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記事 5件
  • 【夢と夕陽】46. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.13 【ART OF LIFE -10】

    2015-03-31 05:30  
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     【 ART OF LIFE ⑩ 】
     
     前回解説をしたセクションのあたりから、ART OF LIFEの真髄とも言える、他の作品には見られない独特な音楽性が炸裂し始めた。 僕にとっては、これぞ「ART OF LIFE」・・・といった気持ちになるところだ。
      
     だからだろうか。
     
     ART OF LIFEを聴いていてこのセクションのあたりに差し掛かると、たいてい僕の心には、あの夏が蘇る。*******************
     
     1990年 夏。 スタジオに向って歩いていると、アスファルトの道が、あまりの暑さで曲がって見える。住宅街だからか蝉の声はそれほどうるさくないけれど、ひたすら途切れることなく聞こえてくる。 それにしても、暑い。もうTシャツの背中は汗でびしょびしょだ。 僕は一緒に歩くアシスタントのスタッフに、大きい方のスタジオの、今日の予定を聞いた。 「昨日と同じですけど、ギターのメンテでランディーさん来ます」 「あ、そう。ちなみに俺、今日も籠(こも)るから。あ、あとで飲み物大量に買い込んどいて」 「はい。」 「あとさぁ、もうあの中華飽きたから、ほか探しといてくれる?ちゃんと美味しいとこ」 「ああ、わかりましたー。でも津田さん、たべものうるさいからな〜」 小さい方のスタジオに籠るようになって、もう何日も経った。 もはや大きなスタジオには、ほとんど顔を出さず、ひたすらデモテープ創りに没頭している。 「きれいなスタジオで良かったなぁ」 「は?」 「いや、いいよ、何でもない」 本来はリハーサルのために用意されたブースを、僕はデモテープ創りのために、勝手に小さな簡易レコーディングスタジオ状態にしていた。 何日も籠って制作作業に没頭することがわかっていたから、長い時間を気持ちよく過ごせるよう、生活用品を持ち込み、僕なりに快適な作業空間を形作っていたのだ。 そういう意味で、スタジオが新しく、きれいで良かった、と僕は感じていた。 もちろん、それが気に入ってスタジオを選んだのは僕なのだが。 
     やっとスタジオに着いた。中に入ると、いきなり涼しくて天国だ。 「じゃあ後で」スタッフにそう言い残して、僕は小さな方のスタジオに入った。 (YOSHIKIが来る前に、昨日進行した部分を聴いて、データの確認、整理をして・・・ とにかく覚えた技を駆使して今日の作業の準備をしておかなきゃな。かなり複雑になってきたから・・・) やるべきことを考えつつ、システムに電源を入れ、シーケンサーのロケーターを譜面で確認しながら設定し、昨日苦労したあたりの音を出してみる。 
  • 【夢と夕陽】45. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.12 【ART OF LIFE -9】

    2015-03-25 03:45  
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     【 ART OF LIFE ⑨ 】 前回の続きを解説していこう。
     


     

     


     24. 3/4(10:46 〜) にて、前回「一体どういうことなのか」と書いたことを、今回はきちんと解説してみたい。 まずひとつ譜面を見て欲しい。  前回、8分音符でリズムをとってもらう試みをした ①ギターソロ(HIDEが細かく弾くところ) 〜 ②この[24]の前半 〜  ③この[24]の後半、
     
      その辺りをメインのメロディーをもとに譜面にしたものだ。 
  • 【夢と夕陽】44. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.11 【ART OF LIFE -8】

    2015-03-17 03:26  
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     【 ART OF LIFE ⑧ 】    「ART OF LIFE」の音楽解説を続けよう。 
     Aメロ、Bメロ、サビ・・・。 歌としての基本要素が一通り出揃ったから・・・なのだろうか、ここからはこれまで以上に「ART OF LIFE」らしさに満ち溢れた、とても個性的な世界が展開されていく。 譜面も2ページ目となる。 
     

