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田原総一朗 改憲ではない、「解釈」を変えるだけで、「できない」を「できる」にしたい安倍政権
2014-04-25 20:25330ptここのところ、「集団的自衛権」に関するニュースが増えている。集団的自衛権とは、同盟国などが攻撃されたとき、その国と協力して攻撃できる権利だ。具体的にいえば、アメリカがある国(A国)から攻撃されたときに、日本がアメリカを支援して、ともにA国と戦える権利、ということだ。この集団的自衛権の行使容認へと安倍政権が動いている、として論争になっているのだ。集団的自衛権は、日本国憲法では認められない。戦後一貫して、そう解釈されてきた。明確な「違憲」ではないが、憲法の解釈として認められてこなかったのだ。逆をいえば、「改憲」をしなくても、解釈を変えれば集団的自衛権を行使できるようになるわけだ。この解釈をするのは内閣法制局という機関である。集団的自衛権の行使容認をめざす安倍首相は、だからまず内閣法制局の長官を、「容認派」の小松一郎氏に代えた。あとは閣議決定さえできれば、日本は集団的自衛権を行使できる国になるのだ。この変更は日本という国のあり方を、大きく変えるはずである。それにもかかわらず、閣議決定だけで決めていいのか。 -
長谷川幸洋コラム第45回 ジャーナリストにとって「社外原稿」「社内原稿」の違いなどない!
2014-04-24 21:15330pt
photo thinkstockphotos
ロシアのクリミア侵攻について書いた私の新聞コラム「私説」に対して、ジャーナリストのF氏が「政府与党が喧伝するそのまんま」と批評した。
東京新聞での「F氏の再反論」
私が指摘したポイントは「国連の無力化」と「中国への伝染効果」そして「集団的自衛権の行使を前提にしたアジア太平洋地域における集団防衛体制構築」の3点である。私は続編の「私説」や本欄コラムで、F氏の批評について「デタラメを言ってもらっては困る」と反論したが、F氏はその後も東京新聞の「新聞を読んで」(4月13日付)というコラムで再反論を載せている。短い文章だが、ジャーナリストやジャーナリズムの本質を考えるうえで見逃せない部分を含んでいるので、もう一度、書いておきたい。まず、F氏とはだれか。『週刊ポスト』の連載コラム「長谷川幸洋の反主流派宣言」(4月18日号)で実名を公開したので、ここでも明らかにする。二木啓孝である。二木は13日付の新聞コラムでこう書いている(残念ながらネット上には公開されていない)。 <「ところで前回のこの欄で集団的自衛権行使容認の『私説 論説室から』に触れたところ、3月19日の『私説』で反論があった。『論説委員が社説と異なる意見を公表できないようだったら、全体主義と紙一重だろう。東京新聞には言論の自由がある証拠と受け止めていただきたい』」>問題は、この次の部分だ。<「私は『私説』の主張に違和感があることを述べたのであって『こんな主張は載せるな』とはひと言も書いていない」>これだけ読むと、あたかも「二木が『こんな主張は載せるな』と唱えた」と私が書いたかのように読める。これはまったくの間違いだ。私の意図はコラム本文を読んでいただければ、完全にあきらかである。問題の部分は二木の批評を指して書いたのでは「ない」。コラム冒頭で断ったように、別の一般読者から社に寄せられた「社説と真逆で許されない」という意見に対して書いたものだ。「社説と異なるのはダメ」という一般読者の意見があったので「いや、それだったら全体主義と紙一重じゃありませんか」と反論したのである。詐術もいいところ
二木について書いた部分は、最初に引用したように「政府与党が喧伝するそのまんま」という批評についてである。次の通りだ。<「『新聞を読んで』(3月16日付)という外部執筆者のコラムでは『(私の)論法は政府与党が喧伝するそのまんま』という批評もあった。だが、私と同じロジックで今回の侵攻を解説した政府与党関係者の発言は寡聞にして知らない。私の意見は完全に私のオリジナルである」>つまり、二木は私が言ってもいないことを、あたかも言ったかのように書いてみせ、そのうえで「『こんな主張は載せるな』とはひと言も書いていない」と居直っている。 -
