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記事 49件
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第398回「最後まで生き抜いてくれ! 届かぬ想いが空しく響く」『太平洋の翼』

    2020-08-06 05:00  
     最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)執筆のために、数多くの戦争映画を改めて観直した。その中で、スタッフの中に名前を見つけると気合いが一段と入る脚本家がいる。
     それが、須崎勝彌。
     日本映画は「滅びの美学」をエンターテイメントとして描くところがあり、敗れゆく者、滅びゆく者たちの敗れる姿や死ぬ姿を、「それでも戦おうとする物語」という美談としがちだ。戦争映画は、その最たるものといえる。
     それはそれで魅力的なのだが、立て続けに観ていくと「ああ、またこの感じか……」となってもくる。そうした中で異彩を放っていたのが、須崎脚本による戦争映画だった。
     戦時中は特攻隊にいて多くの戦友の死を見届けてきた須崎は、「滅びの美学」に流されることはなかった。劇中で「生きろ!」「生き残れ!」と兵たちに呼びかけているのである。
     今回取り上げる『太平洋の翼』も、そんな須崎ならではのメッセージに満ちた作品だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第397回「零戦を慈しむ飛行士たち! 元特攻隊の描く人命尊重」『あゝ零戦』

    2020-07-30 05:00  
     最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)の執筆のために、戦後に日本で作られた戦争映画を観られるだけ観た。
     その中には、「あまり大きな扱いをすることはなさそうだけど、とりあえず観るだけ観ておくか」程度のモチベーションで臨んだ作品もあった。
     大映が製作した、タイトルが「あゝ」で始まる一連の映画も、そうだった。『海軍兵学校物語 あゝ江田島』から前回取り上げた『あゝ陸軍 隼戦闘隊』まで計五本が断続的に作られているが、いずれも邦画ファンの間で語られることは少ない。そして、今回改めて観てみても、書きたい意欲が高まるような作品は、ほとんどなかった。
     が、一本だけ、「これは凄い」と唸らされた作品がある。
     それが、今回取り上げる『あゝ零戦』である。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第396回「これぞ軍人役者の真骨頂! 藤田進が放つ痛切な一喝」『あゝ陸軍 隼戦闘隊』

    2020-07-22 05:00  
     拙著最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)が発売された。
     この本では、戦後に日本で作られた戦争映画の変遷を、作り手たちが込めた想いと共に追いかけている。その検証のため、外出自粛期間に約八十本の戦争映画を観直した。
     そこで気づいたことがある。最も多くの作品に主要キャストとして出演している俳優は、確実に藤田進だろう、と。映画会社、役の大小を問わず、そこここに藤田進がいた。
     堂々とした重厚な体躯、岩石のような面相、厳しく鋭い目つき、朴訥とした口調――その様は軍人役なら何でもはまり、大臣・司令官クラスから前線の隊長や軍医や一兵卒役に至るまで、全て演じている。彼がそこにいるだけで、映し出される空間が戦時中であることのリアリティが一気に増しているようだった。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第395回「今井監督の描く地獄絵図 救いもまた、絶望への伏線」『ひめゆりの塔』

    2020-07-16 05:00  
     来る七月二十日、拙著の最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)が発売になる。
     これは、戦後の日本映画が戦争をいかに描いてきたのか――、その変遷を作り手たちが作品に込めたメッセージと共に検証した一冊だ。それに合わせて、この七月と八月は戦争映画を特集していきたい。
     今回取り上げるのは『ひめゆりの塔』。太平洋戦争末期に米軍との間で繰り広げられた沖縄戦の模様が、看護要員として従軍することになった現地の女学生たちの姿を通して描かれた作品だ。
     その多くが命を落としてしまった彼女たちは沖縄戦の悲劇の象徴でもあり、これまで四回も映画化されてきた。本作は一九五三年の第一作。今井正監督が撮っている。
     
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第394回「岸田森が吸血鬼を怪演! ジワジワと迫りくる恐怖!」『血を吸う薔薇』

    2020-07-09 05:00  
     本連載でも何度か言及しているが、旧作邦画の映像配信は各映画会社ともに充実しつつある。独自のレーベルを作ってマイナー作品も含めて配信している東映が強い印象だが、実は他社もなかなかのラインナップだ。
     東宝も実はそうで、メジャーな大作から比較的マイナーな作品まで取り揃えつつある。
     たとえば――これはツイッターでフォロワーの方に教えていただいたことなのだが――「血を吸う」シリーズなどは全作が配信されている。これは、一九七〇年代はじめに作られた山本迪夫監督による、日本では珍しい本格的ゴシックホラーのシリーズ。第一作『血を吸う人形』にはじまり、『血を吸う眼』『血を吸う薔薇』と全三作が作られた。中でも、『~眼』と『~薔薇』は名優・岸田森がドラキュラ的な吸血鬼を演じ、一部でカルト的な人気を得ている。
     今回は、シリーズ最終作『血を吸う薔薇』を取り上げる。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第393回「低予算でも旺盛な心意気! Vシネマに希望を感じた!」『女郎蜘蛛』