       21-22. 3/4&4/4(9:38 〜)
      サビにふさわしい大きなバラードリズムが展開した直後は、8分音符の「♫(タタ)」から始まる変拍子のリズムが始まる。
      譜面のセクション名にある通り、ここの変拍子は3/4&4/4だ。
      移動ドで表記すると、「♫(タタ)ミレミー」が3/4拍子、「♫(タタ)ミレミファミレ」が4/4拍子。 メロディーを書いたのは、このようにシンプルで誰の心にもすっと溶け込むオリジナルメロディーを生む出すのが、本当にYOSHIKIは得意だと思うからだ。  YOSHIKIに限らず、世の中の名曲というものは、たいてい「コロンブスの卵」的なところがある。  何もマネでもなく全く新たに誕生したオリジナルの塊でありながら、聴いた人が以前から知っていたような錯覚を起こしかけるほど、シンプルで親しみやすいメロディーである、というところだ。 最初の頃に解説した、この曲のテーマリフもそうだ。「ミミシードラー シドレードシー」  ちゃんとオリジナルだけれど、聴いた瞬間、100年以上前からこの世にあったような気がするメロディー。  そう。 このあとでシューベルト「未完成」のメロディーが登場するのだが、「世の中の名曲」といえば、クラシック音楽ももちろんそのひとつだ。  改めて考えてみれば、この「ART OF LIFE」全体を通して、YOSHIKIのメロディーとシューベルトのメロディーが何の違和感もなく溶けてひとつになっている、というのは凄いことだ。  僕が常々伝えてきた「YOSHIKIの曲は100年残る」という事実を、「ART OF LIFE」を聴くと音楽として確認できる、といえるのかも知れない。 また、YOSHIKIがクラシック音楽を聴いて育ち、その名曲に深く感動したからこそ、シンプルで普遍的な、それで深く人の心を打つメロディーをYOSHIKIが生むのだ、ともいえるだろう。
     ところで、僕も小さな頃、家にあった「未完成」を何度か聴いた。 その頃の僕は、バッハ、ベードーベン、チャイコフスキー、ショパンが大好きで、そこがどこかYOSHIKIとシンクロしているのだが、面白いことに「未完成」だけはその重々しくて暗い感じに馴染めず、あまり聴かなくなっていった。 どんなにシンクロして似ていても、やはり個人による違いというものはある。(笑) でもある意味、その重々しくて暗い感じこそが、YOSHIKIにとっては自身の人生と重なって「ART OF LIFE」という形でコラボレーションすることにつながったのだろう。  さて、音楽解説に戻る。 その「♫(タタ)ミレミー」・・・のフレーズが8回繰り返された後、今度は最初の8分音符による「タタ」が、その2倍の速さで刻む16分音符の「タタタタ」に変化する。(9:38 〜) Drums含めたリズムアレンジは、前半が「キメ」(印象的なひとつのリズムをバンド全体で合わせてキメること)で展開し、後半(9:38 〜)はツーバスDrumsパターンにギターやベースが合わせる形でその変化を表現している。 面白いので、この後半部分のDrumsプレイを見てみよう。 
     このセクションのDrums基本リズムは、2拍子のツーバスパターンで構成されている。  キック(バスドラム)はずっと16でツーバスリズムをキープしているのでスネアに注目すると、とても面白いことがわかる。 Drumsが偶数の2拍子のパターンが基本、一方、曲のこの部分の拍子が7という奇数なので、途中でズレていって、最小公倍数で、やっと元へ戻るのだ。 
  • 【夢と夕陽】43. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.10 【ART OF LIFE -7】

    2015-03-10 00:50  
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       私事だが、ここしばらく作品創りに集中している。  アーティストプロデュースの作品ではなく、僕がイメージする世界を僕のピアノやいろいろな楽器で表現したオリジナル作品で、12曲入りのアルバムとして近々リリースされる、という内容だ。
     インストルメンタルのアルバムなので、100%純粋に自分の世界。 それらがイメージ通りの作品に仕上がるよう、曲を生み、アレンジしてレコーディングをする、という音源制作を続ける中、この原稿を書くために「ART OF LIFE」を聴くと、とても救われ、豊かな気持ちになる。 一切の妥協なく、ひたすら自分のイメージを作品にする、という姿勢が音楽を創る上で最も重要なことなのだと、改めて確信することができるからだ。  「ART OF LIFE」は、YOSHIKIというアーティストが自身のイメージを一切の妥協なく、こだわり尽くして完成させた大切な作品だ。 どれだけYOSHIKIがこだわりを持って制作に取り組んでいたのか、完成するまでの3年間ずっと横で見ていた僕は、よく知っている。 
     そのこだわりひとつひとつは、厳密にいえばYOSHIKI自身にしかわからない。 けれど少なくとも音楽的な面に関していえば、プロの音楽家として、僕はかなりのところまで理解することができる。 そうしてよく見つめてみると、そのあらゆるこだわりすべての結果によって、見事に「ART OF LIFE」という作品が100年残る圧倒的な名曲になっている、という事実に気づくのだ。 この連載で「ART OF LIFE」を解説すればするほど、YOSHIKIが心の中や頭の中にあるイメージを作品にするために注いだ、途方もないエネルギーと滲むような努力の大きさに気づかされていく。 そして、多くを語らずその想いを全て作品に注ぎ込むYOSHIKIの生きかたに感動し、その作品が世界中の人々に伝わっている現実を素直に理解できる。 「ART OF LIFE」という作品の中には、あの頃のYOSHIKIの人生と美学、そして音楽のすべてがこめられている・・・聴くたびに僕は、強くそう思うのだ。 【 ART OF LIFE ⑦ 】 
     