長谷川幸洋コラム第44回 他国への攻撃を日本への攻撃とみなし反撃する根拠が「集団的自衛権」である理由
2014-04-17 20:00330pt
かつて議論を呼んだ自衛隊によるインド洋上での給油活動 〔PHOTO〕gettyimages
安倍晋三政権が目指す集団的自衛権の憲法解釈変更にからんで「集団的自衛権を行使しなくても、個別的自衛権の行使で対応できる」という意見が与野党から出ている。日本周辺で起きた有事の際、米軍を守るのに集団的自衛権の行使は必要なく、従来から政府が合憲としてきた個別的自衛権の拡大解釈で対応可能、という主張である。この意見は与野党だけでなく、集団的自衛権の行使容認に反対ないし慎重な新聞などマスコミの間でも根強い。いずれ国会で本格的な論争になるだろうが、ここでは議論を一段と活性化させるためにも、ひと足先に考えてみる。「日本が攻撃目標になっている」と"みなす”ケース
たとえば、公明党は米艦船が自衛隊艦船と並走している時に攻撃を受ければ、日本は個別的自衛権の行使で米艦船を防御できると繰り返している。山口那津男代表は私がコメンテーターとして出演した4月5日放送のBS朝日「激論!クロスファイア」でも「集団的自衛権の行使はリアリティがない」と強調した。日本共産党は4月10日付「しんぶん赤旗」の「主張」で同じようなケースを挙げて、次のように書いている。〈 元内閣官房副長官補(安全保障担当)の柳沢協二氏は著書で、第1次安倍政権時に『公海上で米艦が攻撃された場合の自衛隊の対応については、日本近海であれば、そのような攻撃は通常、日本への攻撃の前触れとして行われ、日本有事と認定できるため、・・・個別的自衛権によって米艦の護衛が可能』と説明していたことを明かしています(『検証 官邸のイラク戦争』)。高村氏が挙げる事例は個別的自衛権で対応できるのに、無理やり集団的自衛権行使の類型に入れ、それを正当化する口実に使っているだけです。 〉ここで「高村氏が挙げる事例」というのは、同紙によれば「A国が日本を侵略するかもしれない状況下で、日米安保条約に基づき日本近海で警戒行動をとる米艦をA国が襲った。日本は集団的自衛権の行使になるからといって米艦を守らず、米艦は大損害を受けた。A国はその後、日本を侵略してきた」というケースである。もう1つ、例を挙げよう。結いの党の江田憲司代表の主張だ。江田は近著『政界再編』(角川ONEテーマ21)でこう言っている。〈 今、問題とされているケースは、本来「個別的自衛権」の範疇に包摂されるべきものであり、これまで認められてこなかった「集団的自衛権」をわざわざ持ち出すようなケースではない。 〉〈 太平洋で米軍の艦船と自衛隊の艦船が並走していたところ、たまたま敵国のミサイルが米軍の艦船に命中した。それに対して反撃した場合、集団的自衛権の行使にあたるのではないかというのですが、これなどはまさに机上の空論です。そういう事態というのは、実際には既に日米に対して開戦している状況でしょうし・・・もしかしたら自衛隊の艦船を狙ったものかもしれない。そうなら即座に反撃する、それが現場の常識、感覚ではないか。 〉(同書、41~42ページ)これらは、いずれも完全に同じケースとは言い切れない。だが「日本が攻撃目標になっている」と「日本がみなしている」点で山口、柳沢(日本共産党)、江田の3例は共通している。具体的に言えば、たとえば北朝鮮が米艦船を狙ってミサイルを発射したとしても、日本は「日本艦船に対する攻撃」とみなす、というケースである。 -
田原総一朗 どうする、日本の教育!僕がどうしても言いたい2つのこと
2014-04-17 18:30330pt先月の「朝まで生テレビ!」は、「激論!“安倍教育改革”」をテーマに、日本の教育の未来を徹底的に話し合った。番組では語り切れなかったことをここで言っておきたい。日本の教育には、2つの大きな課題があると僕は思っている。ひとつは「道徳」、もうひとつは「人材の育成」についてだ。僕が子どものころには、「教育勅語」というものがあった。教育勅語は、大日本帝国憲法が発布された1年後の1890年に発表された。当時の「正義と倫理」を詰め込んだものといっていいだろう。明治国家の外側は憲法、内側は教育勅語だった、と僕は思っている。