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【夢と夕陽】64. 夢の始まり(9)
2015-08-25 01:30220pt
プロデュース・・・
今まで簡単に口にしてきたけど 僕はいったいどこまで分っているんだろう・・・
初めてYOSHIKIと二人で話してから、僕は自分がXのプロデュースを手がける、ということをより強く意識し始めるようになった。
僕が未知なるバンド「X」に一番強く感じていた「メンバーの人間的な魅力」に確信を持ったからだ。
それに、YOSHIKIは他のメンバー含めて、現状に全く満足していないことを強く僕に伝えた。
インディーズバンドとしての今の評価ではなく、ずっと大きく成長した先の評価。
そういうところが僕と全く同じだと分ったあの瞬間、ソニーミュージックの他の制作スタッフと、自分のXに対する見方の違いに、僕の中で一つの結論が出た。
僕の考える『Xは未完の大器』だという見方は間違いない。 となると・・・。 僕がプロデュースすることになれば、きっとまだ見ぬ未来を心に描きながら前進することになるだろう。 僕がYOSHIKIに伝えた「日本一美しいバンドになればXは日本一のバンドになれる」という言葉には、「僕だったらそういう方針でプロデュースをするだろう」という意味が含まれていた。
その考え方をYOSHIKIが快く受けとめてくれたことも、嬉しかった。
未来へ共に歩いて行ける相性の良さと、その未来への強いシンパシーを感じたからだ。
ただ・・・。
僕はまだプロデュースに必要なものをほとんど手にしていない。
すべてはこれからだ。
プロデュースするためには、あと何がどれだけ必要なのか。
いや、そもそもプロデュースって何だろう。
プロデュース・・・
今まで簡単に口にしてきたけど 僕はいったいどこまで分っているんだろう・・・
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【夢と夕陽】63. 夢の始まり(8)
2015-08-18 03:03220pt
〜拙著「すべての始まり」より抜粋〜
青山のカフェで僕は(今日は赤ちゃんなのかな、それとも挑戦的な不良なのかな・・・)と、ぼんやり考えながらYOSHIKIを待っていた。 やがてYOSHIKIが、マネージャー君と一緒に現れた。 この時のYOSHIKIの鮮烈な印象を、僕は一生忘れることはないだろう。
挨拶をして席に座ったYOSHIKIを見た瞬間、僕は経験したことのない、異様な感覚に襲われた。
真っ白なシャツを着て、サングラスをかけたYOSHIKIは、少女漫画に出てくる美少年、といった雰囲気だった。 ところが、その真っ白なシャツの胸が、真紅の血で染まっているのだ。 ちょうど心臓の辺り。
まるで、ナイフで胸を刺したように・・・。
でも、それは僕の眼の錯覚で、よく見ると血など、どこにも付いていないのだ。 超常現象とはまったく無縁の僕だった。そんな体験をすることが、不思議でならない。 でもとにかく、僕の眼に、はっきりと胸の血は見えたのだ。
赤ちゃんではなかった。 挑戦的な不良でもなかった。 YOSHIKIは殺気そのものだった。 やがて僕がオーディションの時の感想を話し始めると、フッ、とYOSHIKIの殺気は消えた。 次に僕は、エックスについて、僕なりに見えてきたことを、YOSHIKIに語った。 それは『エックスは日本一美しいバンドになるべきでは?』という提案だった。 そして『そうすれば、いつかエックスは日本一のバンドになれるのでは?』と問いかけたのだった。
YOSHIKIの表情が、また和らいだ。
(あ、赤ちゃんになった!!) 僕は安心して『これから音楽面を中心に、色々な要素を進化させる事で、エックスは今よりはるかに大きいバンドになれるはずだ』と、思っているまま、伝えた。 続けて、バンドの可能性を山に例えて、『裾野を広げればそれだけ山は高くなるはず、その裾野を広げるのは、何よりも音楽性を広げる事であって、エックスなら裾野を広げることで、日本一高い富士山になれるはずなのだ』という話もした。
YOSHIKIはこの話を、うれしい意見だ、とうけとめてくれたようだった。
そして、メンバー5人が日々、闘い続けていることや、負けたくない、という強い気持ちなどを、淡々と、けれど強い情熱をこめて話してくれた。
YOSHIKIの情熱のこもった話を聞くことで、エックスというバンドが、どんなに多くの人たちを惹きつけていけるのか、そしてどれだけ大きく成長していけそうなのか、理解できた。
そんな風にたくさん話しているうちに、僕はYOSHIKIと自分が特別な相性である事に、気づいた。
言葉が必要ない、チャクラのようなものが、1本つながっている感じだった。
つまり、目の前のことはそうでもないけど、少し遠くにある、最も重要な事については、まったく同じところを見据えている、そんな感じだったのだ。
じゃあ今度は、ライブで会いましょう、そう言ってYOSHIKIと別れた後、僕はYOSHIKIが、最後まで「挑戦的な不良」にはならなかった事に気がついた。
ゆっくり話をしたことで、お互いが、何か同じようなところを見ていることは確認できたし、僕がエックスをどう見ていて、どんな風に好きになり始めているか、YOSHIKIにしっかり伝えることができた。
そして何よりこの日、僕は大きな収穫を得た。 彼らがどうやら〈選ばれた人間〉のようだ、ということだった。 『エックスはとんでもなく大きなバンドになるかも知れない』という予感を、僕はYOSHIKIの人間を見て、確信したのだ。
佐藤部長から新たな可能性、つまり各制作セクションへのプレゼンと並行して、FITZBEATレーベルで僕自身がXをプロデュースするという構想を聞かされた僕が、まず初めにリーダーのYOSHIKIと会おうとしたのには理由があった。 初めてメンバー全員と会った時、このバンドはメンバーがそれぞれ強い個性とエネルギーを持っている、と感じた。
