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【夢と夕陽】75. 夢の始まり(20)
2015-11-16 18:00220pt
目に見える結果がまだない以上、何が正しいのかは誰にもわからない。 でも、結果がまだなくても高い志と自信があれば、前に進むことはできる。 そう、正しいかどうかより、正しいと信じられるかどうかの方が大事なのだ。 それが若いということの特権であり、誇りだと思っていい。 僕はそう信じていたし、同じ想いを持てる人間しか信じなかった。 そういう意味で、Xのメンバーはまさにそうだった。 もちろんある程度の時間をかけてXは結果を出し、それはいずれ歴史となり、後の人たちにはそれが当たり前の事実となるのだけれど、1988年当時の僕たちにとっては、まだそれは未来のこと。 その時は何の確証もない「今」しかなかった。 それでも強い意志と熱い想いで前へ進むことができたのは、何があろうと自分たちを信じていたからだったと思う。 そんな気持がそのままXというバンドを支えていたのが、1988年だったのだ。 1988年 春。 熱い想いとバンドとしてのエネルギーはおそらく当時の日本で一番だったXというバンドとその5人のメンバーに、僕は名乗りを上げ、共闘を始めた。 -
【夢と夕陽】74. 夢の始まり(19)
2015-11-10 02:00220pt
準備を進めているXのプロジェクトを新しいセクションの業務として認めてもらった僕は、新しいセクションにサポートしてもらうべき要素を考えた。 僕の日々の動きについては、業務として認められた時点でクリアされた。となると、後は・・・。 全国ツアーが始まるまで、約2ヶ月ある。 この期間でメンバーと交流を深め信頼関係を築き、僕の思う「進化」を促すポイントを見つけるために必要なのは、メンバーと会う時間、そしてコミュニケーションを図る上でその場を用意するための経費だけだ。これは通常経費でまかなえる。 やがてその全国ツアーが始まれば、その過程でどんどん進化が始まっていく。 ならば、その成果をちゃんと記録しておきたい・・・。
だったらライブの様子をきちんと撮影しておくべきだ。ライブ映像をきちんと収録しておけば、その動画を観ることで僕自身もメンバーも、きちんと進化を進めていける・・・。 そう考えた僕は、クオリティの高い映像を収録できる、家庭用の中では最も性能の高い動画用のカメラを、新しいセクションの備品として購入してもらうよう、要請した。 もちろん、6月に始まる全国ツアーに僕は全行程をメンバーと行動を共にするから、その出張も許可してもらう。 幸いどちらも正式に承諾を得ることができた。 これでいよいよ本格的にメンバーと共闘を始める準備が整った。
共闘をスタートすることをメンバーに伝えるためにも、もっともっとメンバーと深くつながるためにも、僕はメンバーとたくさん一緒にいる時間を過ごそう、と決め、早速小村君にスケジュールを聞いた。 そしてリハーサルの後や、個別にメンバーと会う時間などを探しては、ひたすら一緒に時間を過ごし、飲み、語り合うことを始めた。 -
【夢と夕陽】73. 夢の始まり(18)
2015-11-03 11:00220pt
4月にアルバム「Vanishing Vision」をリリースした後、5月に初のホールでのワンマンライブを、そして6月からは全国ライブハウスツアーが始まる、という大まかなスケジュールを小村君から聞いていた僕は、2つの大きな目標を自分の中で決めていた。 まずひとつは、その全国ツアーが始まるまでの約2ヶ月で、メンバーと交流を深め信頼関係を築いた上で、僕の思う「進化」を促すポイントを見つけること。 もうひとつは、その全国ツアーで進化が始まると想定し、その成果を基に、僕の所属する新しいセクションでXのプロデュースを手がける土壌を用意すること。 どちらもハードルはとても高いけれど、この機会を逃しては、自分がXのプロデュースを手がけるチャンスはもう二度と訪れないだろう、と僕は思っていた。 