• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 9件
  • 田原総一朗 安倍首相は本当は何にこだわったのか?

    2014-07-31 20:00  
    330pt
    今月1日、集団的自衛権の行使容認が閣議決定された。早速、僕はその文書、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を読んでみた。読んでみて最初に感じたことは、「あんなに大騒ぎをしてまで、解釈改憲で集団的自衛権行使の容認、という閣議決定をする意味があったのだろうか」ということだ。公明党が強く反対をしたため、政府・自民党は大きく妥協。さまざまな条件をつけるなどして、当初の案を大幅に変更した。その結果なのだろう。できあがったものは、「個別的自衛権」で十分やれるのではないか、という内容なのだ。その文書を一部、引用してみよう。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断する」よく読んでみてほしい。「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」なのだ。それなら、個別的自衛権で十分に対応できるはずではないか。それなのに、なぜ安倍首相は「集団的自衛権の行使容認」にこだわったのだろうか。簡単に言えば、「これまでの日本とは変わったのだ」というシンボルが、安倍さんはほしかったのではないか。僕はそう考える。つまりは、安倍さんが言うところの、「戦後レジームからの脱却」のひとつなのだ。とはいえ今回の議論が、結果的に国民が安全保障について考える契機になったことは間違いない。 

    記事を読む»

  • 長谷川幸洋コラム第58回 「中国期限切れ鶏肉問題」マックやファミマが「だまされた」では済まない 3つのポイント

    2014-07-31 20:00  
    330pt

    中国製のとんでもない鶏肉を使っていたマックとファミマ  photo Getty Images
    中国の期限切れ鶏肉輸入問題が波紋を広げている。日本マクドナルドとファミリーマートは問題の「上海福喜食品」から輸入した鶏肉関連食品の販売を停止したが、ファミマの社長は「中国だから輸入しないということはない。信頼できるパートナーを見つける努力をする」と語っている。それで信頼を取り戻せるのだろうか。「米国系中国現地法人」の「会社ぐるみ」の犯行
    今回の問題はポイントが3つある。まず、輸入していたのがマクドナルドとファミマという、だれもが知っている業界の大手だった。それから問題を起こした上海福喜食品は米国の食肉大手OSIグループの中国現地法人だった。最後が、期限切れの鶏肉を混ぜたのは取り扱いの誤りとか個人の仕業ではなく、会社ぐるみだった、という点である。問題の「チキンナゲット」や「ガーリックナゲット」を売っていたのがマクドナルドやファミマだったからには当然、両社は取引を始める前に上海福喜食品の現地工場をはじめ、それなりに安全管理体制をチェックしていたはずだ(それは後で紹介する輸入食品の安全に関わる指針で義務付けられている)。実際、マクドナルドの関係者が工場に立ち入り調査している映像が報じられ、米マクドナルドの最高経営責任者(CEO)は「我々が少しだまされた」と語っている。だが、結果的に不正行為を見抜けなかった。米国企業の現地法人だったにもかかわらず、床に落ちた肉を拾って加工するような信じられない行為が起きていたのは、会社のガバナンス(統治)やコンプライアンス(法令遵守)がまったく機能していなかったことを物語っている。親会社が米国企業だからといって安全とは言い切れないのだ。最後の会社ぐるみというのも深刻な事態だ。2008年1月に起きた毒入りギョーザ事件は個人の犯行だった。今回の事件はまったく異なる。従業員の証言からあきらかなように、この会社は「経営方針」として期限切れ鶏肉を使用したり、カビで青く腐った牛肉を使っていたのだ。つまり、不正が摘発され制裁を受けるリスクと、不正による利益増大を天秤にかけて判断した結果、リスクに目をつぶって目先の利益を追い求めた、という話である。それが合理的な判断だった以上、単に「モラルの腐敗」を責めてみても問題は解決しない。 
  • 長谷川幸洋コラム第57回 原発再稼働は止めたほうがよい