      16.RIFF 〜17.TWIN  さて、前回の15 .A Melo②に続き、16.RIFF 17.TWINのセクションに移る。 これは、8 .A Melo①から10.RIFF,TWINへの流れと似た状態、いわば通常の曲でいうところの、1番〜2番という流れに近い。

     ところがよく見てみると、それら2つのAメロの間に存在する内容は、通常の曲とはかなり異質なものだ。 
  • 【夢と夕陽】42. 『100年残る音楽』 を生み続けるYOSHIKI.9 【ART OF LIFE -6】

    2015-03-03 01:11  
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     【 ART OF LIFE ⑥ 】
      
      13.Gtr Solo (5:59 〜)  暴れるDrumsプレイからバトンを渡されるように、HIDEによるギターソロがスタートする。  先週書いた通り、「ART OF LIFE」のギターフレーズはYOSHIKIの心の中から生まれるギタリスト泣かせのメロディーが満載だ。   その呪縛から放たれたかのように、このギターソロでは圧倒的にHIDEらしいプレイが炸裂する。 ギターソロがスタートする寸前、YOSHIKIのDrumsは暴れ放題。 でも、そのかわり、リズムは決して流れているわけではない。 リズム自体が暴れて主張しているから、流れるはずもないのだ。 だから、そこから一転して流れるような速いリズムになった瞬間、HIDEが「待ってました」と言わんばかりにYOSHIKIの速いリズムに乗ってHIDEらしさ満載のギターメロディーを炸裂させるのは本当に素晴らしいし、YOSHIKIとHIDE二人の相性や信頼関係をそのまま見ているようだ。 聴いていて、心から幸せになる。 そもそも、ギターソロのメロディーが始まるところがたまらない。 まだギターソロセクションの前、Amセクションの終わり。(5:57 〜) YOSHIKIがYOSHIKIなりの世界で暴れながら世界を展開しているところに、突っ込んでいくように先行してギターのSE的な激しい音で割り込んでいく。ギターソロのメロディー自体もセクションが始まるのを待たずに、1小節早く始まってしまう。 これは素顔の二人を、いつも目の前で見ていた僕が断言できることなのだけれど、そのままYOSHIKIとHIDEの関係が音になっている。 そう。 YOSHIKIを深く理解し、愛しているからこそ、静かな表情のまま誰よりも強く、YOSHIKIに突っ込むことができるHIDE・・・。 YOSHIKI本人の知らないところで深くYOSHIKIを気遣い、心配し、そして人生をすべて賭けるほど信頼し、その存在を心から誇りに思うHIDE・・・。 だからこそ、不敵な微笑みを浮かべて自分の塊の世界を勝手に炸裂させるHIDE・・・。 詳しいことはまたいずれ書くが、このギターソロのように、メンバー間の人間性やそのあり方までが音に刻まれているところが、X JAPANの音楽が圧倒的にオリジナルで、他のアーティストを寄せつけない程エネルギーに満ちている理由なのだ。
      HIDEが大切にしていたアーティスト・表現者としての姿勢のひとつが、刃物(ブレード)のような感覚だ。  その感覚を、HIDEは何度も、表情豊かに説明してくれた。
      「何かさあ、こう、刃物のこの一番切れ味の鋭いところのさ、縁(へり)ね、この感じ。ちょっと動かしたら切れる、その寸前、すぐそばの感じ。わかるでしょ?これが大切。とにかく、これを表現したいからさ・・・」  よほどHIDEにとって大切な感覚だったのだろう、僕はこの会話を何度もHIDEと交わした。  確かに、このギターソロもその「刃物の縁のような感覚」に満ちている。 そして、ピアノにはない、ギターという楽器の大きな特性が、このソロの表情を豊かにしている。  それは、音程をシームレスに変化させることができる、という特性だ。 ピアノには「ド」と「レ」の間には半音の「ド♯」しか存在しないが、ギターはチョーキング(弦をフレットに対して上下に引っ張ることで音程を変化させる奏法)によって、「ド」と「レ」の間のすべての音程を無段階で鳴らすことができる。
     この奏法によって、ギターは曲線のように滑らかな音程の変化を表現することができる。 その曲線の美学のようなものが、HIDEのギタープレイには溢れている。 しかもその曲線は、「刃物の縁」のように危険な香りをともなう、非常に鋭いものだ。 また、8ビートや16ビートで刻む細かいフレーズのニュアンスやピッキングハーモニクス(※)による音の鳴りなどにも、HIDEがこだわる「刃物の縁」のニュアンスは生きている。