保坂康介と別れて自分の部屋に戻ると、僕はその2つの大事な目標をもとに、新しいセクションへXのことをどう話すべきか考えた。 まず、進化のポイントを見つけてちゃんと進化が始まるまでは、新しいセクションのメンバーにXのステージを見せたり、詳細の説明をしたり、といったことはしたくない。 その一方、早く僕がメンバーに「共闘宣言」をできるよう、いずれ新しいセクションでXのプロデュースを手がける可能性があることを理解してもらい、ビジョンを共有していきたい。 となると・・・。 新しいセクションで毎日行われているブレーンストーミングの中で、僕なりにきちんとXプロデュースを新たなプロジェクト案件候補としてプレゼンするのが正しいだろう。 やはり明日その話をするべきだ。 企画書などはいらない、口頭で充分だ。 それより中身が重要だ。 そのプレゼンについて、何より大事なもの・・・。 それはXのプロデュースが新しいセクションの使命に対して、ちゃんと答えになっている、という根拠だ。 通常のレーベルと同じことをやるのであれば、プレゼンにはならない。 僕はそのポイントをさっき保坂と話していて気がついた『Xというバンドの新しさ』をもとにして考え始めた。 -
【夢と夕陽】72. 夢の始まり(17)
2015-10-27 01:00220pt
頭痛で目が覚めた僕は、自分が道端ではなくワンルームの自分の部屋で寝ていることに気づき、安堵した。
ひどい二日酔いなのだろう、まだ天井がゆっくり回っている。
僕は頭痛が強くならないよう慎重に起き上がり、今日が土曜日であることを心の中で確認しながら、窓を開けた。
わずかに暖かさを感じる春めいた風の香りに救われながら、昨日のことを思い出してみた。
熱かった。
とにかく最後まで熱かった。
メンバーの想い溢れる語り。 それに応えて未来のXの素晴らしさを伝える自分の気持ち。 何度も何度も繰り返した一気飲みにぶつける気合いと情熱。 そして自分達と未来を信じて全員で振り絞る叫び声・・・。
周りの偏見や誤解がどんなに強くても、とにかくXは最高なバンドだから大丈夫、必ず日本一になる、という想いで僕達は一つになっていた。
(最高の夜だった・・・)
最後の方は記憶が定かではないけれど、メンバーとの間にあった遠慮や距離感のようなものがきれいに消えた感覚だけはよく覚えている。
(早く、共に闘うことをメンバーに伝えたい・・・)
共闘・・・。
そう、僕はXというバンドがいつか日本一となる日を信じて、これからメンバーと共闘を開始するのだ。
そのために、新しい配属先のセクションで、僕がXに時間を割いていくことが業務であると認めてもらわなければならない。
僕は、新しいセクションで自分がどんな役割を果たし、どう活動し、Xをその活動の中心としていくために何を提案したら良いのか、この休日で考えをまとめようと考えた。
そして月曜日にその内容をセクションのメンバーに伝え、正式な業務として認めてもらうことを決意した。
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【夢と夕陽】71. 夢の始まり(16)
2015-10-20 01:00220pt
居酒屋でメンバーと乾杯をして、僕が最初に話し始めたのは、だんだん確信になってきた「Xの未来」についてだった。 聴かせてもらったアルバム曲から見えてきたオリジナリティ溢れる音楽性の限りない可能性、今の時代が必要としている刺激的な要素やバンドのあり方、メンバーの人間的な魅力とファンを惹きつけるカリスマ性、今よりずっと広いステージでより大きなパフォーマンスを展開している将来のイメージなどなど・・・。 真剣な顔で聞いていたメンバーは、途中から嬉しそうに笑ったり、お互いに顔を見合わせて小声で話したりし始めた。 やがてひと通り僕が話し終えると、まずリーダーのYOSHIKIが「嬉しいです、自信になります」と言い、それをきっかけにメンバー同士が賑やかに話を始める。 騒がしい居酒屋だけれど、メンバーの顔を好奇心一杯で見ている僕には、周りの音は全く気にならない。 