    2020-07-02 05:00  
     Amazonの動画配信、プライムビデオには、「JUNK FILM by TOEI」というレーベルがある。
     ここでは、なかなか観る機会のない「埋もれた東映作品」がまとめてピックアップされていて、「お、こんな作品も配信されているのか」と驚かされる。以前ここで取り上げた「極道」シリーズも、このレーベルからの配信だった。
     それだけに、リストを眺めているだけで楽しかったりもするのだが、中に「これはぜひとも紹介しておかないと」と思う作品があった。
     それが、今回取り上げる『女郎蜘蛛』だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第392回「平安時代のストーカー! 迷惑男を長谷川一夫、熱演」『地獄門』

    2020-06-25 05:00  
     前回も述べたが、最新刊『時代劇ベスト100+50』は百本の時代劇を紹介・解説したガイド本『時代劇ベスト100』に新たに五十本を加筆した一冊である。
     加わった作品の中には、これまで本連載でも避けがちだった「なんとなく高尚な感じのする文芸作品」が多く含まれている。小難しかったり格調高かったりする作品に触れることで、「時代劇ってなんだか堅苦しいなあ」という印象を初心者に持ってほしくないという想いがあった。
     ただ、この加筆作業にあたり改めて見直してみると、そうした作品も意外とエンターテインメント性が豊かだということに気づいた。前回の『雨月物語』もそうだったが、古典的名作と言われる時代劇は現代的な要素が濃厚で、そう堅苦しくならずに作品世界に馴染むことができるのだ。
     今回取り上げる『地獄門』も、そんな一本である。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第391回「溝口健二の古典的名作! 身構えずに触れてほしい」『雨月物語』

    2020-06-18 05:00  
     先日、拙著の最新刊『時代劇ベスト100+50』が発売された。これは、以前に出した時代劇ガイド本の新書『ベスト100』に新たに五十作を加えて文庫化したもので、より幅広い作品について紹介できているのではと思う。
     以前の新書版では、アクションやバイオレンス、エロスや残虐といった当時の筆者の趣味が丸出しのラインナップが中心になっており、ガイド本としてはバランスが悪かった。文庫版は、その反省と、時間を経て筆者自身の趣向の幅が広がったのもあり、新書版からは弾かれがちだった格調の高かったり、人情味が豊かだったり――というアクション色の薄い文芸的な時代劇も多く紹介している。
     今回取り上げる『雨月物語』も、そんな一本である。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第390回「成田三樹夫に転機到来! 異形の公家役で他を圧倒!」『柳生一族の陰謀』

    2020-06-11 05:00  
     一九七〇年前後、成田三樹夫はクールでダンディ、ニヒルで知的な役柄を時代劇・現代劇、善役・悪役を問わず数多く演じ、そのことごとくがカッコよかった。が、当人はそうした役ばかりが来ることに不満があったようで、当時のインタビューを読むと「冒険」をしてみたい欲求をうかがい知ることができる。
     そんな想いに作り手側も反応し、七〇年代半ばあたりから東映実録ヤクザ映画の悪役や独立系の映画などで、くだけた芝居をするようになる。
     そして一九七八年、成田三樹夫は究極の「冒険」に打って出た。それが、今回取り上げる『柳生一族の陰謀』だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第389回「成田三樹夫の放つ迫力が渡、原田、梶をも圧倒!」『新宿アウトロー ぶっ飛ばせ』

    2020-06-04 05:00  

     前回に引き続き、成田三樹夫の魅力を語りたい。
    『影狩り』もそうだったが、この一九七〇年前後の成田三樹夫ほどクールでニヒルな役柄の似合う俳優は、古今東西の世界中を見回しても、そうはいないのではなかろうか。
     鋭い眼差し、彫りの深い面相、青白い顔色、ビシッと決まった佇まい――どこをとっても知的で怜悧、それでいてダンディでカッコいい。それだけに、味方に回ると『影狩り』の月光のように頼もしい。一方、敵に回ると、とてつもなく強大な相手として立ちはだかることになる。そのため、成田が悪役をやると物語はスリリングに盛り上がる。
     今回取り上げる『新宿アウトロー ぶっ飛ばせ』も、そんな一本である。