赤旗まつり恒例の不破哲三社会科学研究所所長の「科学の目」講座(3日)の今回のテーマは「『科学の目』で『日本の戦争』を考える」。開会2時間前から並んだ人らで、用意した1500席が開場早々に満席、第2会場まで人があふれ、参加者は不破氏の話に真剣に聞き入りました。
不破氏は最初に「来年は第2次世界大戦の終結70周年。この日を日本国民がどういう立場で迎えるか、世界が注目しています」と語り、「『靖国史観』の信奉者が政府を乗っ取っている今日、日本の戦争の実態を事実に基づいて科学的につかむことは、日本の前途を左右する根本問題です」と述べ、本題に入りました。
侵略の事実 公文書が証明
「歴代の自民党政権は『戦争の性格は歴史家が決める』で逃げてきました。しかし、日本の戦争の性格の判定は簡単明瞭。武力で領土拡大をはかるのが侵略戦争です。その尺度で見たらどうでしょうか」
不破氏はこう述べ、1931年から45年までの15年戦争がどう始まったかを(1)「満州事変」(31年~)(2)日中戦争(37年~)(3)太平洋戦争(41年~)の3段階に沿って語り、それらがまぎれもない侵略戦争であったこと、政府・軍部の公式文書そのものが侵略戦争の実態をあからさまに示していることを強調しました。
世界に例ない無責任体制
日本の戦争指導は世界に例のない異常な体制によって行われました。開戦の決定には首相が参加するものの、戦争の方針は天皇と軍首脳部がすべてを決める。天皇が絶対権限をもっていましたが、作戦を立てるのは軍首脳部。しかし、実際の作戦の立案と実行は作戦参謀が勝手に決める。陸軍と海軍は反目しあう。結局、戦争の全期間、全局を指導した人物は誰もいませんでした。
不破氏は、日中戦争と真珠湾攻撃の決定を事例にこのことを語り、「戦争の全体に戦略的責任を負った指導者は誰もいなかった。アメリカにはルーズベルト、イギリスにはチャーチル、ソ連にはスターリン、ドイツにはヒトラーがいたが、第2次世界大戦をたたかった主要国家でこんな国は日本だけでした。いまあげた3段階でも、まともな展望を持って始めた戦争は一つもありませんでした」と強調しました。
戦没者の半数超が餓死
では、兵士たちはどんな戦争をさせられたか。不破氏は、アジア・太平洋の各地域での戦死者数を記した地図を示し、日本軍人の戦没者230万のうち少なくとも半数以上が餓死者だったとの研究を紹介すると、参加者は驚きの表情を浮かべました。
このようなことが起きたのは、軍首脳部が補給をまったく無視したからです。ガダルカナル島の戦闘では制海権・制空権もない島へわずかな食料だけを持たせて兵士3万人を送り込んだ結果、兵火による戦死者5千人に対し餓死者は1万5千人に上りました。しかし、軍中央は何の反省もせず、同じ失敗を繰り返しました。
また、ヒトラーの軍隊さえ「捕虜を人道的に待遇すること」などと国際法にのっとった戦陣訓を持っていたのに、日本軍は国際法を無視する野蛮な軍隊に堕落していたこと、南京大虐殺事件や「慰安婦」問題の根底にこうした日本軍の体質があることを指摘し、「こんな軍隊は日本の歴史にも世界にも例がない」と強調しました。
国民の苦難より国体護持
日本国民はドイツと違って戦争支持の首相を選んだことは一度もありませんでしたが、その国民は戦争指導部によってどういう扱いを受けたか。
戦争の最後の1年間、戦争の見通しは完全になくなり、国土が戦場となる事態を前に、日本の戦争指導部の頭にあったのは「国体(天皇絶対の体制)護持」だけでした。45年初めの時点で戦争終結を決断していたら、本土空襲も沖縄戦も原爆投下も「満州」の悲劇もありませんでした。「戦争首脳部に、国民の受ける苦難への思いはまったくなかったのです」と不破氏は語りました。
戦後世界秩序の転覆狙う
このような日本の戦争にまともに向き合おうとしないのが自民党政府の伝統的体質でした。不破氏は、その自民党の中で90年代に、日本の戦争は正義の戦争だったと主張する異質な流れが頭をもたげ、その中心に常に安倍晋三氏がいたことを指摘し、「まさに日本版ネオナチ」だと批判し、こうした侵略戦争を是とする異質な潮流が政権と自民党を乗っ取ったのが安倍政権だと語りました。
不破氏は、安倍首相がくつがえそうとしているのは憲法9条と日本の戦後史だけではなく、ファシズムと軍国主義の侵略戦争の断罪の上に築かれた世界の戦後秩序だと警鐘を鳴らし、「このウルトラ右翼勢力の政治支配を一日も早く終わらせることが、今日、日本の未来のためにも、アジアと世界のためにも、日本国民が果たすべき重大な責務があります」と呼びかけると、参加者は大きな拍手で応えました。
岩手県から来た男性(27)は「不破さんの講座を聞くために来ました。日本の侵略戦争がいかにでたらめな体制のもとで行われたかが、よく分かった。学校では習わない歴史の事実がいっぱいだった。さすが不破さんだ」と感想を語りました。