戦前の子どもたちは、みな学校で教育勅語を暗記させられた。いまでも僕は暗唱することができる。「朕(ちん)惟(おも)うに我が皇祖皇宗國を始むる」から始まって、「父母ニ孝ニ、兄弟(けいてい)ニ友ニ、夫婦相和シ、朋友相信シ」とくる。父母には孝行し、兄弟は仲よく、夫婦むつまじく、友だちは信じ合う、といった意味だ。「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉シ」という軍国主義に通じると思われる言葉が、なかにはある。だが、ほとんどが現代にも通じる、生きていく上で大事な教えが、たくさんあったと僕は思う。いわゆる明治憲法は、明治の元勲、伊藤博文が中心になって制定した。憲法制定の下準備のためにヨーロッパ諸国を視察したとき、伊藤は、あることに気がついたという。イギリス、アメリカ、ドイツ……、どの国も国民の心の根底に「キリスト教」があるのだ。「嘘をいうなかれ」「殺すなかれ」「盗むなかれ」……。キリスト教は「~するなかれ」という戒(いまし)めの宗教である。だから、国民の多くがキリスト教徒である欧米諸国の憲法は、個人の心の中まで踏み込む必要がない。一方、日本は仏教徒が多い国である。そして日本の仏教は、きわめて戒めが少ない宗教だ。キリスト教徒と違って、仏教の信者は毎週お寺に通ったりしない。しかも、「八百万(やおよろず)の神」の言葉があるように、どんなものにでも「神が宿る」という発想がある。日本人の宗教観は、よく言えばおおらか、悪くいえばいい加減なのだ。ヨーロッパ諸国を視察した伊藤は、そこでハタと悩んだ。日本のような国を治めるのに、憲法だけでよいだろうか--。そこから生まれたのが、教育勅語なのだ。憲法ではカバーできない心の問題を、天皇が「教育勅語」として国民に与える形をとった。先に書いたとおり、憲法と教育勅語は、日本を支える両輪だったのだ。ところが戦後になって、「教育勅語」は廃止された。新しく日本国憲法はできたが、一方の「心」の指針はなくなったままだ。日本人の道徳の欠如、社会の乱れの原因はここにある、というのが安倍首相の見方だ。それならばと、安倍首相は憲法に道徳的な考えを盛り込もうとした。「家族は仲よく」ということを憲法に明記しようというのだ。 -
田原総一朗 「オバマ大統領が日韓の仲をとりもった本当の理由とは?」
2014-04-10 20:00330pt3月24日、オランダ・ハーグで先進7か国(G7)首脳会議が開催され、「ハーグ宣言」が採択された。6月にロシア・ソチで予定されていたG8サミット(主要国首脳会議)を開かないことなど、ロシアへの制裁事項を盛り込んだものだ。ソチの代わりにベルギーで、G7サミットがおこなわれることになる。
そのG7の後、日米韓の首脳会談がハーグの在オランダ米国大使公邸で開かれた。言うまでもないことだが、これまで安倍晋三首相は韓国の朴槿恵大統領と一度も会談をしていない。これが、初めての会談となったわけだ。
これまでアメリカは、国際秩序を乱すと判断すれば、よかれ悪しかれ口を出し、軍事力を行使してきた。アメリカは「世界の警察」だった。だが、アメリカはいま、その役割をやめようとしている。イラクやアフガニスタンでの戦闘に対して、アメリカ国民の間に厭戦ムードが強まっているのだ。経済的にも、他の国のことにかまっている余裕がない。
そんなときに、ロシアがクリミアを併合し、ヨーロッパ情勢がにわかに緊迫した。一方、アジアに目を向ければ、同盟国である日本が、中国、韓国とうまくいっていない。オバマ大統領にしてみれば、「アジアはアジアでうまくやってくれ、世話を焼かせるな」という気持ちだろう。それでも今回、オバマ大統領は日本と韓国の仲を取り持ったわけだ。
実は、僕が注目していたことがある。この三者会談の後、日韓のみで会談が行われるかどうかだ。結局、安倍首相と朴大統領との会談は、なかったようだ。両者が顔を合わせて意見を交換するのは、まだまだ容易ではないのだろう。だが、日韓間の会話への第一歩が踏み出されたことは喜ばしく思う。 -
長谷川幸洋コラム第43回 クリミアめぐる国連決議でわかった「G20の分裂」「冷戦に逆戻り」「集団的自衛権の必要性」
