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2015年10月の記事 4件

【夢と夕陽】72. 夢の始まり(17)

     頭痛で目が覚めた僕は、自分が道端ではなくワンルームの自分の部屋で寝ていることに気づき、安堵した。    ひどい二日酔いなのだろう、まだ天井がゆっくり回っている。    僕は頭痛が強くならないよう慎重に起き上がり、今日が土曜日であることを心の中で確認しながら、窓を開けた。    わずかに暖かさを感じる春めいた風の香りに救われながら、昨日のことを思い出してみた。    熱かった。    とにかく最後まで熱かった。    メンバーの想い溢れる語り。 それに応えて未来のXの素晴らしさを伝える自分の気持ち。 何度も何度も繰り返した一気飲みにぶつける気合いと情熱。 そして自分達と未来を信じて全員で振り絞る叫び声・・・。    周りの偏見や誤解がどんなに強くても、とにかくXは最高なバンドだから大丈夫、必ず日本一になる、という想いで僕達は一つになっていた。    (最高の夜だった・・・)    最後の方は記憶が定かではないけれど、メンバーとの間にあった遠慮や距離感のようなものがきれいに消えた感覚だけはよく覚えている。    (早く、共に闘うことをメンバーに伝えたい・・・)    共闘・・・。    そう、僕はXというバンドがいつか日本一となる日を信じて、これからメンバーと共闘を開始するのだ。    そのために、新しい配属先のセクションで、僕がXに時間を割いていくことが業務であると認めてもらわなければならない。    僕は、新しいセクションで自分がどんな役割を果たし、どう活動し、Xをその活動の中心としていくために何を提案したら良いのか、この休日で考えをまとめようと考えた。    そして月曜日にその内容をセクションのメンバーに伝え、正式な業務として認めてもらうことを決意した。  

【夢と夕陽】72. 夢の始まり(17)

【夢と夕陽】71. 夢の始まり(16)

 居酒屋でメンバーと乾杯をして、僕が最初に話し始めたのは、だんだん確信になってきた「Xの未来」についてだった。  聴かせてもらったアルバム曲から見えてきたオリジナリティ溢れる音楽性の限りない可能性、今の時代が必要としている刺激的な要素やバンドのあり方、メンバーの人間的な魅力とファンを惹きつけるカリスマ性、今よりずっと広いステージでより大きなパフォーマンスを展開している将来のイメージなどなど・・・。  真剣な顔で聞いていたメンバーは、途中から嬉しそうに笑ったり、お互いに顔を見合わせて小声で話したりし始めた。  やがてひと通り僕が話し終えると、まずリーダーのYOSHIKIが「嬉しいです、自信になります」と言い、それをきっかけにメンバー同士が賑やかに話を始める。 騒がしい居酒屋だけれど、メンバーの顔を好奇心一杯で見ている僕には、周りの音は全く気にならない。  「俺たち、絶対負けないですから」  YOSHIKIがそう切り出すと、すぐにTAIJIが「津田さん、俺たち命かけてるから、何がなんでも日本一になりますよ」と多少凄みのある声で言い、続けて 「このYOSHIKIって男はねぇ、とんでもない奴なんですよ。メンバーみんなYOSHIKIに惚れてるし、この男がとんでもないから、全員命かけられるんですよ」 と、YOSHIKIへの尊敬と評価を熱く語る。  YOSHIKIは「・・・っていうか、Xは色々なバンドのリーダーが集まったバンドで・・・それに他のバンドと違って気合いのある人間だけがメンバーのバンドなんで・・・」   主にYOSHIKIとTAIJIだが、よほどバンドに対する気持が熱いのだろう、『Xというバンドは・・・』というテーマで話が始まると、もうメンバーの会話が止まらなくなる。  そのうちに、バンド結成当時のエピソードが話題になり、誰かが思い出話をする度に他のメンバーが「そうそう!!」と応え、思い出してはメンバーの笑い声が響き渡り、するとまた他のメンバーが「だったらほら、あれ・・・」という風に別のエピソードを話し始め、話す声と笑い声がどんどん大きくなっていく。 これはいいタイミングだと僕が結成から現在までのバンドの歴史を尋ねると、さらに会話は熱を帯び始め、話す声も笑い声も店から苦情が出ないか心配になるほど大きくなり、そんなメンバーの顔を見ながら幸せな気持になっていると、突然YOSHIKIが僕に言った。 

