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【夢と夕陽】68. 夢の始まり(13)
2015-09-28 23:15220pt
小さな頃「星の王子様」がバイブルだったからか、僕は立場や肩書きなど、いらない情報に左右されることなく、人やモノの本質を観る癖がついていた。
そういう意味でXはハードロックバンドやメタルバンドではなく、人間の魅力で人を惹きつける魂のバンドだし、YOSHIKIは殺気を隠そうともしない命懸けの生き方をしている赤ちゃんのようにピュアな人間だった。
そのYOSHIKIの音楽的なセンスと素養を、インディーズアルバムのレコーディング見学で強く感じとった僕は、また新たなYOSHIKI像が自分の中に生まれ始めていることを意識した。
おまけにYOSHIKIのその高い音楽性は、いま僕がXのプロデュースを手がけるために最も重要視している、Xの音楽性そのものなのだ。
その音楽性が、そのまま僕が思い描く未来のXの鍵を握っている。
鍵さえあれば・・・何とかなるはずだ。
僕は直感でそう思っていた。
その根拠は、メンバーの持つ凄まじいエネルギーにあった。
会社に戻るため地下鉄に乗った僕は、早速ポータブルプレイヤーにテープを入れて、もらった音源を聴いてみることにした。
ヘッドホンに、やや高音がキツめのサウンドが鳴り響き始めた。
「・・・?」
僕は少し驚いた。
今までライブで聴いてきた、スピードが速い爆音のサウンドがクリアに聴こえた途端、全く別のジャンルに聴こえ始めたのだ。
(かっこいい・・・とにかくかっこいい・・・)
鳴っている楽器の音は間違いなくメタル系ロックバンドのそれだ。 にもかかわらず、そういったジャンルの音楽に特有の、心が下に抑えつけられるような圧迫感がない。
むしろ、心をどんどん前に引っ張っていってくれる。
(何故だろう・・・? 何が他のメタルバンドと違うのだろう・・・?)
理由が分からないまま、しかもどんどん心が感動に向かって引っ張られていくのを感じながら聴いていると、突然リズムがバラードリズムに変化して、心を濡らすとても美しい和音に包まれた。
(えっ・・・? これは・・・クラシック音楽の世界じゃないか!)
ビートルズやスティービーワンダーから始まり、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやビリージョエルなど、名曲を生む海外アーティストに夢中になっても、僕の心の底には常に音楽の心を開いてくれたクラシック音楽があった。
僕の好きな名曲は、僕にとって皆、大好きなバッハやベートーベン、チャイコフスキーやショパンとどこか繋がっていた。
ライブで聴いていたあの爆音からは想像がつかなかった、Xの音楽とクラシック音楽の共通点。
その驚きと、そこから生まれる瑞々しい感動が僕を襲った。
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【夢と夕陽】67. 夢の始まり(12)
2015-09-21 18:00220pt
僕がライブの感想をメンバーに楽屋で伝えた後、最後に「あとは音楽だね」と、ひとこと残して楽屋を後にしたことで、最初の感想に喜んでいたメンバーは、僕が帰った後で相当荒れたらしい。
実際に僕がそのことを知ったのは、それからしばらく経ってからなのだが。
ちょうど丸沢さんの一言でメンバーがブチキレたすぐ後、ということもあって、津田という人間を信用しかけていたのに、結局あいつも深く理解せずに分かったような口を利く、ただのレコード会社の人間じゃないか…そんな気持ちにメンバーはなったのかも知れない。
ところがメンバーが荒れた時、YOSHIKIだけは冷静に「あの人の言ったことにはきっと意味があると思う」と話したらしい。
おそらくYOSHIKIがそういう見方をしたのは、僕と二人だけでゆっくり話したことがあるからなのだろう。
僕にしても、それは同じだった。
実はあの時「あとは音楽だね」というひとことを付け加えるかどうか、一瞬迷ったのだった。
そのひとことがメンバーを喜ばすものではない、と充分わかっていたからだ。
でも僕は敢えてそのひとことを伝えた。
それは、僕のライブの感想が生半可な気持ちで伝えたものではない、という意思表示でもあった。
ただメンバーを喜ばすために感想を伝えたのではない。
英雄のようなかっこよさと、それによって会場がひとつになる凄さが、ソニーミュージックという大きなレコード会社の数多い制作スタッフ誰一人として理解することがない。
でも僕にとってはその凄さが、Xが過去見たことのない、選ばれた圧倒的なバンドである証なんだ、という強い感動を、ちゃんと伝えたかったのだ。
そして僕は、YOSHIKIと二人で話した時、メンバーが現状に全く満足していない、悔しさの塊のような状態なのだ、と強く伝えてくれたことが嬉しかったのだ。
現状に満足していないなら、進化の可能性は限りない。
だからこそ僕は、メンバーと共に未来を創っていける、と思っているのだ。
