東電 手打たず 情報開示も先延ばし
国は「収束宣言」撤回し抜本対策を
東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)で、放射性物質で汚染された地下水が海へ流出していることが明らかになりました。以前から危険性を指摘されていたのに対策を取らないでいた東電はあわてて岸壁に水ガラスの遮水壁を設置する工事を始めました。しかし、それでは水の流れを食い止められないことがわかり、底なし沼に落ちたような状況です。(神田康子)
発端は、6月19日に東電が、1~4号機タービン建屋東側の海に近い場所に設置した観測用井戸の地下水から国の濃度限度を大きく上回る放射性物質のストロンチウム90とトリチウム(3重水素)を検出したと発表したことでした。5月31日にトリチウムの値がわかっていたのに、20日間近く公表せず、問題になりました。周囲に新たに掘った井戸の地下水からも高濃度の放射性物質が検出され、1~4号機タービン建屋東側の地下に汚染が広がっていることが明らかになりました。
さらに汚染された地下水が海へ流出しているとみられるデータも出るようになりました。1~4号機タービン建屋東側に位置する港湾内の海水のトリチウムの濃度が上昇していることが分かったのです。
東電は、記者会見で、「放射性物質が海に流出しているのではないか」と質問が相次いでも、「今はデータを蓄積する段階」などと流出を認めませんでした。
「海洋の研究者の多くでは、(放射性物質が)出続けているというのは共通見解だった」と話すのは、東京海洋大学の神田穣太教授です。
神田教授は、福島第1原発の港湾内の海水の入れ替わり率を計算した上で、東電が分析したデータをもとに、「福島第1原発からは17兆ベクレルのセシウム137が海へ流出している」とする論文を3月に国際的な科学誌『バイオジオサイエンス』に発表しました。
東電が、放射性物質で汚染された地下水が海へ流出していることを認めたのは7月22日でした。地下水の水位が原発近くの海岸の潮位の干満や降水量に合わせて上下を繰り返していることから、地下水が海に通じていると判断したと説明しました。しかし、水位の計測は今年1月から始まっていました。放射性物質で汚染された地下水が海へ流出していることはもっと早く確認できたはずでした。
対策取らず放置
1~4号機タービン建屋東側の地下には、事故直後の高濃度放射能汚染水が1万トン以上存在しています。タービン建屋の地下にたまった高濃度放射能汚染水が流れ込んでいたからです。事故発生直後の4月と5月には2号機と3号機の取水口付近から、トンネルや配管を通じて、高濃度の放射能汚染水が海へ流出しました。
東電は、7月、配管内の汚染水から1リットル当たり23億5000万ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表しました。放射線量も毎時830ミリシーベルトあり、人が容易に近づけません。これは11年4月に海へ流出した高濃度放射能汚染水に含まれていたものと同程度です。
しかし、東電は、取水口から海へ放射性物質が流出した後、流出した場所などをセメントで埋めただけで、配管にたまっている高濃度放射能汚染水については何の対策も取らないまま放置していました。それが地中に染み出し、海へ流出しているとみられているのです。深刻なのは、どこから、どれだけ汚染が広がっているのか、いまだにわかっていないことです。
遮水壁をこえて
東電は、汚染水の流出を防ぐ対策として、1号機と2号機の間の海岸付近の地中に水ガラスの遮水壁を造る工事をしました。
ところが、工事が進むにつれ、タービン建屋と海の間の地下水位が上昇を始めました。2日に開かれた原子力規制委員会の汚染水対策検討会で、地下水が遮水壁の上端(地表から1・8メートル)からあふれているのではないかと指摘された東電は、「否定できない」と答えました。
東電任せできぬ
これまで、原子炉建屋、タービン建屋の地下にたまっている高濃度放射能汚染水の処理の過程で汚染水が漏えいして海洋に達したり、ずさんな構造の地下貯水槽から汚染水が地中に漏れ出したりする事故が起きてきました。
今回の海洋流出では、東電は、問題が起きても情報開示を先延ばしにし、事態の過小評価を続けてきました。
福島第1原発事故が「収束」とは程遠く、むしろ時間がたつにつれていっそう深刻さを増していることが分かった今、場当たり的な対応に終始している東電任せでは解決に向かうことはできないことは明らかです。今も汚染水は海に流出しています。国は、「事故収束宣言」を撤回し、問題を抜本的に解決するのに必要な体制と対策をとるべきです。