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記事 4件
  • 【夢と夕陽】72. 夢の始まり(17)

    2015-10-27 01:00  
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     頭痛で目が覚めた僕は、自分が道端ではなくワンルームの自分の部屋で寝ていることに気づき、安堵した。
     
     ひどい二日酔いなのだろう、まだ天井がゆっくり回っている。
     
     僕は頭痛が強くならないよう慎重に起き上がり、今日が土曜日であることを心の中で確認しながら、窓を開けた。
     
     わずかに暖かさを感じる春めいた風の香りに救われながら、昨日のことを思い出してみた。
     
     熱かった。
     
     とにかく最後まで熱かった。
     
     メンバーの想い溢れる語り。 それに応えて未来のXの素晴らしさを伝える自分の気持ち。 何度も何度も繰り返した一気飲みにぶつける気合いと情熱。 そして自分達と未来を信じて全員で振り絞る叫び声・・・。
     
     周りの偏見や誤解がどんなに強くても、とにかくXは最高なバンドだから大丈夫、必ず日本一になる、という想いで僕達は一つになっていた。
     
     (最高の夜だった・・・)
     
     最後の方は記憶が定かではないけれど、メンバーとの間にあった遠慮や距離感のようなものがきれいに消えた感覚だけはよく覚えている。
     
     (早く、共に闘うことをメンバーに伝えたい・・・)
     
     共闘・・・。
     
     そう、僕はXというバンドがいつか日本一となる日を信じて、これからメンバーと共闘を開始するのだ。
     
     そのために、新しい配属先のセクションで、僕がXに時間を割いていくことが業務であると認めてもらわなければならない。
     
     僕は、新しいセクションで自分がどんな役割を果たし、どう活動し、Xをその活動の中心としていくために何を提案したら良いのか、この休日で考えをまとめようと考えた。
     
     そして月曜日にその内容をセクションのメンバーに伝え、正式な業務として認めてもらうことを決意した。
     
  • 【夢と夕陽】71. 夢の始まり(16)

    2015-10-20 01:00  
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     居酒屋でメンバーと乾杯をして、僕が最初に話し始めたのは、だんだん確信になってきた「Xの未来」についてだった。  聴かせてもらったアルバム曲から見えてきたオリジナリティ溢れる音楽性の限りない可能性、今の時代が必要としている刺激的な要素やバンドのあり方、メンバーの人間的な魅力とファンを惹きつけるカリスマ性、今よりずっと広いステージでより大きなパフォーマンスを展開している将来のイメージなどなど・・・。  真剣な顔で聞いていたメンバーは、途中から嬉しそうに笑ったり、お互いに顔を見合わせて小声で話したりし始めた。  やがてひと通り僕が話し終えると、まずリーダーのYOSHIKIが「嬉しいです、自信になります」と言い、それをきっかけにメンバー同士が賑やかに話を始める。 騒がしい居酒屋だけれど、メンバーの顔を好奇心一杯で見ている僕には、周りの音は全く気にならない。  「俺たち、絶対負けないですから」  YOSHIKIがそう切り出すと、すぐにTAIJIが「津田さん、俺たち命かけてるから、何がなんでも日本一になりますよ」と多少凄みのある声で言い、続けて 「このYOSHIKIって男はねぇ、とんでもない奴なんですよ。メンバーみんなYOSHIKIに惚れてるし、この男がとんでもないから、全員命かけられるんですよ」 と、YOSHIKIへの尊敬と評価を熱く語る。  YOSHIKIは「・・・っていうか、Xは色々なバンドのリーダーが集まったバンドで・・・それに他のバンドと違って気合いのある人間だけがメンバーのバンドなんで・・・」   主にYOSHIKIとTAIJIだが、よほどバンドに対する気持が熱いのだろう、『Xというバンドは・・・』というテーマで話が始まると、もうメンバーの会話が止まらなくなる。  そのうちに、バンド結成当時のエピソードが話題になり、誰かが思い出話をする度に他のメンバーが「そうそう!!」と応え、思い出してはメンバーの笑い声が響き渡り、するとまた他のメンバーが「だったらほら、あれ・・・」という風に別のエピソードを話し始め、話す声と笑い声がどんどん大きくなっていく。 これはいいタイミングだと僕が結成から現在までのバンドの歴史を尋ねると、さらに会話は熱を帯び始め、話す声も笑い声も店から苦情が出ないか心配になるほど大きくなり、そんなメンバーの顔を見ながら幸せな気持になっていると、突然YOSHIKIが僕に言った。 
  • 【夢と夕陽】70. 夢の始まり(15)

    2015-10-13 02:15  
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      異動が決まったことで片づけるべき仕事がだいぶ減った僕は、早速メンバーとゆっくり会うことにした。
     
     マネージャーの小村君を通してスケジュールを調整し、インディーズアルバムの最終作業をしているスタジオで、作業が終わる頃に集合して、ゆっくり飲みながら語り合うことになった。
     
     3年間、新人発掘という仕事をした経験から僕は、可能性のあるアーティストと接する時、とにかく話を聞くようにしていた。
     
     聞きたいことはいくらでもある・・・。
     僕はXのメンバーと飲みながらたくさん質問している時間をイメージし、幸せな気持になった。

       それから数日経った夜、僕はスタジオへ向かった。 着いてドアを開けると、賑やかな笑い声が耳に飛び込んできた。 メンバーが打ち合わせスペースのソファやイスに座って思い思いに笑ったり雑談をしたりしている。 僕が入ってきたので、メンバーがそれぞれに僕の顔を見る。 
  • 【夢と夕陽】69. 夢の始まり(14)

    2015-10-05 19:00  
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     Xの音楽性に強い可能性を見出した瞬間から、僕はXのことを人と話すのをやめることにした。
     
     ライブで分かるXの可能性すらなかなか伝わらないのだから、さらにその音楽性の高さを知らない人間にXの限りない可能性を話したところで、理解できるわけがない。
     
     だから僕は1人になることに決めた。
     
     社内でXの話はせず、1人でプロデュースの準備を進めていく・・・。 今はその時期だ、と考えたのだ。 その考えを実行に移すために、いま僕が描いているビジョンを話すべき人が、一人だけいた。 佐藤部長だ。 僕を深く理解してくれている、大切な上司。 僕の、Xに懸ける気持ちをちゃんと理解してくれている佐藤部長に全てを話して、これからしばらくの間、Xのプロデュース準備に集中することを許可してもらおう。 そう考えた僕は、佐藤部長に時間をもらった。 「どうだ、その後、Xは。丸沢は興味ないらしいな」 「はい。もう、Xを理解できるのは社内で僕だけです。でも、あれからライブや今制作中のインディーズアルバムの音源を聴いたりして、僕にはビジョンが見えてきました」 「そうか。どんな感じだ?いけそうか?」 「佐藤部長、Xは、大きくなります。圧倒的なスケールのアーティストになると思います」 「それは楽しみだな。で、どうするんだ?これから」 「そのことで、ご相談したいんです・・・」 僕は、いま自分に見えているXの可能性と、それを実現させるために必要なステップや時間、そのために自分がどう動きたいのか、などを詳しく説明した。他社からのアプローチが徐々に増えていることも話した。
     
     そういった背景から、メンバーと行動を共にして理解を深め、その中から進化の糸口を見つけ、進化させていくプロデュース方針を早く確立したい。 だから、これからしばらくの間、Xのことだけに没頭する時間が欲しい・・・。
     
     話を聞き終わった佐藤部長は、僕の目を見つめながら強く、 「わかった。津田、Xをやれ。」
     
     という言葉をくれた。