だから現状で英雄のようなかっこよさ、会場がひとつになる興奮、その二つ以外の部分で、進化すべきところを僕なりにちゃんと伝えようと思ったのだ。
その一つが、爆音だけでメロディーが聞こえてこない現状の音楽面だったわけだ。
メンバーの気に障るであろうことを承知の上で、敢えてそれを伝えたのは、これから険しい道をメンバーと共にのりこえながら未来を創っていきたいんだ、という僕の意志を表す意味も含まれていたのだ。
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【夢と夕陽】66. 夢の始まり(11)
2015-09-14 21:30220pt
丸沢さんと一緒に会場へ着くと、前回観たライブで、Xのライブの持つ独特で圧倒的なエネルギーや観客との一体感などを確認していた僕は、また何か新たな魅力を発見できたら嬉しいな、と期待しながらライブを観始めた。 前回観たライブと同じように、メンバーと観客の一体感がどんどん強くなっていった終盤で突然、上手ギターのHIDEが、手に持った旗に火をつけた。 その燃え盛る旗を、ボーカルのTOSHIがステージの真ん中で振りかざす。 僕はその光景を見て、ゾクっとした。 前回のライブで感じた「革命の英雄のようなかっこよさ」が、何倍にも膨れ上がって見えたからだ。 (凄い・・・!こんなにかっこいいバンドを、僕は今まで見たことがあっただろうか・・・) 旗を振りかざすTOSHIに煽られて観客のエネルギーは炸裂し始め、もはや会場はメンバーと観客が完全に一つになっていた。 その時僕は本能的に、初めて二人で会った時YOSHIKIに託した『Xは日本一美しいバンドになるべき』というメッセージに込めた、未来のXのイメージを少し描いてみた。 今、目の前で炸裂している凄まじいエネルギーと、一方、音楽性も含めた限りない美しさが、どちらも両立している世界・・・。 (やはりそうだ!これが確立できれば、Xは日本一のバンドになれる!!) 新たな確信を得た僕は、目の前に展開している轟音の世界と、イマジネーションの中だけに存在する美しい世界を、心の中で融合しながらまだ見ぬ未来のXを感じながら、胸を躍らせ続けた。 やがて興奮のうちに演奏が終わりライブ会場を後にした僕は、いつものように丸沢さんと二人で酒を飲みながら、ライブの感想を聞くことにした。 未来のイメージが見えてきて気持ちが高まっていたから、さぞ二人の話も盛り上がるだろうと思っていたのだが、僕の高まりとは全く反対で、丸沢さんの感想はいたく冷めたものだった。
「あれは、うちらがやってもしょうがないな・・・」
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【夢と夕陽】65. 夢の始まり(10)
2015-09-07 21:30220pt
康介としたたかに飲んだ夜、はっきりと『自分がXのプロデュースを手がける』と決めてから、僕の中で毎日は一変した。
それまではひたすら『優れた才能を見つけること』だった日々の仕事の目的が、『しっかりビジョンを描いてXをプロデュースすること』に変わったのだ。
たとえ僕が自分以外の制作スタッフにXのプロデュースを任せたくない、と思っても、SDスタッフの職務として育成アーティストであるXに興味を持つスタッフとの打ち合わせをストップする理由も権限も、僕にはない。
だから引き続き何人かのプロデュースやディレクターと会い、打ち合わせを重ねた。
しかし面白いもので、目的が『『しっかりビジョンを描いてXをプロデュースすること』に変わったことで、僕にとってはそういった打ち合わせも、別な意味で非常に意義のあるものに変わったのだった。
なぜなら、既に実績を上げている大先輩がXというバンドについて尋ねてくる質問や感想、意見といったものが、すべて今後のプロデュースの参考になるからだ。
その人達はやはりプロだけに、Xに興味を持っている時点でそれぞれ何かしら、Xの魅力の一部をちゃんと捉えている。
それらを基にディスカッションをすることで、今後のプロデュースの大きなヒントが見つかったりするのだった。
あるプロデューサーなどは、とても面白い反応をしていた。
その人はプロダクション部門の人なのだが、既にYOSHIKIが内面に秘めているエネルギーの強さに気づき、まるでファンのようにYOSHIKIという人間のもつ魅力に惹かれていたのだ。
その人には、YOSHIKIの内面に息づいている普通の人間ではないエネルギーがオーラのように可視化して見えるらしい。
彼がYOSHIKIの話を始めるとちょっと異様なムードになり、彼が見ているありとあらゆる世界の中で、YOSHIKIの魅力から派生するエネルギーとリンクする現象や人間の業のようなものが何なのか、ひとつひとつ説明してくれるのだ。
その様子は、まるで宗教にハマった人のように僕には見えた。
でも、YOSHIKIの話が終わるとごく常識的な、とても分別のある経験豊かなプロデューサーの顔に戻るのだ。
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