2014-04-10 20:00330ptハーグ核サミット会場では、潘基文・国連事務総長とオバマ大統領がウクライナ問題について話し合う光景が photo gettyimages
ロシアによるクリミア併合問題で国連が3月27日、総会を開き、併合に先立って実施されたクリミアの住民投票について「なんの正当性もない」と批判する決議案を採択した。住民投票について、決議は「クリミア自治共和国とセバストポリの現状変更を認める根拠にはならない」と断言している。
国連総会でクリミア併合問題の「住民投票は無効」
決議は「ロシア」と国名の名指しこそ避けたものの、明確なロシア批判である。
3月20日公開のコラムで書いたように、国連は当初、安全保障理事会で住民投票を無効とする決議案を採択しようとした。ところが、ロシアが拒否権を行使したために、それは否決されてしまった。
今回は安保理ではなく総会の決議である。だから住民投票を無効と断じたところで、国連憲章の上では、現状を改める実効的強制力はない。
あくまで象徴的なものだ。とはいえ、クリミア併合問題に対する国際世論を推し量るうえでは、それなりに意味がある。
棄権が58ヵ国
まず、評決結果である。決議案に賛成したのは、米国やカナダ、日本など100カ国に上った。これに対して反対は11カ国だった。棄権が58カ国である。この数字をどうみるか。
反対した国を挙げると、当事国であるロシアのほかアルメニア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、北朝鮮、ニカラグア、スーダン、シリア、ベネズエラ、ジンバブエの11カ国である。もともと親ロシアや反米だったり、北朝鮮やシリアなどテロとの関係が濃い、あるいは政情不安や崩壊寸前の国々である。
これらは「まあ、そんなものだろう」と思う。
新興国はそろってロシアの肩を持った
興味深いのは棄権した国々だ。58という数字を多いと見るか、少ないと見るか。私は「意外に多い」と感じる。たとえば、中国やブラジル、インド、アルゼンチン、南アフリカといった20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)のメンバー国も棄権に回った。
ちなみにG20を構成する国と地域の中で、賛成したのは日本とカナダ、米、仏、独、伊、英、EUのG7メンバー国・地域と豪、インドネシア、韓国、メキシコ、サウジアラビア、トルコである。ロシアはもちろん反対だ。
つまり、G20の中でも中国、ブラジルなどBRICsを構成する有力な新興国はそろってロシアの肩を持つようにして棄権に回り、残りの新興国が賛成したという構図である。はっきり言えば、G20も分裂気味なのだ。
今回の事態でロシアは事実上、G8を追放された。日米欧はG7の枠組みの下で結束を保っているが、国連以外でロシアを加えた国際的枠組みといえば、G20しかない。ところが、そのG20も結束していないことがはっきりしたのだ。
そういう事態が今回の国連総会決議によって浮き彫りになった。
ほかにもアルジェリアとかアフガニスタン、エチオピア、イラク、エジプトといった政情不安の国々も棄権に回っている。反対と棄権を合わせると、実に69カ国に上る。国連加盟国全体193カ国の35%強である。 -
安倍晋三首相・特別インタビュー【第3回】 「消費増税で景気が腰折れしないよう状況をよく見ていきたい」
2014-04-04 20:00330pt日米韓の連携強化は抑止力の向上にもつながる
長谷川: 今回、日米韓首脳会談がようやく実現しました。これは、ずばりどのような感じだったんでしょうか。安倍: オバマ大統領に相当努力をしていただきまして、日本と韓国にそれぞれに働きかけを行っていただいた。「日米韓が連絡を密にしていくことによってより平和で安定した地域になっていくだろうという認識を共有しましょう」と。 日本も韓国もそれぞれ米国と同盟関係にあります。もし朝鮮半島で何かが起こった時には、米韓同盟軍が対応するうえにおいても、日米同盟の中において在日米軍が日本の支援を受けて活動することによって、初めて力として強い抑止力を示すことができる。そういう意味においても日米韓は決定的に必要な関係です。そのことをもう一度確認しましょうよ、というものです。今後、軍事的にも日米韓の協議をしっかりと進めていくことは抑止力の向上になっていくだろうということです -