つまりワンマンバンドではない。
それでいながら、バンドとしての圧倒的なビジョンや志を持っていて、メンバー全員がそれを共有している。 その上、ある状態になると全員が「赤ちゃんオーラ」を出す。 つまり5人の人間的な魅力がバンドの魅力を形作っている。
そんなバンドに対して自分がプロデュースを手がけるのであれば、僕はメンバー全員を深く知り、バンドのビジョンや志を完全に理解し、何より音楽性を全て把握した上で新たな進化の方向性を提示しなければならない。
相当なエネルギーと時間を費やすことになる。
一方、決選大会を観てバンドの可能性を確信し、なおかつソニーミュージックの制作セクションの人達とは全く逆の評価をしている僕は、何よりもまず、Xの未来に向けて自分の考えやビジョンを正確にメンバーへ伝えたい。 そうなると・・・おそらくメンバー全員と会うことから始めたら、収拾がつかなくなる。
何しろ、まだ彼らのライブをちゃんと観たことすらないのだ。 だから僕は、まずリーダーのYOSHIKIと会うことにした。 初めて全員と会った時、とても聡明で、揺るぎない自信を言葉にし、エネルギーの塊に見えたリーダーのYOSHIKI。
彼なら、まず一番大事なメッセージを僕から伝えれば、ちゃんとメンバー全員に届くだろう、と考えたのだ。
そしてそれは予想通り正解だった。
いや、予想以上だったかも知れない。
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【夢と夕陽】62. 夢の始まり(7)
2015-08-10 17:00220pt
決選大会が終わると、しばらくの間、各制作部や制作スタッフから、エントリーアーティストへの確認が相次ぐ。
まず、同じアーティストに複数のセクションから獲得希望がある場合は、その調整をするために制作部サイドとやり取りをしなければいけない。
また、決選大会でライブパフォーマンスを観た結果、審査の際には申し出はなかったけれど賞にもれたアーティストに興味を持つスタッフがいたり、契約やデビューは確約できないけれどアーティストと前向きに話がしてみたい、と考えるスタッフなどがいる場合は、該当するアーティストの情報を詳細に伝えつつ、そのコーディネートをしていく。
僕の担当はXだから早速、興味を持った制作スタッフと会い、コミュニケーションを取り始めた。
そもそも、今回Xに贈られた育成賞というのは、決選大会後も、我々SD事業部が継続的に制作セクションへプレゼンをし、契約へ結びつけていく、ということを意図したものだ。
そのためにも、僕は少しでもXに興味のあるスタッフと、どんどん会って会話を重ねていった。
やがて、会話を重ねることによって、とても興味深いことがわかってきた。
Xというバンドに対する見方や意見、感想に、各制作スタッフ間で共通点があるのだ。
まず、動員力やエネルギー溢れるインディーズ活動への評価からだろうか、現時点での実績を高く評価していること。
そして、バンドの音楽性がヘヴィーメタルやハードロックといったジャンルであることが重要な前提として扱われていること。
どちらも、至極当然のことだ。
事実だからだ。
ただ、もう一つ重要な共通点があった。
前の2つの共通点を前提として、なのだろうが・・・。
『Xは即戦力になるけれど、圧倒的なセールスをあげるメジャーなアーティストになるとは考えにくい』
という予想・・・。それが制作セクションの共通した見解だったのだ。
僕は積極的に色々なスタッフと話をして、この点にとても驚いた。
Xの話をしている時、スタッフはそれぞれの感性や見方であの不思議なバンドをとらえ、音楽性に触れ、メンバーのキャラクターについて話したり僕に聞いたりする。
その時点では、僕にとってそれぞれの人がとても好感触なのだが、大事な音楽プロデュース、アーティストプロデュースの話になると、結局みな、同じ結論に至ってしまう。 話の最後で必ず「あれれ?」と僕が感じる結果になってしまうのだ。
そんな風に、スタッフの方々のX評は僕にしてみれば疑問ばかりなのだが、尾崎豊にしろユニコーンにしろ佐野元春にしろ、僕が知っている制作の人達は、とても素晴らしいアーティストをプロデュースし、レベルの高い仕事をしている、むしろそのプロデュースに、いつも僕がたくさんのことを教わってきた人達なのだ。
それがなぜか、Xのことになると、ことごく僕には納得できない結論に至ってしまう。
当然のことだが、彼らはプロだ。 そして僕はレコード会社でのプロデュースという経験はない。
つまり素人だ。
だから、最初は自分を疑った。
僕は何を勘違いし、何を見失ってしまっているんだろう、と。
でも、僕の中で一番重要だったのは、そのプロである制作の人達が一向に興味を抱かない『バンドメンバーの人間的な魅力』であり、そこからイメージできる『アーティストとしての限りない可能性』だった。
そして、そこを起点に考えると、僕の思い描くXの未来は、制作スタッフの人達のちょうど逆になってしまうのだ。
そう、今は決して完成形ではないので、ちゃんとプロデュースの方針を共有して、新たな進化の道を歩んでいくこと。
その結果、今のメジャーシーンにはない、新しくて圧倒的な存在のアーティストとなること。
少なくとも、僕の考えるこういったビジョンを同じように想い描く制作スタッフは全くいなかった。
SD事業部の担当者としては、それは頭を抱えることだった。
しかし・・・
全く別の見方をすれば、そんな事実は、あるとんでもない可能性を示していたのだった。
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