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【夢と夕陽】41. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.8 【ART OF LIFE -5】
2015-02-23 16:00220pt
【 ART OF LIFE ⑤ 】 引き続き「ART OF LIFE」の音楽的な解説をします。 ところで、解説しているところが曲のどこなのか分りやすいように、僕が実際にレコーディングで使用していた譜面を使いながら解説をしているのですが、(4:50〜)といった、譜面に書かれている時間の表記が「ART OF LIFE」のCDや配信データで表示される時間と1分近くズレていて分かりにくい、という指摘がありました。 僕の不注意で申し訳なかったのですが、確かに譜面に記載されている時間はabsolute time、つまり絶対時間で表記されているんですね。 デジタルレコーダーでレコーディングする度に毎回、時間が食い違ったりすることのないように、全てのセッションで共通する時間軸によって揃えるために、absolute timeを記載するのがレコーディング上の暗黙のルールだったんです。 なので、一番最 -
【夢と夕陽】40. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.7 【ART OF LIFE -4】
2015-02-17 00:45220pt
【 ART OF LIFE ④ 】
****************** 8. A Melo ① いよいよ速いテンポでのAメロがスタートする。
YOSHIKIはこの「ART OF LIFE」をサビから創り始めた。 僕が最初に聴かせてもらったのも、サビだった。 だからこのセクションは、後ほど登場するサビに対する、通常の曲でいうAメロという位置づけということになる。実際、アレンジやレコーディングなどでのやり取りで、僕とYOSHIKIはこのセクションをAメロと呼んでいた。 一見何でもないようだが、実はこのAメロとサビの関係に、それまでの作品にはなかった「ART OF LIFE」の独自性、特殊性が見えてくる。 Xの作品に関していえば、通常、速い曲の場合、サビも速いリズムが基本となる。展開としてバラードリズムのサビがあるケース(Silent Jealousyなど)もあるが、あくまで基本のサビは速いリズムだ。 同じように、サビがバラードリズムであれば、その曲はバラードであり、他のセクションに速いリズムは基本的には存在しない。だからもちろんAメロが速いリズムということは、ない。 しかし、この「ART OF LIFE」はサビがバラードリズム、Aメロが速いリズムだ。 つまり、譜面を見て分る通り歌のパートだけを見ると、Aメロ①〜Bメロ①〜Aメロ②〜Bメロ②〜サビ・・・ という流れになってはいるけれど、おそらく通常の曲でいうAメロ、Bメロ、サビ、というとらえ方だけでは解釈しきれない、この曲独特の意味合いが、Aメロ、Bメロ、サビのそれぞれにはあるのだ。
そもそもこの「ART OF LIFE」では、歌のパートだけを取り出してみても、曲を把握することはできない。 前回書いた「テーマリフ」から展開していくパートは、歌のパートと同様に重要な役割を担っていて、通常の曲におけるバンプや間奏とは意味合いが全く異なるからだ。 つまり、「ART OF LIFE」という曲は、30分という長さにも関わらず、いや、むしろ30分という長さだからこそ、いくつかのパートの組み合わせで成り立っているのではなく、曲全体がひとつの流れによって成立しているのだ。 こういった性質は、クラシックの交響曲にとても近いといえる。 実は1990年初頭、初めてYOSHIKIに30分の曲が出来そうだ、と聞かされたとき、僕が真っ先にイメージしたのは「ROSE OF PAIN」だった。
しかしその後、「ART OF LIFE」のサビの部分をYOSHIKIから聴かせてもらった時点で、既に僕はその新しい30分の曲が「ROSE OF PAIN」とは全く異なるものになるだろう、と感じた。 それはサビの名曲度がすでに「ENDLESS RAIN」や、同じ頃に聴かせてもらっていた「Say Anything」と同じレベルだったからだ。 これはきっと、単なる組曲ではない・・・。 -
【夢と夕陽】39. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.6 【ART OF LIFE -3】
2015-02-09 23:45220pt
【 ART OF LIFE ③ 】
前回に引き続き、さらに「ART OF LIFE」の音楽的な解説を続けたいと思うが、この解説を書き始めて改めて強く感じたのは、音楽的な解説をしていくと、その背景には常に、YOSHIKIの生きかたや音楽に対する姿勢が色濃く存在している、ということだった。 そしてそれらが皆、圧倒的なオリジナリティや100年残る作品だという大きな根拠になっていたりする。 だからここでは、単なる音楽的な解説だけではなく、その背景となっているYOSHIKIの姿も同時に描いていくことが重要だと思った。 そういったわけで、今回は速いリズムが始まるところから「ART OF LIFE」の音楽的な解説を始めつつ、同時にYOSHIKIが名曲を生むことのできる大きな理由のひとつ、「イメージの重要性」についても書いていきたいと思う。
