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記事 49件
  • 町山智浩の言霊USA 第751回「Preemptive Pardon(先制恩赦)」

    2024-12-19 05:00  
     12月1日、任期が残すところ2カ月を切ったジョー・バイデン大統領が、息子ハンター・バイデンを恩赦すると発表した。
     バイデンの次男で実業家のハンター(54歳)は兄を失ってからアルコールとクラック・コカインに依存し、2018年に自殺しようとして拳銃を購入した。銃砲店での書類記入時に麻薬依存無しと嘘の申告をしたことで、今年6月に有罪評決を受けた。ちなみにその拳銃はハンターと不倫関係になった兄の未亡人が見つけて捨てた。また、依存症だった間納税せず(その額140万ドル)、そちらも有罪になった。
     刑の宣告は今月中旬だったが、それほど悪質ではないので執行猶予になる可能性が高かった。しかし、この恩赦は民主党を怒らせた。 
  • 町山智浩の言霊USA 第750回「Wicked Witch of the West(西の悪い魔女)」

    2024-12-12 05:00  
     感謝祭の前週、ミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』が全米公開されて大ヒット中。そこでの主人公は、1939年のMGMミュージカル映画『オズの魔法使』と、その原作になった1900年のL・フランク・バウム作の童話に登場する「西の悪い魔女」。彼女はドロシーに苦手だった水をかけられて溶けて死ぬ。オズの住人たちは「西の悪い魔女が死んだ!」と大喜び。
     そんなに憎まれるなんて、いったい彼女はどんな悪いことをしたの? それを作家グレゴリー・マグワイアが想像して小説にしたのが『ウィキッド』(1995年)。それを2003年にブロードウェイ・ミュージカルにしたのが、この映画の原作。 
  • 町山智浩の言霊USA 第749回「Non compos mentis(心神喪失状態)」

    2024-12-05 05:00  
     トランプ第二次政権の閣僚指名が続き、畑違いの素人と性犯罪容疑者のオンパレードになってきた。
     トランプは司法長官にマット・ゲーツ元下院議員を指名した。トランプを起訴した司法省を激しく批判して忠実ぶりを見せたからだろうが、法曹経験は弁護士事務所に2年在籍しただけ。
     それにゲーツは2017年に当時17歳の少女を買春した疑惑で下院倫理委員会から調査されている。倫理委員会はその少女(現在は成人)の証言も取ったが、ゲーツが議員を辞任したので調査はストップ。共和党は調査の資料の公表を止めたが、その資料は次々流出。女性に代金を振り込んだ明細まで出てきた。さらにゲーツが代金1万ドルで少女たちと3Pしたことまで報じられた! スクープ直前にゲーツは司法長官の指名を辞退した。
     ホッとしたのは共和党の上院議員。こんなロリコン野郎を司法長官として承認するわけにはいかない。でも、承認しなきゃトランプから粛清される。議会襲撃でトランプの弾劾に賛成したリズ・チェイニーのように。 
  • 町山智浩の言霊USA 第748回「“It must be the worst nomination for a cabinet position in American history”(間違いなくアメリカ史上最悪の閣僚人事だ)by ジョン・ボルトン」

    2024-11-28 05:00  
    「間違いなくアメリカ史上最悪の閣僚人事だ」第一期トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンが言ったように、トランプが第二期政権の閣僚に指名した連中は、見事に不適任者のオンパレードだった。
     司法長官に指名したのは、『シャイニング』のジャック・ニコルソンを思わせる邪悪な目つきのフロリダ州のマット・ゲーツ下院議員。たった2年弁護士事務所に在籍しただけで検察の経験はゼロ。そんな素人を司法のトップに? 数々の犯罪で刑事起訴されたトランプをかばったご褒美人事でしかない。
     このゲーツ、少女との淫行疑惑の渦中にある。 
  • 町山智浩の言霊USA 第747回「Bro Vote(男投票)」

    2024-11-21 05:00  
     大統領選投票日9日前、ドナルド・トランプとカマラ・ハリスの支持率は5分5分だった。しかし、その日、マジソン・スクエア・ガーデンで開かれたトランプ支持集会は彼にとって命とりとなった。
     トニー・ヒンチクリフというコメディアンが「プエルトリコは海に浮かぶゴミ」と罵ったのだ。これでトランプは全米600万人のプエルトリコ系、いや、6400万人のラティーノたちの票を失うと思われた。
     それに投票日3日前、国民的バラエティ番組『サタデーナイト・ライブ』にカマラ・ハリスが生出演し、ハリスに扮したコメディアン、マヤ・ルドルフと共に「このカオスを終わらせて、次のステップに進みましょう」と言った。500万人の視聴者にハリスへの投票を呼び掛けたのだ。
    「My Body, My Choice(私の体のことは私が決める)」と、全米で広がる中絶禁止への反対を訴えたカマラ・ハリスの集会には女性たちが集まった。レディー・ガガやケイティ・ペリーが出演し、ビヨンセやテイラー・スウィフト、スカーレット・ヨハンソンら『アベンジャーズ』のメンバーもハリス支持を表明した。
     ところが結果は接戦どころかトランプの圧勝に終わった。 
  • 町山智浩の言霊USA《Special》「トランプで始まる『シビル・ウォー』」〈現地ルポ〉

