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記事 49件
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第497回「チャーミングな元テキヤの一等兵。石井輝男と出会い健さんは変った!」『いれずみ突撃隊』

    2022-08-10 05:00  
     八月十六日発売の新刊『文藝別冊 高倉健』(河出書房新社)で筆者は、関係者二十八名にインタビューしている。
     このインタビュー、特に東映時代に一緒だった方々の証言で、共通する点がある。それは、「寡黙で武骨」という一般的なイメージとは異なる、陽気で快活な高倉健像だ。
     高倉健は、心を許した者に対しては、イタズラ好きで、冗談をよく言い、撮影後でも夜通しで喋りまくっていたという。スターだからといって決して偉ぶることなく、スタッフや大部屋の俳優たちとも上下関係の垣根なく「仲間」として接していたのだ。だからこそ、スタッフも共演者も惚れ込んで、彼の作品となると喜んで参加していた。
     そんな、ヤンチャでユーモラスな「素」の高倉健の魅力を最も引き出していた監督が、石井輝男だった。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第496回「ぎこちない動き、上ずった声。『健さん』以前の、青き高倉健!」『殴り込み艦隊』

    2022-08-04 05:00  
     筆者が責任編集を務めたムック本『文藝別冊 高倉健』(河出書房新社)が来たる、八月十六日に発売になる。
     クレジットは「責任編集」なのだが、座談会を含む関係者二十八名へのインタビューの全てと四万字近い論考パートを一人で担当しているので、実質的に著書のようなものだ。想定以上の超大作となり、制作に九カ月かかった。
     そこで、今回からしばらくは高倉健の主演作品を追っていきたく思う。
     武骨で寡黙、一徹な正義感と仲間想いの人情味があるが、怒ると誰も寄せ付けない凄味を発する。そして、何も言わずにそこにいるだけで画(え)になる――。高倉健といえば、多くの作品でそうした人物を演じてきた。そんな高倉健像を、人々は憧れと親しみを込めて、「健さん」と呼ぶ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第495回「ことごとく妖しいキャラたち。西村潔のハードボイルドを堪能せよ!」『白昼の襲撃』

    2022-07-28 05:00  
     いったい、映画ソフト業界に何が起きているのか――。
     本連載で何度も書いてきたが改めてそう問いたくなるほど、各メーカー・レーベルともに旧作邦画のDVD化がここに来て一気に進んでいる。待ち焦がれていたあの作品たちを、毎月のように次々と出してくれるのだから、ありがたいし嬉しいことこの上ない。
     東宝も素晴らしい。この七月は、ハードボイルドの名手・西村潔監督の作品を一斉にDVD発売している。しかも、既に出ている分も廉価版で再発売というサービスぶり。
     中でも、今回取り上げる西村の代表作『白昼の襲撃』はVHSも含めて初のソフト化になる。これまでは浅草東宝のオールナイト上映や名画座くらいでしか観る機会がなかっただけに、今度の発売を知った時は思わず快哉を叫んだ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第494回「任侠と怪談、前衛とコメディ。石井輝男監督の恐ろしきカオス!」『怪談昇り竜』

    2022-07-21 05:00  
     夏といえば、怪談だ。日本映画でも、古くから怪談を題材にした作品は、この時期に多く作られてきた。
     何らかのエゴや傲慢さを抱えた人物が、その欲望のために善意の弱者を苛み、最終的には死に追いやる。無念を抱えて成仏できない被害者は亡霊と化し、加害者に霊力をもって復讐を果たす。たいていは、以上のようなフォーマットで構成されており、因果応報の物語の中に人間の業の深さが映し出されていた。
     そうした中にも、風変りな映画はある。今回取り上げる『怪談昇り竜』は、その最たるもの。そもそも、めでたいニュアンスのある「昇り竜」と「怪談」との組み合わせからして、違和感が凄い。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第493回「暑い!暑い!こんな暑さの中、無軌道な川地民夫には要注意!」『狂熱の季節』

    2022-07-14 05:00  
     前回述べた『宮本武蔵 般若坂の決斗』の決戦シーンが撮影されたロケ地には、無事にたどり着くことができた。
     遠景シーンとほぼ同じアングルを見つけた時は、大いに興奮した。ただ、一つだけ大きな問題があった。それは、気温。六月末、あの酷暑の中での取材だったのだ。しかも、当地は大草原。日陰はない。
     それでも、草原は照り返しがない分、まだマシといえる。その後、平城宮跡に行ったのだが、これが大変だった。広大なスペースに建物が点在しているため、かなりの距離を歩く必要がある。しかも、時間は午後二時前後。地面は舗装されている。
     灼熱の地獄――そうとしか表現できない空間だった。我々取材班と常駐しているガイドの方々の他は、そこには誰もいなかった。
     そこで今回は『狂熱の季節』を取り上げる。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第492回「のどかなあの草原が僧兵と野武士、そして武蔵決闘の聖地なのだ!」『宮本武蔵 般若坂の決斗』

