主張
施行急ぐ秘密法
廃止しか「知る権利」守れない
昨年末の国会で、多くの法曹関係者や言論・文化人、市民団体などの反対を押し切って安倍晋三政権が成立させた「秘密保護法」(特定秘密保護法)を、12月10日から施行することを目指した準備が進んでいます。安倍政権は今週初めにも施行のための政令(施行令)や運用基準などを閣議決定する予定です。政令や運用基準は、政府の都合で「不特定」の行政情報を秘密扱いし、国民の目から隠す、法律の本質を変えるものではありません。国民の「知る権利」を守るには、秘密保護法そのものの施行を許さず、廃止するしかないのはいよいよ明らかです。
「不特定」の秘密を隠す
秘密保護法は、「防衛」や「外交」に関わるものであれ、スパイ活動やテロ活動の防止に関わるものであれ、政府が「安全保障に支障がある」と判断した行政情報は「特定秘密」と指定し、国民の「知る権利」を奪うものです。「特定秘密」を取り扱う公務員や国からの仕事を請け負う企業の労働者は、「適性評価」で犯罪歴や飲酒癖、交友関係まで洗いざらい調べられ、情報を漏らせば最高で懲役10年の重罰に科せられます。まさに「特定秘密」どころか、「不特定」の情報を秘密とし、国民の目も耳も口もふさぐもので、戦前と同じ暗黒社会に道を開くことになります。
秘密保護法は「行政機関の長」が「安全保障に支障がある」と判断しさえすれば「特定秘密」と指定できる仕組みで、秘密の範囲はどこまでも広がります。法律には「行政機関の長」とは誰を指すかも決まっておらず、今度決める政令では、「行政機関の長」を内閣官房や外務、防衛など19の行政機関の長としています。「行政機関の長」の判断ひとつで「特定秘密」が指定されるのに変わりはなく、一部の除外された行政機関はもともと該当する「特定秘密」を取り扱っていない機関です。
対象となる「特定秘密」の範囲について、法律は「別表」で、外交、防衛など4分野23項目に分類しています。分類はごく大ざっぱで、「行政機関の長」が秘密と判断すれば、どんな情報でも「特定秘密」と指定できるようになっています。閣議決定する予定の運用基準では、「特定秘密」の分類を55項目に細分化していますが、法律の仕組みそのものは変わりません。
運用基準の素案には、法律にさえなかった米軍の「運用」や「整備」に関する情報まで「特定秘密」に指定するような表現がありました。最終案では「自衛隊の運用」で米軍との「運用協力に関するもの」、あるいは「防衛力の整備」でアメリカとの「防衛協力に関するもの」は「特定秘密」の対象にすると改められました。自衛隊とともに米軍の秘密を守ろうというねらいは見過ごせません。
危険は払しょくされない
秘密保護法の運用基準は、報道や取材の自由に配慮することを盛り込んでいます。しかし、政府の都合で秘密にできる仕組みをつくって、配慮だけでは「知る権利」を守る保障にはなりません。
秘密保護法に反対してきた日本弁護士連合会は9月半ば、国民の「知る権利」を侵害するおそれは政令や運用基準でも「なんら払しょくされていない」と改めて廃止を求めました。施行を許さず、廃止に追い込むことが不可欠です。