    2014-07-24 20:00  
    330pt

    原子力規制委の決定を受けて国会周辺で「川内原発再稼働反対」の声が飛び交った〔PHOTO〕gettyimages
    原子力規制委員会が九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)について「新たな規制基準を満たしている」と認めた。これで再稼働に向けた前提条件が整った形になり、安倍晋三政権は秋以降にも再稼働させる見通しだ。この問題をどう考えるか。「再稼働決定」に関する新聞報道は隔靴掻痒である
    各紙の報道をみると、脱原発派の朝日新聞は「責任あいまいなまま」「避難計画 審査の対象外」との見出しで批判的に報じ、同じく東京新聞も「『厳格審査』に穴」があるとして「作業員拠点、ベント、第2制御室」の3つが「未完成」と見出しで問題点を指摘した。一方、原発賛成派の読売新聞は「秋に再稼働 準備本格化」「安全『世界最高レベル』規制委委員長」と安全性を強調し、産経新聞も「川内原発 秋にも再稼働」「規制委 安全新基準に『合格』」と旗を振っている(いずれも7月17日付朝刊1面)。私は原発を止めたほうがいいと思っている。だから朝日や東京にシンパシーを抱くが、それでも報道ぶりには隔靴掻痒の感を拭えなかった。集団的自衛権の問題でも指摘したが(6月27日付け公開コラム)、今回も記事は基本的に原子力規制委が展開した議論の枠組みにとらわれていて、原発がもつ本質的な恐ろしさや矛盾に迫っていなかったように感じるのだ。こう書くと、朝日も東京も「いや、たとえば規制委が視野に入れていない住民避難の問題だって、ちゃんと指摘している」と反論するだろう。それはその通りだ。万が一の場合、住民をどう避難させるかが重要課題だが、規制委は「それは自分たちの仕事ではない」といって手を付けていない。政府はどうかといえば、政府もそれは「自治体の仕事」といって知らん顔している。だから、そういう抜け落ちた問題を指摘するのは、大事なマスコミの仕事である。それでも、あえて言おう。では、住民避難の問題がクリアできれば、原発再稼働を認めるのか。私は「そうではない」と考える。
    大飯原発運転差し止めの福井地裁判決こそ原発問題の核心
    原発の根本的な矛盾や恐ろしさは、住民避難の難しさのような派生的ポイントにあるのではない。もっと別な次元だ。それはつい2ヵ月前、福井地裁で下された福井県の大飯原発運転差し止め請求事件判決によく述べられている。・判決文の読みやすい要旨 http://www.news-pj.net/diary/1001・判決文原本の前半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/e3ebefe20517ee37fc0628ed32be1df5.pdf・判決文原本の後半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/8d7265da36628587548e25d7db234b7d.pdfこの判決について、新聞は大々的に報じていたはずだ。だが今回は朝日と東京が社説でごく短く触れたくらいで、報道記事ではほとんど紹介されなかった。今回はニュースの焦点が規制委の判断にあったから、2ヵ月前の地裁判決に触れる必要はない、と考えたかもしれない。それは記者の習い性のようなものだ。とにかく一番新しい出来事にワーッと集中して報じてしまうのである。だが、読者のほうは2ヵ月前であっても、再稼働に関わる物事の本質を知りたいと思っているのではないか。少なくとも一読者である、私はそうだ。そこで、あらためて福井判決の中身を紹介したい。判決は本文だけで68ページ、加えて参考の別紙が付いている。私は2ヵ月前は新聞記事を読んだだけで、判決文までは目を通していなかった。今回、全文をあらためて読んでみて、頭の中がスッキリした。あれこれ論評するより、とにかく現物を読んでいただくのが手っ取り早いだろう。ここに原発問題の核心がある。以下はごく短い要約にすぎないが、関心がある読者はぜひ、上に挙げた判決本文を読んでいただきたい。これさえ読めば、あとは何も読む必要がない、と思えるほど核心を突いた判決である。 
  • 長谷川幸洋コラム第56回 現実主義の安倍政権に置いていかれるマスコミの「思考停止」

