主張
石炭火力容認方針
原発も温暖化も国民は望まぬ
丸川珠代環境相が林幹雄経済産業相と8日会談し、石炭火力発電所の新設を容認すると合意したことに批判が広がっています。石炭火力発電所はCO2など温室効果ガスを大量に排出するため、温暖化対策に責任がある丸川環境相はこれまで「是認できない」と表明してきました。「容認」はその立場を百八十度転換するものです。昨年12月の「パリ協定」で合意したばかりの地球温暖化対策にも逆行するのは明らかであり、石炭火力容認の方針は撤回すべきです。
異常な新増設ラッシュ
日本はいま電力会社などからの石炭火力新設計画が殺到し、異常な新増設ラッシュとなっています。全体では47基、設備容量は2250・8万キロワットに上るといわれます。2011年の東京電力福島第1原発の事故以来、全国で原発が停止していることが背景の一つですが、原発が停止しても電力が足りなくなっているわけではありません。コストが安い最新鋭の火力発電所で発電し、電力会社のもうけを増やすためです。
今年から電力の小売り自由化が本格的に始まるため、電力でももうけようという鉄鋼会社やガス会社などの動きも背景になっています。鉄鋼会社などはこれまでも発電所を運転しているので、発電所を新増設し、電力小売りに大規模に乗り出そうというわけです。
安倍晋三政権は昨年決定した「長期エネルギー需給見通し」や国際機関に提出した温暖化対策の「約束草案」で、石炭火力の総発電量に占める割合を2030年には26%程度に引き下げるなどで、温室効果ガスの排出は「30年までに13年比で26%削減」するという目標を掲げました。相次ぐ石炭火力の新設は、ただでさえ国際的に不十分といわれる日本の目標達成を根本から脅かすことになります。
石炭火力は最新鋭の発電所でも、天然ガスを燃料にしたLNG火力に比べ約2倍の温室効果ガスを排出します。丸川環境相も、石炭火力の新設が続けば、温室効果ガスの削減目標が困難になるからと、昨年は五つの発電所の環境アセスメントで反対しました。
新設を容認した、今回の丸川環境相と林経産相との合意では火力発電所の効率化を図るといいますが、温室効果ガスの排出がなくなるわけではありません。電力会社や電力の小売りに乗り出す企業は新たに協議会をつくって低減対策に取り組みますが、あくまで自主的な対策で、電力会社などに排出削減を義務付けるものではありません。石炭火力の新設容認は、温暖化対策にとって重大な禍根を残すことになるのは明らかです。
「脱石炭」は世界の流れ
いま世界では地球の温暖化を抑えるため、石炭火力からの撤退が大きな流れになっています。アメリカは石炭火力を規制する方針を示し、イギリスは25年には既存の石炭火力を撤廃すると決めています。昨年の「パリ協定」で温暖化対策の新たな国際的枠組みが合意されたのをきっかけに、「脱石炭」に向かう動きはますます大きくなっており、そのさなかに日本が石炭火力を拡大するのは国際的合意にも背くことになります。
省エネと再生可能エネルギー利用拡大で、原発に頼らず、温暖化も防ぐことが重要です。安倍政権は、原発の危険と地球温暖化を懸念する、世論に応えるべきです。