で、カーテンもソファーも暖色系です、という宣言なの? そもそも今ここは、個人の好き嫌いを言い合う場なの? 
  • いまなんつった? 第706回 宮藤官九郎「お待ちしてました!」

    2022-10-27 05:00  
     歯を直すことにしました。
     幼少期は「八重歯が可愛いね」ともてはやされ、若い頃は「個性的だね」と羨ましがられた自慢のガチャ歯ですが、30過ぎた頃から「直さないの?」と心配され始めた。
    「このままだとアナタ、一生ご自分の歯でご飯食べられなくなりますよ」
     そう宣告され青ざめる芸人さんの歯が、俺のよりぜんぜん整然と並んでいるのをテレビで見て、いよいよ矯正と決意したが、そういう時に限ってポツポツと俳優仕事が入る。このドラマが終わったら、あのCMの契約が切れたらと先延ばしにしてたらコロナ禍に。マスクで口元が覆われている今こそチャンス。コロナが明けてマスク取ったら歯が直ってるなんて最高じゃん。 
  • いまなんつった? 第705回 宮藤官九郎「宮藤くん、なに中?」

    2022-10-20 05:00  
     出身中学の話じゃありません。人と会う機会がめっきり減り、久々に顔を合わせた知人から、最近なにやってんの? という意味で「なに中?」と聞かれます。
     今なら「歌舞伎中です」と答えるし、ドラマが放送中ならそのタイトルを言えばいい。しかし一概に「○○中」と言えないケースが多々あります。
     情報解禁前だと「○○中」と言っても通じない。しかも脚本を手がけている段階というのは、その作品が順調に進行するか、頓挫してしまうか判らない。現に今も宙ぶらりん状態のシナリオが数本あります。 
  • いまなんつった? 第704回 宮藤官九郎「できません!!」

    2022-10-13 05:00  
     プロってなんだろう。
     午前中、娘の高校の文化祭へ行きバンドやダンスのステージを堪能、午後は浅草で歌舞伎の稽古。アマとプロの両極に触れ、その定義が自分の中でグラついています。俺ってプロなの? アマなの?
     コロナ禍の文化祭はマスク着用。バンドはアコースティック編成のみ可という謎のガイドラインで敢行されました。なぜエレキはNG? コロナが電気ケーブルを伝って感染するとでも言うのか?
    「狭いスタジオに大勢集まって練習するからじゃない?」 
  • いまなんつった? 第703回 宮藤官九郎「死にそーですっ!」

    2022-10-06 05:00  
     オーディションばかりしてる気がする。俳優として監督として、審査する側される側。一体いくつのオーディションを経験しただろう。選んだり選ばれたり落ちたり落としたり。我ながら因果な職業です。
     例えば板前役のオーディション。監督は当然、板前さんに見える人を選ぶ。落とされた人は板前に見えなかっただけで、役者としての資質や実力の有無は全くの別問題です。
     しかし俳優は落ち込む。マネージャーからの「決まりませんでしたー」という無機質な留守電メッセージを聞く度に死にたくなる。またダメだった。才能ないのかな。諦めて田舎帰って実家の小料理屋を継いで板前にでもなろう。1回のオーディションが他人の人生を左右しかねない。
     貧しくて病弱な少年の役を探していました。しかし児童劇団に所属している子供はみな闇雲に元気でハキハキしている。大きな声で挨拶しなさいと、親に講師に叩き込まれているのだ。