    2014-07-18 20:00  
    330pt
    安倍晋三政権が集団的自衛権の憲法解釈見直しに伴う自衛隊法など関連法の改正審議を来年の通常国会に先送りした。当初は改正内容が整った法案から随時、今秋の臨時国会に提出して審議を仰ぐ予定だった。ここへ来て、先送りしたのはなぜか。改正が必要な法案はぜんぶで15本以上ある、といわれている。まず、これらの改正案づくりが大変な作業で時間がかかる、という事情はあるだろう。安倍首相は日本経済新聞との会見で「全体を一括して進めたい。少し時間がかかるかもしれない」と説明している。中身は相互に密接にかかわっているので、法案を1本ずつ審議するより、まとめて審議したほうが効率的で議論の密度も濃くなるのはたしかだ。だが、本音は「ここで一息入れて、じっくり国民の理解が熟成するのを待つ」という政治判断ではないか。解釈変更を閣議決定してから、マスコミ各社の世論調査では内閣支持率が急落した。たとえば解釈変更を支持している読売新聞(7月2~3日)でも、支持率は57%から9ポイント下落し、48%と初めて5割を切った。肝心なのは閣議決定ではない
    安倍政権は解釈変更を急ぐ理由を「12月に米国との防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業が控えているので、それに間に合わせる必要がある」と説明していた。だが、専門家によれば「ガイドライン見直しに間に合えば、それに越したことはないが(日本の政策方針変更と法整備の方向について米国が確信できれば)すべての法案が見直しまでに成立している必要は必ずしもない」そうだ(森本敏『日米同盟強化のための法整備を急げ』「Voice」8月号)。森本によれば、現行ガイドラインも策定後に「おおよそ3年ほどかかって一連の有事法制を整備していった。ガイドラインの前に1本の法律も成立していなかったのである」という。そうだとすれば、ガイドライン見直しの話は、公明党の妥協を促す方便の1つだった、ということになりかねない。このあたりはプロ同士は分かっていたのだろうが、報じるマスコミ側を含めて、政府の話はあまり鵜呑みにしないほうがいい、という例の1つではある。それはともかく、あれほど大騒ぎした解釈見直しを受けて、肝心の法改正は先送りとなると、これをどう受け止めるべきか。まず強調しなければならないのは「肝心なのは最初から法改正であって、閣議決定ではない」という点だ。閣議決定は所詮、政府内の話である。それで物事が決まるわけではない。日本は法治国家であり、実際の政策はあくまで法律に基づくのだから、法改正されなければ、何一つ事態は変わらない。極端に言えば、政府がいくら閣議決定しようと、国会で関連法案を否決されてしまえばそれまでだ。そこを、大々的に反対論を展開したマスコミは勘違いしているのではないか。国会は衆参両院とも与党多数なので、国会で関連法案が可決成立する見通しはたしかにある。だが、たとえばその前に衆院解散・総選挙があって与党が敗北したり、あるいは与党の中から採決で造反が起きて可決できなければ、何も起きない(もっと言えば、法案が可決成立したとしても、その後に政権交代が起きて、見直しに反対する勢力が法律を元に戻してしまえば同じである)。安倍政権はだから当たり前の話だが、法改正こそが主戦場とみていた。「閣議決定は政府の仕事だから、本格的な国会審議は法改正のときに」と説明していたのは、そういう事情である。そう考えると、そんな大事な法改正を先送りしたのは、別に本質的な理由がある。私は「安倍政権が現実主義を身に付けてきた証拠」とみる。 

    記事を読む»

