異常な歴史観 世界から孤立 安倍内閣
麻生太郎副総理が改憲に絡みナチスの「手口に学んだらどうか」とした発言。麻生氏は閣僚や議員を辞職するどころか居座ったうえ、発言についても「真意と異なり誤解を招いた」と謝罪も拒否しています。安倍内閣は“火消し”に躍起となっていますが、安倍晋三首相の任命責任が問われる問題です。
麻生氏の発言は、ジャーナリストの桜井よしこ氏が理事長を務める「国家基本問題研究所」が7月29日に東京都内で開いたシンポジウムで飛び出しました。桜井氏や田久保忠衛・同研究所副理事長らとともに、麻生氏のほか西村真悟衆院議員(無所属)や笠浩史衆院議員(民主)らがパネリストとして登壇しました。
国政参加資格ない
麻生氏は「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」と語りました。ナチス・ドイツは1933年、国会議事堂放火事件をデッチあげ、ドイツ共産党などを弾圧した上で授権法(全権委任法)を成立させてワイマール憲法を機能停止に追い込みました。文字通りの暴力と弾圧で独裁体制を築いていったのです。その手口を学んだらという麻生氏に国政に携わる資格がないのは当然です。
シンポジウムのメンバーを見ると、改憲・右翼団体の日本会議に深くかかわる人物ばかり。麻生氏は日本会議国会議員懇談会の元会長、西村氏も同会の役員を務めていました。桜井氏も日本会議の会合で講演を重ね、改憲を主張。田久保氏は、日本会議では代表委員を務めます。
日本会議は、憲法に対し「占領軍スタッフが1週間で作成して押し付けた」と悪罵を投げつけて改憲を主張。「先の大戦を一方的に断罪するわが政府の謝罪外交は…戦没者をないがしろにするものである」と侵略戦争を正当化しています。
この日本会議の国会議員懇談会には、安倍内閣の19閣僚のうち、12人が役員やメンバーに名を連ねるなど深い関係を持っています(表)。安倍首相は95年の村山富市首相談話について「あいまいな点がある。特に侵略の定義は国際的にも定まっていない」と述べ、日本の侵略戦争を正当化するような発言を繰り返しています。
米軍も批判の過去
89年2月当時、日本共産党の不破哲三副議長は竹下登首相に対し、「日本の戦争を侵略戦争と認めないあなたは、ヒトラーが起こした戦争をどう思うのか」と質問しました。竹下首相は「侵略戦争に対する学説は、たいへん多岐にわたっている。学問的に定義するのは非常に難しい」と答弁。在日米軍の準機関紙「星条旗」は、“竹下、ヒトラーの戦争を擁護”と批判する記事を掲載する事態となりました。
安倍首相発言は、竹下首相発言以上に日本の侵略性を否定し、歴史的に断罪されたすべての侵略を正当化することになるものです。麻生発言の大本には、こうした異常な歴史観が横たわっています。
国際社会は第2次世界大戦後、日独伊が起こした戦争は不正不義の侵略戦争だったと断罪し、その蛮行を繰り返さないことを土台に形成されてきました。日本の侵略戦争もナチスの蛮行も正当化することは戦後の国際社会を否定するものです。
菅義偉官房長官は7月31日、麻生氏に「誤解を受けている」と進言し、麻生氏は1日、「あしき例としてあげた」と釈明。「ナチス政権を例示としてあげたことは撤回したい」とする談話を発表しました。しかし、ナチス政権の手口を肯定したことへの反省はいっさいありません。
戦後の国際秩序と民主主義の根本的な出発点を否定する人物に政治家としての資格はありません。麻生氏の居座りと、これを容認する安倍首相の姿勢は、アジアと世界から日本の孤立を深め、国民的批判をさらに強めることになります。
(藤川良太)