「俺たち、絶対負けないですから」 YOSHIKIがそう切り出すと、すぐにTAIJIが「津田さん、俺たち命かけてるから、何がなんでも日本一になりますよ」と多少凄みのある声で言い、続けて 「このYOSHIKIって男はねぇ、とんでもない奴なんですよ。メンバーみんなYOSHIKIに惚れてるし、この男がとんでもないから、全員命かけられるんですよ」 と、YOSHIKIへの尊敬と評価を熱く語る。 YOSHIKIは「・・・っていうか、Xは色々なバンドのリーダーが集まったバンドで・・・それに他のバンドと違って気合いのある人間だけがメンバーのバンドなんで・・・」 主にYOSHIKIとTAIJIだが、よほどバンドに対する気持が熱いのだろう、『Xというバンドは・・・』というテーマで話が始まると、もうメンバーの会話が止まらなくなる。 そのうちに、バンド結成当時のエピソードが話題になり、誰かが思い出話をする度に他のメンバーが「そうそう!!」と応え、思い出してはメンバーの笑い声が響き渡り、するとまた他のメンバーが「だったらほら、あれ・・・」という風に別のエピソードを話し始め、話す声と笑い声がどんどん大きくなっていく。 これはいいタイミングだと僕が結成から現在までのバンドの歴史を尋ねると、さらに会話は熱を帯び始め、話す声も笑い声も店から苦情が出ないか心配になるほど大きくなり、そんなメンバーの顔を見ながら幸せな気持になっていると、突然YOSHIKIが僕に言った。 -
【夢と夕陽】70. 夢の始まり(15)
2015-10-13 02:15220pt
異動が決まったことで片づけるべき仕事がだいぶ減った僕は、早速メンバーとゆっくり会うことにした。
マネージャーの小村君を通してスケジュールを調整し、インディーズアルバムの最終作業をしているスタジオで、作業が終わる頃に集合して、ゆっくり飲みながら語り合うことになった。
3年間、新人発掘という仕事をした経験から僕は、可能性のあるアーティストと接する時、とにかく話を聞くようにしていた。
聞きたいことはいくらでもある・・・。
僕はXのメンバーと飲みながらたくさん質問している時間をイメージし、幸せな気持になった。
それから数日経った夜、僕はスタジオへ向かった。 着いてドアを開けると、賑やかな笑い声が耳に飛び込んできた。 メンバーが打ち合わせスペースのソファやイスに座って思い思いに笑ったり雑談をしたりしている。 僕が入ってきたので、メンバーがそれぞれに僕の顔を見る。 -
【夢と夕陽】69. 夢の始まり(14)
2015-10-05 19:00220pt
Xの音楽性に強い可能性を見出した瞬間から、僕はXのことを人と話すのをやめることにした。
ライブで分かるXの可能性すらなかなか伝わらないのだから、さらにその音楽性の高さを知らない人間にXの限りない可能性を話したところで、理解できるわけがない。
だから僕は1人になることに決めた。
社内でXの話はせず、1人でプロデュースの準備を進めていく・・・。 今はその時期だ、と考えたのだ。 その考えを実行に移すために、いま僕が描いているビジョンを話すべき人が、一人だけいた。 佐藤部長だ。 僕を深く理解してくれている、大切な上司。 僕の、Xに懸ける気持ちをちゃんと理解してくれている佐藤部長に全てを話して、これからしばらくの間、Xのプロデュース準備に集中することを許可してもらおう。 そう考えた僕は、佐藤部長に時間をもらった。 「どうだ、その後、Xは。丸沢は興味ないらしいな」 「はい。もう、Xを理解できるのは社内で僕だけです。でも、あれからライブや今制作中のインディーズアルバムの音源を聴いたりして、僕にはビジョンが見えてきました」 「そうか。どんな感じだ?いけそうか?」 「佐藤部長、Xは、大きくなります。圧倒的なスケールのアーティストになると思います」 「それは楽しみだな。で、どうするんだ?これから」 「そのことで、ご相談したいんです・・・」 僕は、いま自分に見えているXの可能性と、それを実現させるために必要なステップや時間、そのために自分がどう動きたいのか、などを詳しく説明した。他社からのアプローチが徐々に増えていることも話した。
