「民主主義と無縁」厳しい批判も
通常国会開幕から2週間余。安倍晋三首相は「丁寧な対話を心掛け、真摯(しんし)に国政運営に当たっていく」(2013年1月の所信表明)との誓いもすっかりほごにして、あらゆる国政問題で民意を軽んじ、高飛車な答弁を繰り返しています。(竹原東吾)
目に余るのは、憲法を軽視する態度です。政権の暴走=国家権力を縛る立憲主義の考え方を過去の思想のように扱い、改憲姿勢をむき出しにしています。
憲法改定にいたる厳格な手続きを定めた憲法96条も「国会議員のたった3分の1(の反対)で国民の6、7割が(改憲を)望んでいたとしても、それを拒否するのはおかしい。改正すべきだ」(4日)と主張しています。昨年、改憲派からでさえ「邪道」という厳しい批判を受け、なりを潜めていた持論の「96条改定」をここにきて蒸し返した格好です。
集団的自衛権を行使しなければ「日米同盟に対するダメージは計り知れない」(6日)といい、歴代政権が継承してきた“行使できない”という憲法解釈の変更に何のためらいもみせません。自らに課されている憲法尊重・擁護義務(憲法99条)もどこ吹く風です。
首相は、米軍沖縄新基地建設に断固反対する稲嶺進市長が圧勝した名護市長選(1月)の受けとめを問われても、「地方自治体の首長選であり、政府としてコメントは差し控えたい」(6日、日本共産党の仁比聡平参院議員への答弁)と黙殺する姿勢を示しました。
ところが、同じ質問で仁比氏が米軍岩国基地(山口県)の大増強・騒音激化を批判すると、「岩国においては首長選、衆院選、参院選でご理解いただき、われわれが勝利した」などとにわかに“民意”を持ち出して、基地被害を正当化しました。政権の都合にあわせて民意をえり分ける我田引水ぶりです。
首相の一連の言動について法政大学大原社会問題研究所の五十嵐仁教授は、おごり、高ぶりが露呈してきたと強調し、次のように指摘しています。「聞く耳を持ち丁寧に説明しようという意思の片鱗(へんりん)もうかがわれない。『力強い』というのが口癖の安倍首相らしい『力の政治』のごり押しで、内容・手法ともに民主主義とは無縁の政治家だと言わなければなりません」
安倍首相答弁録
■憲法
国家権力を縛るものだという考え方はあるが、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方だ。憲法は日本という国の形、理想と未来を語るもの(2月3日、衆院予算委)
■集団的自衛権
行使が認められるという判断も政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正が必要だという指摘は当たらない(2月5日、参院予算委)
■原発
新興国における原発の導入は今後も拡大していく。国際的な観点で原子力政策を進めていかなければならない(1月28日、衆院本会議)
■靖国神社参拝
国のためにたたかって尊い命を犠牲にした方々に対し、尊崇の念を表し、ご冥福をお祈りした。世界共通のリーダーの姿勢だ(1月29日、衆院本会議)
■秘密保護法
(恣意的な秘密指定の懸念は)誤った報道、皆さん方(=日本共産党)がつくったパンフレットが懸念を醸成していった(6日、参院予算委)
■NHK籾井会長「慰安婦」暴言
会長をはじめNHKの職員のみなさんには、いかなる政治的な圧力に屈することなく中立公平な放送を続けてほしい(1月29日、参院本会議)
憲法96条改定 憲法96条は憲法改正について「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」で国会が発議し、国民投票の過半数の賛成を必要とすると定めています。安倍首相や自民党は、この国会の発議要件を「過半数」に緩めようとしています。