【夢と夕陽】71. 夢の始まり(16)

【夢と夕陽】69. 夢の始まり(14)

   Xの音楽性に強い可能性を見出した瞬間から、僕はXのことを人と話すのをやめることにした。    ライブで分かるXの可能性すらなかなか伝わらないのだから、さらにその音楽性の高さを知らない人間にXの限りない可能性を話したところで、理解できるわけがない。    だから僕は1人になることに決めた。    社内でXの話はせず、1人でプロデュースの準備を進めていく・・・。 今はその時期だ、と考えたのだ。 その考えを実行に移すために、いま僕が描いているビジョンを話すべき人が、一人だけいた。 佐藤部長だ。 僕を深く理解してくれている、大切な上司。 僕の、Xに懸ける気持ちをちゃんと理解してくれている佐藤部長に全てを話して、これからしばらくの間、Xのプロデュース準備に集中することを許可してもらおう。 そう考えた僕は、佐藤部長に時間をもらった。 「どうだ、その後、Xは。丸沢は興味ないらしいな」 「はい。もう、Xを理解できるのは社内で僕だけです。でも、あれからライブや今制作中のインディーズアルバムの音源を聴いたりして、僕にはビジョンが見えてきました」 「そうか。どんな感じだ?いけそうか?」 「佐藤部長、Xは、大きくなります。圧倒的なスケールのアーティストになると思います」 「それは楽しみだな。で、どうするんだ?これから」 「そのことで、ご相談したいんです・・・」 僕は、いま自分に見えているXの可能性と、それを実現させるために必要なステップや時間、そのために自分がどう動きたいのか、などを詳しく説明した。他社からのアプローチが徐々に増えていることも話した。    そういった背景から、メンバーと行動を共にして理解を深め、その中から進化の糸口を見つけ、進化させていくプロデュース方針を早く確立したい。 だから、これからしばらくの間、Xのことだけに没頭する時間が欲しい・・・。    話を聞き終わった佐藤部長は、僕の目を見つめながら強く、 「わかった。津田、Xをやれ。」    という言葉をくれた。  

【夢と夕陽】69. 夢の始まり(14)
音楽プロデューサー 津田直士の 「人生は映画 主人公はあなた」

音楽プロデューサー/作曲家の 津田直士が、その経験から得た、「主人公という生きかた」をもとに、① 人生の悩みや迷いへの答えを分りやすく答える『その答えは』 ② 世間の話題や素晴らしい作品、アーティストプロデュースや音楽制作などあらゆるテーマで自由に綴る『本能が吠えるまま』 ③ 伝説のバンド X JAPANと共に過ごした記憶が瑞々しくリアルに綴られた著書「すべての始まり」に記されなかった舞台裏とプロデュースの原点を新たな視点で描く『夢と夕陽』 ④ 自分らしい人生を積極的に生きている人にインタビューをして、生きかたのヒントを見つける『ある人生 』といったブログを定期的に展開します。

著者イメージ

津田直士

小4の時バッハの「ロンドBWV.1067」を聴き音楽の本質に目覚め、14歳の頃、ピアノを触っているうちに “音の謎” が解けて突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。早稲田大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、卒業と同時にSony Musicに入社。‘03年、フリーランスの作曲家/音楽プロデューサーとしての活動を開始、作曲家としてSony Music Publisherに所属。’11年からは、音楽業界の現状に危機感を覚え、出身母体のソニーミュージックをベースとして、新しい才能の育成とプロデュースを本格的にスタート。今後その才能が順次世の中に登場していく。

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