安倍晋三首相・特別インタビュー【第2回】 「中国の脅威に対するアジア・太平洋の安全保障の考えは?」
2014-04-04 12:00330pt
中国はクリミアの問題を見て何を考えているのか
長谷川: 中国についてさらにお聞きします。先ほど総理はハーグのサミットにおいて、東シナ海と南シナ海の問題を念頭に置いて、日本やアジアの国々にとっても対岸の火事ではないということを主張した、ということでした。私は、その認識が各国にどれくらい強く共有されるのかが重要なポイントだと思っています。その辺り、総理の感触をお聞かせください。安倍: ウクライナの問題がヨーロッパ、EUだけの問題ではなく、世界全体の問題だという認識をG7で共有することが重要だと思っています。ですから、G7の会合において、私が発言するチャンスを得たときに、少し説明をしながらその話をしました。G7の代表のみなさんは、私の話に大変興味深く耳を傾けてくださり、さらに私のあとに発言した方たちは「安倍さんが言ったように」という形で言及してくださいました。アジアにおける中国の脅威と、その力を背景とした現状変更の試みを許してはいけないということを明確にしておかなければ、それは世界にも波及していきます。そういう観点を念頭に置きながらこの問題を議論していくべきだということは共通の認識になったと思います。長谷川: 先日もフィリピンの大統領が、『The New York Times』のインタビューで、中国が南シナ海において、1995年以来、たとえばミスチーフ環礁、スカボロー礁を実効支配している状況を、かつてのヒトラーに対する宥和政策になぞらえて、警告しています。つまり、まさしく力による現状変更の試みが南シナ海で行われつつあったと。とりわけ日本においては、尖閣諸島の問題があるわけです。だからこそ心配で、そういう認識が世界の人々に共有されるということがとても大事だと思うわけです。中国は今、ロシアのクリミアの冒険を見て、何を考えているんでしょうか?安倍: 中国はすでに、南シナ海において、係争中の岩礁等を軍事力を背景として獲得していっています。フィリピンに対しても、ベトナムに対してもそうですね。そして、南沙諸島、西沙諸島において一方的に「9ドット」というものを指定して、自分たちの排他的経済水域を相手の了解を得ることなく指定してきています。それに対して、東南アジアの国々は大変な脅威を感じている。そこで、やはり海洋法条約に則ってお互いに行動しよう、何か偶発的な出来事が起こってはいけないからきちんと行動規範を決めましょう、ということを提案しています。防空識別圏もそうです。事前に何の相談もなく、しかも、国際的な常識を破る形でいきなり設定して、そこを通る民間航空機はすべて中国に通報しろと主張しています。これはあまりに非常識なことであり、国際社会からも強く非難されています。日本と中国は切っても切れない関係
安倍:われわれと中国との関係は、特に経済においては、切っても切れない関係にあると思います。日本は中国に輸出して利益を上げていますし、多くの企業が投資をしてやはり利益を上げています。同時に中国は日本からの投資によって、1000万人以上の雇用を生み出しています。かつ日本にしかできない半製品を輸入して加工することで、日本も含めた欧米諸国に輸出をして多くの利益を上げている。つまり、切っても切れない関係なんです。ですから、その関係性の中において、平和的に台頭していくことによって経済を成長させ、国民を豊かにしていく。それが中国の通っていくべき道だと思います。海洋、あるいは海洋資源というのは国際公共財ですから、「国際社会と一緒に活用していきましょう」という立場をとるべきなんですね。「これは私のものだ」と軍事力を背景に獲得していこうという姿勢は改めさせなければいけない。ASEANの一つひとつの国は、確かに軍事力では中国と比べものになりません。だからこそ、お互いの助け合いが必要です。共同して、中国を排他的に追い出していこうということではなく、中国にも輪の中に入ってもらって、公共財である海を国際法のルールに則って一緒に使いましょう、ということを私たちは申し上げているわけです。こういう認識をアジアだけではなく、G7の国々とも共有したい。そこで中国も正しい方向に転換してほしいと思いますね。 -