  • 田原総一朗 激論してわかった!池上彰さんのタブーを恐れない「解説力」の秘密

    2014-07-18 14:00  
    330pt
    先日、僕が司会をつとめるBS朝日の番組、『激論! クロスファイア』が公開収録をおこなった。そこで、津田大介さんと池上彰さんと「激論」した。じつは、僕はその日の朝からワクワクしていた。池上さんとお会いするからだ。津田さんとは何度も討論や対談をしている。だが、池上さんと会うのは初めてなのだ。「激論」の会場は早稲田大学だ。津田さんと僕にとっては母校である。だが、池上さんは慶応出身なので、「アウェイ」の気分だったろう。とはいえ、池上さんとの「初対決」に、僕のほうが緊張していたかもしれない。現在の日本のジャーナリズムでは、池上さんは特異な存在だ、と僕は思っている。あらゆる分野に興味を持ち、そしてしっかり調べ、その本質まで明らかにして、報道する。なによりも、とても努力家だ。池上さんは政治家などに対し、とても聞きづらいことでも遠慮せずに質問を投げかける。テレビ局が嫌がることでも、本音を聞き出すために、ずばずば斬り込んでいく。「タブー」を恐れないところ、そこが僕と似ているかもしれない。 

    記事を読む»

  • 長谷川幸洋コラム第55回 拉致被害者の生存情報を得た!? 安倍政権が北朝鮮に関する制裁の一部を解除!

    2014-07-09 20:00  
    330pt

    北朝鮮への制裁を通して二人のキズナは生まれた 〔PHOTO〕gettyimages
    安倍晋三政権が北朝鮮に対する制裁の一部解除を決めた。北朝鮮が設置する日本人拉致被害者に関する特別調査委員会の実効性について、前向きに評価したためだ。今回の調査委は国防委員会や国家安全保衛部など金正恩第一書記に直結する組織が主導する形になっている。拉致問題はいよいよ動き出すのだろうか。いま困っているのは北朝鮮
    救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)や家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)、あるいは国会議員らの拉致議連(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)など関係者の間には「(救出の前に制裁を解除するのは)順序がおかしいのではないか」(平沼赳夫拉致議連会長)といった声もあった(たとえば「日朝合意『再調査』ーこんな問題が起きないか緊急国民集会」報告、http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_4154.html)。そういう思いがあるのは理解できる。だが、いまは日本の中で内輪もめしている場合ではない。安倍首相と菅義偉官房長官、古屋圭司拉致問題担当相の3人は拉致問題で一貫して北朝鮮に毅然とした姿勢を貫いてきた。家族会からも信頼を得ている。自民党内も「あの3人がトップだから心強い」という雰囲気だ。たとえば、2004年に成立した「特定船舶の入港禁止に関する特別措置法」がある。これは、日本独自の制裁措置として万景峰号の国内入港を禁止した法律である。当時、自民党内に強かった慎重論を説き伏せて議員立法で成立させたのは、菅や山本一太、河野太郎の衆院議員(当時)たちだった。菅は自分のブログで「自ら取りまとめ、これまで効力を発揮してきた制裁の解除を、官房長官として発表したことは、大変感慨深いものがあります」と書いている(http://ameblo.jp/suga-yoshihide/entry-11867145205.html)。そして、この立法を後押ししたのが当時、内閣官房副長官だった安倍だ。菅が安倍を信頼し、また安倍も菅を信頼するようになったのは、このときの経緯がきっかけである。北朝鮮に対する制裁こそが、現在に至る2人の盟友関係を築く出発点なのだ。その2人がいま自ら「制裁の一部を解除する」というなら、判断を信頼する以外にない。そう評価したうえで、いくつか拉致問題を考える基本ポイントを指摘しておきたい。もっとも重要なのは「いま困っているのは北朝鮮だ」という点である。ここを間違えて「日本がお願いして生存者を返してもらう交渉」と理解すると、評価と対応を誤ってしまう。それは過去の経緯からもあきらかである。ソ連に見捨てられて金丸訪朝団を受け入れ
    たとえば1990年9月、自民党の元副総裁だった金丸信が社会党の田辺誠副委員長(当時)らと北朝鮮を訪問した。金丸訪朝団は拉致問題をまったく提起しなかった。それどころか、後に東京佐川急便事件で金丸の自宅が家宅捜索されたときには「北朝鮮からのお土産ではないか」と疑われた刻印なしの金の延べ棒が発見されたりした。実態は国交正常化後の経済協力をあてにした「利権外交」だった。金丸の意図はともかく、北がなぜ訪朝団を受け入れたか。それは1989年に冷戦が終了し、北への圧力が強まったからだ。冷戦が終わると、すぐルーマニアで反乱が起きてチャウシェスク大統領夫妻が処刑された。90年に入ると、当時のゴルバチョフ・ソ連大統領が北朝鮮の宿敵である韓国との国交正常化に合意した。そんな中で北朝鮮の金日成主席は「ソ連に見捨てられ、次は我が身か」と心配し、金丸訪朝団を受け入れた。窮地からの出口を日本に求め、関係改善を図るためだった。 
  • 田原総一朗 「新成長戦略」を阻む「外と内」の抵抗勢力とは?

