主張
政府の温暖化対策
批判回避の偽装は通用しない
安倍晋三政権が、日本の温室効果ガスの2020年までの排出目標を、05年比で「3・8%減」とすることを決定しました。国際的に基準となる1990年比では「3・1%増」となり、実質的に“増加目標”にほかなりません。
地球温暖化の影響が表面化するなか、排出削減は緊急性を増しています。政府決定は世界の流れに逆行し、持続可能な経済社会、ひいては人類の生存に挑戦するものとなっています。開催中の国連会議で、日本は早速厳しい批判にさらされています。政府の後退姿勢を転換することが不可欠です。
「原発ゼロ」を“人質”に
政府は、省エネの進展など「最大限の努力によって実現をめざす野心的な目標」「相当程度良い数字」だと、今回の決定を自画自賛しています。これは幾重にも欺まん的な主張です。
歴代自民党政権は、再生可能エネルギーの普及や低エネルギー社会への取り組みに本腰を入れることなく、対策をもっぱら原発に依存させ、財界には利潤第一の立場からの「自主的」な取り組みに任せてきました。その姿勢が日本の立ち遅れを招いています。
今回の目標は、原発が稼働していない状況を仮定した暫定的なものとされています。目標を引き上げるには原発再稼働が必要だと、国民に迫る仕掛けになっています。東京電力福島第1原発の重大事故を前にして、多くの国民は「原発ゼロ」に進むべきだと考えています。政府決定はこの切実な願いを“人質”にとったものです。
安倍政権は、「原発ゼロ」に進むどころか、原発再稼働を進めるとともに、外国にも原発の売り込みをかけています。日本社会が原発と共存できないことが明らかになった以上、政府はその無責任な姿勢を転換し、原発ゼロの政治決断を行うべきです。
政府決定は大企業応援の経済政策を前提に、経済成長も“人質”にしています。「経済成長との両立が不可欠」とする経団連の自主行動計画に任せられないことは、目標というに値しない今回の決定からもまったく明らかです。再生可能エネルギーの導入を大幅に進めることで、新たな雇用を生むなど経済にも効果をあげてきた欧州の経験に学ぶ必要があります。
ポーランドで開催中の第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)では、台風による壊滅的被害を受けたフィリピンの政府代表が、温暖化対策の前進を涙ながらに訴え、強い共感をよびました。国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が、温暖化を強く警告する報告を発表するなど、対策の前進を求める声は一段と強まっています。
国際交渉にも悪影響
交渉は先進国と途上国との対立をはじめさまざまな困難を抱えています。その場に、安倍政権は今回決定した目標を提出しようとしています。日本提案が交渉に一段と暗い影を落とすことは避けられません。
先進国には自ら意欲的な削減目標を追求するとともに、ガスを大量排出する経済発展とは異なる発展の道があることを示す責任があります。その「二重の責任」に照らして、日本が交渉の足を引っ張ることは許されません。政府は決定を根本から見直し、温暖化対策の前進に貢献すべきです。