安倍晋三首相・特別インタビュー【第1回】 「ウクライナで起こっていることはアジアでも起こりうる」
2014-04-03 20:00330pt長谷川: 今日はたくさん聞きたいことがあります。どうぞ、よろしくお願いします。安倍: よろしくお願いします。長谷川: まず、ウクライナ情勢です。これはもしかしたら冷戦終結後のもっとも大きな出来事かもしれないと思っています。なぜなら、ロシアは国連安保理の常任理事国であり、本来なら一番国際法を守らなければならない立場の国でありながら、クリミアに侵攻して実効支配をし始めている。この情勢を総理はどのようにご覧になっていますか?力を背景にした現状変更は決して許すことはできない
安倍: まず、日本の立場は明確です。それは、「力を背景とした現状変更は決して許すことができない」ということです。そして今、ウクライナで起こっていることは決してこの地域だけでの問題ではなく、たとえばアジアでも起こりうることなんです。そのような意味においては、世界全体の、国際社会全体の問題だと捉えるべきだと思うのです。私はG7の会議でもそのように主張しました。だからこそ、この原則を守らなければならない。ロシアの取っている行動は明らかに法に反する行動です。だからこそ国際法をしっかりと守っていくためにG7では一致結束して行動していくということで一致しました。長谷川: 「アジアでも起こりうること」と首相が指摘されたときに、各国首脳からの反応はどうでしたか?安倍: G7において他の国がどのような発言をしたのかは引用しないことになっているので国名は挙げませんが、アジアにおいては台頭する中国という存在があり、南シナ海、東シナ海でもいろんなことが起こっているという話をしましたら、3ヵ国の首脳から基本的に私と同じ認識が示されました。
長谷川: 今、東シナ海、南シナ海、中国と国名が出ましたが、総理は国名を挙げてお話しされたのでしょうか?安倍: アジアにおいては中国の存在は極めて大きいということ、そして、東シナ海、南シナ海においても力を背景とした現状変更の試み、挑発行為が行われているということは、ファクトとして紹介しました。「封じ込め」ではなく対話のチャンネルを維持していく必要がある
長谷川: ウクライナで起きていることは、われわれジャーナリズムの世界では「新しい冷戦の始まりだ」とも言われていますが、総理はどのようにお考えですか?安倍: まさに「新しい冷戦のスタート」にしてはなりません。かつてのように、再び米ソが対立し、世界が西側、東側に別れていたという状況を作ってはいけない。現在では、経済はグローバルにつながっていますから、対立が起きれば、結局、世界経済を直撃してすべての国に損害を与えることは長谷川さんもご承知の通りでしょう。かつてのように西側、東側のブロックの中で経済が形成されていた時代とは違うのです。だからこそ、私もG7の会議において、「力を背景とした現状変更の試みは絶対に許すことができない」と主張したのです。一方で、ロシアが経済的な制裁に対して無責任な報復をするかもしれない。(その可能性も含めて)この問題が世界経済にどのような影響があるのかをよく議論しておく必要があるとも申し上げました。だからこそ、あのような形で違法にクリミアをロシアに編入したり、今後、さらに東ウクライナにロシアが軍隊を派遣させたりすることがあってはならないのです。同時にウクライナを経済的に安定させていくことが必要です。日本は15億ドルの支援をしていく予定です。現段階では具体的な数字を挙げたのは日本だけですが、日本がリードする形でウクライナへの支援をしていく必要があると思います。ロシアに対しても、国際社会から受け入れられる形の対応をするように強く促していく必要があると思います。いわば"封じ込め"ではなく、常に対話のチャネルを維持していく必要があると思います。日本のもう一つの原則として、「どんな課題があっても、課題があるからこそ対話は継続すべきだ」とG7で主張しましたし、それはG7全体のコンセンサスになっていると思います。
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