    2014-07-08 20:00  
    330pt
    6月24日、政府は「新成長戦略」を閣議決定した。いわゆる、アベノミクスの「第三の矢」だ。ここからが正念場といっていいだろう。だが、その内容をよく見ると、そこかしこに「抵抗勢力」の痕跡がある。だから、本当にこの「新成長戦略」をやり遂げれられるのかと、僕は安倍さんに問いたくなるのだ。例えば、新成長戦略の「日本企業の収益を高めるためコーポレートガバナンスの強化」である。具体的には、企業は「社外取締役を1人以上」置くという内容だ。だが、社外取締役が1人では、到底足りないのではないか。欧州では、役員の4分の1以上が社外取締役だ。アメリカに至っては、社外取締役が半数以上と決められている。「新成長戦略」にある「1人以上」というのは、強く反対する経団連に歩み寄った結果であることは明白だ。もうひとつ例をあげよう。農業改革だ。「新成長戦略」では、「農水産物の輸出を平成32年に1兆円、平成42年に5兆円に」と高らかにうたっている。農業を輸出産業にしよう、というのだ。僕は、おおいに賛成だ。だが「規制改革実施計画」を見ると、「全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度は新たな制度へ移行」と極めてあいまいになっている。本当は農協を解体し、株式会社にしたかった。だが、これもまた全農からの強い反対があったのだ。 

    記事を読む»

