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記事 49件
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第551回「U‐NEXTにあった幕末動乱劇。笠原和夫脚本で人物造形が見事!」『祇園の暗殺者』

    2023-09-21 05:00  
     近年、さまざまな動画配信プラットフォームで、映画を気軽に観られるようになった。中でも旧作邦画に関しては、U-NEXTが圧倒的だ。
     未だにソフト化されていなかったり、衛星の専門チャンネルや名画座でもあまりかからなかったり――という、「え、こんな作品も配信されているのか!」とビックリするようなレア映画が目白押し。そのラインナップを眺めているだけでもワクワクしてくる。
     今回取り上げる『祇園の暗殺者』も、そんな一本だ。VHS時代も含め、これまで全くソフト化されてこなかったが、いつの間にかU-NEXTで配信されていた。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第550回「予告編でネタバレなどお構いなし。角川映画は観たくなる理由がある!」『野性の証明』

    2023-09-14 05:00  
     かつての角川映画は、予告編が感動的で、一本の映画を観たような満足を得られた。
     その大きな仕掛けとしては、主題歌と映像とのミュージックビデオ的な組み合わせというのがあるという点を前回述べたのだが、実はその映像のチョイスも重要だったりする。
     昨今は「ネタバレ」といって、映画の内容が事前に漏れることを敬遠する傾向があるが、角川の予告編ではそんなことはお構いなし。ドラマチックな映像を優先的に並べているため、展開上、かなり重要な「真相」やクライマックスの場面がふんだんに映し出されているのだ。たとえば前回の『人間の証明』でいえば「あんたの息子、郡恭平は、死んだよ――」という、最終盤のセリフしかり。
     そして、今回取り上げる『野性の証明』は、さらに物凄いことになっていた。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第549回「荒むNYと桃源郷のような日本で黒人青年の想いを対極的に映し出す」『人間の証明』

    2023-09-07 05:00  
     今回は『人間の証明』を取り上げる。
     この七月に亡くなった作家・森村誠一の同名小説を原作にした作品で、角川映画の第二弾として製作された。劇場、テレビ、音楽、出版と、メディアをフル活用した大宣伝を展開、その興行的な成功により、以降の角川映画のビジネスモデルの礎となった。
     そして、これも後の角川映画の基本形となるのだが、予告編の出来がとにかく良いのだ。ジョー山中の歌う哀切な主題歌に乗せて、劇中の印象的な場面が次々と映し出される。それはわずか数分の映像なのだが、一本の映画を堪能したような感動に浸れる。
     こうした、宣伝のための情報よりも、情感を重視したスタイリッシュな構成は、当時の日本映画の予告編において革新的な手法だった。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第548回「基地の街を生きる三人の若者。学生運動とは無縁の無為からの破滅」『俺たちの荒野』

    2023-08-31 05:00  
     一九六〇年代から七〇年代にかけては、安保闘争との距離感が若者にとっての重要なテーマになっていた。
     そのため、この時期に作られた青春映画も、多くがその影響を受けた内容になっている。そして、作品の舞台として米軍基地の周辺が使われることが少なくなかった。
     今回取り上げる『俺たちの荒野』も、そんな一本だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第547回「南樺太の女性電話交換手を襲う、『終戦後』に起きた悲しき実話」『樺太1945年夏 氷雪の門』

    2023-08-23 05:00  
     一九四五年八月十五日の「終戦」を境に「平和」が訪れたわけではない。外地に暮らす人々にとって、無事に日本の本土に戻れるかどうかが、また新たな困難となっていた。
     今回取り上げる『樺太1945年夏 氷雪の門』は、それを描いた傑作である。
     題材は実際の悲劇だ。それは、「終戦」にもかかわらず軍事行動を続けたソ連軍の攻撃に追いつめられた、南樺太・真岡の郵便局に勤める女性電話交換手・九名の集団自決。
     物語は「終戦」の一週間前、八月八日から始まる。悲惨な状況下にある内地に対し、日本領の樺太はまだ平穏だった。交換手たちも、和気藹々とバレーボールしたり、合唱したり。とても戦争最末期とは思えない光景がそこにあった。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第546回「抗戦派による宮城事件。困窮する庶民の描写が彼らの狂気を照らす」『日本敗れず』