****************** 7. RIFF バラードテンポだった「6.RYTHM in」から一転して速いテンポの「7.RIFF」が始まる。 テンポは速いけれど、まだDrumsは全開の速いリズムパターンではなく、Kick(Bass Drums)が4つ打ち、ハイハットが16(16Beat)を刻むリズムだ。僕の譜面で「7.RIFF」の横にリズム譜状の絵が書いてあるのは、このDrumsのリズムのことだ。
このリズムは、本格的な全開の「速いリズムパターン」が始まる前に演奏されることで、いよいよ速いビートが炸裂する、という期待感を煽る効果が大きい、YOSHIKIが得意とするドラミングだ。 「Silent Jealousy」ならバラードリズムのサビの後でYOSHIKIの語りが流れる部分、あるいは「Stab Me In The Back」ならイントロでツーバスパターンのリフに続いて30秒あたりから登場する部分、そして「JADE」なら1番のAメロなどが、まさにこのリズムパターンだ。 メロディーやコード進行と同じように、リズムでも、YOSHIKIはそれぞれのリズムパターンが醸し出す雰囲気を、適宜ベストなタイミングと配置で使い分ける。 その基本となるリズムパターンはある程度決まっており、大まかに次の6つのどれかとなる。 -
【夢と夕陽】38. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.5 【ART OF LIFE -2】
2015-02-03 02:00220pt
【 ART OF LIFE ② 】
前回に引き続き、「ART OF LIFE」の音楽的な解説をしたいと思う。
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1. 序章としての歌(譜面では「I Melo」)
静かなイントロに続いて、序章としての歌が始まる。 前回解説したように、イントロの和声がこのキーのホームグラウンドである「Em」というコードに落ち着こうとしつつも、そこへ落ち着かずにCとBを繰り返していた後、このEmが始まるため、心はとても安心しながら歌を迎えることになる。 そして、YOSHIKIがとても素直な心で曲を生んでいる証である、聴いた瞬間、心にそのまま溶け込むようなメロディーの切ない歌が始まり、聴いている人はどんどん「ART OF LIFE」という曲の世界に引き込まれていく。
半音でベースラインが下がっていく下降進行という、哀しみが引き立つマイナーキーのコード進行に包まれながら、時々少し明るいトーンになりかけつつ、切ない世界が展開する。 実は、サビなど中心的な存在ではない、このような場所のメロディーをじっくり見ても、YOSHIKIがそのメロディーと和声を、心の震えに沿って究極まで研ぎ澄ませて生んでいることが、よくわかる。 そのあたりを解説してみたい。(メロディーは「移動ド」での表記。この連載では、全てこのスタイルで表記する ) 〜「I Melo ①」〜
最初のメロディーは「ラミレミ〜ミレドレミミ〜」だ。 続くメロディーは「ソレドレ〜レドシシドド〜(シ〜)」と、最初のメロディーと同じようなメロディーの抑揚とリズムのまま、少し下に下がった感じのメロディーとなる。
そして、再び同じ「ラミレミ〜ミレドレミミ〜」というメロディーが繰り返されるけれど、そのメロディーを支える和声は、微妙に最初の時とは違っている。 譜面を見て頂くと分るが、最初のメロディーの時は【Em-B/D♯】、そして2回目の時は【Em-D】となっている。(「I Melo ①」の1段目 2:12〜と2:24〜)
これらはいったい、どういうことなのか。 まず、「ラミレミ〜ミレドレミミ〜」というメロディーが、ちゃんとYOSHIKIの心から生まれた、命のあるオリジナルなメロディーであること、そしてそのメロディーが他のメロディーには代わり得ない、唯一無二な存在であることがポイントだ。 つまり「究極まで研ぎ澄まされたメロディー」だ。 だから、続くメロディーは、そのまま少し低くなったような「ソレドレ〜レドシシドド〜(シ〜)」というメロディーとなって、自然につながっていく。
そしてその後、再び「ラミレミ〜ミレドレミミ〜」というメロディーが来るけれど、心から生まれているからこそ、単なる繰り返しではなく、僅かに違ったニュアンスが必要になる。
それを表現しているのが、メロディーを支える和声の変化なのだ。 【Em-B/D♯】と【Em-D】の違いは、【Em-B/D♯】の方が若干濡れた感じ、【Em-D】の方が若干乾いた感じ、というものだ。微妙だけど、誰もが必ず同じように感じる、和声の不思議だ。
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