  • 長谷川幸洋コラム第54回 日本が朝鮮半島有事で引き受けなければならない役割について

    2014-07-03 20:00  
    330pt

    〔PHOTO〕gettyimages
    集団的自衛権の行使容認をめざす憲法解釈の変更について、自民党と公明党が合意する見通しだ。与党協議の最終盤で、国連決議に基づく機雷除去など「集団安全保障」に基づく活動も容認するかどうか、が焦点になった。今回はこの問題を考えてみる。日本の安全保障体制と米軍基地
    私は5月2日公開コラム(http://ch.nicovideo.jp/gendai/blomaga/ar525582)で、日本が朝鮮半島有事でも米国に基地の使用を認める姿勢を示したときから、実質的に集団的自衛権の行使を容認してきた点を指摘した。おさらいすると、こういうことだ。日米安保条約(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html)は第6条で、日本だけでなく極東(具体的には韓国と台湾、フィリピン)の防衛にもコミットしている。そのうえで1969年、当時の佐藤栄作首相は朝鮮半島有事の際「日本は(米軍の基地使用について)前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と米国のナショナル・プレスクラブで演説した。米国は日本の基地を使って戦闘行動に入るとき、日本と事前協議する。だが、それは「建前上の儀式」のようなもので、事実上は「使用を認める」と表明した。米国にとって日本の基地は極東防衛に死活的に重要であり、日本が認めないなら、沖縄は返ってこなかっただろう。したがって北朝鮮が韓国を攻撃すれば、日本は自分が攻撃されていなくても、韓国防衛に出動する米軍に基地提供という形で武器、弾薬、兵力の補給を支援する。これは、本質的に日本の集団的自衛権の行使になる。米軍と一体になって武力行使をするのと基地提供ではレベルの違いはあるが、北朝鮮からみれば、日本と米国は一体である。このコラムを公開した後で、私は安倍晋三政権で要職にある現役官僚を含む複数の外務省・日米安全保障条約課長経験者と意見交換した。私が上記のような認識を述べると、彼らは異口同音に「まったくその通りです」と賛同した。政府はもちろん、私のような考えを表立って表明することはない。そんなことを言い出せば、せっかく苦労して公明党の賛同をとりつけようとしている努力が水の泡になりかねないからだ。それは「政治の現場」の事情である。私には政治的事情など関係ない。ただのジャーナリストが自分の判断を書くのは、大事な仕事だと思っている。それが真実であり、政権の人間が政治的事情で言えないのであれば、なおさらだ。政府が言えない真実をジャーナリストが言わなければ、だれが言うのか。残念ながら、日本のマスコミは毎日のように集団的自衛権の問題を報じていながら、日本の安全保障体制と米軍基地という核心の問題に迫っていない。賛成派も反対派も15事例のような安全保障の根幹から見れば枝葉末節の問題をあれこれと書き飛ばし、最終盤にきて与党が15事例をすっ飛ばして閣議決定する段になると、今度は閣議決定の細かい文言をあれこれと書きつらねている。そうかと思うと「15事例の話はどこに行ったのか」などと批判する向きもある。どこに行ったのか、ではない。そんな話は最初から、ただのたとえ話だ。実際に戦闘になれば、15どころか戦闘のケースは数百も数千もあるだろう。そんな空想のシナリオが真の問題なのではなく、日本が朝鮮半島有事にどう立ち向かうのか、あるいは向かわないのかという問題が核心である。そこを議論しようとすれば、日米同盟と基地の問題に目を向けざるをえない。それを避けているから、議論が枝葉末節の話になってしまう。結局のところ、マスコミは安倍政権が持ちだした問題設定の枠組みから一歩も外に踏み出せないのだ。「政権が言わない話は書けない」マスコミの情けなさを少しは反省したらどうか。政権が言った話しか書けないなら、ジャーナリズムの自立など望むべくもない。そういうマスコミに限って、なにかといえば「報道の自由」とか「取材の自由」を持ち出すのだ。ちゃんちゃらおかしい。自由を放棄しているのは、自分たち自身ではないか。 
  • 田原総一朗 「鉄腕アトム」は実現する?東大先端研で未来の「相棒」ロボットに出会った!

    2014-07-03 20:00  
    330pt
    先日、東京駒場にある東京大学の先端科学研究センターを訪れた。ロボットクリエイターの高橋智隆さんを取材するためだ。高橋さんは、立命館大学の出身だ。就職活動をして、いくつかの会社から内定をもらったが、希望していたところへの入社はかなわなかった。子どものころからの夢だった、「ロボット」製作をあきらめられなかったのだ。高橋さんは「鉄腕アトム」を見て育ち、ロボットにずっと憧れていたそうだ。そこで高橋さんは、京都大学工学部に入り直す。夢をかなえるための勉強を始めたのである。在学中に2足歩行ロボットを開発した。そして卒業後は、たった1人でロボット製作会社「ロボ・ガレージ」を起業したのだ。高橋さんは、4年前から東大先端研の特任准教授となっている。現在の日本のロボット開発は、産業ロボットや介護ロボットなどが主流だ。これらのロボットは、本来、人間がしていた仕事を担う。しかし高橋さんは、「自分の目指すロボットは違う」と考えた。高橋さんが夢見たロボットは、人間にとっての「相棒」だ。まさに、幼い頃に夢中になった、「鉄腕アトム」なのである。ソフトバンクの孫正義さんが発売したロボットは、これに近いのかもしれない。20日のソフトバンクの株主総会で、孫さんが壇上で紹介した。人の感情を認識できるというロボット「ペッパー」は、さまざまな知識を持ち、人間が困ったときに相談できたり、忘れてしまったことを思い出させてくれる。そういう意味で、人間の「相棒」だといえよう。 

    記事を読む»