    2023-08-10 05:00  
     今年も、八月十五日が近づいてきた。それは、日本にとっての「敗戦の日」だ。
     教科書的には「ポツダム宣言を受諾して無条件降伏した」と表現されるが、それで片づけられる話ではなかった。史上最大の戦争が終わるのだから、簡単に済むはずがない。
     そこで今回と次回は、戦争を終わらせることの困難さを描いた作品を取り上げる。
     まず今回は『日本敗れず』。不穏なタイトルだが、本作が描くのはまさに、日本の敗戦を認めたくない人々の物語だ。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第545回「大奥エロティック絵巻と思いきや切なさと空しさがズシリ圧し掛かる」『大奥浮世風呂』

    2023-08-03 05:00  
     前回に引き続き、東映京都出身のベテラン・関本郁夫監督について述べていきたい。
     関本作品の大きな特徴は、重苦しい読後感だ。実質的なデビュー作となった前回の『女番長(スケバン) 玉突き遊び』もそうだが、関本の撮った映画は、東映の同ジャンル作品に比べ、暗くて苦い印象を与える。そのため、表向きはエロティックな内容が売りであっても、観終えて艶話に触れた感覚はない。重厚な文学作品のように、ズシリと心に圧し掛かる。
     今回取り上げる『大奥浮世風呂』は、そうしたドラマを得意とする田中陽造が脚本を書いたのもあいまって、重苦しさの最たるものとなった。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第544回「不良少女グループの大乱闘! 水上ボートチェイス! 銃撃戦!」『女番長 玉突き遊び』

    2023-07-27 05:00  
     東映京都撮影所の叩き上げのベテラン・関本郁夫監督が自伝本『映画監督放浪記』を出された。東映京都ならではの濃厚な人間模様はもちろん、フリーになってからの角川やにっかつ等のエピソードも満載で、五百頁超におよぶ重要な証言集となっている。
     関本作品の最大の魅力は、荒々しいアクションだ。その才は『影の軍団』『大激闘マッドポリス’80』といったテレビドラマで遺憾なく発揮された他、『新 仁義なき戦い 組長の首』ではB班監督として、シリーズ屈指のカー・アクションを演出した。
     アクション演出の冴えは初期作品から既にうかがえる。今回取り上げる『女番長(スケバン) 玉突き遊び』も、そんな一本。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第543回「中島貞夫作品の中で渡瀬恒彦が動的燻りなら『静』は荒木一郎だ!」『現代やくざ 血桜三兄弟』

    2023-07-20 05:00  
     中島貞夫監督は、炸裂し切れずに燻る情念のドラマを描き続けてきた。そして前回述べたように、それを体現した俳優が渡瀬恒彦だった。
     ただ中島作品、特に初期作で「燻り」を表現する上で実はもう一人、重要な演じ手がいる。それが荒木一郎だ。
     渡瀬が中島作品で演じたのは、ギラつきながらもそのぶつけ所のない若者だった。つまり、どこまでも動的な「ホットな燻り」である。
     それに対して荒木は、役柄も演技も飄々とクール。その燻りは徹底して静的だ。
     今回取り上げる『現代やくざ 血桜三兄弟』は、そんな二人がコンビの役柄を演じ、魅力的な「燻り」を見せる。 
  • 春日太一の木曜邦画劇場 第542回「渡瀬恒彦演じるチンピラの最期は中島貞夫流『燻りの美学』の極み!」『鉄砲玉の美学』

    2023-07-13 05:00  
     先月お亡くなりになった中島貞夫監督の作品の魅力は「燻り」にある。炸裂し切れずに燻る情念。一見するとギラギラと熱くも、最終的にはその闘いには空しさが去来する。そんな物語を描き続けた。
     そして、中島ワールドを最も体現した役者が渡瀬恒彦だ。怒りや苛立ちを抱えながら、そのエネルギーをぶつける先がない。中島作品で渡瀬はそうした役を演じ続け、また燻ぶった芝居が抜群だった。
     今回取り上げる『鉄砲玉の美学』は、若き日の渡瀬が出ずっぱりの作品だけあって、中島らしさが凝縮されている。