    2024-11-14 05:00  
    アメリカはなぜトランプを再び大統領に選んだのか。独裁者への道をひらく「プロジェクト2025」とは。熱狂と落胆、憎悪と恐怖で分断され、“内戦”が現実化しつつあるアメリカの深層を町山智浩氏が現地から緊急レポート! 
  • 町山智浩の言霊USA 第746回「“I need the kind of generals that Hitler had”(ヒトラーに仕えたような将軍が欲しいよ)by ドナルド・トランプ前(?)大統領」

    2024-11-07 05:00  
     この原稿を書いている時点ではアメリカ大統領選は大接戦。イーロン・マスクが100万ドルをバラまく選挙違反的な作戦でトランプの支持率を伸ばしており、いつも冷静なオバマ元大統領もデトロイトの集会で珍しくキレ気味にトランプをDisりまくっていた。
    「トランプは億万長者なのに何であんなに熱心に物販してるの? 金ピカのスニーカーにトランプのサイン入り聖書。しかも中国製!」
    「学生の時マクドナルドでバイトしてたカマラ・ハリスに張り合ってトランプもマックで働いてみせた。閉店中の店で! 自分じゃパンクしたタイヤも交換したことないくせに!」
    「もし君のおじいさんがトランプみたいだったら心配になるぞ。『うちのじっちゃんが壊れた!』って」
     でも、今の自分には大統領選の結果はまだわからない。だから、どっちが勝つと何が起こるか、予想してみよう。 
  • 町山智浩の言霊USA 第745回「That was a day of love(議会襲撃の日は愛の日だった)by ドナルド・トランプ前大統領」

    2024-10-31 05:00  
     公開中の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では、アメリカが政府軍と反乱軍の二手に分かれて内戦に突入する。アメリカ大統領が軍隊で自国民を攻撃したのがきっかけだ。トランプもそうすると宣言した。
     10月20日、保守系チャンネルのFOXニュースの朝の番組に出演したトランプは、「敵は外国よりもアメリカ国内の左翼だ」と、議会襲撃でトランプを弾劾した民主党のアダム・シフ下院議員を名指しした。その前週の13日にはこうも言っていた。「奴らは病気だ。必要なら州兵、本当に必要なら軍隊によって対処すべきだ」
     自分が大統領になったら民主党を軍で制圧するのか? そんなふうにトランプは投票日まで残り3週間に突入してからも、全米を飛び回ってトンチキな言動の絨毯爆撃を続けていた。
     15日、トランプは激戦州ペンシルバニア州オークスで集会を開いた。それは「タウンホール集会」で、候補者が有権者一人ずつの質問に答えていく形式。しかし会場は空調が悪く、しばらくすると聴衆のうち2人が気分が悪くなって倒れた。
    「質疑応答はもうやめ!」トランプは叫んだ。「音楽だ! 音楽をかけろ! 誰が質疑応答なんか聞きたいんだ!」 
  • 町山智浩の言霊USA 第744回「No matter how beaten you are, you claim victory and never admit defeat.(どんなにひどく叩きのめされても勝ったと言い張れ。負けを認めるな)by ロイ・コーン」

    2024-10-24 05:00  
     アメリカ大統領選投票日まで1カ月を切った10月11日、ドナルド・トランプ前大統領の伝記映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が全米公開された。トランプの弁護団は公開を阻止しようとしたが、止められなかった。
    『アプレンティス』とは「弟子」のこと。トランプは大統領選に出馬する前、NBCテレビの『アプレンティス』という番組に出演していた。ビジネスマンたちが「道端でレモネードを売る」などの課題に挑戦し、最後まで勝ち抜いた者がトランプに「弟子」として雇われる、という番組だった。
     映画『アプレンティス』は青二才だったトランプがロイ・コーンという弁護士の弟子となった1973年から、不動産王に成り上がった1986年までを描いている。当時のビデオの画質を模した映像で、まるでドキュメンタリーのようだ。 
  • 町山智浩の言霊USA 第743回「“Joe Biden became mentally impaired, Kamala Harris was born that way.”(バイデンは精神障害になった。カマラ・ハリスは生まれつきだ)by ドナルド・トランプ前大統領」

    2024-10-17 05:00  
     9月26日、アメリカ南部をハリケーン「ヘリーン」が襲い、すさまじい雨量で地滑りや洪水を起こし、200人以上の死者を出した。これは2005年に1800人以上の死者を出したハリケーン「カトリーナ」以来、最大の被害だ。
     世界の台風の被害は近年、悪化する一方だ。原因はもちろん海面の温度の上昇、つまり地球温暖化。だが、CO2規制に反対する共和党は批判の矛先をそらそうと必死だ。ましてや大統領選の投票日まであと40日。ドナルド・トランプはこんな主張を始めた。
    「ハリケーンの被害が大きかったのはFEMA(連邦緊急事態管理局)の予算不足が原因だ。被害が大きい州は共和党支持者が多い。だからバイデン政権はFEMAの予算10億ドルをハイチからの不法移民の支援に回したのだ」
     もちろんそんな事実はない。実はFEMAの予算を削ったのはトランプ自身だ。彼が大統領だった2019年、FEMAの予算1億5000万ドルを移民対策予算に移している。トランプは地球温暖化抑制を目標とするパリ協定からも離脱している。