    2022-07-07 05:00  
     時代劇のロケ地になった場所を実際に巡り、写真と解説文とで紹介した『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)の続編が刊行されることになり、ただいま取材の真っ盛りだ。
     一巻目は主に京都の神社仏閣が中心だったが、今回は京都周辺の「野面(のづら)」――つまり、山、川、海、滝、湖、池、野原、田畑――などが多い。既に琵琶湖周辺や甲賀に行っており、今この原稿を書いている翌日には奈良を取材する。
     中でも楽しみなのは飛火野。今回取り上げる『宮本武蔵 般若坂の決斗』で、そのクライマックスたる般若坂のシーンが撮影された「聖地」だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第491回「公開中の映画『ガンダム』の殺陣に『昭和残侠伝』の高倉健を見た!」『昭和残侠伝 一匹狼』

    2022-06-30 05:00  
     アニメ映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』が公開中だ。この作品、チャンバラとしてかなり楽しめる。
     モビルスーツ同士の激闘が終盤に展開されるのだが、この時、双方ともに銃器はほとんど使わず、剣や斧で戦う。これが、見事な殺陣だった。
     しかも、ガンダムが戦場に現れる時は、煽り気味のアングルで撮っており、まさに「ヒーロー登場!」という王道演出。大いに興奮できた。
    「スクリーン・オンライン」でのインタビューを読むと、安彦良和監督は「任侠映画の主人公という見せ方を意識」したという。それは「“待ってました!”という場面で颯爽と登場し、爽やかに解決する」という主人公像。
     ここで言う「任侠映画」とは高倉健の「昭和残侠伝」シリーズを指していると思われる。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第490回「若いふたりの『許されざる恋』。近松門左衛門が描いた元禄悲劇!」『浪花の恋の物語』

    2022-06-23 05:00  
     時代劇の大きな魅力といえばチャンバラだが、それ以外に、もう一つある。
     それは「許されざる恋」。現代とは異なり厳然たる身分差のあった江戸時代。身分違いの恋愛が成就するのは、容易いことではなかった。恋愛結婚が今では当然のものであるが、当時の結婚の多くは当事者間ではなく家同士で決められていた。そのため、好き同士であったとしても必ずしも結婚できるわけではない。
     このことは、作劇の上ではとても有用だった。江戸時代だからこその身分差のもたらす「許されざる恋」は、悲劇のドラマとして盛り上がり、観客を魅了してきたのだ。
     こうした悲劇性は、「時代劇ならではの魅力」といえる。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第489回「大ヒット中の『トップガン』に見劣りしない東宝作品がある!」『今日もわれ大空にあり』

    2022-06-16 05:00  
     アメリカ軍におけるパイロット候補生たちの訓練と活躍の様を描いた『トップガン』の続編、『トップガン マーヴェリック』が大ヒット中だ。
     筆者にとって一作目は映画を好きになり始めた頃の作品でもあり、今度の続編ではIMAXの大スクリーンに繰り広げられる航空アクションの迫力や、三十六年経っても変わることないトム・クルーズのカッコよさに興奮。童心に返ったような楽しさに浸れた。
     日本でも、かつて『トップガン』のような映画が作られたことがある。――と書くと、航空自衛隊に舞台を変えて、ほぼそのままの設定で作られた『BEST(ベスト) GUY(ガイ)』を思い浮かべる方も多いとは思う。が、『トップガン』より遥か前、一九六四年にも作られていた。
     それが、今回取り上げる『今日もわれ大空にあり』。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第488回「ヤクザ映画の強面俳優陣の躍動はポルノ時代劇と思えぬ贅沢さだ!」『くの一忍法 観音開き』

    2022-06-09 05:00  
     講演や取材で地方に出張する機会が多い。枕が変わると眠りにくくなるのだが、最近は気にならなくなった。
     というのも、大抵のビジネスホテルはWi-Fiが繋がっているため、眠くなるまで動画をいろいろと観ながら時間を潰すことができるからだ。幸い、折に触れて本連載で述べているように、珍しい映画も次々と配信されており、そうした際の選択肢には事欠かない。あまり観たことのない作品を気分に任せて選んでいくと、殺風景な部屋にあってもオールナイト上映の劇場にいるような気がしてきて楽しい。
     今回取り上げる『くの一忍法 観音開き』も、つい最近の出張の際に配信で観た。甲賀の取材をしていたため、それならせっかくなので忍者映画を――と思い立ったのだ。