そういった背景から、メンバーと行動を共にして理解を深め、その中から進化の糸口を見つけ、進化させていくプロデュース方針を早く確立したい。 だから、これからしばらくの間、Xのことだけに没頭する時間が欲しい・・・。
話を聞き終わった佐藤部長は、僕の目を見つめながら強く、 「わかった。津田、Xをやれ。」
という言葉をくれた。
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【夢と夕陽】68. 夢の始まり(13)
2015-09-28 23:15220pt
小さな頃「星の王子様」がバイブルだったからか、僕は立場や肩書きなど、いらない情報に左右されることなく、人やモノの本質を観る癖がついていた。
そういう意味でXはハードロックバンドやメタルバンドではなく、人間の魅力で人を惹きつける魂のバンドだし、YOSHIKIは殺気を隠そうともしない命懸けの生き方をしている赤ちゃんのようにピュアな人間だった。
そのYOSHIKIの音楽的なセンスと素養を、インディーズアルバムのレコーディング見学で強く感じとった僕は、また新たなYOSHIKI像が自分の中に生まれ始めていることを意識した。
おまけにYOSHIKIのその高い音楽性は、いま僕がXのプロデュースを手がけるために最も重要視している、Xの音楽性そのものなのだ。
その音楽性が、そのまま僕が思い描く未来のXの鍵を握っている。
鍵さえあれば・・・何とかなるはずだ。
僕は直感でそう思っていた。
その根拠は、メンバーの持つ凄まじいエネルギーにあった。
会社に戻るため地下鉄に乗った僕は、早速ポータブルプレイヤーにテープを入れて、もらった音源を聴いてみることにした。
ヘッドホンに、やや高音がキツめのサウンドが鳴り響き始めた。
「・・・?」
僕は少し驚いた。
今までライブで聴いてきた、スピードが速い爆音のサウンドがクリアに聴こえた途端、全く別のジャンルに聴こえ始めたのだ。
(かっこいい・・・とにかくかっこいい・・・)
鳴っている楽器の音は間違いなくメタル系ロックバンドのそれだ。 にもかかわらず、そういったジャンルの音楽に特有の、心が下に抑えつけられるような圧迫感がない。
むしろ、心をどんどん前に引っ張っていってくれる。
(何故だろう・・・? 何が他のメタルバンドと違うのだろう・・・?)
理由が分からないまま、しかもどんどん心が感動に向かって引っ張られていくのを感じながら聴いていると、突然リズムがバラードリズムに変化して、心を濡らすとても美しい和音に包まれた。
(えっ・・・? これは・・・クラシック音楽の世界じゃないか!)
ビートルズやスティービーワンダーから始まり、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやビリージョエルなど、名曲を生む海外アーティストに夢中になっても、僕の心の底には常に音楽の心を開いてくれたクラシック音楽があった。
僕の好きな名曲は、僕にとって皆、大好きなバッハやベートーベン、チャイコフスキーやショパンとどこか繋がっていた。
ライブで聴いていたあの爆音からは想像がつかなかった、Xの音楽とクラシック音楽の共通点。
その驚きと、そこから生まれる瑞々しい感動が僕を襲った。
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【夢と夕陽】67. 夢の始まり(12)
2015-09-21 18:00220pt
僕がライブの感想をメンバーに楽屋で伝えた後、最後に「あとは音楽だね」と、ひとこと残して楽屋を後にしたことで、最初の感想に喜んでいたメンバーは、僕が帰った後で相当荒れたらしい。
実際に僕がそのことを知ったのは、それからしばらく経ってからなのだが。
ちょうど丸沢さんの一言でメンバーがブチキレたすぐ後、ということもあって、津田という人間を信用しかけていたのに、結局あいつも深く理解せずに分かったような口を利く、ただのレコード会社の人間じゃないか…そんな気持ちにメンバーはなったのかも知れない。
ところがメンバーが荒れた時、YOSHIKIだけは冷静に「あの人の言ったことにはきっと意味があると思う」と話したらしい。
おそらくYOSHIKIがそういう見方をしたのは、僕と二人だけでゆっくり話したことがあるからなのだろう。
僕にしても、それは同じだった。
実はあの時「あとは音楽だね」というひとことを付け加えるかどうか、一瞬迷ったのだった。
そのひとことがメンバーを喜ばすものではない、と充分わかっていたからだ。
でも僕は敢えてそのひとことを伝えた。
それは、僕のライブの感想が生半可な気持ちで伝えたものではない、という意思表示でもあった。
ただメンバーを喜ばすために感想を伝えたのではない。
英雄のようなかっこよさと、それによって会場がひとつになる凄さが、ソニーミュージックという大きなレコード会社の数多い制作スタッフ誰一人として理解することがない。
でも僕にとってはその凄さが、Xが過去見たことのない、選ばれた圧倒的なバンドである証なんだ、という強い感動を、ちゃんと伝えたかったのだ。
そして僕は、YOSHIKIと二人で話した時、メンバーが現状に全く満足していない、悔しさの塊のような状態なのだ、と強く伝えてくれたことが嬉しかったのだ。
現状に満足していないなら、進化の可能性は限りない。
だからこそ僕は、メンバーと共に未来を創っていける、と思っているのだ。
だから現状で英雄のようなかっこよさ、会場がひとつになる興奮、その二つ以外の部分で、進化すべきところを僕なりにちゃんと伝えようと思ったのだ。
その一つが、爆音だけでメロディーが聞こえてこない現状の音楽面だったわけだ。
メンバーの気に障るであろうことを承知の上で、敢えてそれを伝えたのは、これから険しい道をメンバーと共にのりこえながら未来を創っていきたいんだ、という僕の意志を表す意味も含まれていたのだ。
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【夢と夕陽】66. 夢の始まり(11)
2015-09-14 21:30220pt
丸沢さんと一緒に会場へ着くと、前回観たライブで、Xのライブの持つ独特で圧倒的なエネルギーや観客との一体感などを確認していた僕は、また何か新たな魅力を発見できたら嬉しいな、と期待しながらライブを観始めた。 前回観たライブと同じように、メンバーと観客の一体感がどんどん強くなっていった終盤で突然、上手ギターのHIDEが、手に持った旗に火をつけた。 その燃え盛る旗を、ボーカルのTOSHIがステージの真ん中で振りかざす。 僕はその光景を見て、ゾクっとした。 前回のライブで感じた「革命の英雄のようなかっこよさ」が、何倍にも膨れ上がって見えたからだ。 (凄い・・・!こんなにかっこいいバンドを、僕は今まで見たことがあっただろうか・・・) 旗を振りかざすTOSHIに煽られて観客のエネルギーは炸裂し始め、もはや会場はメンバーと観客が完全に一つになっていた。 その時僕は本能的に、初めて二人で会った時YOSHIKIに託した『Xは日本一美しいバンドになるべき』というメッセージに込めた、未来のXのイメージを少し描いてみた。 今、目の前で炸裂している凄まじいエネルギーと、一方、音楽性も含めた限りない美しさが、どちらも両立している世界・・・。 (やはりそうだ!これが確立できれば、Xは日本一のバンドになれる!!) 新たな確信を得た僕は、目の前に展開している轟音の世界と、イマジネーションの中だけに存在する美しい世界を、心の中で融合しながらまだ見ぬ未来のXを感じながら、胸を躍らせ続けた。 やがて興奮のうちに演奏が終わりライブ会場を後にした僕は、いつものように丸沢さんと二人で酒を飲みながら、ライブの感想を聞くことにした。 未来のイメージが見えてきて気持ちが高まっていたから、さぞ二人の話も盛り上がるだろうと思っていたのだが、僕の高まりとは全く反対で、丸沢さんの感想はいたく冷めたものだった。
「あれは、うちらがやってもしょうがないな・・・」
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